タンブルウィード

まさみ

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二十話

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「あーーーーーー忠告聞いときゃよかった……」
がっくり肩を落として嘆く。
ストレイ・スワロー・バードは嫌われ者だ、それは間違いない。年齢に見合わず突出した実力と傍若無人なふるまいが災いし、同業者の間でも孤立している。事前にプッシーキャットにあたったのは元相棒の目線でヤツの人となりを知りたかったからだが、乳房に刻まれた烙印が生々しく目に焼き付いて離れない。

『ストレイ・スワロー・バードは悪魔よ』

肉厚の唇を憎々しげに歪め、プッシーキャットは断言した。
アバズレだからってレイプされていい理屈はねえ。
本当にスワローがやったのか?……否定はできない、ほんの数日の短い付き合いで否定できるほどアイツのことをわかっちゃいない。実際スワローにゃ前科がある、助手席を占めた俺の寝込みを襲いオナニーさせた。他にも悪い噂は山ほど仕入れた。
キレたらなにをしでかすかわからねえ、怖いもの知らずの野良ツバメ。
車中じゃいかにも初耳っぽくすっとぼけたが、兄貴の存在はプッシーキャットから聴取済み。
俺の勘が正しけりゃ、スワローの地雷は兄貴だ。兄貴に言及した時だけ顔色と声のトーンが変わった。
ただ、どういう種類の弱みかはよくわからねえ。
劣等感?肉親の情?いずれにせよ、あの野良ツバメにとってただひとりの兄貴は無視できねえ存在なのだ。
俺にとってのあの人のように。
食わず嫌いと選り好みの激しいツバメスワローは、兄貴が差しかけた軒先にだけ巣を作る。

「…………はあ」
まったく、身内ってのは厄介だ。
血の繋がりは枷にもかすがいにもなる。
俺はとっくに天涯孤独の身だが、スワローにゃ半分血を分けた兄貴がいて、お袋も健在だ。トラブルの火種を身内に抱えるってなァ一体どんな気分なのか、兄貴に会ったら聞いてみたいもんだ。顔も名前も知らないスワローの兄貴に大いに同情、苦労人同士親しみすら湧いてくる。
スワローを上回る無茶苦茶野郎って可能性も捨てきれねえが、そんな悪魔じみた奴がアンデッドエンドでノシてたら、とっくに噂が立ってるはずだ。この街の情報網は密に張り巡らされている。
裏切りが日常と化し、抜け駆けが茶飯事となった街にゃ、出る杭を叩きたい連中がうようよしてやがる。
……ああ、なんだってこんな時だってのにアイツのこと考えてんだ。いや、こんな時だからこそか。
スワローの生き方に嫌悪と同じ引力の憧れを感じてるのは否めない。周囲にどれだけ敵を作ろうが、誰にいくら憎まれようが、アイツはきっとへっちゃらなのだ。
人の顔色をびくびく窺って疑心暗鬼の巣に絡めとられる蜘蛛とは違い、悠々と羽を伸ばし自由自在に飛び回るツバメ。
アイツといると己の臆病さや卑屈さを思い知らされ、腐れた人生がいやになる。
「ワンッワンッ!!」
「!?ちょ、待てやめうわぶっ」
ハッハッと荒い息遣いに眼をやれば、人懐こいワン公がべろべろ俺の頬ぺたをなめまわす。
「励ましてくれてる、のか?」
犬に同情されちゃおしまいだ。
「~~~~だったらロープ噛み切ってくれよ……いや、先にケツに刺さってんの抜いてくれ」
「ワフ?」
「さっきまで夢中で遊んでたろ、都合よくわかんねーふりすんな……」
まあ、じゃれ付かれないだけマシか。
「ッ……、」
腹筋に力をためると反射で異物を締め付け、皮膚が裏返るような悪寒が走る。慣れてきたのか、動かずにいりゃ幾分マシだが……
「……しょうがねえ、もう一度」
自らに言い聞かせ再び瞠目、精神を統一。全方位に緻密に張り巡らし織り上げた不可視の糸を、様々な温感と反応が伝ってくる。
閉じた瞼の裏に組織のカネを持ち逃げした馬鹿な男女の末路が甦る。

『あ、ぐ?』
虚を衝かれた女。
『手が動かねえ……?』
愕然とする男。

現場に居合わせた連中は、俺の小細工に気付かなかった。
呉哥哥にバレたらやばかったが、一度は愛し合った男と女が口を極めて互いを罵り合い、相手を差し出して命乞いする醜態など、とてもじゃないが最後まで見ちゃいられなかった。
同情じゃない、温情でもねえ、どこまでも私情だ。
正視にゃ耐え難い光景を力ずくで止めただけ。
俺がたらす糸は、剃刀のように鋭い。
掴まった途端にてのひらが切れる蜘蛛の糸。
誰も掬わない、何も巣食えない、そんな救えない話。

いや。
『お前見たか、連れてこられたガキ。可哀想に、まだ5歳かそこらじゃねえか。俺の娘と同じ年頃だ』
それでいいのか?
『運が悪かったんだよ。連中が連れてくるってこたァどのみち死んだも同然のガキだ、拉致られたんだか捨てられたんだか知らねーが、このさき生きてたっていいこたねェ』
「また」、ガキを見殺しにするのか?
あの倉庫で檻ん中のガキどもを見殺しにしたように、今度もまた知らんぷりすんのか?

マーダーズのやり口はよく知っている、そりゃもうウンザリするほどに。
俺の目的は何だ?コヨーテ・ダドリーの首級だ。他は関係ねえ、無視しときゃいい。そう戒める理性を感情が裏切る、あそこでマーダーズの名前がでなかったらシカトこけた、でも聞いちまったんじゃダメだ、知らんぷりなんかできっこねえ。
マーダーズ。
裏社会じゃ有名な賞金首の幇助組織。
殺人者に安全な逃亡ルートや隠れ家を手配し、望めばエモノまでデリバリーしてくれる連中。

俺は嘗て、その下っ端だった。
レイヴン・ノーネームは腐れ縁の昔馴染みだ。

アイツと組織の橋渡しをやってた頃は、その数年後に呉哥哥に拾われ、マフィアとして出直す羽目になるなんて思ってもみなかった。
好き好んで殺人鬼の手助けをしてたんじゃない。
そんな言い訳、被害者にゃ通用しねえ。
俺がどんな経緯でマーダーズに関与し、賞金首の逃亡を幇助してたかなんて、レイヴン・ノーネームに嬲り殺されたガキどもにゃ知ったこっちゃねえ。
神経を研ぎ澄ませ、指先から放出した糸をあらゆる隙間とあらゆる裏側にもぐりこませる。
「……くそだりーが、対価ツケは払わなきゃな」
俺はどこまでいっても自分勝手な人間だ。
誰を見捨て誰を助けるか、自分の秤にのっけて決める。
娑婆に居場所のねえガキどもは檻の中にいたほうが幸せだと呉哥哥は言い、デリバリーされたガキはこのさき生きてたっていいことねえと連中は言い、でも俺は、過去の清算がしたいというそれだけの利己的な動機で蜘蛛の糸をたらす。
檻を開け放っても逃げなかったガキは諦めても、トランクに詰められて連れてこられたガキは助ける。
結局どっちがマシかの消去法だろうが、自分の意志で居る場所を選んだヤツと、無理矢理運ばれてきたヤツは違うのだ。
そして、見付ける。
伸ばし伸ばした蜘蛛の糸が廊下を走り、地下室へ繋がるハッチの隙間をくぐり、階段を駆け下りる。檻だ。生体反応がある。小柄な……子どもだ。
鉄格子を抜けた糸が子どもの肌に触れ、体温と呼吸を正常に維持してるのを確かめる。
「よし」
安堵と歓喜の吐息がもれ会心の笑みが浮かぶ。
監禁場所を掴んだ。
ヤケをおこさず、くだらねー調教に付き合って正解。
話術で上手く誘導できりゃ早かったんだが、敵をなめすぎていた。
糸を巡らし空間把握したところ、地下室は広い。結構人がいる。
ぴんときた。
「ここが撮影現場か」
あの悪趣味なスナッフポルノ……待てよ、じゃあなんで俺はここにいる?気絶中に地下室に運べば手間が省けるのに……起きてから運ぶんじゃ二度手間だ。
放置プレイに意味あんのか?
「おかしい。何か……」
脳の奥で疑念が膨らむ。嫌な予感がする。
ダドリーは俺を使ってビデオを撮ると言った、地下室に監禁されているのは他に数名、おそらくダドリーに返り討ちにされた賞金稼ぎども。わざわざ俺だけ別所に隔離した理由は……
窓の隙間から屋外へ逃がした糸が、こっちへ接近する二体の反応を察知。
「ウ―ッ」
険しく唸る犬に怯んで咄嗟に糸を回収、顔を上げる。
檻に面する壁、天井近くの高所に穿たれた窓にやにわに影がさす。
壁に向き直った犬がしっぽを逆立て牙を剥き、激しい勢いで侵入者に吠えかかろうとするも、壁を挟んだ表で短く犬が鳴き見るまに大人しくなる。
「ゥワンッ、ワフッ」
「ワンッワウゥ、フー」
吠え声で区切った会話。しっぽを2・3回振り、脅威はないと悟るや全身の緊張をとく。
俺にゃわからねーが、犬同士は以心伝心なのか。
ピッキングの道具でも持ってんのか錠をカチャカチャやって回し、静かに窓を開ける。
「安全ピンで開くのかよ、すげえ。今すぐ空き巣に転職できるな」
「母さんの馴染みに教わってな、ざっとこんなもんよ。無駄口はいいから足場、ちゃんと押さえてろよ」
「もっと労え、ドラム缶転がしてくんの大変だったんだぞ」
「哨戒中の見張り黙らせてやったろ、お互い様だ」
「放し飼いの犬を黙らせてやった俺のがずっと偉いね、崇め奉れ」
「犬っころとしゃべる人間はじめて見たぜ、経歴はホラじゃねーな」
「吠え方にコツがあんだよ、いいか……」
「人くんだろ、実演したら殺す」
小声で言い争いながら窓枠を乗り越え、飛び下りる。
結構な高さをものともせず膝のバネで反動を散らして着地、殆ど音もしねえ。
スワローだった。
「お前……」
あんぐり口を開け絶句。
スワローは物珍しげに周囲を見回していたが、檻にふん縛られ転がされた俺に気付くや、大袈裟に目をまんまるくする。
「ハハッ、傑作だな!!何そのカッコ、SMプレイ中?しばらく会わねーあいだに愉快な趣味に目覚めちまったな、お楽しみ中邪魔して悪ィ」
腹を抱えて笑い転げるスワローの後ろから、よたよたと醜男が降りてくる。知らない顔だ。情けねェこと極まる俺の姿を見てぎょっと目を剥き、スワローに耳打ち。
「コイツが行方不明の相棒?」
「そ。勘が当たったな、めぼしい建物っていやこれくらいだ」
感動の再会……いや、ぶっちゃけ嬉しくねェ。恥ずかしい姿を見られ、忘れていた恥辱がまざまざ甦り、全身が火照りだす。
目尻の涙をすくって爆笑するスワローを睨んで吐き捨てる。
「……俺じゃねえ、コヨーテ・ダドリーの趣味だ。とっとと出せ。てかそっちは誰だよ」
「コヨーテ・ダドリー狙いの賞金稼ぎ。途中で一緒になった」
「目的が同じってことで、ツレになったのさ。一度匂いを嗅ぎゃ地獄のはてまで追っかける、マッドドッグ・ドギ―っていやちったァ知られてるはずだぜ」
あばただらけの醜男が得意げに宣言し、俺のリアクションを期待。
眉間に皺を寄せて記憶の襞をさぐる。
「あー……たしかそんなのがいたな……犬の乳を飲んででっかくなった犬男、惚れたヤツのケツの匂いを嗅ぐのが好きな年中発情期の変態」
「うわ……マジか……だからケツさわったのか?」
スワローがどん引きして避ける。マッドドッグ・ドギ―は唇をひん曲げ、犬そっくりの声で小さくひと吠えする。
「『犬と意志疎通できる』ってのも追加してくれ」
瞬間、俺の背中におっかぶさって甘えていた犬が、前脚をそろえてお座りする。
「驚きの特殊スキルだな、さっきのもお前が?」
「他にいねーだろ。ソイツ、アンタが気に入ったみてーだな。本気で番になりたがってる」
「やめてくれよ……」
人間の声帯から放たれてるとは思えないリアルな咆哮。犬のものまねは完璧。
ドギ―の芝居にまるめこまれ番犬の役目を放棄した犬を一瞥、スワローが無防備な足取りで寄ってくる。檻の前に片膝付き、ロープで後ろ手に縛られた俺へ手を伸ばす。
顔に手を翳され、反射的に体が強張る。
「俺様に待ちぼうけ食わせるなんていい度胸だ」
「……悪い、ミスった」
「あっさり捕まってんじゃねーよ間抜け、上と下で挟み撃ちにする計画がおじゃんだ。これからどうすんだよ」
「…………」
「カワイイしっぽ生やして笑える。身も心も調教完了、ダドリーの犬にされちまったか?助けにきたのはおせっかいか」
「!?痛ッ、ぐぁ」
頭皮が剥がれそうな激痛が走る。
手間をかけさせられた怒りを不敵な笑いに織り交ぜ、おもむろに俺の前髪を引っ掴む。ドギ―が「おい」と気色ばんで止めるも一切無視、俺の顔を至近で覗き込んで優しく脅す。
「ナイフを返せ」
「……はっ。それがめあてかよ」
「たりめーだ、ナイフ預けてなきゃ誰が足手まといをむかえにくるか。手ぶらでやりあうのはホネだからよ」
鉄格子の隙間から髪を鷲掴まれ、苦しい息遣いと虚勢の笑みを絞り出す。
「なら……あてがはずれて残念だな。とっくに没収されてる」
「はア???」
スワローが素っ頓狂な声をあげる。
「そりゃそーだろ、捕虜にナイフなんて危ないモノ持たせとくわけねーじゃん……」
本当に、俺のことなんかどうでもいいのだ。一瞬でも思い上がったのがアホくさい。はなっから俺を助けにくる義理なんてない、お互い利用し尽くすだけの関係じゃねえか。
足手まといは切り捨てる、役立たずは使い潰す、それが弱肉強食の掟が支配する賞金稼ぎの鉄則だ。
スワローはあっけにとられて固まっていたが、その表情が獰猛な憤怒に塗り潰され、髪を掴む手に握力がこもる。プチプチと嫌な音がし、毛髪が何本か抜ける。
「どこまで世話焼かせんだ」
突き飛ばされ、転がされる。スワローが安全ピンを鍵穴に突っ込んで複雑な手順で回し、いともやたすく檻の扉を開ける。
元から造りが杜撰なのだろうが、それにしたって万能アイテムだ。使い手のスキルとセンスが優れてるのは言うに及ばず。
「……それ、身体検査でハネられてたら詰んだな」
俺の嘲りにもとりあわず大股に踏み込んでくるや、無造作に片足を上げて―

「!!!!!!!!!!あッ、が」
冷たい無表情のままに、ケツからとびでたしっぽの先端を蹴る。

体内を衝撃が駆け抜け、仰け反る。
擦り切れたスニーカーの靴裏でアナルパールをリズミカルに押し込み、スワローがせせら笑いを浴びせる。
「ケツにモノ咥えこんでよがってんじゃねーよ、マゾ野郎。随分こなれて具合がいいな、耕されちまったのか?ホントはこーされたくてわざと捕まったのか、ペニスもきったねェ汁でべとべと、嬲られて勃っちまうなんて終わってンな。あーあー知ってたぜ、お前が手遅れのド変態だってのは、なんたって俺にナイフで脅されて自分でしごきだすんだもんな。車ン中助手席で、だれが通るかわかんねーのに……まんざらでもねーカオでアヘアへ愉しんでたろ?」
「やめ、ッひ、すあろ、たの、む、うぁッ」
「その名前で呼ぶんじゃねー」
「よせよスワロー、遊んでる場合か!コイツ連れて一旦ずらかるぞ!」
「しゃしゃりでてくんな」
肩を掴んで制すドギ―を邪魔くさげに振り払い、ケツに突き刺さった固いしっぽに苦しみもがく俺を、さらに無慈悲に追い詰める。
スワローが蹴る、蹴る、蹴る。
「うぁッ、あうぅ゛ッ、あッんぅぐあぅッ」
靴裏で爪先で、まるで遊んでるみたいに、よく狙い定めて異物を押し込む。
そのたびケツん中の球が不快に蠢き、粘膜を巻き込みズレて、快感を増幅する前立腺の真下を刺し貫く。
喘ぎ声なんか死んでも聞かせるかと歯を食い縛る、スワローだけならまだしもこの場にはドギ―がいる、ほぼ初対面の野郎にケツ蹴られてよがってる痴態を見られるくらいなら蒸発した方がマシだ。
コイツ、自慰のことまでバラしやがって……
「ほらよ、とっととイけ」
「ぬ、抜け、頼む……ッふ、ぁうっぐ、謝っから待ち合わせすっぽかしたの、は、だから、抜い、て、ッあぁ」
いっそ面倒くさげに、単純作業のリズムで振り上げて振り下ろす。
恥辱と怒りと悔しさがせめぎあい、やり場のない熱に苛まれる。
「わる、かった、あうッあ、俺が、ッァ、全部悪いっ、から」
「もうよせ、悪ふざけはやめてほどいてやれよ!」
乱暴に肩を揺するドギ―の叱責は聞き流し、スワローは退屈そうな無表情。
手首は縄で赤く擦り剥け、前立腺をいじめぬかれたせいで前は半勃ちになり、ぼたぼた泣いてる。
こんなトコ、見られたくなかった。
無力感と情けなさで勝手に涙があふれ、顔をしとどに濡らす。
腹ん中はもうぐちゃぐちゃで、奥の奥まで蹴りこまれた球がコリコリと腸の粘膜を揉みこんで巻き返すたび、排泄感に似た背徳的な感覚が走り抜ける。

『女の子は下のお口で気持ちよくなるのよ』
やめろ
『あなたもきっとそうなるわ』
やめてくれ

あの人に受けた折檻の記憶がぶり返し、勃ち上がったペニスの先端から先走りを滴らせて、叫ぶ。
「俺に、も、useless役立たずって刻むのかよ。あの女に、したみてえに」
靴裏が寸手で止まる。
「はあっ……はあっ……」
「おい……大丈夫か」
ドギ―が心配そうに駆け寄って助け起こす。手首を固く縛り上げたロープがとかれ、両手が自由になる。
「!んッ」
強張った手でしっぽを掴み、最後尾の球をひりだす。
括約筋を通る瞬間の快感に思わず出かけた喘ぎ声を、てのひらの柔肉を噛んで押し殺す。
「んッ、ぅぐッ、んんんんッあぅあぁあ」
歯が食い込む激痛にも増し、球の径のぶんだけツポンと拡張されては収縮するケツ穴の気持ち悪さに背筋にびっしり玉の汗が結ぶ。
アナルパールは挿れるときより抜くときの方が快感がでかい。
金輪際だれにも感じてる顔なんて見せたくねェと、傍らのドギーに切羽詰まって懇願する。
「頼むから、あっち向いてろ」
ドギーがそっぽをむく。安堵し、下っ腹に力をこめおそるおそる次の一粒をひりだそうとすれば、そこへスワローの手が重なる。
「気分出してんじゃねェよ」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ああぁあぁッ!?」
ケツから脳天まで、凄まじい快感が駆け抜ける。
意地悪く囁いた次の瞬間、スワローがしっぽを鷲掴み、残り全部を一気に引き抜く。
心も体も、準備する暇なんか与えられなかった。
内臓ごと動くような……肛虐で敏感になりまくった粘膜を連続で巻き返され、頭が真っ白に爆ぜる。
大量のローションと俺自身の体液でぬれそぼったしっぽをボトリと投げ捨て、一方的に命じる。
「テメェが案内しろ。一回とっ捕まったんだ、コヨーテ・ダドリーの居所はわかんだろ。近くにいんの?」
「ッは……わかんね、けど……たぶん地下、だ……ハッチがある」
衝撃が強すぎて、はずみで射精しちまった。
アナルパールが抜かれた肛門は赤く腫れて物欲しげにぱく付き、周囲にゃ人工の毛が散らばってる。
体力を使い果たしたせいで、立てない。
ドギーが俺に肩を貸してくれ、不審げにスワローを見やる。
「やけにあっさりしてんな、ろくに見張りもいねェし」
「本命に近付いてんのに警備が手薄だ」
有り難くドギーにもたれ、ギリギリまでシャツの裾を引っ張り、粗相しちまった股間をなんとか隠す。
ケツの異物が消え最低限の思考力が回復、快楽の余韻でふやけきった頭ン中をぐるぐる疑問が巡る。ダドリー一味が地下に移動したとして、俺だけ隔離した意味は……
「罠だ」
「「は?」」
ふたりの声が揃い、同時に振り返る。
今にも崩れ落ちそうな体を気力のみで支え、声を張って急き立てる。
「長居は無用だ、とっとと逃げろ!一旦退却して出直すんだ、畜生まんまとハメられちまった、俺はオトリだテメエらひっかけるための……ひとりでほったらかされてた理由がよーやくわかったぜ!」
てこでも相方の居場所を吐かねえと知って、誘き出す作戦に切り替えたか。いち早く理解したのはスワローだ。ドギーに顎をしゃくり、来たのと同じ窓からでようと……
「オス、準成犬、推定年齢15歳。体長6フィート0.5インチ、体重136ポンド。体毛はイエローゴールド、瞳はセピアレッド。栄養状態良好、犬種はアングロサクソン系ホワイト。特記事項、手足が長く均整がとれ容姿は特上……調教のし甲斐あり」
聞き覚えのある、二度と聞きたくねえ声が響き渡る。
「『得意客』が喜びそうだ」
子分を引き連れたコヨーテ・ダドリーが、ニヤニヤ笑っていた。
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