タンブルウィード

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Bird in the dark(スワロー死亡IFルート 劉×ピジョン)

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黙って突っ立ってるのにも飽きた。
そろそろ頃合いだ。地面に投げた煙草を靴裏で踏み消す。

「行くぞピジョン」
ピジョンは腑抜けたまんま、返事もしやがららねえ。無視されてむかっ腹を立てる時期はとうにすぎた。
力なく跪いたピジョンの前には墓石が立ち、十字の交点に安っぽいチェーンで括られたドッグタグがぶらさがってる。

墓碑銘は「R.I.P」ー安らかに眠れ。俺がよく知るアイツには縁遠い言葉。続いて「Swallow Bird」と簡素な名前が彫られている。生前の行いが悪かったせいか、今でも調子こいた馬鹿が冷やかしに来ちゃ小便をひっかけていくらしい。そのせいでちょっと臭い。

ピジョンはこっちに背中を向けたままだんまりで一切反応しねえ。殆ど廃人だ。擦り切れたモッズコートの背中はしょぼくれて、昔は綺麗だったピンクゴールドの髪も若白髪まじりにくすんでいる。また痩せたなと素朴な感慨を抱いて削げたうなじを見守る。

俺でも容易く手折れそうだ。

ピジョンは酒臭い。
片手には半分中身が減った瓶を持っている。今じゃ素面でいる事の方が少ねェ。無理もない、コイツにとっちゃ現実が辛すぎる。「挨拶は済んだろ。風邪ひくぞ」体が冷えちまうのを危惧し、無理矢理片腕を掴んで引き立てる。伸びた前髪の奥、虚ろに澱んだ目がかすかに瞬く。

「ああ……ごめん、ぼうっとしてた」

心ここにあらずの小声で詫びて、片割れを埋葬した十字架に手を翳す。眇めた眸は寂寥と枯れていた。

「またくるよ」

風に吹かれてタグが揺れ、兄貴を送り出す。並んで歩きがてらくたびれた横顔を盗み見て、変わっちまったなと嘆く。

スワローは死んだ。
コイツは長生きしないだろうなと呆れる一方、殺しても死なないと信じていた。買いかぶりだった。賞金稼ぎの寿命は極端に短い。スワローがいくら強くて優れていたって、そんなの関係なく死ぬ時はおっ死ぬのだ。あれからピジョンは腑抜けになった。薬と酒に溺れてなんとか生きてるていたらく。

ピジョンは毎週スワローの墓参りにくる。
風邪をもらってようが二日酔いで死んでようが、這ってでも来る。そしてただ座り込んだまま何時間でも放心して過ごす。俺が声をかけなきゃ夜まで動かねえんじゃないかって不安になったのは一度や二度じゃない。

可哀想なピジョン。
アルコール依存がもたらす指の震えのせいでスナイパーライフルの手入れもままならないときて、分解や組み立ては論外。
賞金稼ぎとしちゃ使い物にならず、二十年来の腐れ縁の俺や親切な隣人のお情けで生かされている。

俺に引っ張られるがまま蹴っ躓きがちに歩き、神経症的にタグを磨きたてる。
何度も息を吹きかけちゃ袖で拭い、微笑んだそばから銀の光沢帯びた表面が映し出す老けた顔に絶望する。くだらねえ茶番。

ピジョンが落ち込むのは、肩越しにたたずむスワローがいない現実に突き返されるから。

正直見てらんねえ。でも慣れた、慣れるしかない。
擦り切れて伸び切ったカセットテープをこりずに再生するみたいに過去の残像に依存しきったピジョンの醜態は、哥哥に先立たれた俺自身ともかぶるのだ。
墓参りから帰ったピジョンは空き瓶が累々と転がる部屋に踏み込み、粗末なベッドに横たわる。

「劉……」
「何だ」
「今は夜?」
「昼下がり」
「そうか……暗いな、この部屋」

だるそうに寝返りを打ち、前髪をかきあげた片手の下から媚びるように囁く。

「今日もするだろ」

薬漬けで酒浸りのピジョン。酒より薬よりもっと手っ取り早くスワローを忘れられる方法があるなら、それに飛び付く。
ちゃちなベッドが軋む。ピジョンが襟元をはだけて膝這いににじり寄り、酒臭い吐息でせがむ。

「してくだろ」

コイツはまともじゃない。
自分をおいてけぼりにした片割れの代わりにセックスをねだってやがる。
頭じゃちゃんと理解してても体が言うことを聞かず、事務的に押しのける手に力が入らない。

寂しい。
虚しい。
何もない。

「やめろ」
「欲しいんだ。今すぐ」

孤独を快楽で埋め合わせるのに倦んだ赤錆の瞳が濁り、共依存の極みに堕ちていく。

「劉……来いよ」

抗い難い声が囁いて首の後ろに手を回す。
目の前で蕩けるようにピジョンが笑ってる。その目はどこも見ていない、俺を通り越してどこか遠くをさまよっている。焦点の定かじゃない瞳にチラ付くのは韜晦した俺の顔。

「悪ふざけはやめろ」

ダチとして人として、突き放すのが正しいと頭じゃわかっているのにできないのはなんでだ?決まってる、同情だ。今の俺たちはずぶずぶの共依存に嵌まりこんでいる。
ピジョンの片手が後頭部を包み、俺をゆっくりベッドに押し倒す。

「ふざけてない。劉は優しいから、慰めてくれるだろ」
「また薬やったのか」
「ああ……」
「酒も?臭ェぞ」
「シャワー浴びてこようか」
「飲めねェくせに」
「飲まなきゃやってられない」

二十年前のピジョンからは考えられねえ自暴自棄なセリフ。
枕元にはちゃちな注射器とビニール袋に入った白い粉があり、床一面に空き瓶が転がっている。典型的な社会不適合者の部屋だ。
スワローに先立たれてからこちら、ピジョンは生活能力が欠如してる。
弟がやんちゃしてた頃は自分がしっかりしなきゃと気を張ってんだろうが、その柱を引っこ抜かれて二本足で立てなくなっちまった。いっそ芯から折れちまった方がマシだったかもしれない。

「劉……」

甘ったるい声で呼び、よれたズボンに手をかける。
咄嗟に頭に手をかけ押し返そうとするも、下着ごとずりさげられ力が抜けてく。ぴちゃり、熱い舌が萎えた陰茎をなめあげる。ベッドの上、俺の股ぐらに顔を突っ込んだピジョンがうまそうにペニスにしゃぶり付く。

「……ふ……、」
「感じてる……可愛い」
「るせ……ッあ」

スワローの身代わりに求められる屈辱と惨めをうだるような快感が凌ぐ。
湿った吐息をもらしてかすかに喘げば、ピジョンが陰茎に優しく手を添え、角度を変えて舌に巻き込む。

俺の女性恐怖症は治らなかった。
したがってこの年になるまで女を知らねえが、男は知ってる。
最初に誘ってきたのはピジョンの方、スワローが死んで間もない頃だ。壊れたダチに乞われて拒めず、仕方なく寝た。二十年前はピジョンに童貞を捧げる羽目になるなんて思いもしなかった。

「んっ、ふ」

アルコールと体臭の饐えた匂いが立ち込める部屋の底、他の男が仕込んだ男に奉仕を受ける。
ピジョンは夢中でしゃぶってる。
口の周りを涎でべとべとにし、赤黒い肉を擦り立て、白痴みてえに物欲しげな顔で舌を這わす。
窄めた口ん中で育ったペニスがヒク付き、だんだん限界が近付いてくる。

「あっ、ァふ、ンっ」

しどけなく乱れた前髪の隙間から茫洋とした瞳を覗かせ、切ない声を上げてわななく。
片手は俺のペニスに添えたまま、反対の手はケツに持っていってぐちゃぐちゃアナルをほじる。
薬のせいで高ぶってるのがわかった。
今のピジョンは誰とでも寝る。俺が断れば別の男をあたるだけ、実際引っ張り込んでるのを見たことある。
金や食い物をおいてくのはまだいい方で、大抵はヤリ捨てで帰ってく。唾液を捏ねる音も淫猥に俺のモノをしゃぶる傍ら、アナニ―に狂い喘ぐ痴態は年増の男娼にしか見えない。

「あぁっ、ふぁあ、気持ちいっ、指っあッ」

指だけじゃ足りねえのか目尻にうっすらと涙が浮かぶ。じゅぷじゅぷと勢いを増して抜き差しされる指がまた一本増える。中指と人さし指を束ねてアナルをほぐし、またもや俺の股ぐらを啜り出す。

「もういいい、離れろ。満足したろ」
「劉っ、あッ、ァあ、挿れッ、て」

苦しげに吐息を荒げ、掠れた声でせがむ。
その間も手は止まらずアナニ―を続ける。使い込まれたケツが指を食い締めて大臀筋が浮かぶ。

頭じゃちゃんとわかっていた。
コイツとダチでい続けたいならきちんと拒むべきだと、突き放すべきだと。

なのに。

未練を断ち切り腰を浮かす俺をよそに、ベッドに突っ伏したピジョンが亡き弟の名前を口走る。

「スワロー……行くな……」

俺の手を引っ張ってまた座らせ、鈴口に膨らむ苦い先走りを飲み干し、一生懸命懇願する。

「俺のこと好きにしていいから。気持ちよくするから」

最悪のタイミングでスワローの名前を出しやがって。胸の内で殺意が爆ぜる。俺をスワローと思い込んだピジョンは媚びるような笑顔を浮かべ、ドロドロに溶けて濁った赤い瞳を向けてくる。
首にかけたまんまのドッグタグを胸元でちゃりと揺らし、堕ちるところまで堕ちきったピジョンが呻く。

「あっ、やっ、イっちゃ、俺がイく前に行くな、はっすごっな中熱ッ、締まる……全部お前の為にやってるんだ、こうすればすぐ気持ちよくなれるから。早く来て、ぐちゃぐちゃっァッ、指あっ届かなくてもどかしいっ、ァふ、俺に挿れて奥までぐちゃぐちゃにッ、ンあぁ」

指の抜き差しだけで先端が滴り、ぱたぱたと雫が落ちる。

ピジョンはもはや完全に俺とスワローを取り違え、おいてかれるのはいやだ、行かないでくれと縋っている。
その間も手は止まらず指を抜き差し、ぐちゃぐちゃとケツをほぐす。
しかし指じゃ奥に届かず切なさが募る一方で、興奮に粘った唾液と先走りが糸を引く。
俺はスワローじゃねえと突っぱねられたらどんなにいいか。そんなことをしたらコイツは壊れる、最悪弟の後追いをしちまうかもしれねえ。ただでさえ少ないダチをもうこれ以上失うのは耐えられねえ。

「しっかりしろピジョン、こっち見ろ」

ピジョンの顔を手挟んで固定し、軽く頬を叩いて覚醒を促す。

「スワロー」

てんできかねえと見て、もう少し強くひっぱたく。
ピジョンの野郎はまるでこたえずへらへらしてる。

スワロー、スワロー、スワロー……呪いみてえに単調な声が、俺じゃねえ男の名前が脳裏に渦巻き思考を蝕む。
やめてくれと叫びたい衝動に駆られ唇を噛む。

「いい子だスワロー」

だしぬけにピジョンの腕が伸び、俺を抱き寄せる。
安アパートの粗末なベッドの上、偽物のぬくもりに包まれて弱々しく反駁する。

「俺は……じゃねえ」
「本当にいい子だ。お前は頑張ってる、ちゃんとわかってるから」

誰も彼もが俺を誰かの身代わりに仕立てようとする、ピジョンでさえもスワローの代用品にする。

どうしてこうなっちまったんだ?
どこで間違えた?
今からでも遅くない、スワローのを墓を掘り返して……

「ドッグタグはどこだ?」

ピジョンの声が一段冷え込んだ。
無表情に錆び付いた瞳が至近距離で覗き捏ねる。強張る俺の頬に手をあてがい、うっそり嘆く。

「なくしちゃったのか」
「……忘れただけ」
「スワローが忘れた?タグを外す?そんなわけないちがうだれだ、なんでタグがないんだ?」
「おいピジョン」
「スワローは肌身離さず持ってた、何する時でも四六時中首にかけてた。タグを忘れた?まさか、ありえない。とられたのか?落としたならすぐさがしにいかなきゃ、誰かにもってかれる前に」

ピジョンの意識が目の奥に遠のいていく。
まずい、俺がスワローになりすました事に気付き始めてる。次の瞬間ピジョンが腰を浮かし、覚束ない足取りで出て行こうとする。

「待てよどこ行く」
「タグ……呼んでる、さがさなきゃ……今日はどこ行った?部屋を出て酒を買ってそれから……ボトムに行ったんだ。なんで?墓参り?誰の?」

不思議そうに独り言ち、ベッドから下りた拍子に頼りなく膝が泳ぐ。手前の酒瓶を踏ん付けてコケる寸前、腕を掴んで引っ張り戻す。

「あ、あぁ」

手から始まった痙攣が全身に広がっていく。驚愕と衝撃に目を見開いて虚空を凝視するピジョンに焦燥が募り、荒っぽく押し倒す。

「ほしいんだろ。くれてやる」

萎えかけたブツを片手でしごきたて、どうにか使える状態に戻す。ベッドに仰向けたピジョンを組み敷き、膝裏に手をかけて割り開き、既にほぐされたアナルにぶちこむ。

「ーーーーーーーーー―ーーーッ!」

激痛に大きく仰け反るのを無視して腰を叩き付ける。ギシギシと壊れそうにベッドが軋み、汗と体液がしとどに滴って混ざる音が生々しく響く。

「あッ、ふあッ、ァあっそこっスワロー」
「だらしねえ顔。それでも兄貴か」
「お前っ、のっ、出たり入ったりすごっ俺ん中ゴリゴリして気持ちっ、おかしくなるッあっ」
「黙れよ淫乱」

胸の内で吹き荒れる激情に任せて痛め付ける、くだらねえことは一切考えねえように思い出せねえようにコイツに取り憑いた希死念慮を吹っ飛ばす勢いで抉りこむ。ピジョンはシーツをかきむしって笑っていた、赤く尖りきった乳首も収縮する腹筋も屹立したペニスも丸見えでどうしようもなく劣情をそそる。

「お前っ、の、好き、腹ン中ゴリゴリぐちゃぐちゃ好きっ、頭真っ白で、あッ、飛ぶ」

普段は作業みたいに丁寧にセックスをする。体を使ってカウンセリングをしてるようなもんだ。

だけど今この瞬間、俺にスワローが乗り移った。

惨めで可哀想なピジョンがたまらなくて、コイツをめちゃくちゃにしてやりたくて、腸液のぬめりに乗じてペニスを抜き差し貪欲にうねる襞を巻き返す。

「薬でラリって気持ちよさそうだな。テメェはド淫乱だから孔を一杯にしてくれるなら誰でもいいんだろ、その証拠に竿だろうが指だろうがうまそうに咥えこんで離さねえじゃんか」
「あぅっ、ぐ、ァあ」

言葉責めに感じた粘膜がペニスを食い締める。俺は自分を殺してスワローになりきり、生前のスワローが言いそうなことをまねる。

「アナニ―狂いのアル中ジャンキーとか終わってる。聞いてんのか酔いどれ鳩」
「もっと……」
「罵られてよがってんじゃねえ変態、乳首もペニスもびんびんに勃ってんじゃん」

スワローが死んで二十年、何十人もの男が通り抜けていった身体は挿れたそばから爛れ落ちそうに熟れている。
こなれたケツに突っ込む傍ら乳首を抓り、首筋を甘噛みしていじめてやりゃ、ほったらかしのペニスがピュッピュッと汁を吹いて喜ぶ。

「スワローだけっ、俺がこんななるのお前だけっ、だから!」

弾ける殺意に任せ、体奥にペニスを叩き付ける。

「あッあッスワローそこっ、ィくっ」

ピジョンはじれったげに腰を揺すり幻のスワローを求めていた。
惨めさと虚しさにやりきれず、ただ義務として腰を使っている最中に思いがけないことを言われる。

「絞めて」

潤んだ瞳で希い、俺の手をそっと咽喉へ導く。動揺も露わに見返す。ピジョンが恍惚と微笑む。

「殺したいだろ」

見透かされる。

小刻みに震える両手を首にあてがい指圧する。喉仏を押すようにゆっくり力を加え、気道を塞ぐ。
下半身は繋がったまま、塞き止められた体内が不規則に収縮し俺のモノを食い締める。
脳に酸素が回らず膨らむ顔を見下ろし抽送を再開、感度が増した前立腺を責めまくる。

「あっ、うぐっ、ァあっ」

息と血流を塞き止められたピジョンが無我夢中でシーツを蹴って暴れる、それを押さえこんでギリギリと首を絞める、振り回した手足が注射器と粉と酒瓶を薙ぎ払ってうるさい物音が響く。

なあピジョン、幸せか?
今ここで死なせてやったら、お前はお前を殺したヤツとして俺を覚えててくれるのか?

「スワ、ロー」

掠れた吐息だけで弱々しく呼ぶ。窒息の苦しみが長引く中、故人となった弟の幻覚に向かって微笑む。
ピジョンが伸ばした手は虚像をすり抜け、あっけなくシーツに落ちてのたうった。

「スワローじゃねえ」

聞こえてんのか聞こえてねえのか表情に変化はねえ。無防備に横たわったまま、半開きの目と口でぼんやり俺を見返している。
体内に震えが走り、絶頂を迎えて射精に至る。ピジョンの一番奥に白濁をぶちまけたあと、痛々しい痣ができた首からゆっくり手をどける。

「劉……?」

解放された喉で一気に酸素を貪り、激しく咳き込んで顔を上げる。現実に下りてきた瞳に漸く理性の光が戻り、神経症的な瞬きが始まる。

「あ、ッあ、俺また……途中でわかんなくなって……」
「いいよ、気にすんな」
「ごめん劉、ちがうんだ。酒と薬で頭がボーッとして、ほ、本気じゃなかったんだよ。せっかく来てくれたのに本当ごめん、なんでこんな……」

しどろもどろ言い訳するピジョン。
どもり、突っかえ、シャツの襟を慌てて搔き合わせて恥じ入り、こぽりと溢れて内腿を伝い落ちる残滓に青ざめる。

「ごめん、ごめん」

頬を擦ってくしゃりと髪の毛を握り潰し、ひたすら謝罪を繰り返す。見捨てないで、行かないでと思い詰めた様子で縋り付く。

本当にうんざりする。

俺の服を掴んで嗚咽するピジョンを冷たく見下ろし、吐き捨てる。

「スワローのタグは墓だ。アイツはいないんだ。死んだんだよ」
「ごめん劉、俺のせいだ」
「お前をおいて逝っちまったんだ。呼んでも帰ってきやしねえよ」
「知ってるよ、わかってる、スワローはいないんだ」
「自分で墓にタグ掛けたの忘れたのかよ、葬儀代も用立てたろ。ボトムの連中が悪さしねェか毎日見張りにいって、野良犬がションベンひっかけようとしてたら慌てて追っ払って、一日中ずうっと地べたに座り込んでんじゃねえか」
肩を揺すってかき口説きゃ、のろくさ顔をもたげて呟く。
「劉は行かないでくれよ」

なんでもするから。

カーテンの隙間からそそぐ褪せた陽射しが、空っぽの部屋に蹲る古傷だらけの裸身と首元の鬱血の痣を暴きだす。廃人化してもなお孤独を恐れ続けるダチの願いに返す言葉を持たず、足早に部屋を出た。

ピジョンは馬鹿野郎だ。スワローはもっと大馬鹿野郎だ。一番の馬鹿野郎は両方とも捨てられない俺だ。

これからも片翼の鳩のもとに通い続ける。
スワローの食べ残しを片付けるために。
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