タンブルウィード

まさみ

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二十八話

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「う……」
三枚羽の換気扇が天井の中央で回っている。レトロな木製だ。
暗闇に一筋裂け目が生じ、瞼に閉ざされた視界がゆっくりと広がっていく。
体がひどく怠く重い。頭痛もする。
普段と違うベッドの感触に一瞬自分のいる場所がわからなくなる。
毛布を剥いで上体を起こす。睡魔の残滓をひきずった極端に緩慢な動作。
サイドテーブルの椅子の背凭れにモッズコートが掛けられている。机上にはガスマスク。
ピジョンはこめかみを押さえ、混乱する記憶を回想する。
激動の一夜だった。クインビーは死んだ。致命傷となったのは心臓への一突き、即死に近く殆ど苦しまなかったはずとキマイライーターは言った。殺人鬼には慈悲深すぎる最期だとスワローは不機嫌だった。
死体はもう収容されたのか?
ビーを倒したのち、ピジョンはトレーラーハウスから走ってきた母たちと合流した。
母は息子を抱きしめて歓喜に咽び、スワローの年の離れた友人のキディは、スヴェンをかき抱いて号泣した。

それから……それから?
わからない。
そこで記憶が途切れている。

皆で町へ帰って自警団に報告しようと、キマイラーターが話していたのをうっすら覚えている。ピジョンもお医者に診せたいし、と母が主張する。ひどい顔色よあなた、大丈夫?どこか悪いの?大丈夫だよ母さん、ちょっと疲れただけ……ひと眠りすればすぐに……
それを最後に意識が途切れた。

「気絶したのか」
溶暗する視界のむこうで、母とスワローがヒステリックに何かを叫んでいたのを覚えている。
倒れゆく体を抱き止めたのはスワローだろうか?ピジョンの疲労は極限に達していた。ビーやコヨーテに虐げられた外傷と、フェロモンの影響も関係ある。この先どんな後遺症がでるかわからない。
サイドテーブルには湯が張られた錫の洗面器がおかれ、タオルが浸けられていた。
母が看病してくれたのだろうか?今何時だ。というか何日だ。アレからどれくらい経過した。全身を詳細に確かめる。傷は手厚く治療され、あちこちに包帯や絆創膏が貼られている。擦り傷程度なのに過保護だ。
モッズコートはきれいに洗濯済みで、破れ目は丁寧に繕われている。
「……母さんかな?」
くすぐったい感謝の念を抱き、繕われたあとをなぞる。
あとでお礼言わなきゃ……っていうか、母さんはどこだ。みんなどこへいった。
階下で複数人の話し声がする。好奇心が先行して聞き耳を立てるも、会話の内容までは把握できない。昏睡するピジョンを煩わせないよう別の場所で話してるようだ。
「っぐ、」
体奥が引き攣れる感覚と共に痛みが走る。
ピジョンはシャツを捲り素肌に触れる。
服は着替えさせられており、その際に体も拭かれた様子だが、「中」の異常は見過ごされたようだ。
ベッドから這い出、壁伝いに歩く。赤ん坊のようなよちよち歩き。
頭はまだ澱が沈んで朦朧としている。二本足で歩行するだけで拷問だ。
ビーと対峙している時はそれどころじゃなかった、脳内麻薬が分泌され下半身の痛みも麻痺していた。それが今一気にぶり返す。
ビーは?スワローは?母さんは?キディさんは?キマイライーターは?
皆に会いたい。
こんなカラダじゃ会えない、人前にでれない。
ここがどこだかわからないが、最低限の宿泊設備が整っている。ということは、素泊まりの宿か?
片隅にシーツを敷いたベッド、安物のキャビネットとクローゼットが一式、胡桃のサイドテーブル。
窓からはロータスタウンの日常が見える。低い建物の間に敷かれた道を、せわしく行き交う馬車と人々。

女王蜂の脅威は去った。
ロータスタウンの平和は守れた。
自分たちが力を尽くして守りきった光景に熱いものがこみあげてくる。

カーテンを束ねた窓辺にたたずみ、ほんの束の間感慨を噛み締める。
スワローは頻繁に出入りしてたが、ピジョン個人はあんまり縁のない町だ。
それでも、関係ない人が死なずによかった。
部屋には浴室が付いていた。娼婦が商売に使う宿ではよくあるスタイルだ。曇りガラスがはめ込まれたドアを開け、脱衣かごに服を放り込む。包帯はどうしようか迷ったが傷口を目の当たりにするのが怖く、そのままにしておく。
いまさらだが、ピジョンは血が苦手だ。というかグロ全般が苦手だ。
「は……っ」
カラダが熱い。熱もあるのだろうか。努めて意識すまいとしてきたが、下肢の引き攣りは増す一方で苦しさが募る。
「中」がどうなっているか確認するのが怖い。
でもこのままにしておけない、最悪感染症になる。
他人には頼めない、自分で処理しなければ……バレたら一生の恥だ、そうなったら生きていけない。
浴室には金メッキの蛇口を備えた白磁のバスタブと、防水カーテンで仕切られたシャワーブースがあった。
じきに母たちが戻ってくる、それまでに体を浄めなければ……
手探りでハンドルを捻り温度調節、ぬるめの湯を顔面に浴びる。
気持ちいい。生き返る。軽く拭かれただけの体から垢と泥汚れともろもろとが一緒くたに落ちていく。ピンクゴールドの髪が水分を含んで湿り、額に張り付く。
限界だ。
ピジョンを支える糸が切れ、瘧にかかったように震える二の腕を抱き、タイルを嵌めこんだ壁に凭れる。
体がおかしい。まるで制御コントロールが利かない。熱く疼いてしかたない。
全部アレのせいだ、アレが中に入ってるからだ。
「はやく……とらなきゃ……」
俯き加減にひとりごち、右手をおそるおそる後ろに回す。
引き締まった尻の下、肛門の周辺をなぞり、おもいきって人さし指を突きだす。

ツプ。
「!っあ、ぅくあ」

変な声がもれる。
自分から見えない場所に指を突き立てる……自分で自分を犯す、背徳の感覚に膝がへたれてずりおちる。
体重を支えていられない。
シャワーの音が声を消してくれるから好都合だ。
タイルの壁に片腕を突き、もう片方の手で不器用に尻をまさぐる。
「う……」
肛門なんて、自分でさわったことすらない。
ビーに暴かれるまで、他人に触れられたことすらない場所だった。できれば一生指を突っ込まずにいたかった。不浄な先入観、生理的嫌悪が付き纏って離れない。
中でコリッ、と何かが動く。
固くて丸いものだ。それが背筋にぞくりと快感をもたらす。
体内にまだ残留する飴玉だ。時間が経過しても溶けきってない名残りが、コリコリと敏感な粘膜を転がっていく。
「あ、あぅ、あ」
切ない喘ぎ声をシャワーが消す。
湯気にさらされた肌が薄赤く上気し、前髪に結んだ雫が滴る。
中で飴玉がぶつかりあい、ふくらんだ前立腺をいじめぬく。奥まで入ってるせいでなかなか取り出せない。
ビーの嗜虐的な指遣いを思い出し涙がでる。
コヨーテに襲われたおぞましい記憶が荒れ狂い、水しぶきを立て跪く。
吐息が熱い。全身が火照る。上手く掻きだせない焦りと苛立ちが募り、じゅぷじゅぷ抜き差しする指の速度と本数を増す。
孔に突っ込んだ指で浅いあたりをかきまぜ、じれったくひっかく。早くしろ、じき人がくる、俺の様子を見に来る。母さんやキマイライーターに見せられるかこんな姿、尻に飴玉突っこんだまま話せるか?
予期していた痛みは然程ないのがせめてもの救いだ。
「ふぁ……」
ピジョンはアナニ―未経験だ。
ビーにいたずらされるまで尻で感じるなんて知らなかったし、自分が今している行為がオナニーに分類される自覚もない。
彼とて娼婦の息子だ、無論知識はある。しかし実感が追い付かない。
否、心のどこかではそうと知りながら否定してるのか……
努めて余計なことは考えまいとし、指遣いに全神経を集中する。
濡れそぼつ全身を雫が伝う。包帯が素肌に張り付く感覚すら刺激となる。
「くそ……もう少しなのに……早くでてこい、往生際悪いぞ」
指先が届きそうで届かない。
一生このままだったら……最悪の想像にヒュッと喉が詰まる。飴玉はほうっておけばじきに溶ける。
それまでガマンしろって?尻に詰めたまま暮らせって?
跡形なく溶けきるまで何日、何週間かかる?
栓をされてる間、排泄はどうする?
「く……」
もういやだ。声を上げて泣きたい。こんな情けない姿だれにも見られたくない。指がもどかしい。そんなんじゃないのに、自慰とは違うのに、しつこく尻をほじくってるうちに胸の突起とペニスが勃ちはじめている。ノズルが放出する湯がタイルを打って嗚咽を消す。
「これ以上手こずらせるな、とっとと俺の中からでてけよ……!」
ピジョンは口を押さえ、後ろ孔を激しくピストンする。
指の第一関節を曲げ、鉤字にしてひっかけようとするも飴玉はするりと逃げていく。
「!ふあッ、ぅく」
ぞくり、ぞくりと快感が連続する。
気持ち悪いのが気持ちいい。腰がぐずぐずのずぶずぶだ。口を押さえる手がともすると股間に伸びそうなのを理性で制し、早くでろ早くでていけと一心に念じ、ひたすら尻を掘り続ける。
「スワロー、う」
アナニーにふけりながら弟の名を口走る。
それでまた一段と感度が高まる。ピジョン本人にほぼ自覚はない、何故弟を呼んだのかもわからない。
「スワロー、あッ、スワロー、ふあぁ」
どうしようもなく切なくて、たまらなく気持ちよくて、スワローの名をくりかえす。
前髪がかかる赤錆の瞳はトロンと濁り、撓う背筋を幾筋も雫が伝っていく。
「!あっ」
まだるっこしく弾かれ、飴玉がさらに奥へ行く。
「嘘だろおい冗談だろ……」
俺は何と戦ってるんだ?指を頼りに飴玉と死闘を繰り広げる現実が精神をサンドバックにする。
アイツの名前なんかだすからだ、疫病神め。
「んあッ……」
箍が外れてじゅぷじゅぷと激しくかきまわす。シャワーの水音と絡めた派手さにはしたなく興奮し、第二関節まで折り曲げる。
「ふぁぁ、ぅあッんくッ」
肛門を使った自慰にのめりこむ少年の痴態は、その清潔な風貌を裏切ったみだらがましさで倒錯の官能を煽り立てる。
溶けた飴玉の成分と水滴、カウパーとが溶け混ざった粘液が会陰から内腿にかけてを洪水さながら濡らす。着色料の薄ピンクが視覚的な淫らさに拍車をかける。
ピジョンはいやらしく顔を赤らめ、牝犬のように大臀筋が浮いた尻を突き出す。
「もっ………キツ……そんなとこいないででておいでよ、頼むから……ね、いい子だから……かくれんぼはおしまいだ。中グチャグチャ……ベトベトで……イく、イきた、い」
媚び、へつらい、宥めすかし、へりくだってご機嫌をとる。
卑屈な猫なで声まで使い、吐息を荒げて懇願する。
最低に惨めで滑稽な気分。
ビクビクと中が締まり、襞がキュウと指を咥える。ピジョンの粘膜は敏感だ。そしてとても貪欲だ。飴玉だろうが指だろうが、一度咥え込んだら絡み付いてはなさない。今だって自分の指をスワローの指と都合よく勘違いし、おいしそうにしゃぶり尽くす。

ようやく頭が出てきた。
「ぅあっ、ああああっあ」

カツン。
背筋を震えが這い上る。
悪寒と紙一重の脱力感が襲い、下肢が力んで排泄。
ピジョンが産み落とした飴玉は、彼の中で半ば溶け、カタチを歪にくずしていた。
「やっと一個目……」
タイルではねた飴玉が湯に流されて排水溝にひっかかる。
それを見送り、とうとう膝から崩れ落ちる。
一個ひりだすだけで全ての体力を使い果たした。
腹の奥で膨らんだ圧迫感がソドミーな虚脱にとってかわり、下肢がヒクヒクと微痙攣する。
尻に指を突っ込んだまま抜くのも忘れ、シャワーの下で丸まる。
腕からほどけかけた包帯がタイルを浸す水に泳ぐ。
気怠く瞬きして起きあがりかけ失敗、肘から滑ってずしゃりと突っ伏す。

なんでこんなことしてるんだっけ、俺。
もうどうでもいい。

頭が弛緩してなにをするのも億劫だ。ずっと温いシャワーに打たれていたい。ピジョンは再び体をずりおこし、壁に寄りかかって呼吸を整える。コヨーテはいない。ビーはもういない。俺は助かったんだ。そのことがまだ信じられない。
あの時スワローがむかえにきてくれたから、俺は今ここにいる。
「いい加減起きたかよ、メシもってきたぜ……っていねえし」
ドアが開く音に続き荒々しい足音が殴りこんでくる。スワローだ。ベッドにいない兄を罵倒してさがしている。ピジョンは即座にはねおきる。足音が近付いてくる。
浴室のドアが開け放たれ、ピジョンと同じく傷だらけ包帯だらけのスワローがのりこんでくる。
「ここにいたのかよ、手間かけさせ……て」
全裸の兄と向き合い、絶句。
「なにしてんの、お前」
「……シャワー浴びてただけ。すぐ上がる」
一目で様子がおかしいと察し、タイルの水を蹴散らし踏み込む。
スワローがピジョンの腕をとり、もう片方の手で顎を起こす。
「すっげェ熱い」
「……お湯だから」
「ぬるいぞ」
「服濡れるからはなせ」
「関係ねえ。なにしてたか言えよ」
「…………」
「言えねえことしてたのかよ?」
「……体洗ってただけだ。汚れてたからそれで……っ、コヨーテの涎とか、残ってそうで気持ち悪いし」
スワローの顔が、目が、まともに見れない。蔑むような憐れむようなまなざし。
顔を背けて吐き捨てるピジョンを許さず、腕を掴んで詰め寄ってくる。
湯にのぼせた剥き出しの下肢の先、排水溝にひっかかった場違いな飴玉に目を見張る。
「『中』、何突っ込まれた?」
スワローが表情を険しくする。恐れていた質問に、ピジョンはかたくなに唇を噛んで返答を拒否。それでも許さない弟に意固地に首を振って、しどろもどろに弁解する。
「なにも、入ってない。へんな誤解するな、ただ体を洗ってただけで、それで」
「証拠が上がってる」
コイツにだけは知られたくなかった。どうして最悪のタイミングでばかりやってくるんだ、空気読めよ。
スワローが兄の手首を掴み、床のタイルに縫い止めて馬乗りになる。
「自分でやってたんだな。そうだろ」
「ちが……」
「後ろ見えねーのにひとりでできるかよ。待ってろ、かきだしてやる」
嘲りを含んだ声色に一抹のやさしさ。
びしょぬれの手が頬を包み、銀のドッグタグが水滴を弾いて光る。
何を言ってるかわからなかった。
脳が理解を拒否した。
スワローは兄を組み敷き膝を立てさせると、何回もピストンされ、既に十分ほぐされた孔へ指を突っ込む。
「!!ッぐあ、イあ」
ピジョンが大きく仰け反る。
大袈裟な反応は痛みのせいじゃない、それを通り越した凄まじい快感のせいだ。
自分でやっていた時とは数倍、いや数十倍の差だ。
コイツは俺のいい所をどうかすると俺以上に知り抜いてねちっこくいじめぬく。
「やめ、スワローどこさわっ、そこ汚な、指ぬけ、ぬいて早くっ、ひとがきたらどうす」
「だれもこねーよ」
もがいて水を蹴散らすピジョンを押さえこみ、尻を大胆にまさぐる。スワローも頭からシャワーをかぶってびしょぬれだ。濡れ透けのタンクトップが鎖骨とへその形をくっきり浮かす。
「やめろ、自分でやる、そんなとこさわられたくない、気持ち悪い、いやだって」
体の変化を暴かれたくない。
前はもう半勃ちで、乳首も女の子みたいに尖りきっている。
コイツにさわられた途端こうなった。節操が裸足で逃げ出した。もどかしい自慰とは比較にならない快感が降り注いで、体中波打って悦んでいる。
ピジョンは片腕で顔を隠し、聞き分けのない子どものように駄々をこねる。
「腹、苦し、くて、ッあ、なかずっとへん、で、あッあッ、おまえにさわられるともっとへんになる、からッ」
「喘ぎ声でまともに言えてねーじゃん」
「う、うるさい……」
「アナニ―手伝ってやるだけだ。目ェ瞑ってるうちに終わる」
「アナニ―じゃない、掻きだそうとしてたんだ……」
「同じだろ。どっちにしろすげーへたくそ」
スワローがノズルをひったくり、ピジョンの肛門に適温の湯をかける。
「ひッあ!?」
喉仰け反らせて叫ぶピジョンにかまわず、肛門にシャワーをあて、親指サイズの空洞ができたそこをマッサージ。
湯が馴染んで筋肉がリラックス、弛緩。
粘膜を巻き送り、淫らに蠕動する肉の隧道を飴玉がおりてくる。
「女のアソコみてえにぱっくり口開けて待ってら」
スワローの指が器用に動き、溶けかけた飴玉を掻きだす。
「二個目だ。まだコリコリ言ってる……いくつ突っ込まれたんだよ」
「次で終わりだ……」
人の気も知らず口笛を吹く。
「下のお口は欲張りさんだな、うまそうに頬張ってんじゃん。消化しちまえばどうだ?」
「……ッ、」
「おー怖、睨むなよ。会陰もヒクヒク言ってダラダラ汁垂れ流してる。エッロい眺め……なあピジョン、女じゃなくてよかったろ?ちったァ血は出たかもしんねーけど、膜破れたら取り返しきかねーぞ」
もういやだ。コイツはちっとも言うこと聞かない。
俺をいじめて楽しんでるんだ。ずっとそうだ、いつだってそうだった、これからもずっとそうなんだ。
「かっこ悪いだろ……笑えよ……」
「いまさらだな」
諦めて啜り泣くピジョンのこめかみにキスをし、濡れ髪に指を通す。
気を紛らわせ、痛みをごまかそうとして?
まさか。スワローにそんな人の心あるわけない。コイツは思いやりのない生き物だ。
「何回言わせるんだよ……痛いのはいやだ……」
「気持ちよくしてやってんじゃん」
そうだ、実際気持ちいい。スワローの指はピジョンの穴にしっくりくる。なにもかもが相性抜群でぴったりだ。それを認めるのが大いに癪で、真っ赤に潤んだ目で睨み据えれば、スワローが悪戯っぽく笑んで指を鉤字に曲げる。
「あっふあッあうあっ」
ほったらかしの前が苦しい。
後ろへの刺激だけではイケない。
「イイ反応。前立腺がビンビンだ」
「スワロー、それやだ、ほんともッ……へその裏を揉まれるとダメなんだ、頭ン中真っ白になって、ひあっ!?」
「甘ったりィ匂い。ストロベリー?」
「くすぐった……余計なことするな、ふあッ、はやく抜けよ……」
スワローが内腿を舐めて匂いを嗅ぐ。ゆるゆると唇でねぶられ、爪先がキュッと搾まる。
「呼吸を合わせろ。へその下あたりにぐっと力をためて、いきんでひりだすんだ。歯磨き粉のチューブ想像しろ」
弟の親指がへその窪みに潜る。
「最低なたとえ……歯磨きするたび思い出すだろ……」
「じゃあすんな」
「キスできない」
「俺は別にいいぜ」
「断じてよくない」
アドバイスに従い丹田に力をためる。
「あッぁあぁッひあッぅ」
涎を垂れ流して喘ぐ兄の尻穴をグリグリ指圧、奥の窄まりに隠れた異物を苦労して摘まみだす。
「三個目……殆ど溶けてるな。相当長いあいだ咥えこんでたんだろ、ドロドロだ」
わざわざ顔の前に持ってきて意地悪く見せ付ける。
ピジョンの直腸で溶けた飴は一回りも縮んでいた。
「ッあ…………あ」
「どうした?よすぎておかしくなっちまったか、舌回ってねーぞ」
おかしい。指が恋しい。引き抜かれて物足りない。コイツがほしい、全部ほしい、俺の穴にぶちこんでほしい。
スワローが飴を放り捨て、兄の裸の背に手をあてる。ピジョンはもうすっかり変だ。
「こんなモノ咥えこんだまま跳んで走って、キツかったろ。がんばったな」
「ニセモノだ……」
「何が」
「スワローが、俺にやさしくするわけない……」
俺はへんだ。おかしくされるとおかしくなる。なにかがずぶずぶになっていく。体内で溶けた飴玉の成分を粘膜が吸収したのか、片手で弟のシャツの胸元に縋り、甘ったるく熟れた吐息を逃がす。
裸の背においた手がゆっくり上下し、昂った神経をなだめていく。
ニセモノ発言に苦笑いしたスワローが、兄の顔を手挟んで正面に固定する。
「続きはどうする?」
ピジョンはごく小さく頷いた。
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