ダイヤとお泊まり

まさみ

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ダイヤとお泊まり 前

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「楽しみだな、おうちデート」
「連休はどこも混んでるもんな~ガンガンエアコンかけた部屋で映画観賞がイマドキの若者の嗜みですぜ」
「リストアップしといた?」
「ばっちり」
「デキるね巧」
「お前のおすすめも入れといたぜ、サメが空から降ってくるヤツ」
「竜巻のシーンは圧巻」
「しーっネタバレ禁止」
口元に人さし指をたて注意すりゃ、「ごめん」と笑って詫びる。コイツとは十数年来の付き合いだが、謝罪に誠意が伴わなくても許されるあたりやっぱイケメンは得。ぶっちゃけ妬ましい。
ポテチを吟味する手は止めず、鼻歌口ずさむフジマをジト目で観察する。
俺の幼馴染はどの角度から見ても顔がいい。モデルにスカウトされたのは中学の頃。最近は芸能活動に力を入れており、メディアへの露出も増えてきた。
こないだ特集組まれた雑誌には、「人気急上昇中のクォーター男子に密着 ダイヤモンドの原石FUJIMAの素顔とは」と派手やかに銘打たれていた。
対する俺は……比べんのも哀しくなる平凡な大学生。落第しねえ程度に真面目に講義を受ける傍ら、ケーキ屋のバイトも頑張ってる。
そんな身分違いのダイヤと屑石が付き合ってるなんて、一体誰がご存知だろうか?
きっかけはサークル主催の飲み会の帰り、浴びるように酒を飲んで酔い潰れた俺をフジマが送ってくれた。俺は「ちくしょーお前ばっかりモテてずりぃ」とコイツに絡み、そこから思いがけない展開に転がったのである。
事後に聞けば幼稚園の頃からずっと片想いしていたらしい。全然気付かなかった。
カゴを提げ陳列棚を流し見る間、フジマは終始ご機嫌だった。もちろん俺も。
フジマがモデルの仕事に本腰入れ始めてから生活時間がすれ違い、俺は俺で提出期限の迫ったレポートに追いまくられ、最近は二人で過ごす時間がとれなかった。今日はその分取り返す。
「おじさんおばさんは明日帰ってくるんだっけ」
「イギリスからね」
「結婚記念日に夫婦水入らずで旅行なんてラブラブじゃん、うらやましい」
てことは、今晩はフジマとふたりっきり。いや、犬もいるけど。同じ事を考えてたのか、一口サイズのチョコの詰め合わせを持ち、フジマが苦笑する。
「ジョンの世話お願いねって頼まれた」
「散歩すませたし大丈夫だろ」
「うち泊まるの久しぶりだね。大抵は俺が寄るし」
「ガキの頃は頻繁に行き来してたけどなあ。徹夜で桃鉄やぷよぷよしたじゃん」
「パズルゲー弱いよね」
「うるせえ」
フジマは週末になるたびアパートにやってくる。んでもって一緒にレポートしたりだべったり、やることヤる。
ここん所お互い忙しくお預けだったが、会えない間もずっとコイツのこと考えてた。
……なんて、調子のらせんの癪だから本人にゃ内緒だけど。
客でごった返す通路にはチャラい音楽が流れ、黄色い法被を羽織った店員の呼び込みが響く。お菓子コーナーを物色し、商品を手に取って呪文を紡ぐ。
「カール・ポッキー・トッポ・プリッツ・キットカット・ランドグシャ・ホームパイ・カントリーマアム・きのこの山は外せねーな」
「そこはたけのこの里だろ」
「俺は熱狂的きのこ派なの。あっ、てめえ!」
ちょっとよそ見した隙にきのこの山とたけのこの里を放り込む。睨んだ横顔にはしてやったりと悪戯っぽい笑み。
「両方買えば問題ない」
「ブルジョワジーめ」
「ポテチはコンソメうすしおどっち?」
「うすしおが一番飽きこねえ」
「サワークリームも捨てがたい」
「知ってっか、竹内はポテチにマヨ付けて食うんだって」
「ふーん」
「マヨラーはなんでもマヨ付けて食うからすげーよな」
沢山あるとあれこれ目移りしちまうのが悪い癖。急に静かになったフジマを怪しんで向き直りゃ、真顔でポテチ袋を見下ろしてた。
「仲いいんだ?」
「フツーに友達だけど」
「ポテチの好みもばっちり把握してる友達か」
共通のダチの話題にやけにひっかかる物言いをする。面倒くせえヤツ。
「竹内はただの友達。ツマんねーやきもち焼くな」
「最近会えてなかったから」
「浮気なんかしねーよ」
疑われんのは心外。うすしお味のポテチをカゴに投げ込んで歩き出しゃ、反省したらしいフジマが小走りに追っかけてくる。
「許して巧、ハートのピノ出たらあげるから」
「推しの盲腸コアラがいい」
「コアラのマーチのレアキャラは都市伝説だぞ、全種同じ個数製造してるってロッテの人がインタビューで言ってた」
「マジ?」
右に左に回り込み、両手で拝んで謝り倒す。通りすがりの親子連れにくすくす笑われ赤面する。
「とっとと買い出し終えて帰んぞ、ジョンが留守番中ションベンしまくってるかも」
「そんなに行儀悪くないよ」
「小さい頃頃観葉植物の鉢植えやカーペットにしてたじゃん」
「巧だって俺の布団でおねしょしたろ」
「年中さんの頃の話持ち出すな、記憶力よすぎて怖えな!」
「巧の事ならなんでも覚えてるよ。なんでもね」
にっこり微笑む王子様。脅しを含んだ笑顔が薄ら寒ぃ。カゴの中身をかき回し、思い出に浸る眼差しで語り出す。
「五歳のとき、追いかけっこの最中に転んで抜けた乳歯くれたよね。今でも机の引き出しに」
「上の階でセール中だって、行ってみようぜ!」
これ以上聞いちゃまずい、きっと後悔する。わざとらしい棒読みで叫び、フジマを置いて走り出す。
三階は一階より人が少ねえ。が、カップルをやけに見かける。
「お菓子はねえのか」
「備蓄は十分だろ、帰ろうよ」
「ちょっと待って」
せっかく来たのに回れ右はもったいねえ。好奇心の赴くままフロアを見て回り、奥まった一角で立ち止まる。
「見ろフジマ、海外のグミあるぜ!カラフルで毒々しい~」
歓声を上げ指さす先には、英語で商品名がプリントされた袋。中にはピンクや青やオレンジなど、原色の球体が詰まっていた。
俄かにテンションが上がる。
「百味ビーンズみてえ。キャンディかな、買ってみよっか」
「え?」
背後に来たフジマがたじろぐ。
「……ホントに買うの、それ」
「何事も経験あるのみ。案外病み付きになるかも」
新発売のお菓子はとりあえず試してみるのが俺のポリシー、見た目ドギツいイロモノでも積極的にチャレンジする。
「袋のデザインはハリボのパクリっぽいし、まずけりゃ大学に持ってって配るよ」
行き交うお客が何故かじろじろ見てく。気にせずカゴに落とす。フジマは物言いたげにしてる。レジで会計をすます時、女の子の店員が俺たちを見比べていた。心なし顔が赤い。フジマに見とれてんのか?
「ありがとうございましたー、またお越しくださいー」
「ふー、買った買った」
袋を手分けして持ち、フジマんちに戻る。玄関を開けるなりジョンがしっぽを振って飛び込んできた。
「わんわん!」
「ちょっ、両手塞がってる時にべろべろはやめて!」
「巧に会えて嬉しいんだよ」
二階に上がる前に犬の餌を用意する。プラの平皿にドッグフードを入れ、水を入れ替える。
「うまいか、たくさん食えよ」
「わんっ!」
心ゆくまでジョンをもふったのち、フジマに続いて階段を上り、勝手知ったるダチの部屋に踏み込んだ。
「さてっと」
準備万端ポテチをパーティー開け、ベッドにのっけたラップトップパソコンをサブスクに繋ぐ。
予めお気に入りに登録しといたサムネをクリックすりゃ、配給元のオープニングが流れ出す。フジマが隣に寝転がり、二人で俯せ映画を視聴する。
「やべー、晴れのちサメじゃん」
「だから言ったろ」
「まだまだ降ってくんの?」
「ネタバレ禁止だろ」
「ケチ」
俺たちはジョンより行儀が悪い。でもまあ、あとで片付けりゃいっか。おじさんおばさんは明日の昼過ぎになんなきゃ帰ってこねえし、今晩はフジマとバカ騒ぎできる。
ポテチを摘まんで映画に見入る俺の横で、フジマは頬杖を付き、一口サイズのチョコのビニールを開く。
「!ッ、」
ぞくぞくっとした。フジマが爪先を器用に使い、俺の内腿をくすぐりやがったのだ。
「やめろよ、見てんだぞ」
「ごめん」
叱れば素直に謝るものの、その実全く反省してねえ証拠に、すぐまたちょっかいをかけてくる。
「甘いもの欲しくない?」
「欲しい」
「了解」
突然顔を掴まれたかと思いきや、口移しでチョコを食わされた。
「んん゛ッ、む」
フジマの口ん中で溶けたチョコは甘く、送り出す舌の動きがこそばゆい。
「ぷはっ!」
「うまい?」
「フツーに食わせろ」
「ツマんないだろ」
ベッドの上でじゃれあいながら視聴を継続する。間接キスとか今さら恥ずかしがるでもなし、コーラは回し飲みした。一本目が終了し、エンドロールが流れる。
「結構面白かったな。クソ映画だけど」
「バカ映画だけどクソ映画じゃない」
「サメ映画マニアとかウケる。ファンの子は知ってんの?」
「雑誌で公表済み」
「ギャップ萌え狙ってんの?」
これもいちゃいちゃに入るのか?二本目は俺の推し、マーベルの娯楽大作を選ぶ。内容には大いに満足したものの、尺が二時間以上あったんで肩こった。
「ぶっ続けで見ると疲れんな。休憩いれよっか」
「賛成。トイレ行ってくる」
「ごゆるりと」
退室するフジマを見送り、お菓子を継ぎ足そうとドンキの袋をあさる。例のグミを見付けた。半ばネタで買ったシロモノだが、どんな味かシンプルに興味が湧く。早速開封し中身を開け、目を疑った。
「は?」
グミじゃねえ。飴でもねえ。そもそも食い物じゃねえ。
「ローターじゃねえか!!」
ツッコミが炸裂する。
俺も健全な成人男子、その手の動画やネット広告で度々見かけたことはあるが実物のご尊顔を拝し奉るのは初めてだ。
思わずパッケージを二度見。
「ハリボのパチもんのような顔しやがって、アダルトグッズ紛れ込んでんのは罠だぜ。お子さまがレジに持ってったらどうすんだ」
おっかなびっくり突付き転がし、とりあえず乾電池をセットしてみる。スイッチオン。
「きゃっ!」
ブブブと震え始めた球に仰天、勢いよくとびのく。間違いねえローターだこれ。
「けしからんパッケージ詐欺め。てか俺たち夜のオカズ選んでるゲイカップルと間違われた?いやまあ後半は間違っちゃねえような……それでじろじろ見られたのかうわああああ!!」
返品?それも恥ずかしい。心臓の動悸がおさまるのを待ち、クッションを抱えてまじまじ観察してみる。うずらの卵サイズののっぺりした見た目がなんか不気味。
色はストロベリーソーダみてえな明るい赤で、本体からたれたコードはリモコンに繋がっていた。
「おお……」
スイッチをオンオフ切り替え面白がる。こんな風に動くんだ、知らなかった。下世話な好奇心が先立ち、指に摘まんで翳す。
一番弱く設定し、細かに震えるそれを当てる。
「!ふ、ンくっ」
指でされんのとまるでちげえ機械的な振動に芯が疼いて乳首がしこる。
「あっ、ンっ、すげっびりびりくるっ」
昔見たAV女優の痴態が脳裏を過ぎり、ズボンの股間が勃っていく。服越しでこれなら直にあてりゃもっとすげえんじゃねえか?
「ちょ、ちょっとだけ……」
強さは五段階に分かれていた。生唾飲んでシャツの内に突っ込み、リモコンの摘まみを二に切り替える。
「!ンんんっ、ぁっふぁ」
ローターが乳首を揺すり甘い痺れが広がっていく。やべえ、気持ちいい。
「何してんの」
ドアを開ける音に気付くのが遅れた。慌てて振り返りゃ、フジマが呆れ顔で立っていた。
「俺の部屋でオナニーか。変態だね」
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