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scary story
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「ホラーも見飽きたな。たまにゃリアルで怖い話するか」
「フィルムだけで満足しとけよ」
「野郎どもが殴り合ってる映画見たらガチでファイトしたくなるしポルノ見たらいい女とヤりたくなるだろ」
「俺はお腹一杯。というか二人で怖い話するのかよ」
「頭数足んねえか。おーいシケモクヤ二チェリー、ちょっとツラ貸せ」
「あ゛ぁ゛ん゛?」
「スワローそんな大声でいうなよ可哀想だろ、みんな窓開けて見てるじゃないか。ごめん劉なんでもないんだ忘れて、角の煙草屋に行くんだろ早く行って。ご近所さんもうちの弟がご迷惑おかけしました」
「とりあえず窓から落ちる呪いかけたわ。俺に用事か」
「兄貴と怖い話やるからお前も来い」
「命令形かよ。てかなんで昼っぱらから……賞金稼ぎって暇なの?馬鹿なの?」
「1分以内にこねーとお前の恥ずかしい秘密バラすかんな。いーちにーい」
「くそったれ、なんだってここのエレベーター年中故障中なんだよ!」
「合格。58秒だったな」
「ごめん劉ホントごめん。コーラ飲む?ぬるくて炭酸抜けてるけどおいしいよ」
「毛穴から飲む水道水で十分だろ」
「とっとと始めろ、時間がもったいねえ」
「早漏は嫌われるぜ。じゃあ俺から……」
「待ってスワロー、怖い話って幽霊系?俺そっちは苦手」
「幽霊なんているわけねえじゃん」
「えっじゃあ危機一髪的な……?」
「俺も質問。実体験以外もオーケー?人から聞いた話とかでも」
「持ちネタ少ねェなら可。一番手は誰だ?よしピジョンお前いけ」
「立候補した覚えないぞ?」
「話したくてうずうずしてたくせに」
「怖い話本当苦手なんだけどなあ……」
「知ってる。キャスケットコーチとすれちがうときも十字切るだけじゃ飽き足らず目ェ瞑るもんな、ガキかよ」
「あれは癖でうっかり」
「御託はぬきにしてとっとといけよ、これ以上イライラさせっと窓から吊るして壊れた時計の秒針ごっこすんぞ」
「わかったよ……怖くなくても許してくれよ」
~呪いのラブドール~
えーと……俺の趣味が映画館巡りなのは知ってるよね。
アンデッドエンドは大小たくさんの映画館があるからその点助かってる。スワローは女遊びに忙しくて滅多に付き合ってくれないけど、長い夜を潰すのに映画は最適だ。
というわけで、今でもたまに見に行く。ああ誤解しないでくれよ、帰ってこないスワローへの当て付けとかじゃない。仮にも兄さんだぞ?そんな子供っぽいことしない、断じて。
で、最近見付けた劇場があるんだ。
先週その劇場に映画を見に行ったんだ、一人で。別に寂しくない、一人の方が落ち着いて見れるしね。うるさいのがいなくてせいせいするよ、スワローと一緒に来たりなんかしたらげらげら笑うし前の背凭れ蹴るしポップコーン投げるしで摘まみだされるのが関の山さ。
映画のあらすじは……残念ながら覚えてない。映画館を出た後に起きた出来事が強烈すぎて忘れちゃった。面白い映画なら覚えてるはずだからツマンなかったのかなあ、うーん。
まあ、とりあえず見終えて劇場をでたよ。
スワローのヤツ帰ってるかなー、今日は泊まりかなー、そういえば家の鍵かけてきたっけ、とか考えながらダウンタウンの裏道を歩いてた。タクシー使うなんて贅沢はしない、基本徒歩。浪費家の弟のぶんも倹約節約しなきゃね。
裏道をしばらく行くとゴミ捨て場にさしかかった。なにげなく目をやってぎょっとした。手足がめちゃくちゃにひん曲がった女の人が捨てられてたんだ。
……違った。よく見たら全裸のラブドールだった。思い過ごしか、よかったとホッとして……ぞっとした。一体じゃない。二体、三体、四体……全部で三十体以上いた。そこ、ラブドールの墓場だったんだ。
誰が捨ててったかはわからない。個人とは思いにくいから業者かな?ともあれ、ラブドールが大量に廃棄処分されてた。
可哀想に、せめて服でも着せてあげればいいのにと思ったよ。それか下着。
束の間悩んだけど持って帰るのはやめにした。さすがに部屋に入りきらないし、ばれたらスワローが怒るに決まってる。心の中ですまないって詫びて足早に通り過ぎようとした時……
ラブドールの一体と目が合った。
仰向けに打ち捨てられて、さかさまの顔がじっとこっちを見てた。
直後に彼女がウィンクしたんだ。
見間違いじゃない、信じてくれ。ラブドールがひとりでにウィンクしたんだよ。
びっくりして腰を抜かした。ラブドールはまだ見てる。俺に何か伝えたいんだって直感した。それで思い出したんだ。嫌がる俺を捕まえてスワローが無理矢理見せた映画……殺人鬼の魂が人形に乗り移って滅茶苦茶するホラー映画の内容を。
ひょっとしてラブドールの中にも魂が入ってるんじゃないか?
ほら、人の形をしたものには霊が入りやすいって言うだろ?一概に迷信って否定できない。俺が子どもの頃作ったダンシングフラワーも酔っ払った人間みたいな動きするんだ、スワローは死ぬほど嫌そうに「きもっ」て吐き捨てる。仕方ない、弟には心がないんだ。
俺は思った。あのラブドールには可哀想な女の子の霊が入ってるんだ。いや、ラブドールの持ち主が女の子って線は薄いだろうけど……たとえば見た目が似てる娼婦とかさ。
だったらほっとけないじゃないか、見た目は無機物の人形でも中身は女の子なんだぞ。
ラブドールは野外に放置されてた。
しかも素っ裸で。
意味がわかるか?
俺は全速力でその場を離れ、次の角に立っていた娼婦と交渉した。
誤解するなよスワロー、そうじゃない。下着を譲ってくれって頼んだんだ。
最初は渋ってたよ。ド変態を見る目をされた。だけど誠心誠意頼み込んで全財産1万ヘルはたいたら快く譲ってくれたんだ、下着だけ。バイオレットのブラジャーとパンティー。
俺は娼婦の脱ぎたてほかほかランジェリーをゲットしてゴミ捨て場に戻った。彼女はそこにいた。
待たせてごめんって謝ってブラとパンティーを付けてあげたら、満足そうにカクンて首をたれた。
いいことをしたなあ。
「その話にどんなリアクションしたらいいんだ」
「怖くなくても許せって最初に言ったろ」
「ラブドールに付けてェから下着譲れって真顔で交渉するお前が一番怖ェわ、しかも両方使用済み」
「だって素っ裸なんだぞ、通りすがりの子供の教育にもよろしくないだろ」
「善意から出た奇行にドン引き」
「発想が素で狂人」
「人の形したものが素っ裸でいるのはいやなんだ」
「ラブドールをsheだのherだの言うなよitだろ」
「人間の欲望で生み出されたラブドールに愛がない言い方するな」
「じゃあ雑巾のなりそこないのモッズコートくれてやれよ」
「代わりにブラとパンティー付けて帰ってくりゃよかったのかよ閉め出すくせによく言うよ!そもそもお前の帰りが遅いのがいけないんじゃないか、二人で映画見たかったのにぼっちで待ちぼうけだ!」
「うるせえなテメェお手製のダンシングフラワーに悪魔下ろしてロボットダンスさせんぞ!」
~ピザデリバリー~
「次は俺の番な」
「どうせ寝た女が性病だったとかフェラで口内炎できたとかってオチだろ」
「スワロー、お前怖い話とか知ってるのかよ。悪趣味なスプラッタ好きなのは思い知らされたけど……ごくまれに俺の方が遅く帰るとグロいマスク被って脅かしてくるもんな」
「どんな?」
「目ん玉とびでたゾンビや継ぎはぎフランケンや毛むくじゃらの狼男」
「退屈な日常にちょっとした刺激を与えるサプライズ。肝を鍛えてやってんだから喜べ駄バト」
「一緒に暮らしてると寸刻みで寿命が縮む」
「相変わらず仲いいな。羨ましかねェが」
「劉も遊びに来いよ」
「おいおい構ってやんねえからってチェリーに浮気すんな」
「チェリーチェリー連呼すんじゃねえ大体なんだよシケモクヤ二チェリーって、シケモクとヤニで重複してるじゃねえか雑なあだ名付けやがって」
「チェリーなのは事実だろチェリーパイ詰めて窒息死させんぞ」
「食べ物を凶器にするんじゃない、仲良く切り分けて食べようよ」
「物欲しい目でこっちを見んな意地汚ェぞ駄バト、きっちり三等分とかほざいて大きいのせしめる魂胆だろ」
「お前は兄さんをなんだと思ってるんだ?計算位できる」
「ガキん頃からカット任せっと明らかにサイズが違ェのよこすくせに、いやがらせかありゃ」
「兄弟喧嘩は切り上げて先行け先。こっちはスケジュール押してんだ、早く行かねえと哥哥にどやされる」
「へーへー早漏チェリーのリクエストにおこたえしてやっからいい子でお座りしなベイビーズ」
先月の話。
その日も俺は夜遊びしてた。お留守番中の兄貴にイケズな放置プレイかまして、行き付けのクラブでしこたま踊り狂って、行きずりの女の部屋にしけこんだわけよ。
名前?忘れちまった。多分ミザリーかキャリーのどっちか。いちいちうるせえな、兄貴は朝飯に食ったパンの枚数覚えてんの?テメェもこれまで喫った煙草の本数覚えちゃねーだろ劉。
どこまで話したっけ?えーとそーそー、女の部屋にインしてマンホールにインしたトコまでな。熱い夜だったぜ。女は床上手だった。色んなプレイ試したよ。具体的には……早く進めろ?チッ、そっけねえの。
たっぷり楽しんだ後は酒が入ってたせいで即寝オチ。しばらくたってベルに叩き起こされた。バスルームから水音が聞こえたから女はシャワー浴びに行ってたんだな。
リンリンうるせーから呼んだら代わりにピザ受け取っといてって頼まれちまった。小間使いか俺は。まあ腹は減ってたんでいっかって玄関にでた。
ドアを開けたらピザ屋がいた。なんでか知らねェけど呆然と突っ立ってる。全裸で出たからか?おっととサインして追い返そうとしたらちっとも動かねえでいらだった。おいって声かけても無反応ときたもんだ。
で、ピンと来たね。コイツは女の彼氏で浮気の現場に踏み込んじまったんじゃねえかって……俺は間男にあたる。
けどこっちが申し訳なさそうにすんのも変じゃね?合意の上でヤッたんならフェアだろ、誘ってきたのはあっちだし。で、面倒くさくなってキャリーだかミザリーだかを呼んだわけよ。「お前の男がきてるぜー」って。
するとバスタオルを巻いた女が玄関にやってきて、男の顔を目の当たりにして言ったんだ。
「誰?知らない」
は?ってなった。恋人じゃねェなら何なの、ピザ屋を装ったストーカーか強盗かよ。咄嗟に腰に手を伸ばしたが、肝心のナイフは枕元におきっぱなしだ。心ん中で舌打ちした。男は目ん玉カッて見開いて、「裏切ったな!」と泣き崩れた。
俺に縋り付いて。
あー……だからさ、前に寝てたんだよ。ド忘れしてた。顔も名前も思い出せねー。一・二回っきゃ寝てねェのにあっちはガチで俺のこと恋人だと思い込んでたんだぜ、怖くねェ?アパートのドア挟んで愁嘆場だよ、近所の連中わらわら寄ってくるしマジ最悪。女もドン引きで第二ラウンドどころじゃねえし、すっかり萎えちまった。
まあ俺も大人だ、上手い落とし所を探って妥協案を出したよ。
「3Pする?」
次の瞬間、熱々のピザを投げ付けられた。間一髪躱せば女の顔面にヒットして大惨事。男は怒り狂って襲いかかってきた。両手を広げて向かってくる男にあせって、あせって二階の窓から飛び下りたよ。後の事は知らねえ。興味もねえ。
あ、疑ってんなその顔は。これが証拠だ、ピザ屋からスッた三割引クーポン兼二十枚綴り。コイツがありゃしばらくピザ三昧で飢えずにすむ、感謝しろ駄バト。
「ざけんな、ただただお前が酷ェだけの話じゃねえか」
「我が弟ながら見損なった。ゆりかごから出直してこい」
「俺がスッたクーポンでたらふくピザ食っといて今さらいい子ちゃんぶる気かよ、笑わせるぜ」
「出所知らなかったからだよ、知ってたら返却を命じたよ!というかピザ屋とも寝てたのかよ」
「ピザ屋はバイトで本業は掃除屋」
「裏社会の隠語の方の?」
「俺が寝ずに待ってた間にそんな事してたなんて……相手に火傷残んなかったか?」
「昨日店で会ったら元気そうだったぜ。腹膨れてた」
「うん?」
「待て待て急展開で付いてけねェ」
「俺がトンズラこいたあとなんだかんだでピザ屋とデキちまったみたいでさ。終わりよければすべてよし」
「この話で一番怖ェのなんだ?」
「反省しないスワローに一票」
「だよな。よく刺されなかったな」
「ンだよ俺だけ悪者かよ、ピザって投げたらよく飛ぶじゃん」
「日常的にピザ投げてんのかお前」
「ピザは投げて遊んで食べておいしい円盤じゃないんだぞ」
「こないだ投げたら口でキャッチしたじゃん」
「脊髄反射。口の端っこ火傷してさんざんだった。とにかく俺が言いたいのはパイ投げは文化だけどピザは危険だってこと、チーズ伸びるし。食べ物粗末にするのは感心しないぞ、次やったら絶縁だ」
「ったくテメェは冷めたピザみてーにしらけることしか言わねーな!」
「ピザで思い出した。サラミって好き嫌い分かれるよな、俺は剥がして食ってる」
「「は?」」
「は?って……何その目、ンな変な事言った?」
「馬鹿だなお前、サラミはピザの主役だろ。いや主役はチーズかもしんねェけど、少なくとも二番手だろ」
「サラミを剥がして食べるなんて正気の沙汰じゃないよもったいない。待って、剥がしたサラミはどこ行くんだ?まさか捨てるのか?」
「窓から投げて野良犬にやってる」
「なんで俺を呼ばないんだ!!」
「呼んでどうすりゃいいんだ。てか油っこいもの嫌いなんだよ、胸焼けする」
「シーフードピザ頼めよ」
「哥哥のオンナの残飯処理係なんだよ。食べきれなかったぶん無理矢理食わされる」
「次は俺を呼べよ、絶対だぞ」
「上司の愛人宅にダチ呼べねーよ……」
「ラストは劉だね」
「だりー……怖い話あんま得意じゃねェし……」
「慢性的に死人みてえな顔色してるくせに」
「ほっとけ」
「生きたままモルグに運び込まれても気付かず解剖されそうだよね」
「そーいやあったなンな都市伝説。生きたまま埋葬された男もいたっけ、棺桶から這い出てきたら爪は全部剥がれて髪が真っ白になってたとか」
「やなこと思い出させるな、眠れなくなるじゃないか」
「閉暗所恐怖症はトラウマになりそうだな」
「チャイニーズマフィアなら怖い体験しまくってんだろ?もったいぶらずに吐け」
「理屈が意味不明」
「無理するなよ劉、思い付かないなら別の話でも」
「甘やかすと付け上がるぞ」
「その態度はないだろスワロー、わざわざ来てくれたのに。仮にもホストなんだからゲストはちゃんともてなせよ」
「鼻からメントスコーラ飲ませとけ」
「弟が失礼を働いてすまない」
「慣れてるから。お前も大変だな」
「意気投合すんじゃねェよ」
「じゃあ俺がネタ提供するよ。劉の故郷は手を前にだしてぴょんぴょんはねるゾンビがいるだろ、額にお札貼った」
「あー……キョンシーのことか?」
「そーそーキョンシー。ずっと気になってたんだけど、アレって進めるのは前だけ?バックはできないのか?」
「いやどうだろ……キョンシーの進行方向に関して真面目に考えたことねェし。基本前進だけじゃねーか、バックしてるの見たことねェ」
「すごい不便。ゾンビも洋の東西で違うんだね、興味深いなあ。あっでもお札を前に貼ってると邪魔じゃない?」
「脱線してんぞ駄バト」
「ハイハイ怖い話な、話せばお役御免で解放してくれんだよな。仕方ねえ……後で文句は受け付けねーぞ」
~ミッドナイトテレビ~
俺がチャイニーズマフィアの下っ端やってることは知ってるよな。哥哥とは……移動遊園地で会ったっけ?
ピジョンはもっと前から知り合いか。何があったかは聞かねえよ、どうせろくでもないこったろ。
で、まあ俺の直属の上司ってのが滅茶苦茶な人でさ。これがもー滅茶苦茶やるわけよ。
こないだうちの若ェのが金庫の売り上げパクって逃げた。500万ヘル位かな、結構な額だ。マフィアから足洗うたしにしようとしたのか……お生憎様、アンデッドエンドから出る前に捕まっちまった。
蟲中天に泥かけてまんまと逃げおおせようってのが土台無理な相談。
下っ端がアガリパクって逃げんのはよくあることだから、今さら驚くにゃ値しねェ。今回は喧嘩を売った相手が悪かった。
犯人はとことん性根が腐った連中で、金庫破りの勢いに任せて哥哥の店で狼藉を働いたんだ。
知ってんだろ貧乳専門風俗バンビーナ、お前らが通ってるミルクタンクヘブンの向かいにある。
アホが何やらかしたか?哥哥が経営してる店に殴り込んで女どもを殴る蹴るよ。ちょうど外してたからな、タイミング悪かったんだ。バンビーナの嬢は気が強ェから、あちこち噛み付いてやり返したって聞くぜ。突っ込まれなかったのは不幸中の幸い。
ともあれ大事な商品をキズモノにされた哥哥はキレた。
生け捕りにした犯人が連れてかれたのはダウンタウンの町工場。
さあ、哥哥はどうしたでしょうか?
正解は溶鉱炉の端っこに並ばせて一人一人蹴落とした、でした。結構高さあったからなあ……断末魔が尾を引いたぜ。哥哥は悪魔みてェに笑ってたよ。
その工場は蟲中天がよく死体処理に使うんだ。溶鉱炉でドロドロに溶かしちまえば証拠が残んねーだろ?
顔色悪いぜピジョン、吐くなよ。この話には続きがあるんだ。
アホどもを溶鉱炉で始末したあと何か月かたってから、呉哥哥が事務所にテレビを持ち込んだんだ。暇潰し用?それもある。兼、無修正ポルノのチェック用な。蟲中天の貴重な資金源なんだ。当然チェックをやらされんのは俺。
ところが……新しいテレビが来た夜から、立て続けに変な事が起きだしたんだ。
ソファーで高鼾の哥哥をよそに俺が血眼でポルノをチェックしてると「あー」だの「うー」だの低い男の呻き声がまじりだす。
男優の喘ぎ声かと思ってブラウン管に向き直りゃ、不整脈みてえにノイズが走って映像が途切れる。遂には事務所の明かりまで点滅しだすもんで手におえねえ。
一体なんなんだ、まだ百本以上残ってんのに勘弁してくれポンコツ。ノルマを片せねェで怒られんのは俺なんだ。
なんて心ん中で嘆いてのろくさ歩み寄り、とりあえず平手で叩いた。まだ直らねえから拳骨で殴った。今度は足で。
するとブラウン管でバチッバチッて火花が弾けて、砂嵐が占める画面に生首が浮かんだ。やけに見覚えある野郎の顔……はて誰だっけ、と記憶を辿って漸く思い出した。
哥哥に溶鉱炉に蹴り落とされたアホの一人だ。
四回転半スピンがかった見事な落ちっぷりをきめて、奇跡の10点×∞を叩き出したヤツ。
もちろん死んでる。
溶鉱炉でグツグツ煮られて溶けてくのをこの目でしっかり見届けたんで断言できる。
ブラウン管にドアップで映し出された男の生首はすげェ顔でこっちを見てる。俺は動けなかった。
真夜中のテレビに溶鉱炉で溶かされた男の生首が映ったんだよ。
「……え、ガチ?」
「劉……反則だよ。空気読めよ」
「待て待て何だその目。なんで俺が悪者みたいな空気?」
「俺とスワローの話聞いたらはなからそーゆーノリじゃないってわかるじゃないか、最後の最後にガチで怖い話持ってくるとか酷すぎる、完全に油断しまくってた」
「だって怖い話大会だろ?俺悪くねェよ間違ってねェし」
「本当に実体験かよ。ポルノの見過ぎでオツムがイカレて幻見たんじゃねーの」
「だったらいいんだが……」
「まだ何かあるのかよ」
「後で調べてわかった。そのテレビの部品、アホども処刑した町工場で鋳造されたんだ」
「てことは」
「言うなスワロー、わかったから黙ってろ」
「新聞の投書欄にも苦情殺到だよ、何々社のテレビは故障が多いとか知らねー男の顔が映るとか」
「そーゆー仕掛けか。家電に憑く霊とかおもしれーじゃん、ポルノビデオただ見し放題だ」
「うちのテレビは大丈夫だよな?リサイクルショップで売り叩かれてた中古品だから大丈夫だよな?」
「下請けの卸先まではちょっとわかんねーな」
「お前の哥哥よくそんな厄ダネ持ち込んだよな、さすがに引くわ」
「今も心霊現象起きてるの?聖水とかかけたほうがよくない?」
「漏電するだろ馬鹿」
「呉哥哥がいる時ゃびびって出てこねー。一人でシコシコ編集してる時だけ沸く。一回実験したんだ、ダビングしたテープに生首封じられねえかって」
「結果は?」
「増えたわ」
「分裂かよ」
「誤算だった」
「呉哥哥に言ったら面白がって、実録ホラーフィルムとして量産する企画立てちまった」
「タイトルは?」
「プラントオブインフェルノフロムヘル」
「アンデッドエンドに呪いのビデオ拡散するな」
「ホラー映画なら見たヤツから順に死んでくパターンじゃん」
「これが試作品」
「なんで持ってんだよ!!」
「哥哥に献上に行く途中で呼ばれたんだ。できたてほやほやの新作、一緒に見るか」
「よっしゃピジョン、ポップコーンとコーラ持ってこい」
「生首は17:29」
「俺たちを巻き込むなよ!」
「お前たちが先に巻き込んだんだろ。俺だけ不幸になるとか理不尽の極みだから地獄まで付き合えよ」
「フィルムだけで満足しとけよ」
「野郎どもが殴り合ってる映画見たらガチでファイトしたくなるしポルノ見たらいい女とヤりたくなるだろ」
「俺はお腹一杯。というか二人で怖い話するのかよ」
「頭数足んねえか。おーいシケモクヤ二チェリー、ちょっとツラ貸せ」
「あ゛ぁ゛ん゛?」
「スワローそんな大声でいうなよ可哀想だろ、みんな窓開けて見てるじゃないか。ごめん劉なんでもないんだ忘れて、角の煙草屋に行くんだろ早く行って。ご近所さんもうちの弟がご迷惑おかけしました」
「とりあえず窓から落ちる呪いかけたわ。俺に用事か」
「兄貴と怖い話やるからお前も来い」
「命令形かよ。てかなんで昼っぱらから……賞金稼ぎって暇なの?馬鹿なの?」
「1分以内にこねーとお前の恥ずかしい秘密バラすかんな。いーちにーい」
「くそったれ、なんだってここのエレベーター年中故障中なんだよ!」
「合格。58秒だったな」
「ごめん劉ホントごめん。コーラ飲む?ぬるくて炭酸抜けてるけどおいしいよ」
「毛穴から飲む水道水で十分だろ」
「とっとと始めろ、時間がもったいねえ」
「早漏は嫌われるぜ。じゃあ俺から……」
「待ってスワロー、怖い話って幽霊系?俺そっちは苦手」
「幽霊なんているわけねえじゃん」
「えっじゃあ危機一髪的な……?」
「俺も質問。実体験以外もオーケー?人から聞いた話とかでも」
「持ちネタ少ねェなら可。一番手は誰だ?よしピジョンお前いけ」
「立候補した覚えないぞ?」
「話したくてうずうずしてたくせに」
「怖い話本当苦手なんだけどなあ……」
「知ってる。キャスケットコーチとすれちがうときも十字切るだけじゃ飽き足らず目ェ瞑るもんな、ガキかよ」
「あれは癖でうっかり」
「御託はぬきにしてとっとといけよ、これ以上イライラさせっと窓から吊るして壊れた時計の秒針ごっこすんぞ」
「わかったよ……怖くなくても許してくれよ」
~呪いのラブドール~
えーと……俺の趣味が映画館巡りなのは知ってるよね。
アンデッドエンドは大小たくさんの映画館があるからその点助かってる。スワローは女遊びに忙しくて滅多に付き合ってくれないけど、長い夜を潰すのに映画は最適だ。
というわけで、今でもたまに見に行く。ああ誤解しないでくれよ、帰ってこないスワローへの当て付けとかじゃない。仮にも兄さんだぞ?そんな子供っぽいことしない、断じて。
で、最近見付けた劇場があるんだ。
先週その劇場に映画を見に行ったんだ、一人で。別に寂しくない、一人の方が落ち着いて見れるしね。うるさいのがいなくてせいせいするよ、スワローと一緒に来たりなんかしたらげらげら笑うし前の背凭れ蹴るしポップコーン投げるしで摘まみだされるのが関の山さ。
映画のあらすじは……残念ながら覚えてない。映画館を出た後に起きた出来事が強烈すぎて忘れちゃった。面白い映画なら覚えてるはずだからツマンなかったのかなあ、うーん。
まあ、とりあえず見終えて劇場をでたよ。
スワローのヤツ帰ってるかなー、今日は泊まりかなー、そういえば家の鍵かけてきたっけ、とか考えながらダウンタウンの裏道を歩いてた。タクシー使うなんて贅沢はしない、基本徒歩。浪費家の弟のぶんも倹約節約しなきゃね。
裏道をしばらく行くとゴミ捨て場にさしかかった。なにげなく目をやってぎょっとした。手足がめちゃくちゃにひん曲がった女の人が捨てられてたんだ。
……違った。よく見たら全裸のラブドールだった。思い過ごしか、よかったとホッとして……ぞっとした。一体じゃない。二体、三体、四体……全部で三十体以上いた。そこ、ラブドールの墓場だったんだ。
誰が捨ててったかはわからない。個人とは思いにくいから業者かな?ともあれ、ラブドールが大量に廃棄処分されてた。
可哀想に、せめて服でも着せてあげればいいのにと思ったよ。それか下着。
束の間悩んだけど持って帰るのはやめにした。さすがに部屋に入りきらないし、ばれたらスワローが怒るに決まってる。心の中ですまないって詫びて足早に通り過ぎようとした時……
ラブドールの一体と目が合った。
仰向けに打ち捨てられて、さかさまの顔がじっとこっちを見てた。
直後に彼女がウィンクしたんだ。
見間違いじゃない、信じてくれ。ラブドールがひとりでにウィンクしたんだよ。
びっくりして腰を抜かした。ラブドールはまだ見てる。俺に何か伝えたいんだって直感した。それで思い出したんだ。嫌がる俺を捕まえてスワローが無理矢理見せた映画……殺人鬼の魂が人形に乗り移って滅茶苦茶するホラー映画の内容を。
ひょっとしてラブドールの中にも魂が入ってるんじゃないか?
ほら、人の形をしたものには霊が入りやすいって言うだろ?一概に迷信って否定できない。俺が子どもの頃作ったダンシングフラワーも酔っ払った人間みたいな動きするんだ、スワローは死ぬほど嫌そうに「きもっ」て吐き捨てる。仕方ない、弟には心がないんだ。
俺は思った。あのラブドールには可哀想な女の子の霊が入ってるんだ。いや、ラブドールの持ち主が女の子って線は薄いだろうけど……たとえば見た目が似てる娼婦とかさ。
だったらほっとけないじゃないか、見た目は無機物の人形でも中身は女の子なんだぞ。
ラブドールは野外に放置されてた。
しかも素っ裸で。
意味がわかるか?
俺は全速力でその場を離れ、次の角に立っていた娼婦と交渉した。
誤解するなよスワロー、そうじゃない。下着を譲ってくれって頼んだんだ。
最初は渋ってたよ。ド変態を見る目をされた。だけど誠心誠意頼み込んで全財産1万ヘルはたいたら快く譲ってくれたんだ、下着だけ。バイオレットのブラジャーとパンティー。
俺は娼婦の脱ぎたてほかほかランジェリーをゲットしてゴミ捨て場に戻った。彼女はそこにいた。
待たせてごめんって謝ってブラとパンティーを付けてあげたら、満足そうにカクンて首をたれた。
いいことをしたなあ。
「その話にどんなリアクションしたらいいんだ」
「怖くなくても許せって最初に言ったろ」
「ラブドールに付けてェから下着譲れって真顔で交渉するお前が一番怖ェわ、しかも両方使用済み」
「だって素っ裸なんだぞ、通りすがりの子供の教育にもよろしくないだろ」
「善意から出た奇行にドン引き」
「発想が素で狂人」
「人の形したものが素っ裸でいるのはいやなんだ」
「ラブドールをsheだのherだの言うなよitだろ」
「人間の欲望で生み出されたラブドールに愛がない言い方するな」
「じゃあ雑巾のなりそこないのモッズコートくれてやれよ」
「代わりにブラとパンティー付けて帰ってくりゃよかったのかよ閉め出すくせによく言うよ!そもそもお前の帰りが遅いのがいけないんじゃないか、二人で映画見たかったのにぼっちで待ちぼうけだ!」
「うるせえなテメェお手製のダンシングフラワーに悪魔下ろしてロボットダンスさせんぞ!」
~ピザデリバリー~
「次は俺の番な」
「どうせ寝た女が性病だったとかフェラで口内炎できたとかってオチだろ」
「スワロー、お前怖い話とか知ってるのかよ。悪趣味なスプラッタ好きなのは思い知らされたけど……ごくまれに俺の方が遅く帰るとグロいマスク被って脅かしてくるもんな」
「どんな?」
「目ん玉とびでたゾンビや継ぎはぎフランケンや毛むくじゃらの狼男」
「退屈な日常にちょっとした刺激を与えるサプライズ。肝を鍛えてやってんだから喜べ駄バト」
「一緒に暮らしてると寸刻みで寿命が縮む」
「相変わらず仲いいな。羨ましかねェが」
「劉も遊びに来いよ」
「おいおい構ってやんねえからってチェリーに浮気すんな」
「チェリーチェリー連呼すんじゃねえ大体なんだよシケモクヤ二チェリーって、シケモクとヤニで重複してるじゃねえか雑なあだ名付けやがって」
「チェリーなのは事実だろチェリーパイ詰めて窒息死させんぞ」
「食べ物を凶器にするんじゃない、仲良く切り分けて食べようよ」
「物欲しい目でこっちを見んな意地汚ェぞ駄バト、きっちり三等分とかほざいて大きいのせしめる魂胆だろ」
「お前は兄さんをなんだと思ってるんだ?計算位できる」
「ガキん頃からカット任せっと明らかにサイズが違ェのよこすくせに、いやがらせかありゃ」
「兄弟喧嘩は切り上げて先行け先。こっちはスケジュール押してんだ、早く行かねえと哥哥にどやされる」
「へーへー早漏チェリーのリクエストにおこたえしてやっからいい子でお座りしなベイビーズ」
先月の話。
その日も俺は夜遊びしてた。お留守番中の兄貴にイケズな放置プレイかまして、行き付けのクラブでしこたま踊り狂って、行きずりの女の部屋にしけこんだわけよ。
名前?忘れちまった。多分ミザリーかキャリーのどっちか。いちいちうるせえな、兄貴は朝飯に食ったパンの枚数覚えてんの?テメェもこれまで喫った煙草の本数覚えちゃねーだろ劉。
どこまで話したっけ?えーとそーそー、女の部屋にインしてマンホールにインしたトコまでな。熱い夜だったぜ。女は床上手だった。色んなプレイ試したよ。具体的には……早く進めろ?チッ、そっけねえの。
たっぷり楽しんだ後は酒が入ってたせいで即寝オチ。しばらくたってベルに叩き起こされた。バスルームから水音が聞こえたから女はシャワー浴びに行ってたんだな。
リンリンうるせーから呼んだら代わりにピザ受け取っといてって頼まれちまった。小間使いか俺は。まあ腹は減ってたんでいっかって玄関にでた。
ドアを開けたらピザ屋がいた。なんでか知らねェけど呆然と突っ立ってる。全裸で出たからか?おっととサインして追い返そうとしたらちっとも動かねえでいらだった。おいって声かけても無反応ときたもんだ。
で、ピンと来たね。コイツは女の彼氏で浮気の現場に踏み込んじまったんじゃねえかって……俺は間男にあたる。
けどこっちが申し訳なさそうにすんのも変じゃね?合意の上でヤッたんならフェアだろ、誘ってきたのはあっちだし。で、面倒くさくなってキャリーだかミザリーだかを呼んだわけよ。「お前の男がきてるぜー」って。
するとバスタオルを巻いた女が玄関にやってきて、男の顔を目の当たりにして言ったんだ。
「誰?知らない」
は?ってなった。恋人じゃねェなら何なの、ピザ屋を装ったストーカーか強盗かよ。咄嗟に腰に手を伸ばしたが、肝心のナイフは枕元におきっぱなしだ。心ん中で舌打ちした。男は目ん玉カッて見開いて、「裏切ったな!」と泣き崩れた。
俺に縋り付いて。
あー……だからさ、前に寝てたんだよ。ド忘れしてた。顔も名前も思い出せねー。一・二回っきゃ寝てねェのにあっちはガチで俺のこと恋人だと思い込んでたんだぜ、怖くねェ?アパートのドア挟んで愁嘆場だよ、近所の連中わらわら寄ってくるしマジ最悪。女もドン引きで第二ラウンドどころじゃねえし、すっかり萎えちまった。
まあ俺も大人だ、上手い落とし所を探って妥協案を出したよ。
「3Pする?」
次の瞬間、熱々のピザを投げ付けられた。間一髪躱せば女の顔面にヒットして大惨事。男は怒り狂って襲いかかってきた。両手を広げて向かってくる男にあせって、あせって二階の窓から飛び下りたよ。後の事は知らねえ。興味もねえ。
あ、疑ってんなその顔は。これが証拠だ、ピザ屋からスッた三割引クーポン兼二十枚綴り。コイツがありゃしばらくピザ三昧で飢えずにすむ、感謝しろ駄バト。
「ざけんな、ただただお前が酷ェだけの話じゃねえか」
「我が弟ながら見損なった。ゆりかごから出直してこい」
「俺がスッたクーポンでたらふくピザ食っといて今さらいい子ちゃんぶる気かよ、笑わせるぜ」
「出所知らなかったからだよ、知ってたら返却を命じたよ!というかピザ屋とも寝てたのかよ」
「ピザ屋はバイトで本業は掃除屋」
「裏社会の隠語の方の?」
「俺が寝ずに待ってた間にそんな事してたなんて……相手に火傷残んなかったか?」
「昨日店で会ったら元気そうだったぜ。腹膨れてた」
「うん?」
「待て待て急展開で付いてけねェ」
「俺がトンズラこいたあとなんだかんだでピザ屋とデキちまったみたいでさ。終わりよければすべてよし」
「この話で一番怖ェのなんだ?」
「反省しないスワローに一票」
「だよな。よく刺されなかったな」
「ンだよ俺だけ悪者かよ、ピザって投げたらよく飛ぶじゃん」
「日常的にピザ投げてんのかお前」
「ピザは投げて遊んで食べておいしい円盤じゃないんだぞ」
「こないだ投げたら口でキャッチしたじゃん」
「脊髄反射。口の端っこ火傷してさんざんだった。とにかく俺が言いたいのはパイ投げは文化だけどピザは危険だってこと、チーズ伸びるし。食べ物粗末にするのは感心しないぞ、次やったら絶縁だ」
「ったくテメェは冷めたピザみてーにしらけることしか言わねーな!」
「ピザで思い出した。サラミって好き嫌い分かれるよな、俺は剥がして食ってる」
「「は?」」
「は?って……何その目、ンな変な事言った?」
「馬鹿だなお前、サラミはピザの主役だろ。いや主役はチーズかもしんねェけど、少なくとも二番手だろ」
「サラミを剥がして食べるなんて正気の沙汰じゃないよもったいない。待って、剥がしたサラミはどこ行くんだ?まさか捨てるのか?」
「窓から投げて野良犬にやってる」
「なんで俺を呼ばないんだ!!」
「呼んでどうすりゃいいんだ。てか油っこいもの嫌いなんだよ、胸焼けする」
「シーフードピザ頼めよ」
「哥哥のオンナの残飯処理係なんだよ。食べきれなかったぶん無理矢理食わされる」
「次は俺を呼べよ、絶対だぞ」
「上司の愛人宅にダチ呼べねーよ……」
「ラストは劉だね」
「だりー……怖い話あんま得意じゃねェし……」
「慢性的に死人みてえな顔色してるくせに」
「ほっとけ」
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「理屈が意味不明」
「無理するなよ劉、思い付かないなら別の話でも」
「甘やかすと付け上がるぞ」
「その態度はないだろスワロー、わざわざ来てくれたのに。仮にもホストなんだからゲストはちゃんともてなせよ」
「鼻からメントスコーラ飲ませとけ」
「弟が失礼を働いてすまない」
「慣れてるから。お前も大変だな」
「意気投合すんじゃねェよ」
「じゃあ俺がネタ提供するよ。劉の故郷は手を前にだしてぴょんぴょんはねるゾンビがいるだろ、額にお札貼った」
「あー……キョンシーのことか?」
「そーそーキョンシー。ずっと気になってたんだけど、アレって進めるのは前だけ?バックはできないのか?」
「いやどうだろ……キョンシーの進行方向に関して真面目に考えたことねェし。基本前進だけじゃねーか、バックしてるの見たことねェ」
「すごい不便。ゾンビも洋の東西で違うんだね、興味深いなあ。あっでもお札を前に貼ってると邪魔じゃない?」
「脱線してんぞ駄バト」
「ハイハイ怖い話な、話せばお役御免で解放してくれんだよな。仕方ねえ……後で文句は受け付けねーぞ」
~ミッドナイトテレビ~
俺がチャイニーズマフィアの下っ端やってることは知ってるよな。哥哥とは……移動遊園地で会ったっけ?
ピジョンはもっと前から知り合いか。何があったかは聞かねえよ、どうせろくでもないこったろ。
で、まあ俺の直属の上司ってのが滅茶苦茶な人でさ。これがもー滅茶苦茶やるわけよ。
こないだうちの若ェのが金庫の売り上げパクって逃げた。500万ヘル位かな、結構な額だ。マフィアから足洗うたしにしようとしたのか……お生憎様、アンデッドエンドから出る前に捕まっちまった。
蟲中天に泥かけてまんまと逃げおおせようってのが土台無理な相談。
下っ端がアガリパクって逃げんのはよくあることだから、今さら驚くにゃ値しねェ。今回は喧嘩を売った相手が悪かった。
犯人はとことん性根が腐った連中で、金庫破りの勢いに任せて哥哥の店で狼藉を働いたんだ。
知ってんだろ貧乳専門風俗バンビーナ、お前らが通ってるミルクタンクヘブンの向かいにある。
アホが何やらかしたか?哥哥が経営してる店に殴り込んで女どもを殴る蹴るよ。ちょうど外してたからな、タイミング悪かったんだ。バンビーナの嬢は気が強ェから、あちこち噛み付いてやり返したって聞くぜ。突っ込まれなかったのは不幸中の幸い。
ともあれ大事な商品をキズモノにされた哥哥はキレた。
生け捕りにした犯人が連れてかれたのはダウンタウンの町工場。
さあ、哥哥はどうしたでしょうか?
正解は溶鉱炉の端っこに並ばせて一人一人蹴落とした、でした。結構高さあったからなあ……断末魔が尾を引いたぜ。哥哥は悪魔みてェに笑ってたよ。
その工場は蟲中天がよく死体処理に使うんだ。溶鉱炉でドロドロに溶かしちまえば証拠が残んねーだろ?
顔色悪いぜピジョン、吐くなよ。この話には続きがあるんだ。
アホどもを溶鉱炉で始末したあと何か月かたってから、呉哥哥が事務所にテレビを持ち込んだんだ。暇潰し用?それもある。兼、無修正ポルノのチェック用な。蟲中天の貴重な資金源なんだ。当然チェックをやらされんのは俺。
ところが……新しいテレビが来た夜から、立て続けに変な事が起きだしたんだ。
ソファーで高鼾の哥哥をよそに俺が血眼でポルノをチェックしてると「あー」だの「うー」だの低い男の呻き声がまじりだす。
男優の喘ぎ声かと思ってブラウン管に向き直りゃ、不整脈みてえにノイズが走って映像が途切れる。遂には事務所の明かりまで点滅しだすもんで手におえねえ。
一体なんなんだ、まだ百本以上残ってんのに勘弁してくれポンコツ。ノルマを片せねェで怒られんのは俺なんだ。
なんて心ん中で嘆いてのろくさ歩み寄り、とりあえず平手で叩いた。まだ直らねえから拳骨で殴った。今度は足で。
するとブラウン管でバチッバチッて火花が弾けて、砂嵐が占める画面に生首が浮かんだ。やけに見覚えある野郎の顔……はて誰だっけ、と記憶を辿って漸く思い出した。
哥哥に溶鉱炉に蹴り落とされたアホの一人だ。
四回転半スピンがかった見事な落ちっぷりをきめて、奇跡の10点×∞を叩き出したヤツ。
もちろん死んでる。
溶鉱炉でグツグツ煮られて溶けてくのをこの目でしっかり見届けたんで断言できる。
ブラウン管にドアップで映し出された男の生首はすげェ顔でこっちを見てる。俺は動けなかった。
真夜中のテレビに溶鉱炉で溶かされた男の生首が映ったんだよ。
「……え、ガチ?」
「劉……反則だよ。空気読めよ」
「待て待て何だその目。なんで俺が悪者みたいな空気?」
「俺とスワローの話聞いたらはなからそーゆーノリじゃないってわかるじゃないか、最後の最後にガチで怖い話持ってくるとか酷すぎる、完全に油断しまくってた」
「だって怖い話大会だろ?俺悪くねェよ間違ってねェし」
「本当に実体験かよ。ポルノの見過ぎでオツムがイカレて幻見たんじゃねーの」
「だったらいいんだが……」
「まだ何かあるのかよ」
「後で調べてわかった。そのテレビの部品、アホども処刑した町工場で鋳造されたんだ」
「てことは」
「言うなスワロー、わかったから黙ってろ」
「新聞の投書欄にも苦情殺到だよ、何々社のテレビは故障が多いとか知らねー男の顔が映るとか」
「そーゆー仕掛けか。家電に憑く霊とかおもしれーじゃん、ポルノビデオただ見し放題だ」
「うちのテレビは大丈夫だよな?リサイクルショップで売り叩かれてた中古品だから大丈夫だよな?」
「下請けの卸先まではちょっとわかんねーな」
「お前の哥哥よくそんな厄ダネ持ち込んだよな、さすがに引くわ」
「今も心霊現象起きてるの?聖水とかかけたほうがよくない?」
「漏電するだろ馬鹿」
「呉哥哥がいる時ゃびびって出てこねー。一人でシコシコ編集してる時だけ沸く。一回実験したんだ、ダビングしたテープに生首封じられねえかって」
「結果は?」
「増えたわ」
「分裂かよ」
「誤算だった」
「呉哥哥に言ったら面白がって、実録ホラーフィルムとして量産する企画立てちまった」
「タイトルは?」
「プラントオブインフェルノフロムヘル」
「アンデッドエンドに呪いのビデオ拡散するな」
「ホラー映画なら見たヤツから順に死んでくパターンじゃん」
「これが試作品」
「なんで持ってんだよ!!」
「哥哥に献上に行く途中で呼ばれたんだ。できたてほやほやの新作、一緒に見るか」
「よっしゃピジョン、ポップコーンとコーラ持ってこい」
「生首は17:29」
「俺たちを巻き込むなよ!」
「お前たちが先に巻き込んだんだろ。俺だけ不幸になるとか理不尽の極みだから地獄まで付き合えよ」
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