タンブルウィード

まさみ

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三十四話

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決心が鈍らないうちにとおもいきって下着ごとスワローのズボンをおろす。
曝された下肢の暗闇に浮かび上がる白さが眩しい。母は寝ているのだろうか?カーテンで仕切られた向こうのベッドからは物音が絶えて久しい。
衣擦れがやけに耳に障る。早鐘を打つ心臓がうるさい。
「母さんは寝付きがいいから当分起きねえさ」
隣り合うベッドの気配を窺う兄の小心をスワローが嗤う。生意気な顔。こいつは今の状況を心底楽しんでる。バレたらどうなるか考えないのだろうか?今が楽しければそれでいい、取り返しがつかなくなるまで突っ走る快楽主義者の刹那主義者だ。下半身を剥かれたスワローの上にぎこちない動作でのしかかり、裸の股ぐらにおっかなびっくり右手を忍ばせる。
当然だが、弟のそこは柔らかく委縮している。目視する勇気はなく、手の感触だけを頼りにやわやわとまさぐりだす。ピジョンは声をひそめて言う。
「変な、感じだ」
「隠れていけないことしてると思うとコ―フンすんだろ」
「そういう趣味ないから……お前と一緒にしないで」
あくまで慰める為だ。いつもされてるままごとのまねごと。寝かしつけるために仕方なくだ。出すものを出してスッキリすれば悪い夢も見ずぐっすり朝まで眠れるだろう。ゆっくりと弟を跨いで動き、下半身へと体をずらしていく。ふやけきったペニスを右手に持ったまま、一回キツく目を瞑って心臓をどやしつけ、弟自身と向き合う。
「うわ……」
ピジョンは小さく嘆じる。驚愕と動揺と感嘆と、生理的嫌悪と戸惑いと、色々な感情が交じりあった吐息が零れる。スワローの裸なんて見慣れてる。スワローのペニスもだ。小さい頃は一緒にシャワーを浴びたしお互い裸になって水浴びもした。よちよち歩きしてた頃の弟のそこはせいぜい親指サイズで、ふざけて摘まんだこともある。思春期に入ってからは共にシャワーを浴びる事もなくなったが……
「しばらく見ない間にエグいことになってる」
「他に言い方ねえのかよ」
「ピラニアに進化した小魚を見る衝撃」
ちょっと引く。どん引く。あの幼く未熟なペニスが、しばらく見ない間にこんなエグい成長を遂げているとは……兄心に衝撃を受ける。ピラニアと違って噛みつきはしないだろうが……いやわからない、スワローのペニスだものな。スワローのスワローだもんな。危険度はピラニア級だ。
「見てるだけじゃ終わんねーぞ。次はどうするんだ?」
「わかってるよ……考えてたんだ」
思考停止状態に陥り脳が勝手に現実逃避していた。
ピジョンは生唾を呑み、ためらいがちに股間へと顔を埋めていく。しなだれた陰茎を両手で掴み、持ち上げ、優しく揉みほぐす。不覚にも狼狽してしまったが、至近距離でじっくり眺めるとスラリと美しい形をしている。包皮が剥けたカリ首は厚みがあるも、全体的に均整がとれている。
「シュッとしてる、よね」
「褒められてもな……」
「嬉しくない?」
「もっと褒めろ」
すぐ調子にのる。両手に包んだペニスが次第に太さを増していく。表面に血管が脈打ち、赤黒く照り光る。オナニーなら経験がある。自分の時と同じようにするんだ。コイツは怪我人だから、俺が代わりにしてやるんだ。マスターベーションを手伝ってやるんだ。
「っぐ!?」
だしぬけに髪を掴まれる。無防備な後頭部、その後ろ髪を掴んで引き起こしたのはスワローだ。
「なにしてんの?」
「え?」
「手だけでイかせる気?」
「え……」
「テメェの口は何のために付いてんだよ?」
当惑しきって瞬きするピジョンの口の端に指をひっかけ、意地悪く横に引っ張る。口の中にもぐりこんだ指が、一つ一つ点検するように舌をおさえ歯茎をこすり非情な命令を下す。
「あっんぐ」
「サボんな。口も使え」
絶望が心を浸蝕する。潤んだ目で許しを請うもスワローは笑ってけしかけるばかり、前言を撤回する様子はない。口の中をめちゃくちゃに指が犯す。舌を摘まんでひねって歯の裏側を擦り立てる。せめてもの抵抗に弱弱しく次第に力強く首を振る、弟の上からあとじさって足を崩す、口の端から溢れた涎が顎を伝ってシーツに落ちる。
「ふぅううっ、ふーっ!」
「俺のこと本気で慰めてくれるんじゃなかったの?ありゃ嘘か。手だけでごまかす魂胆か。誠意が感じられねーよ兄貴、そんなんじゃ全然ダメだ、その証拠にほら、俺の愚息がしょんぼり萎えきったままだぜ?兄貴のお口でかわいがってもらえなくていじけてるんだ、可哀想に」
わざとらしく嘆いてみせ前にも増した激しさでピジョンの口をかきまわす。
揶揄とは裏腹にスワローの前が次第にもたげてくる、ピジョンを言葉で嬲る事で興奮してるのだ。どうしようもない変態だ。手だけなら我慢できる、自分だって経験ある。でも口は駄目だ、フェラチオは未体験だ。こんなモノを含むなんて絶対どうかしてる、考えられない、本当に一線を越えてしまうじゃないか!
「テメェにゃがっかりだ」
ベッドに上体起こしたスワローの軽蔑の眼差しが心を抉る。
「そのお粗末な手コキでイかせるつもり?ちゃんちゃらおかしい、こちとらくすぐってえだけだ、眠っちまうよ」
「ぅぐ……」
「口を使え。舌を回せ。徹底的に下の世話しろ。俺はケツが痛くて動けねーんだからよ、だれかさんがくるのが遅かったおかげでな」
最後に付け足された台詞が引き金となり、ピジョンは渋々奉仕を再開する。
股座にぶらさがる弟のペニスを両手で捧げ持ち、手のひらで同時に、または交互に、強弱付けてしごきたてる。また固くなる。根元から先端まで一気に擦り上げ、指の輪っかを亀頭にくぐらせ回し、はちきれそうに膨らんだ睾丸を手のひらで柔く包んで揉み転がす。母さんは確かこうしてたっけな……
行為を続けつつ上目遣いにスワローを窺う。頬が淡く上気して目が潤んできている。感じてる顔が可愛いと思ってしまう……どうかしてるんだきっと。だが射精にはほど遠い。頑張るから、手だけでイッてくれないかな……
口淫を渋り回りくどく時間を稼ぐピジョンの内心を見抜いたか、スワローが乱暴に兄の後ろ髪を掴んで引きずり倒す。
「!やめっ、スワロ、んぶっ!」
「トロいんだよ駄バト。口が使えねーなら顔でイかせてもらうぜ」
「んぅっ、やぐぅ、あぐ」
髪を掴んだまま、ピジョンの顔に股間をおしつける。半端に勃ち上がりかけたペニスを抗う兄の頬にこすりつけ、キツく噛み縛る唇に鈴口の雫をぬりこみ、瞼に先端を当て擦り、こめかみを叩く。ピジョンはシーツを掴んで荒れ狂う暴虐に耐える、唇をこじ開け侵入しようとする先端から背いて往生際悪く逃れようとする。鈴口に滲む雫の苦味は、到底飲み干したいものじゃない。それを丹念に上下の唇に塗りこまれる。
「ふぅぐ、ぐぅっ、ひぐ」
「どうした?気分出してきたじゃねェか、顔シコられて感じてんのか変態。汁塗れだ」
ひくつく先端でつつかれた瞼が鼓動して、髪を掴まれる激痛と相まって次第に朦朧としてくる。遂にプツリと糸が切れ、哀願に似て情けない声がほとばしる。
「……やめろ……いうこときく、から……」
しゃぶるくらいなんてことない。ピジョンは鈍重に口を開け、閉じ、また開け、閉じる。右に左に角度を調整し、近付いては遠のけてを繰り返す。スワローはにやにやしながら兄の葛藤を愉しんでいる。一瞬でもコイツを可愛いとか可哀想とか思ってしまった俺が馬鹿だった。自分のちょろさを後悔する。が、遅い。

もう戻れない。
後戻りはできない。
ここでやめたら、スワローは一生俺を軽蔑する。
もう二度と兄さんと認めてもらえなくなる。
俺は残り一生腰抜けって呼ばれるんだ。

「んっ………」
唇を小さく開き、閉じ、先端にキスをする。そうしてから両手で捧げ持ったペニスを銜える。
途端青臭い臭気と甘苦い味が広がって喉が痙攣、反射的に吐きだしたくなるのを辛うじて堪え、不器用に抜き差しする。母がフェラチオする情景は何度か見たことある。アレを真似るんだ。味とか匂いとか全部追い出せ、イカせることだけ考えろ。弟の股座に顔を突っ込んで尻を上げてべちゃべちゃしゃぶってる、今の自分がどんなに惨めかなんて考えるな忘れてしまえ。
「はぁっ……」
屈辱と嫌悪の涙が瞼を濡らす。口の中で一回り育った陰茎におずおずと舌を絡め、頬袋で温める。塩辛い。自分の涙の味なのかスワローの味なのかわからない。両方か?吸い上げ、なめまくり、ちろちろと舌先を遊ばせる。圧迫感が凄い、喉の奥までぱんぱんに膨れている、息が詰まって苦しい。俺の顔歪んでないか?すごいブサイクになってるんだろうな、きっと。
「兄貴の喉マンコすっげェいい……バキュームみてぇにずっぽり吸いついてくる。べちゃべちゃ下品に音たてて、大人しい顔涎でべとべとにして……俺の、そんなにうまい?」
「んんっ、んーっ」
「えっろいフェラ顔。だんだん余裕なくしてく感じがイイな」
スワローが優しく囁く。後ろ髪を掴む手から力が抜け、一房ずつ指を通して絡めていく。まるで弟に可愛がられてるようだ。ズボンの前がずくんと脈打ち、血が集まっていくのがわかる。
「ひょっとして今ので興奮した?」
「ん?んんぶっ!」
「言葉責めが好きなんだろマゾ兄貴。わかるよ、そんな切なそうに膝こすり合わせてたら」
「弟にフェラ強いられて興奮するなんて変態じゃないか、今のはそうじゃな……痛っぐぅ!?」
「誰がサボっていいって言った、終わってねーぞ」
「ちが……」
「はぁ?何が違うんだよ?もうパツンパツンじゃねーか、俺がイく前にテメェが出しそうじゃねえか」
「お前に……」
お前が優しかったから。可愛がってもらえたから。
頭をなでてもらえて、ついそんな風に錯覚してしまったから、不覚にも勃っちゃったんだ。
酷くされたり痛くされるのが好きなんじゃない、そんなの絶対ない。もう一分でも一秒でも早くイかせたいイってほしいこの苦痛から解放されたい、恥辱で悶え死にそうだ。
「んぐっ、ふぐ、んんっん」
口の中で育ちつつあるペニスに夢中で舌を巻きつける、口を窄め緩急と強弱つけ刺激する、涎とカウパーでべとつく顔が外気に冷えて気持ち悪い、弟に奉仕しつつ全身が悩ましく火照って追い上げられていく、シーツと肌が擦れ合う僅かな刺激すらひりつく性感に昇華され内腿がしきりともぞつく。
「……ッ、」
スワローはぞくりとする。さっきから快感が止まらない。幼稚な口淫が与える刺激以上に、見下ろすピジョンの痴態が快感を無限に加速させる。ピジョンのフェラチオはお粗末だ。技巧はてんでなっちゃない。これが初めてなら仕方ないだろう。スワローのペニスを不器用な手つきで抜き差し出し入れ、顔中涎まみれにして物欲しげにしゃぶりつく。弟に奉仕しつつ勃起しているのだろう証拠に、時折切なそうに膝を擦り合わせ、お願いだからどうにかしてほしいと潤んで媚びた目で哀願してくる。いつもお行儀よく大人しい兄が快楽に狂い自ら堕ちていく様子は被虐を誘う。
「見ろよ」
尊大に顎をしゃくり視線を誘導する。フェラチオを続けながら目だけ上げたピジョンが硬直する。
闇を切り取った窓ガラスが映し出すのは、他ならぬ自分の痴態。雌犬のように尻を突き上げ、内股で弟をしゃぶる姿。咄嗟に目を逸らす。スワローは許さない。兄の顔を掴み、無理矢理窓の方を向けさせる。
「目ぇかっぴろげてよく見ろよ、エロエロ汁まみれのフェラ顔」
「やだ……はなせ、スワロー……」
「口全体で俺のを搾り上げてる顔」
「おねが……やめて……」
語尾が萎んで消え入る弱弱しい訴え。窓に顔半分向けさせ、しかし口淫の中断は許さない。その間もずっとフェラチオを続けさせる。ピジョンは泣きながらぐずりながら、窓に顔半分だけ向けてスワローをねぶり続ける。忙しない瞬きで涙を追い出し、いやらしく舌を這わせて絡め、口の中で荒れ狂うそれに応える。技術の未熟さを熱心さで補うフェラチオ。なりふりかまわず死に物狂いで、弟を気持ちよくさせ射精に導くことだけに集中する。
「はぁっ……はぁ……」
スワローはその全てに猛烈な劣情を催す。自分がどんなにか男をそそる顔をしてるか気付いてないのかコイツは?切羽詰まったフェラチオにもう辛抱たまらず我慢も限界だ。まだ何もしてないのにピジョンが感じまくってるのがわかる。息継ぎの為時折手を休め口から抜いて、震える内腿を擦り合わせ射精の欲求をやりすごす。
「テメェのイキ顔ズリネタにしてんじゃねえか、もうパンツの中べとべとだろ。こんなドМド淫乱が実の兄貴だなんて恥ずかしい、俺の身になれ」
「う……」
「内腿がびくびく震えてるぜ。なに、痙攣してンの?おしゃぶりして感じてンの?敏感な喉マンコだな、体中内も外もどこもかしこも性感帯じゃねーか、シーツやズボンと擦れただけで節操なく勃たせやがって」
耳朶に火が付く。しゃぶりながらピジョンは泣く、自分が情けなくて啜り泣く。弟をしゃぶる自分が、しゃぶらされてる自分が、言葉で辱められる事実にさえ反応してしまう体が悔しくてしょっぱい涙がとまらない。俺をこんな体にしたのはコイツだ。コイツが責任をとるべきなんだ。
「っ……フェラしながらしゃくりあげると口ン中が締まってイイな」
「ひぐ、ん」
「もっと泣かせてェ」
窓から注ぐ月光がピジョンの首の後ろを照らし、うなじに這う鎖がきらめく。ドッグタグが虚空に落ち、涼やかな旋律を奏でる。
「んっ……ふぅ、ァうひ」
スワローは一際敏感な兄のうなじをなぞり、鎖の粒を転がして悪戯めかして囁く。
「愛してるぜ兄貴……ッ、でる」
「!んん―――—ッ!!」
咄嗟にとびのこうとするのを許さず、両手で顔を抱き寄せる。
兄の口の中で前ぶれなく射精、喉の奥をエグい苦味が叩いて滴り落ちる。無理だ、吐きだしたい。でもスワローが許してくれない、一滴残らず飲み干せと口を塞いで強制する。強く目を瞑り口腔の窪みに蟠る精液を全て嚥下する。ごくりと喉仏が動き、ドッグタグが胸元を滑る。
「はぁっ……はぁっ……」
「ちゃんと飲んだな。覚えとけよそれが俺の味だ、欲しけりゃくれてやるから他のヤツに色目使うな」
「まず……」
手の甲でくりかえし口を拭い、いがらっぽい喉仏をさする。汗みずくで濡れそぼったシャツが素肌に貼り付いて気持ち悪い。前は半勃ちのままほったらかされ、もうどんな刺激でも簡単に行ってしまいそうだ。
弟の顔をまともに見れない、まっすぐ目を見れない。恥ずかしくて死んでしまいそうだ。ピジョンは何もなかったようにそそくさと身嗜みを整える。シャツの皺を引っ張って伸ばし、床に片足をおろす。
「もういい?怪我に障るといけないから寝」
後ろに引っ張られ組み敷かれる。押し倒された背中でマットレスが弾む。
乱れ舞う前髪越しに仰ぎ見る視線の先、暗闇を背負ったスワローが、自分がぶらさげたドッグタグを咥えている。それをピジョンの顔の前で吐きだし、火照り高ぶった肌を密着させてくる。
「ヤらせろ」
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