少年プリズン

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三百四十三話

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 直が帰ってこない。
 『あの夜僕を抱かなかったことを後悔させてやるぞ、帯刀貢』
 図書室の鉄扉にしどけなく凭れかかり、上着をはだけた直の姿態が脳裏に浮かぶ。上着の中に手を探り入れて肩を抱き、生白い素肌を露出させた直の笑顔を何度となく反芻する。
 貪欲、狡猾、邪悪、その種類の笑顔。
 直らしくもない露悪的な笑顔。
 図書室で宣戦布告した直を彼は引き止めることができなかった、逃げるように背を向け走り出した直を追いかけることができなかった。
 何故なら隣に静流がいたから、隣で静流が見張っていたからだ。
 本当ならすぐさま直を追いかけたかった、みっともなく声を荒げて直を呼びたかった。
 否、何をおいてもそうすべきだったのだ。
 直にあんな自虐的な行動をとらせたのは自分だ、直を追い詰めて自暴自棄な振る舞いをさせたのは自分だ、すべて自分の無神経と鈍感が元凶だと重々承知している。
 静流の上着を掴み、裸に剥こうとした直に発作的に手を上げた件を回想する。
 あの時はああするより仕方なかった、興奮状態の直を静流から引き離すには暴力で威嚇するしかなかった。
 平常心を失った直は静流に対する憎悪に駆られて何をしでかすかわからない不穏当な状態だった、静流を傷付ける可能性すらあった。
 奇声を発して静流に掴みかかる直を正気に戻すには手を上げるしかなかった。
 本気で殴るつもりはなかった。
 しかしあの瞬間、聞き分けのない直に激昂して手を上げた事実は消せない。
 そして彼は決定的な間違いを犯してしまった。
 『僕を、殴るのか?』
 恐怖に強張った顔でこちらを仰ぐ直。書架に背中を凭せ掛けへたりこんだ直の目は裏切りに酷く傷ついていた。
 その目が訴えていた。
 サムライは売春班の客と同じだと、売春班の客の同類だと無言で責め立てていた。
 まずい、と思った。
 しかし後悔したときには遅く、直は一目散に走り出していた。静流と並ぶサムライなど見たくないと孤独な背中が語っていた。サムライは慌てて彼を追った。たとえ本気で殴るつもりはなくても手を上げたのは事実、「殴ろうとした」のは事実なのだと今頃噛み締めても遅い。手遅れだ。直のトラウマを無神経に抉ったおのれの愚かさを痛感しつつ後を追えば、謝罪を述べるより先に口汚く罵倒された。

 『僕と静流どちらが大事なんだ!?』

 悲痛な叫びが耳を貫く。
 直はそれでも期待していた、心のどこかで一縷の希望に縋っていた。サムライが身内の静流ではなく他人の自分を選ぶわずかな可能性に賭けていた。眼鏡越しの目は極端に思い詰めて一途にサムライを見上げていた。
 嘘でもいいから今この瞬間だけは自分を選んでくれと懇願する痛々しい眼差しだった。
 衆人環視の中プライドをかなぐり捨て、ただひとりの友人を繋ぎとめるために愚かな自分を曝け出すにはどれだけの勇気が要ったことだろう。いつも冷静沈着、辛辣な毒舌で他者を攻撃する直が周囲の目も気にせず絶叫したのだ。
 サムライは、咄嗟に本音を口にした。
 武士に二言はない。それ以前に直に嘘は付けない。
 嘘は卑劣な行いだと厳格な父に幼少期から叩き込まれてきた。ましてこれほど真剣な相手に偽りを語るのは不公平だ。自分が優柔不断で不実なことはわかっている、それ故直を苦しめている自覚もある。
 だがそれでも今目の前にいる男が友人のサムライか帯刀貢という名の他人か見極めようと真っ直ぐな視線を向けてくる直に対し、口あたりのいい嘘はつけなかった。
 嘘をついても、見抜かれてしまう。
 『お前も静流も大事だ!!』 
 嘘はつきたくなかった、つけなかった。
 何故ならそれは二重に直を裏切る行為だから。
 血を吐くように本音を叫んだ次の瞬間、頬に衝撃を感じた。直に頬を叩かれたのだ。怒りは湧かなかった。
 ただ、驚いた。
 腫れた頬を庇いもせず呆然と立ち尽くすサムライの正面、両手を脇に垂らして首を項垂れた直が、ぞっとするほど暗い声をだす。
 『…………汚い手でさわるな。不潔だ』 
 緩慢な動作で顔を上げた直を正視し、言葉を失った。
 酷い、顔だった。眼鏡の奥の目は乾いていた。完璧な無表情。
 怒ったり泣いたりごくまれに笑ったり、サムライの隣で表情豊かに過ごしていた直とは別人としか思えない変貌ぶり。
 殴られた頬より、自責の念が刺し貫く胸の痛みのほうがずっとこたえた。
 直は図書室をとびだした。サムライは咄嗟に直を追いかけようとした。野次馬の人ごみを掻き分け喧騒を抜け直に追いつこうとした。待て、行くな、直!情緒不安定な直を独りにするのは不安だった、図書室で挑発的な言動をとった直が他の囚人に襲われないか気がかりだった。 直についててやらねばと駆け出しかけたサムライを制したのは、いとこの声だった。
 『大丈夫?貢くん』
 心配げな表情で覗き込んでくる静流と廊下を遠ざかる背中を見比べ、束の間逡巡する。直を独りにするのも不安だが、静流を独りにするのもまた不安だった。図書室には数人看守がいる。
 先刻静流を犯そうとした看守も混ざっているかもしれない。自分がいなくなれば静流の体を狙う看守がまた手を出してこないとも限らない。
 だが。
 サムライの視線の先、直が急速に遠ざかる。
 全速力で廊下を走り去る直の背中を凝視、心を決める。
 『……悪いが静流、俺は直を追う。今のあいつを独りにするのは不安だ。お前とはここで別れる。俺と別れたあとは寄り道せず房に戻りきちんと施錠しろ。看守が訪ねてきても絶対開けるんじゃないぞ。良いな』
 固い声音で言い聞かせ、肩の手をどける。
 『貢くん、さっき食堂で言ったじゃないか。来たばかりで道がよくわからない僕の為に東京プリズン案内してくれるって。約束破るの?図書室に来てすぐはぐれちゃったから二人一緒にいた時間なんて少ししかないのに』
 静流が少し恨めしげな目つきで不満を訴える。そうだ。図書室に到着後すぐ静流とはぐれた。「はやく東京プリズンに馴染みたいから案内してよ」と食堂で話しかけてきたのは静流はしかし、図書室に来た直後に人ごみに紛れ込み書架の間に……
 『………』
 何かがひっかかる。何故静流は図書室ではぐれた?あれだけ口うるさく「そばを離れるな」と言い聞かせたにも関わらず……
 まるで、自分から危険に飛び込んでいったみたいに。得体の知れないものに呼び寄せらるように。
 『どうしたの?』
 『―とにかく俺は直を追う、あいつが心配だ』
 無垢に問いかける静流からよそよそしく目を逸らし、断固言い放つ。直の背中はすでに見えなくなっている。ひとりでどこへ行くつもりだ?まっすぐ房に帰ってればいいが……躊躇いをかなぐり捨て、一歩踏み出しかけた背中に人肌のぬくもりが覆いかぶさる。
 『行かないで』
 背後から静流が抱きついてきた。サムライの腹部に腕を回して五指を組み、肩甲骨の間に顔を埋め、気弱に呟く。
 『図書室にはまだ僕を犯そうとした看守がいる。ひとりきりになるのが怖いんだ。貢くん、一緒にいて』
 切実な懇願。後ろから抱きすくめられたサムライは、訥々と思いの丈を吐き出す。
 『……俺は直を傷付けた、直を裏切った。あいつに謝らねば。かつて守ると誓ったくせに武士の役目を果たせず信念に唾を吐き、今の俺は最低の……』
 『最低なんかじゃない。貢くんはいつだって僕の憧れ、帯刀家最強の剣の使い手だったじゃないか。君が気に病むことなんて何もない。直くんは今ちょっと拗ねてるだけ、僕たちの関係に嫉妬してるのさ。でもそのうちきっとわかってくれる、僕と直くんは仲良くなれる』
 静流が優しく囁く。直の背中はすでに見えない、サムライの手の届かぬ場所に行ってしまった。
 図書室の喧騒の中、愕然と立ち竦むサムライの背中に身を摺り寄せ、獲物を絡めとる蜘蛛のごとく疑心暗鬼の巣を張り、囁く。
 『行かないで、貢くん。僕を捨てたら苗さんの二の舞だよ』
 苗。
 サムライが、否、在りし日の帯刀貢が守りたくて守りきれなかった女。
 苗の名を出された途端に心の奥に封じた記憶が次々と蘇り、直を追いかけようという気持ちが霧散する。静流を苗の二の舞にさせてなるものか、絶対に。もう二度とあんな形で大事な人間を失うは耐えられない、身内を失うのは耐えられない。
 『―っ!』
 直への未練を捨て去りがたく、きつく目を閉じたサムライの体に細腕が巻き付く。強く、強く、徐徐に強く。
 サムライを抱擁しながら静流は邪悪に笑っていた。

 それから数時間が経過、就寝時刻は過ぎたが直はまだ帰ってこない。
 明日も強制労働が控えているのにどこをうろついているのだと心配が募る。強制労働を控えた身であるのはサムライも同じ、そろそろ床に就かねば寝不足になってしまう。
 しかし、直を残して寝るわけにもいかない。般若心境で気を紛らわせようとしたが、百回くりかえし唱えても鉄扉が開く気配はない。
 「……門限を破るとはけしからん。どこに居るんだ、直は」
 静寂に耐えかね、愚痴を零す。睡魔は一向に訪れない。直の身を案じる心労が嵩み眠りを遠ざけているのだ。
 ベッドに腰掛けたサムライの視線の先には枕が正しく配置されたからっぽのベッドがある。普段直が使っている粗末なパイプベッドだが、今宵は毛布が捲れた形跡も見当たらない。
 直不在の房はいつもより広々と殺風景に感じられる。すでに日課の写経と読経を済ませ、筆と硯を片付け終えて手持ち無沙汰になったサムライはこうして飽きもせずからっぽのベッドを眺め続けている。
 「……遅い」
 遅い、遅すぎる。いくらなんでも遅すぎる。
 夜分遅くまで帰ってこない直の身を案じるあまり不吉な想像が過ぎる。ひょっとして直の身に何かよからぬことが起きたのではないか、帰りたくても帰ってこれないのではないかと危惧を抱き、居ても立ってもいられず房の中を何往復も徘徊する。
 じきに帰ってくるだろうと寝ずに待っていたが、就寝時刻を大幅に過ぎても帰ってこないのはさすがにおかしい。
 房の中を忙しなく歩き回りながら、図書室の出来事を回想する。
 『僕を抱かなかったことを後悔させてやる、帯刀貢』
 そう言って自ら上着をはだけ、男を誘惑する直。
 下腹部を露出した直を囲み、熱狂した囚人が生唾を呑む。
 直後に直を見失ったが、もしや今頃、図書室の出来事を真に受けた囚人たちが直に乱暴を働いているのではと胸に疑念が芽生える。
 やはり後を追うべきだった。後から悔やんでも遅いとわかっているが、静流に抱きすくめられて硬直したおのれを不甲斐なく思う。
 あの時すぐに追っていれば見失うこともなかった、言葉を尽くして説明すれば誤解も解けた。
 「つくづく不器用だな、俺は」
 房の真ん中で立ち止まり、失笑する。だが笑い慣れてない顔の筋肉はすぐに萎縮し、仏頂面で鉄扉をかえりみる。
 捜しに行くか。
 先刻から何度もその選択肢を考えた。はたして直が自分が迎えに行って喜ぶだろうかという疑問はあるが、そろそろ直の不在に耐え難い苦痛を感じはじめていもいた。
 直が心配だ。
 もし他の囚人に酷い目に遭わされていたらと考えると気が狂いそうになる。すぐさま捜しにいかなかったのは拒絶されるのが怖かったからだ。図書室で最悪の別れ方をしてのち直と自分の心は完全にすれ違ってしまった。少なくとも直はそう思っている、思い込んでいる。
 はたして自分が捜しに行ったところで直が喜ぶかどうか、またもむきになり逃げ出してしまうのではと疑惑が疑惑が呼び行こうか行くまいか苦悩が深まる。

 どうすれば直を傷付けずにすむかわからない。
 直を傷付けるのが、怖い。

 「………やむをえん」
 ついに決心、大股に鉄扉に歩み寄る。
 直を傷付けるのが怖いだと?馬鹿を言え。自分がぐずぐずしてる間に直に危害が及ぶ、そちらのほうが余程恐ろしい。直がどこにいるかはわからないが、たとえ本人が嫌がっても力づくで連れ戻す。売春班に迎えにいった夜、この腕に直を抱いて必ず守ると誓った言葉は嘘ではない。
 静流も直もどちらも大事だ。
 だが。
 「………『守ってやりたい』と『守りたい』は違うんだ」  
 ひんやりしたノブを握り、暗い目で独りごちる。
 静流のことは守ってやりたいと思う。幼い頃から心優しい泣き虫だった静流、姉に虐められては自分に助けを求めた静流には庇護欲を感じている。守ってやらなければ、と思う。守ってやるのが義務だと思う。しかし直のことは積極的に守りたいと思う。他の人間には任せておけない、自分自身が守りたいと強く思う。
 口下手な自分はその違いをうまく説明できず、結果直を怒らせてしまったが……
 その時だ。
 「!」
 軽く鉄扉が鳴る。だれかが鉄扉をノックしている。
 こんな時間にだれだと疑問を挟むより先に直が帰ってきたと早とちりし、安堵に表情を緩めて扉を開け放つ。
 「直、どこへ行ってたんだ!?門限は守れと」
 「今晩は」
 ノブを握ったまま絶句する。
 内心直が帰ってきたと喜んで扉を開けたのに、眼前にいるのは心細げな笑みをちらつかせる静流だった。
 「夜遅くに何用だ。就寝時刻を過ぎて出歩いてるのを看守に見つかればまずいことになる」
 「どうしても貢くんに会いたくて」
 静流が人懐こく微笑む。相対した人間の警戒心を霧散させる笑顔。
 夜更けにサムライの房を訪ねた静流は、サムライを押しのけるように房の中を覗き込み、「へえ、僕の房と殆どおんなじだ」と無邪気な感想を述べる。
 サムライは困惑していた。静流は数日前看守に襲われたと言っていた。数日前看守に襲われたばかりの人間がこんなにも無防備に外を出歩けるものだろうか?
 恐怖心が麻痺しているとしか思えない。
 「わざわざ俺に会うために房を訪ねてきたのか。静流、お前には警戒心が足りん。数日前、いや、ほんの数時間前にあんなことがあったばかりだというのに単身房を抜け出して、万一のことがあったらどうする気だ?」
 「房にひとりでいるほうが怖い」
 不意に口調を改め、真剣な顔で言う。
 「房にひとりでいるといつまた看守が訪ねてくるか不安で不安でしょうがなくて眠れない」
 「きちんと施錠すれば大丈夫だ」
 「看守は合鍵を持ってる。その気になればいつでも僕の房に入ってこれる。ぐっすり寝入ったところを襲うことだって」
 「考えすぎだ」
 「貢くんは強いから僕の気持ちなんてわからないだろうけど」
 静流が卑屈に笑い、潤んだ目でこちらを見上げる。
 「お願い、貢くん。今日一晩でいいから泊めてくれないかな。あんなことがあったばかりで怖くて怖くてしかたないんだ。いつまた扉が勝手に開けられて看守が乗り込んでくるか不安で一睡もできない。貢くんと一緒なら不安な夜にも耐えられる、僕の身に起きた忌まわしい出来事を忘れられる」
 「静流、俺はこれから直を捜しにいく。図書室で喧嘩別れして以来直は戻ってこない、また厄介事に巻き込まれたのではないかと案じているのだ。俺が帰るまで房は勝手に使って構わない、寝床は自由に使ってくれ。くれぐれも施錠は忘れるな。俺はこれから直を連れ戻しに……」
 「直くんならついさっき見かけたよ」
 蛍光灯の光に青白く照らされた廊下に佇み、能面めいて不気味な笑顔で静流が続ける。
 「ほら、僕がここに来た初日に食堂で喋ってた男の子がいたでしょう。目つきが悪い」
 「……ロンか?」
 「そう、彼の房にいたよ。僕の房からここに来る途中に偶然見かけたんだ、友達の房に吸い込まれるところを。あの様子から察するに今夜は帰るつもりないんじゃないかな?貢くんと言い争ってだいぶ腹を立ててたみたいだから」
 ロンの房にいる?本当か?
 プライドの高い直がロンを頼るとは考えにくいが、自分と喧嘩したあとまっすぐ房に帰るのも屈辱的だろう。
 どちらがよりあり得ぬ事か判断つかずに黙り込んだサムライと対峙、静流が口の端を歪める。
 「僕の言葉を疑うの?」
 「そうではない。ただ、直らしくないなと思っただけだ」
 静流の哀しげな顔に気付き、失言を悔やむ。思い返せば静流が嘘をつくはずがない、嘘をつく理由がない。直がロンの房にいると嘘をついたところで静流には何の利益もないのだと考え直し、決然と顔を上げる。
 「やはり直を迎えに行く。ロンの房を訪ねて直を呼び出す。今日の一件は俺に落ち度があった、俺の失言が直を追い詰めたのだ」
 「今から?就寝時刻を過ぎて出歩いてるところを見つかれば看守にこっぴどく叱られるってさっき貢くんが言ったばかりじゃないか。それに直くんだってもう寝てるよ。ただでさえ慢性的睡眠不足で目の下に隈作ってるのに夜分遅くに叩き起こしちゃ可哀想。友達のロンくんだって迷惑する」
 静流が非難がましく正論をぶつけ、サムライはしぶしぶ引き下がる。
 ロンの房にいるなら心配することもないだろうと無理矢理納得したサムライに二の腕を擦りながら畳み掛ける静流。
 「寒い。このまま廊下にいたら風邪ひきそうだ。中に入れてくれないかな」
 「………」
 今すぐ直を連れ戻したい衝動を抑圧し、鉄扉を大きく開いて静流を迎え入れる。静流の言い分が正論だと頭ではわかっていたが心が応じない。
 直がロンの房にいると聞いても完全には不安を打ち消せず、釈然としない面持ちで鉄扉を閉じたサムライをよそに、静流はからっぽのベッドに歩み寄る。
 「待て!」
 振り向き、おもわず声をかける。
 靴を脱いでベッドに膝をかけた静流が物問いたげにこちらを見る。
 「……それは、直の寝床だ」
 「だから?」
 おのれの口をついて出た言葉に狼狽するサムライを悪戯っぽく見返し、静流は毛布にもぐりこむ。
 「今夜はいないんだからいいじゃないか。それとも貢くん、僕に床で寝ろっていうの?小さい頃みたいに同じ布団で寝てくれるんなら嬉しいけど」
 「馬鹿を言え、何年前の話をしている」
 憤然と踵を返し自分のベッドに戻るサムライを、静流は笑顔で見送る。戻りがてら頭上に手を伸ばし裸電球を消し、ベッドに潜り込む。暗闇に衣擦れの音が響く。静流が毛布の中で動いてるらしい。
 「懐かしいね。こうして二人きりでいると昔を思い出す。母さんと伯父さんが疎遠になる前、分家と本家の行き来があった頃を」
 壁を隔てて聞こえてくる規則正しい寝息、衣擦れの音。
 静寂に支配された闇の中、わずかな距離を隔てたベッドから静流が声をかけてくる。
 「覚えてる、貢くん?僕たちがまだ小さかった頃、裏庭の桜の木に登って遊んだことがあったでしょう」
 「……ああ」
 「姉さんはお転婆だから着物の袖をからげて、上までひょいひょいと登っていった。けど僕は臆病だから下で見てるだけ。姉さんにはさんざん馬鹿にされたっけ、分家の跡取りのくせに情けない、本当に男の子なの、ちょっとは貢くんを見習えって……」
 静流の昔語りが呼び水となり子供の頃の記憶が蘇る。 
 赤や紫の華やかな着物を身に纏い蝶のように気まぐれに弟を翻弄する薫流、いつも穏やかに微笑んでいた苗。意地悪な姉のあとを一生懸命追いかけ回す小さい静流を思い出し、自然と口元がほころぶ。
 「薫流は昔から口達者だった。口喧嘩では負け知らずで俺も随分とやり込められた」
 「薫流姉さんと貢くんと喧嘩になると決まって苗さんが仲裁に入った。僕は二人のまわりでおろおろしてるだけ」
 「苗は昔から気配り上手だった」
 苗の名を口にした途端、哀惜に胸が痛む。男勝りな薫流は気に入らないことがあるとすぐまわりを攻撃した。
 木登りの際枝にひっかけて袖を破ったことに怒り、「なんですぐ教えてくれなかったの、気が利かないひとね。あなたと所帯をもつひとは絶対苦労するわね」と怒鳴られた時はさすがに腹を立て、あわや掴み合いの喧嘩になりかけた。苗が居てくれなければどうなってことかと当時を思い出すたび苦笑が零れる。
 「俺と所帯をもつ女は苦労すると薫流に言われたことがある」
 「へえ、いつ?」
 静流が興味深げに聞き返す。
 「七歳の時だ」
 「………恐ろしい姉さん」
 「使用人の話を盗み聞きして難しい言い回しを覚えたのだろう。薫流はませていたから」
 「楽しかったね」
 「ああ」
 「本家の庭は広くて遊び場には事欠かなかった。鯉に餌をやったり木登りしたり、かくれんぼは石灯籠の陰がお気に入りの場所だった。僕の遊び相手といえば物心ついた時から姉さんだけだったから、苗さんや貢くんが遊び仲間に加わってすごく楽しかった。母さんは厳格な人で近所の子供たちと交わるのにいい顔しなかったから、同年代の男の子の友達は貢くんひとりだけだった」
 静流もまた帯刀分家の跡取りとして世俗と隔離され育てられた少年だった。
 時代錯誤な秘密主義が帯刀家の特徴。
 高い塀の内側では何百年も変わらぬ生活が営まれている。
 サムライもまた幼い頃より父の厳格な指導のもと剣一筋に生きてきた。
 幼い頃より剣の才能を発揮し、末は人間国宝の祖父をも凌ぐ剣の使い手と期待され、帯刀家の跡取りとなるべく育てられたのだ。
 「昔に戻りたい」
 静流がぽつりと呟く。
 「姉さんと苗さんと貢くん、皆で一緒に遊んだ頃に戻りたい。おもえばあの頃がいちばん無邪気で幸せだった。毎日姉さんにいじめられてたけど、苗さんと貢くんが庇ってくれた。姉さんもたまに優しくしてくれた。母さんも健康で美しかった。貢くんは晩年の母さんを知らないだろうけど、そりゃあ酷いものだったよ。自力で床から起き上がることもできないくらい病み衰えて、姉さんそっくりの美しい顔がげっそりやつれて、とても直視できなかった」
 「……叔母上を見舞えなくてすまん」
 「いいさ、どうせ莞爾さんに禁止されてたんでしょう。あの人のやりそうなことだ」
 くっくっくっとさもおかしげに喉を鳴らす静流の様子を訝しんだサムライへと、軽い声が投げかけられる。
 「貢くん、知ってた?姉さんは貢くんのことが好きだったんだ。ずっと昔から」
 「…………は?」
 鈍い反応が笑い上戸に拍車をかけたのか、甲高い哄笑があがる。
 「片思いしてたんだよ、ずっと。そのぶんじゃ全然気付かなかったみたいだね。姉さん意地っ張りだったから自分から告白するなんて柄じゃないし貢くんの前じゃつんけんした態度とり続けてたし、気付かなくても無理はないけどさ」

 不意に笑い声が途絶え、水面のような静寂が立ち込める。

 「『玉の緒よ 絶えねば絶えねながらえば 忍ぶることのよわりもぞする』」
 衣擦れの音にかき消えそうにかすかな囁きが耳朶をくすぐる。
 「どのみち叶わぬ恋、報われぬ想いだった。貢くんのそばにはいつも苗さんがいた。姉さんが入りこむ隙なんて最初からなかったんだ」
 背後で衣擦れの音がする。静流が寝返りを打ったらしい。 
 薫流が自分に恋慕していたと知り動揺を隠しきれず、サムライは毛布をたくしあげる。閉じた瞼の裏側に薫流の面影を呼び起こそうと試してみるも、サムライが覚えているのは幼い頃の薫流のみ。当時から目鼻立ちの整った華やかな顔だちをしていたが、おっとりした苗とは対照的な性格の薫流をサムライは……否、貢はひそかに苦手に思っていた。
 成長してからは数回しか会った記憶がなく、じっくり話し合った機会は皆無。薫流がこんなつまらない男のどこに惚れたのか皆目見当がつかず押し黙ったサムライを現実に戻したのは淡々とした問いかけ。
 「今でも苗さんのことが好きなの。ひとりの男として苗さんを愛しているの」
 「…………」
 サムライは答えない。なんて答えたらいいかわからない。
 苗を忘れたといえば嘘になる。かつて愛した女のことは一生かかっても忘れられないだろうと思う。薫流の面影を想起するのはむずかしくても苗の面影ならたちどころに蘇らせることができる。
 苗の面影は数年の歳月を経た今も胸に巣食い、力及ばず愛した女を守り抜けなかった帯刀貢を責め続ける。
 静流が質問を変える。
 「貢くんも昔に戻りたい?苗さんが生きていた頃に戻りたいかい?」
 戻りたい、と答えかけて口を噤んだのは、苗の面影に取って代わり瞼の裏に去来した顔のせい。
 暗闇の底から浮かび上がってきたのは見慣れた顔。銀縁眼鏡をかけた無表情な少年が悲哀を宿した目でこちらを見つめている。  
 責めるでも詰るでもなく、ただ哀しげに。
 「否」
 自分でも驚くほどしっかりした声音でサムライは否定した。
 きっぱりした返答に予想を裏切られたらしく、静流が眉をひそめる気配がする。
 「過去に戻りたいとは思わん」
 「どうして」
 本当に不思議がっているかのように問いを重ねる静流に背を向けたまま、胸裏をさらい答えをさがす。脳裏に浮かぶ直の顔。今いちばん守りたい人間の顔。売春班に迎えに行った夜、この腕に直を抱いて必ず守ると誓った。腕に縋り付く直を愛しいと思った。
 直の為ならいくら自分が傷ついても惜しくはなかった、誰より何より直を守りたいとただそれだけを思い十ヶ月を生きてきた。

 直と共にいた十ヶ月を、嘘にしたくない。
 直と生き抜いた十ヶ月を否定したくない。

 今を否定して過去を選べばすなわち直を裏切ることになる、直と出会ってからの十ヶ月を否定することになる。それだけはできない、絶対に。過去に戻りたいとは思わない。何故なら、過去に戻ることは現実に不可能だから。苗はもう戻らない、苗を助けられなかった事実は変えられない。

 だが。
 直は今を生きている。
 俺の手の届くところで生きている。
 生きててくれる。

 「俺は苗を守りたかった。しかし今は、直を守りたいと思う」
 過去形で語るしかないかつて愛した女性と、現在形で語れる愛しい友人。かつて守りたかった女性がすでにいない事実を割り切れるようになったのは、今、守りたい人間がいるからだ。
 直がいてくれるからだ。
 「俺は直を愛しく思う」
 口が勝手に動く。静流が寝ているのか起きているのかもわからぬまま名伏しがたい衝動に突き動かされ、切迫した独白を続ける。
 「あいつを守りたいと強く思う。あいつのそばにいてやりたいと思う。いや、違う、いさせてほしいと願っている。俺が直を支えているんじゃない、俺が直に支えられているのだ!もしあいつと出会えなければ俺はいまだ過去の呪縛に囚われたまま、苗を守りきれなかった後悔と無念でやがて狂い死にしてたもしれん。武士の信念と矜持を捨て去り獄中で死に果てていたかもしれん。直は俺にとってかけがえのない大事な人間、生ける屍だった俺に再び剣を取る気力を与えてくれた恩人なのだ!!」

 直に会いたい。
 今すぐこの腕に抱きたい。

 毛布をどけて跳ね起きたサムライは、自分に覆いかぶさる影にぎょっとする。弾かれたように対岸のベッドを見ればもぬけのからだった。
 いつのまに忍び寄ってたのか全然わからなかった。
 暗闇に溶け込み立ち尽くし、静流が嫣然と微笑む。
 「行かせない」
 サムライの行動を見通したように宣告、突如静流が襲いかかってくる。何が起きたかわからず混乱する。突然、柔らかい布で口を塞がれる。尻ポケットから出した布きれでサムライの口を覆った静流が微笑、靴を脱いで腰に跨る。
 「ぐっ………!?」
 くらりと眩暈に襲われる。鼻と口を塞がれたせいで息ができない。鼻腔の奥を突くこの匂いは……
 「クロロフォルムさ。少量だから体に害はない。意識がぼんやり覚醒したまま金縛りにあったような状態が続くだけ」
 静流が耳朶で囁き、布きれをポケットにおさめる。
 静流を押しのけようと突っ張った腕からたちどころに力が抜ける。油断、していた。静流がまさかこんな暴挙にでるとは夢にも思わなかった。
 「何故、こんな……」
 舌が痺れて言葉が続かない。呂律怪しく問いかけるサムライを無視、手際よく上着をはだけていく。
 赤裸な衣擦れの音が耳朶にふれる。
 何が何だかわからない。自分の身の上に起きてることがわからない。一体全体何故静流が上着をはだけている?クロロフォルムを染み込ませた布で顔面を覆って自由を奪った?
 クロロフォルムを嗅がされたせいで指一本自分の意志では動かせないサムライの脳裏に、直の顔が過ぎる。

 『僕より静流を選ぶのか、サムライ!』
 『僕が嘘をついているというのか!』

 静流が自分から看守を誘ったなどにわかに信じられなかった。
 静流を背に庇うサムライと対峙、直は酷く傷ついた顔をした。 
 はたして直の言い分が真実だったのか?
 直の言う通り、静流が手のつけられない淫乱だとしたら?
 「な、お………」
 すまない。信じてやれなくてすまない。
 掠れた声で直を呼ぶサムライの上着を大胆にはだけた静流はしばしその引き締まった体に見惚れる。幼少期から過酷な修行に耐え抜いた上半身の至る所に無残な古傷が穿たれて、帯刀貢の上に流れた凄惨な年月を物語っていた。
 「……可哀想に、傷だらけだ」
 裸に剥いたサムライの上半身を舐めるように見て、恍惚と呟く。
 逞しい胸板、筋金の筋肉が付いた腹筋、男性的な肉体……
 それらをたっぷり眺めてから胸板に顔を埋め、乳首を口に含む。
 「!っ、く………」 
 熱い舌で乳首を転がされる。唾液を捏ねる音が淫猥に響く。薬の効用で四肢に力が入らないサムライは静流にされるがまま、自分の身に起きることを黙って見ているしかない。静流の舌使いはおそろしく巧みだった。
 乳首にたっぷりと唾液を塗りつけ、軽く前歯を立て、指先でいじくる。
 「気持ちいいでしょう。苗さんはこんなことしてくれなかったでしょう」
 静流が意地悪く微笑む。白い歯が闇に浮かぶ。ベッドに仰臥したサムライは執拗に乳首をなぶられる屈辱に耐えていた。
 「しず、るっ……正気にもど、れ……くっ、あ」
 鋭い痛みが走る。静流が乳首を噛んだのだ。乳首に薄っすら血を滲ませたサムライを見下ろし、静流が口を開く。
 「貢くん、病気にかかったことないから薬が効きやすいんだ。風邪ひいたら気合で治してたクチでしょう」
 暗闇に沈んだ天井を背に、静流がゆっくりと腰をずらしていく。
 腰を浮かして移動しながらズボンに手をかけ、下着と一緒に足首まで下げる。自分がズボンを脱いだ後はサムライのズボンに手をかけ、これもまた下着と一緒に下げおろす。
 「あた、りまえだ。薬に頼るなど武士にあるまじき惰弱な行い、日頃から心身を鍛えていれば病になどかかるはずもない……!」
 「莞爾さんの受け売り?」
 目に軽蔑を覗かせて失笑、サムライのズボンを下着ごと下ろして下半身を裸にする。何をする気だ?ぼんやり霞む意識の彼方、サムライの股間に何ら抵抗なく顔を埋めた静流が萎えた男根をまさぐり、舌をつける。
 「!!ふっ…………、」
 声が、でそうになった。ぴちゃぴちゃと汁を啜る音がする。違う、これは……唾液を捏ねる音。ベッドに寝たサムライの位置からでは静流が何をしてるかまでは見えないが、見えなともわかる。わかってしまう。やめろと絶叫したかった。体が言うことを聞くなら即座に突き飛ばしたかった。だが、できない。薬に免疫のないサムライはベッドに寝転がったまま、一方的な奉仕が終わるまで快感に耐えるしかない。
 「僕が東京プリズンに来るまでどうしてたの?ひとりでやってたの?禁欲は体に悪いよ。ほら、こんなに敏感になって……」
 「やめ、ろ」
 霞んだ目に映る光景に吐き気を催す。静流が、あの心優しく大人しい静流が、幼い頃からいつも姉に泣かされ自分のあとを付いて回っていたいとこが……こんな、おぞましい行為を?何故だ?何故なんだ静流。静流の真意を問い詰めたい衝動が膨れ上がるが、薬が体に回るにしたがい口を利くのすら困難になり、一方的に注ぎ込まれる快感にただひたすら耐えるしかない苦痛な時間が続く。
 「俺たちは、いとこ、だ。いとこ同士で、こんな……汚らわ、しい……」 
 ぴちゃぴちゃと音が響く。わざと下品な音をたて男根をしゃぶりながら、こもった声で静流が言う。
 「僕が東京プリズンに来た目的教えてあげようか」
 ひどく落ち着いた声だった。
 次第に下半身に熱が集まり、男根が勃ち上がったのを意識して羞恥に苛まれるサムライを見下ろし、静流は言う。

 「今は亡き姉さんの想いを遂げに来たのさ」

 どういうことだ、と叫ぼうとした。
 しかし声は出なかった。舌は完全に痺れて用を足さなかった。
 男根を勃起させた静流が誘うように腰を上擦らせ、背後に手を持っていく。唾で湿した指を肛門に潜らせ、くちゅくちゅと濡れた音をたて馴らしていく。ただそれだけで感じているのか、「あっ、あっ」といやらしい声が漏れる。
 おぞましい悪夢。
 「帯刀貢は僕の物だ」
 肛門に指を探り入れてサムライを迎え入れる準備を整えながら、恍惚と呟く。
 静流の目はこの世を見ておらず、姉が彼岸で手招きするあの世を幻視していた。 
 朦朧と濁った目を虚空に馳せた静流が、焦らすように緩慢な動作でサムライの股間に腰を埋めていく。
 「よ、せ」
 荒い息遣い、衣擦れの音。
 肛門から指を引き抜き、サムライの男根に手をあてがい自らの内側へと導き、静流は狂喜する。 
 「帯刀貢は僕たちの物だよ、姉さん」
 
 そして、その夜。
 帯刀貢は犯された。
[newpage]
 どこをどう歩いたか覚えてない。
 蛍光灯に照らされた廊下をただひたすら歩く。一歩一歩足をひきずるように、肩で壁を擦りながら歩く。頭はまだ混乱してる。今さっき見た光景が信じられず心は衝撃に麻痺してる。
 今さっき通りかかったサムライの房の前、廊下に佇む静流。
 俺には聞こえない距離で会話する二人。
 そしてサムライは静流を迎え入れた。
 どういう、ことだ?
 こんな夜遅くに、鍵屋崎もいる房に静流を迎え入れるなんて非常識な振る舞いサムライらしくもない。遠目に察するに静流に押し切られる形で招き入れたようにも見えたがそもそも合意が成立してなきゃ鉄扉を開け放ったりしないはず。
 就寝時刻をとっくに過ぎて大半の囚人が寝静まった時間帯、静流が単身サムライの房を訪ねた動機はなんだ?内緒の話でもあるのか?
 数年ぶりに再会したいとこ同士積もる話があるのもわかるが何もこんな時間帯に房を訪ねなくてもいいだろうと真っ当な疑問が浮かぶ。
 第一看守に見咎められたらどうする?夜間の無断外出は規則違反、看守にバレたら洒落にならない。
 叱責だけで済めばいいが最悪独居房送りの可能性もある。
 わざわざそんな危険を犯してまで夜更けにサムライを訪ねたのには相応のワケがあるはず。
 親しげに語り合う様子を思い出し、胸がざわめく。
 サムライと鍵屋崎の間に何が起きてる?二人が喧嘩中なのは知ってる、図書室で騒ぎを起こしたことだって……
 図書室の鉄扉に凭れた鍵屋崎が上着の中に手を探り入れ、衆人環視の中、生白い素肌を覗かせる。大胆かつ挑発的なポーズ。潔癖症の鍵屋崎らしくもない自暴自棄な振る舞い。
 サムライの無神経が鍵屋崎を追い詰めたのだとすれば、あいつの許可もとらず静流を招き入れるのはまずいんじゃないかと疑念が膨れ上がる。
 図書室の一件でサムライと鍵屋崎の心は完全にすれ違っちまった、第三者の手のつけようがないくらいに。もっと早く行動にでるべきだったと悔やんでも遅い、あとの祭りだ。
 思えば鍵屋崎は酷く思い詰めていた。
 見てるこっちが痛々しくなるくらい自虐的に苦悩していた。
 なんでもかんでも独りで抱え込んで深刻に思い詰めちまうのは鍵屋崎の悪い癖だと承知していながら、俺はまた何もできなかった。
 自縄自縛で身動きできなくなる前に相談に乗ってやればよかった、鬱憤の捌け口になってやればよかったと後悔しても遅い。
 気付いた時には手遅れだ。
 こじれにこじれた鍵屋崎とサムライの関係が元に戻るかどうかわからない。最悪、戻らないかもしれない。図書室の件を契機に二人の断絶は深まり心は離れてしまった。
 鍵屋崎はサムライを拒絶してサムライは鍵屋崎を敬遠する反発作用で、二人の心は近付くことなく、静流を間に挟んで隔てられていくばかり。
 鍵屋崎は大丈夫だろうか。
 今、どうしているんだろう。
 「…………はっ。また人の心配かよ、ばっからしい」
 足元に唾を吐く。鍵屋崎とサムライがいつになったら仲直りできるかとかぐだぐだ悩んでる場合かよ、どうだっていいじゃんかそんなの、もともと俺には関係ない。あいつらがどうなろうが知ったことか。
 俺は今それどころじゃないんだ。いい加減現実から目を背けるのはやめろ、と頭の片隅で声がする。いい加減現実を見ろ。人の心配ばっかすんのも現実逃避の延長だ。
 今の俺には他に心配しなきゃならないことがあるのに、どうしてもそれと向き合うのが嫌で、あいつらの痴話喧嘩の行く末をぐるぐる考えちまう。

 俺が他に考えなきゃいけないこと、
 『見るなロン』 
 考えなきゃいけないこと。
 『お前に見られたくないんだよ!!』
 「―――!!っ、」
 脳裏に立ち現われた光景に吐き気を催す。

 嫌だ、思い出したくねえ、あそこに戻りたくねえ。
 コンクリ壁をこぶしで殴り、首を項垂れる。蛍光灯に照らされた廊下は静寂に支配されている。左右の壁に等間隔に並んだ鉄扉の向こうからかすかな寝息が漏れてくる。
 格子窓の奥には濃い闇が凝っている。
 格子窓の奥の闇に得体の知れない怪物が潜む錯覚に囚われ、根拠のない妄想が恐怖を煽り立てる。
 格子窓の奥に誰かが、否、何がかいる。じっと息を潜め気配を殺して俺の一挙手一投足を見張ってる……監視してる。
 格子窓の奥から注がれる無数の視線を感じて異様に緊張感が高まる。勘違いかもしれない。そうであってほしい、と気も狂わんばかりの焦燥に駆り立てられて一心に祈る。
 激しい不安に苛まれて動悸が速くなる。左右の壁に並んだ鉄扉の上部、錆びた鉄格子が嵌まった矩形の窓の向こうには濃い闇が立ち込めている。格子窓の奥から悪意の波動を叩きつけられ肌が粟立つ。
 ……自意識過剰だ。大半の囚人はもう寝てる。
 看守の目を盗んで夜更かししてる囚人はいるだろうが、そいつらが全員こっちに注目してるなんてことあるか。気のせいだ。
 そう自分に言い聞かせ、壁に片手を付き、のろのろと歩き出す。
 行くあてはない。帰る場所もない。今の俺には居場所がない。
 房には帰れない……帰りたくない。帰る資格が、ない。
 レイジを見捨てて逃げ出した俺がいまさらどの面下げて出戻ればいい?たとえレイジが許しても俺自身が許せない。

 俺は、卑怯だ。
 最低の卑怯者で臆病者だ。

 苦しみ悶えるダチを見捨ててさっさと逃げ出した。
 あいつがいちばん苦しいときについててやれなかった自分が情けない。情けなくて情けなくてやりきれねえ。胸が苦しい。罪悪感で心臓が張り裂けそうだ。
 俺がそばにいてもレイジを苦しめるだけだとわかってる、だから逃げてきたのは正解なんだ、正しいんだと懸命に自分を説得し納得させようとしても心が反発する。違う、お前はただの卑怯者だ、ダチを見捨てて逃げてきた奴が正論ふりかざすなと非難する。
 俺が行くあてなくほっつき歩いてる間もレイジは苦しんでる。
 体の奥に玩具突っ込まれて、絶え間ない振動に責め立てられ、幾度となく絶頂に追い上げられて……
 俺はただ、あいつをラクにしてやりたかった。
 イきたくてもイけない勃ちっぱなしの状態から解放してやりたかった。指で掻き出すのが無理ならせめて口でイかせてやろうと恥もプライドもかなぐり捨て股間にむしゃぶりついた。
 レイジはぎょっとした。
 前髪の隙間から俺を仰いだ目には剥き出しの嫌悪の色があった。
 レイジの目に映った俺は飢えに狂った必死な形相で、あいつの下着に手をかけずり下ろし、母猫の乳首にしゃぶりつく子猫みたいにペニスを含もうとしていた。

 『お前に見られたくないんだよ!!』

 血を吐くような絶叫が耳の奥によみがえる。
 レイジは咄嗟に俺を突き飛ばした。視界が反転して体がバランスを失った。床に突き落とされた。鈍い衝撃、二の腕に鋭い痛み。裸電球の破片で腕を切り、一筋血が流れた。腕を垂らして起き上がった俺の眼前、ベッドに突っ伏したレイジが苦しげに訴える。
 『……頼むから……はっ、……これ以上、俺に構う、な……お前にさわられると、体が熱くなって……なおさら、辛くなる……』
 果てた獣じみて掠れた息遣い。苦鳴とも喘ぎともつかぬ呻き声を時折混ぜて、漸くそれだけ言ったレイジをぼんやり見下ろし、今の俺にできることは何もないと諦念に至った。
 俺がいるとレイジがもっと辛くなる。
 俺はここにいちゃいけない、今すぐレイジの視界から消えるべきだ。そして俺は房を出た。自分の意志で房を出た。野生化した豹が爪を研ぐさまを一晩中見せ付けられたら俺の方こそ気が狂っちまう。
 レイジのあんな、あんな欲情を掻き立てる姿を一晩中見せ付けられたら俺の方こそ気が狂っちまう。
 俺は、最低だ。玩具に責め立てられ絶頂に追い上げられ精を放つレイジを見て、下半身が勝手に興奮しちまった。勃っちまった。最悪だ。
 苦しんでるレイジに勃起するなんざ最低の変態、早い話但馬の同類じゃんか。
 「ちきしょう」
 房には帰れない。
 かくなるうえは一晩中廊下をほっつき歩いて時間を潰すしかないが、寒さが身に凍みる。考え無しに上半身裸で飛び出してきたことを後悔するが、服を取りに戻る気には到底なれない。
 最悪凍え死ぬかもなと見通し暗くなってしゃがみこむ。
 「はは。俺、全っ然変わってねえや。今も昔も」
 ガキの頃、着のみ着のまま追い出されたことがよくあった。
 お袋に客が来た時、ガキがいると気が散ると理不尽な理由で叩き出されてあてどもなく彷徨った。あの時と同じだ。全く同じ状況だ。お袋の情事を覗き見して叩き出されたガキの頃から俺はどこも変わってない、一個も成長してない。やっぱり今度も快楽に溺れゆくレイジのそばにいるのに耐えかねて、蛍光灯に照らされた廊下をほっつき歩いてる。

 たまらなく惨めだった。

 本当なら今すぐ所長室に殴りこむべきなのに、但馬を殺してやりたいのに、一握り残った理性が待ったをかける。
 看守に返り討ちされるだけだから馬鹿なことはやめとけ、独居房送りは嫌だろうと逸る心を諌める。
 結局俺は自分が大事で、自分の身が可愛くて、相棒を酷い目に遭わせた但馬を今すぐぶち殺してやりたくてもその代償に腕の一本や二本払わなきゃいけないとなると途端に言い訳に逃げる卑怯者だ。
 レイジは俺の為に片目を犠牲にしたのに。
 『…………全身無力』
 だるい。もう一歩も動けない。
 レイジは今どうしてるだろうか。体の中からどろどろに溶かされて快楽に狂わされている頃だろうか。
 房に戻りたい気持ちと戻りたくない気持ちが葛藤する。
 今すぐ房に帰ってレイジの無事を確かめたい、指で掻き出してやりたい、元凶を取り除いてやりたい。でも、レイジはきっと嫌がる。全身で俺を拒んで遠ざける。
 どうすりゃいいんだよ?
 コンクリ壁のざらついた表面に背中を預け、力なくへたりこむ。
 寒い。上半身が鳥肌立つ。手がかじかんで感覚が麻痺する。房に戻りたい、ベッドに潜り込んで毛布にくるまりぐっすり眠りたい。壁際に座り込んだ俺のもとへ二重の靴音が近付いてくる。
 顔を上げるのが面倒くさい。
 膝の間に首を項垂れた俺の方へ騒がしい声が近付いてくる。
 「ほらあんちゃん、言ったとおりだろう」
 「そうだ、その通りだ。疑ってすまない弟よ、あんちゃんを許してくれ」
 「わかればいいさあんちゃん、この世にたった二人きりの兄弟じゃんか。小便に起きたとき格子窓の外をスッと過ぎった人影に目を凝らしゃ半々だった。こんな夜更けに上半身裸でうろついて、強姦してくださいって宣伝して回ってるようなもんだろ?」
 「俺らに犯られたがってる奴を無傷で帰しちゃ可哀想だな」
 てんで勝手な理屈をほざきながら歩いてくるのは……残虐兄弟。頭の悪いやりとりで薄々感付いていたが、正面に来るまで顔を上げなかったのは単純に面倒くさかったからだ。
 格子窓の奥から感じた視線の正体が判明して拍子抜けした。
 「起きてんのか、半々。レイジと喧嘩して追い出されたか」
 あながち的外れでもない指摘に自嘲の笑みをこぼす。
 「行くとこねえなら俺らの房に泊めてやろうか。朝までたっぷり可愛がってやる」
 兄貴の方が恩着せがましく言い、弟が同調する。
 「上半身裸で追い出されたってことはコトの真っ最中だったんだろ?王様としっぽり楽しんでたんだろ?ちんぽに歯あ立てたか背中に爪立てたかで怒り買って追い出されてきたんなら、俺らの房で続きしようや。たまにゃ3Pもいいだろ」
 「失せろ。殺すぞ」
 残虐兄弟の相手をしてやる気分じゃない。
 精一杯ドスを利かせた声で威圧するも、残虐兄弟が立ち去る気配はない。俺の啖呵がさもおかしいとばかり肩を揺すって失笑する。
 「そんなナリで出歩いてたもんだから乳首が縮み上がってるぞ」
 「鳥肌もすげーよあんちゃん」
 「早速あたためてやんなきゃな。お前だって廊下で凍え死ぬのは嫌だろ?俺らの房に来りゃ毛布もあるぜ。お前を挟んで川の字になるのも悪くねえ案だ、残虐兄弟の肉襦袢であたためてやるよ」
 「肉襦袢って卑猥な響きだね、あんちゃん」
 廊下に哄笑がこだまする。
 のろのろと顔を上げ、残虐兄弟を交互に見比べる。
 格子窓の外をたまたま通りかかった俺を追いかけてきた残虐兄弟が、物欲しげな顔を並べてる。頷こうが断ろうが待ち受ける運命は同じだと匂わす態度に嫌気がさし、唇の端を吊り上げる。
 「夜が退屈なら兄弟でケツ掘り合ってろよ。あーんあん、いいようあんちゃーんってな」
 残虐兄弟の笑みがかき消えるのを醒めた目で確認、これから俺の身に起きることを漠然と想像する。
 不思議なほど恐怖は感じなかった。
 レイジを見捨てた俺自身に愛想が尽きた。
 上半身裸で出歩けば性欲持て余した連中にこれ幸いと犯られるのは目に見えてる。
 だから?
 すごすご房に逃げ帰るか?それができたら苦労しねえ。
 無表情になった残虐兄弟を見上げ、自ら逃げ道を断つように言い放つ。
 「犯りたいなら犯れよ。巷で噂の強姦魔の実力とやらを拝ませてくれよ。どうせ口だけだろ、お前ら。兄弟で強姦なんかしてんのも自分ひとりで女イかせる自信ないからだ。違うか?残虐兄弟なんて名前倒れに決まってら。兄貴にべったりひっついてるブラコンの弟と出来の悪い弟を猫可愛がりしてる気色悪ィ兄貴をひっくるめて呼ぶならバカ兄弟で十分だ。
 ところでバカ兄弟に質問だけど、お前ら兄弟ってどっちが『いいモン』持ってるんだ?今ここでズボン脱いで教えてくれよ、チンポの長さ大きさ比べっこしろよ。1ミリでもでかいモン持ってる方に先にくれてやっからさ。ああ、顔そっくりで見分けつかねえバカ兄弟はチンポもそっくり同じで見分けつかねえなんて期待外れのオチはなしだぜ?」
 くく、と喉の奥で卑屈に笑う。
 酷く愉快痛快な気分。挑発するように歯を見せれば、残虐兄弟の顔が怒りに紅潮する。先に行動を起こしたのは左側の、多分兄貴の方だ。
 俺の前髪を掴んでぐいと顔を起こし、唾を飛ばす。
 「王様もいねえくせにでかい口叩くじゃねえか、薄汚れた半々の分際で」
 「女に相手されねえから夜道で襲うっきゃねえタマ無し強姦魔の分際ででかい口叩くじゃねえか。上等だ」
 「タマならあるさ、お前より数段立派な金玉がな。見るか?しゃぶるか?」
 「いいね見せてくれよ、しなしなと萎んだ金玉を。そんなご立派な金玉もってるヤツが強姦なんかに走るもんか。下半身で女満足させる自信ねえから強姦なんてするんだろうが。威張んなよたかが強姦魔が。お前らだってレイジみたいにお綺麗な顔に生まれついてりゃ女にちやほやされただろうに、平々凡々クソ面白くねえツラでペニスも並以下ときちゃ強姦に走りたくなる気持ちもわか、ぐっ!!?」
 激痛。
 靴裏で股間を踏まれ喉から悲鳴が迸る。
 俺の前髪を掴んだ兄貴が陰湿な笑みを顔一杯に広げる。
 嗜虐の悦びに目を細めた胸糞悪いツラ。
 汚れた靴裏で俺の股間を踏み躙り、けたけた狂った哄笑をあげる残虐兄弟を睨み付ければ、反抗的な目つきが気に食わないらしくますます靴裏に体重がかかる。
 「ッ痛うっ、あああぁああづあ!?」
 脊髄から脳髄へ駆け抜ける激痛に悶絶、喉を仰け反らせて悲鳴を撒き散らす俺の様子がツボに入ったらしく残虐兄弟が笑い転げる。
 「股間踏まれてよがるなんて変態だあ」「カエルの子はカエル、淫売の子は淫売だあ」……好き勝手言いやがって。しきりに身をよじり靴をどかそうとするが、残虐兄弟が二人してのしかかってるために壁際に押さえ込まれたら手も足も出ない。
 額に脂汗が滲む。視界が赤く染まる。
 唇を噛んで激痛を堪える俺の至近距離に兄貴と区別つかない弟の顔が迫る。 
 「あんちゃん、こいつキスマークがある!」
 甲高い叫びに視線を落とす。弟の方が俺の鎖骨のあたりを指させば、下劣な笑みを滴らせて兄貴がうそぶく。
 「やっぱりレイジとお楽しみ中だったんじゃねえか」
 「妬けるねえ」
 「ケツで王様咥え込んだ気分はどうだ?」
 「いっそこのまま踏み潰してやろうか?俺らが使いたいのは後ろの『穴』だけ、こっちは要らねえしな」
 頭上で下品な笑声が飛び交う。レイジとのことをからかわれて頭に血が上る。体の脇で結んだこぶしが恥辱にわななく。
 残虐兄弟に殴りかかりたいが、へたに動いたら股間を捉えた靴裏に圧力がかかって激痛を生み出すせいで我慢するしかない。
 わざわざ首を伸ばして俺の鎖骨をじろじろ眺め、キスマークが本物かどうか擦って確かめる。
 指で擦られても薄赤い痣は消えない。
 乱暴に擦られた鎖骨がひりひりする。
 「おい、凱さん呼んでこい。せっかく捕まえた獲物だ、みんなで輪姦して楽しまなきゃな」
 「残虐兄弟のお手柄ふれまわらなきゃな」
 「凱さんもきっと喜んでくれるだろうさ、食堂じゃ涎垂らして半々のケツ追っかけてたからな」
 兄貴に顎をしゃくられた弟が「お手柄お手柄」と有頂天にはしゃぎ、足取り軽く走り出す。凱と不快な仲間たちを呼びにいく気か?冗談じゃねえ。兄貴がよそ見した隙に俺は逆襲にでる。
 無防備な顎を殴り付け、兄貴と入れ替わり身を翻す。
 「あ、あんちゃん!大丈夫かよあんちゃん!」
 「大事ない弟よ、あんちゃんの心配よか半々を追え!強姦魔のツラに手え上げるなんざ百回犯られても文句言えねえぞ!」
 どんな理屈だそりゃと腹の中でつっこむも振り向く余裕はない。
 残虐兄弟の罵声が追いかけてくるのを無視して走り出そうにもひりひり股間が疼いて腰が立たない。
 これじゃ追いつかれるのも時間の問題だ。
 壁に片手を付いて呼吸を整えれば靴音が急接近、ほらおこしなすったとお決まりの展開に頬を緩めたそばから肩を掴んで押し倒される。
 「!?ぐっ、」
 背中に衝撃、床で強打した後頭部に激痛。
 一瞬意識が飛ぶ。床に仰向けに寝転がった俺に覆いかぶさるのは兄か弟か……ああ、どっちでも大した違いはねえか。
 俺の腰に跨った残虐兄弟の片割れが陰惨な笑みをちらつかせる。
 犯られる、と確信。
 マウントポジションとられちゃおしまいだ。相手はまがりなりにもプロ、さっきみたいく油断してたんならともかく一度捕らえた獲物をおいそれと逃すはずない。
 裸の背中にひんやりと固い床があたる。
 蛍光灯の光が目に染みて視界が白熱する。
 俺の上に覆いかぶさった残虐兄弟の兄か弟かそのどっちかが、極悪非道の強姦魔にしちゃヤケに白い歯を覗かせ、心底愉快そうに笑う。おかしくておかしくてたまらないと発狂しそうに笑う。
 精一杯腕を突っ張ってどかそうとするも、いつのまにか俺の頭の方に回ってた片割れががっちり両手を固定され抵抗を封じられる。
 「いけいけあんちゃん、ぶちこんでやれ!巷を震撼させた極悪非道の婦女強姦魔、悪名高い残虐兄弟の実力見せてやれ!」
 「俺が先でいいのか弟よ」
 「いいさいいさ、これも一種の兄弟愛さ。あんちゃんにはいつでも攻めでいてほしい弟心わかってくれよ。生意気な半々に残虐兄弟の恐ろしさ思い知らせるにはあんちゃんがアレやるっきゃないよ、ほら、アレアレ!腹を殴りながら犯るアレ!穴ん中にこぶしねじこんでじゃんけんぽんしてぐーちょきぱーか当てさせるアレ、ハズレ一回につき歯あ一本がっちりもってくアレさ!」
 「よーし見てろよ弟よ、俺が済んだら譲ってやっからちゃんと押さえてろよ!」
 残虐兄弟は犯る気満々だ。物騒な会話から俺にのしかかってるのが兄貴の方だと知る。
 だから?
 このまま大人しく犯られちまうのは癪だが、じたばた暴れて助けを呼んだところで都合よくヒーローが現われるはずもない。
 突き詰めりゃ自分で何とかするっきゃないが、連続婦女強姦魔の兄弟は小柄な相手を組み敷くのに恐ろしく手馴れていて、死に物狂いに足掻いたところでいっかな抜け出せる予感がしない。
 蛍光灯に照らされた廊下にけたたましい笑い声がこだまする。兄貴の手がズボンにかかる。
 俺は目を動かし周囲を見回した。左右の壁に穿たれた鉄扉の向こう、格子窓の奥には闇が立ち込めてる。
 廊下の騒ぎに気付いてないはずないが、厄介ごとに巻き込まれるのが嫌で無視と無関心を決め込む連中を恨む気にはなれない。賢いやつならだれだってそうする。
 俺が房から逃げ出してみたいに、レイジを見捨てて逃げ出したみたいに……
 自業自得だ。
 俺がこうなるのは自業自得だ。犯られちまっても自業自得だ。レイジを助けてやれなかった、あいつを見捨てて逃げてきた。たった一人の相棒が苦しみ抜いてる時に何もしてやれなかった報いを受けると思えば、これから俺の身に起きることも許容できる。
 どうせ処女じゃない。ろくに馴らされもせず強引に突っ込まれりゃそりゃ痛いだろうが、ちょっとの間の辛抱だ。
 ……擦れてるな、俺。
 心は醒め切っている。喜怒哀楽の感情がごっそり欠落したみたいに、今まさに残虐兄弟に犯られるって危機一髪の状況でも「犯りたきゃ犯れよ」と諦念まじりの皮肉しか思い浮かばない。
 「犯りたきゃ犯れよ。ただ、俺をイかせられると思うなよ」
 残虐兄弟が怪訝な顔をする。
 「俺をイかせられるのはレイジだけだ。巷で悪名高い強姦魔だか何だか知らねえが犯る前にひとつご忠告だ、レイジに抱かれた俺をイかせたいならテク磨いて出直して来いよ。体力だけで女が悦ぶと思ってんならめでてえにも程があるぜ」
 レイジにテクで劣ると言われた兄貴の顔が怒りに充血、双眸で激情が爆ぜる。いい気味だ。俺は笑った。たかが強姦魔が調子乗りやがって、お前らなんかレイジの足元にも及ばねえよ。出直して来いよ。喉膨らませ笑い続けていたら平手で頬をはたかれた。

 ズボンと下着が膝まで引きずり下ろされる。 
 一糸纏わぬ下肢が外気に晒される。

 「勘違いすんなよ半々。お前がイくかイかねえはどうでもいい、肝心なのは俺がイくかイかねえかだ。突っ込む穴が前だろうが後ろだろうが関係ねえ、締め付けが良けりゃどっちだってかまわねえ。処女ならなお良かったんだがこの際贅沢は言わねえ、王様の食い残しで我慢してやる」
 「ひとを残飯みたく言うな」
 「「残飯は黙ってろ」」
 兄弟が呼吸ぴったりに唱和。
 哀しいかな残飯には発言権もないらしい。素肌をまさぐる手の不快さに目を閉じれば、瞼の裏にレイジの顔が浮かぶ。そろそろ肛門から出血してるんじゃないかとマジで心配になってきた。やっぱ本人が駄々こねても医務室に連れてくべきだった、医者ならきっとケツの奥まで突っ込まれた玩具を取り除いてくれる。看守におぶわれて帰還したレイジを見た瞬間そうすべきだったのに……

 「愛なき営みは感心しません。合意なきセックスはケダモノの振る舞いです」

 場違いに落ち着き払った声が介入する。
 「!?」
 残虐兄弟がぎょっとする。俺もおったまげた。
 やけに聞き覚えのある声に視線を巡らせば、俺たちのすぐそばに長身の人影が佇んでいた。七三分けに黒縁メガネ、やたら顔が濃いラテン系の囚人……ホセだ。
 待て、なんでホセがここに?東棟だろ、ここ。
 南棟の人間が越境してくる理由がないと訝しむ俺をよそに、お楽しみを邪魔された残虐兄弟が吠える。
 「みっ、南の隠者が何の用だ!?ここは東棟だぞ、東の囚人がやることに南の人間が口出しすんじゃねえ!」
 「南へ帰れ薄らボケ!!」
 口でこそ威張っちゃいるが、虚勢がバレバレ。元ブラックワーク上位、南棟のトップが相手じゃびびっても無理はない。
 ホセは残虐兄弟を無視してじっと俺を見つめていた。
 床に寝転がったまま、上半身裸に下着を引き摺り下ろされたカッコでホセの視線に晒された俺は羞恥に苛まれて目を伏せる。死ぬほど恥ずかしい。何されてるか一発でわかるカッコだ。何より恥ずかしかったのは、ホセの目には俺が諦めよく無抵抗に残虐兄弟に組み敷かれてるように映ってること。最後までしぶとく抵抗しねえ俺なんて俺じゃない、ブラックワークの試合で凱に突っかかってった俺じゃない。

 レイジの好きな俺じゃない。

 『厚瞼皮』
 「は?」
 「あつかましいって言ったんだよ!!」
 兄貴の顔面に頭突きを見舞う。
 俺の上から転落した兄貴に「あんちゃん!?」と弟が駆け寄る。
 今だ!
 片手でズボンを引き上げ、片手を壁に付いてよろよろと歩き出す。
 足首に爪が食い込む痛み。鼻面を手で覆った兄貴が、もう片方の手で俺の足首をがっちり掴んでる。
 「いがせるが半々!!」
 足首を掴まれ引きずり倒されそうになり、がくりと膝が折れる。
 滅茶苦茶に足首を捉える手を蹴り付けるが相手はしぶとく食らいつき、顔面に何発蹴りを食らっても俺を離そうとしない。
 凄まじい執念に舌を巻く。
 「今だおどうどよ!!」
 「任しとけあんちゃん!」
 心酔する兄貴にけしかけられた弟がこぶしを固めて殴りかかる。
 やばい、避けきれない!床に倒れた兄貴に足首を固定された俺は、烈風を纏いて迫り来るこぶしを見据えて硬直するより他ない。
 まともに入ったら鼻が曲がる。顔が潰れる衝撃を覚悟して固く目を瞑れば、聞いただけで十年は寿命が縮む絶叫が廊下を震撼させる。
 「ぎゃああああああああああっあああああああ!!!?」
 みしり、と不吉な音がした。万力で締め上げられたが如く手の甲が軋み、骨がひしゃげる音。おそるおそる目を開けてみれば、俺の前にホセが立ち塞がっていた。自ら盾になり俺を背に庇ったホセが弟の拳を片手で受け止め、五指に力を加えて締め上げたのだ。 
 「ロンくんは我輩の弟子。可愛い弟子のピンチを捨ててはおけません」
 「いでえいでえ骨が骨が鳴ってる、手の指があり得ない方向に曲がってる人体の神秘いいいいっ!?」
 激しくかぶりを振って泣き叫ぶ弟にも容赦なくますます指に力を加えれば、深更の静寂を引き裂いて身の毛もよだつ悲鳴が駆け抜ける。
 「右手の指を一本一本へし折ってさしあげましょうか?自慰ができなくなりますよ。手の甲を粉砕してさしあげましょうか。君は知らないでしょうが骨が折れる音は部位によって微妙に異なるんですよ。ゴリッ、ボキッ、パキッ。骨とは素晴らしい管楽器です」
 ホセの声が威圧的に低まる。
 「君の肋骨をノックして良心の在り処を問い詰めてあげましょうか。力加減を誤れば軽く三本はイきますが気合で治してください」
 俺に背中を向けたホセがどんな顔してるか簡単に想像できた。ホセは今黒縁メガネの奥の目を柔和に細め、白い歯を見せているはず。穏やかすぎるほど穏やかな笑顔を浮かべて手の甲を圧搾してるはず。
 「わ、悪かった悪かった俺たちが悪かったって!こいつにはもう手え出さないから今夜は見逃してくれよ、頼むよ隠者あっ」
 「よろしい。聞き分けのいい子は好きです」 
 ホセがパッと手を放す。弟が兄貴に縋り付いて啜り泣く。
 ホセに見送られそそくさ退散しながら、双眸に復讐心を燃やして俺を睨み付けるのを忘れない。
 残虐兄弟が角を曲がり見えなくなるまで廊下の真ん中に佇んでいたホセが、「さて」と振り返る。
 「奇遇ですねロンくん。夜のお散歩ですか」
 「お前こそどうして東に……」
 「知人のお見舞いです。だが今は我輩のことなどどうでもよろしい」
 ホセがわざとらしくかぶりを振り、あきれ返って俺を眺める。
 「夜更けに出歩けば強姦してくださいと言っているようなもの、自殺行為に等しい軽率な振る舞いです。しかも上半身裸とは東棟で流行りの健康法ですか?風邪をひいたところで強制労働は休めません。捨て猫みたいにしょげてないで房にお帰りなさい。レイジくんも待ってるはず……」
 「帰りたくねえ」
 「頑固ですね」
 「帰りたくねえ」
 「レイジくんと喧嘩したんですか」
 ホセが困ったように微笑む。
 壁際にしゃがみこみ、膝の間に頭を垂れる。房には帰れない。たとえ自分の身を危険に晒すことになっても一晩中出歩いてたほうがマシだ。
 ざらついた壁に裸の背中を付け、弱音を吐く。
 「……どこに行けばいいかわかんねえよ、俺」
 重苦しい沈黙。膝の間に頭を垂れた俺は、早く夜が明けてくれないかとそればかりを一心に祈る。さっきからずっと悪寒がする、体がぞくぞくする。風邪をひいたかもしれない。額に手をやれば微熱があった。
 「!っくしゅ、」
 人さし指で鼻の下をこする。
 全身に悪寒が駆け巡り上半身が鳥肌立つ。寒い。体に腕を回して暖をとる俺の前、考え深げに黙りこんだホセが予想外の行動にでる。
 あっけにとられた俺をよそに惜しげもなく上着を脱いで逆三角形の肉体美を晒す、男性的に厚い胸板と屹立した脇腹、六つに割れた腹筋が呼吸に合わせて収縮するさまに見とれる。
 「露出狂か?」
 熱のせいか頓珍漢な質問をした俺の顔面を布地が覆う。俺の方に上着を放ってよこしたホセが付け加える。
 「着てください。日頃から鍛えてる我輩と違ってひ弱っこのロンくんは風邪をひいてしまいます」
 「鍵屋崎と一緒にすんな。俺は野良だ、路上生活長いからこれしき………ぐしゅん!!」 
 これしき平気と続けようとして語尾はくしゃみにかき消えた。意地張ってる場合じゃねえと風邪ひきかけで痛感、大人しく袖を通す。思ったとおりぶかぶかだ。裾の余りが膝まで下りてくる。だらり垂れ下がった袖を二重に捲りながら、ぶっきらぼうに「謝謝」と呟く。
 ホセは微笑ましげに俺が袖を捲る動作を眺めていた。
 「今夜は我輩と寝ませんか」
 「は?」
 「行くところがないなら我輩の房においでなさい。ベッドは一つしかありませんがなかなか快適な場所ですよ」
 ホセと寝る?ベッドは一つっきゃない?それって……いや、まさか。ホセは親切心で申し出たんだ、下心なんかあるわきゃない。今夜一晩くらいホセの房に身を寄せてもバチあたらねえだろ。廊下で寝るよか遥かにマシだ。レイジの房に戻るよかマシだ。
 ベッド恋しさに頷こうとして、眼鏡の奥で危険な光を孕んだ双眸に気付き、思いとどまる。
 「どうされましたロンくん」
 「ホセ、お前……」
 背筋にぞくりと悪寒が走る。熱のせいだろうか、予断を許さないホセの目つきのせいだろうか?ホセは意味深に微笑んでいる。頷こうが断ろうが待ち受ける運命は同じだと暗喩するように、断れば実力行使も辞さないとでもいうふうに強大な威圧感をこめて。
 ホセを信頼していいのか?
 信頼できるのか?
 「………」
 心臓の動悸が激しくなる。
 至近距離にホセがいる。蛍光灯を背に逆光に塗り潰された表情は読めず、不気味に暗闇に沈んでる。ホセの指先が二の腕に触れる。
 裸電球の破片が刺さった傷口を探り、生渇きの血をこそぎとる。
 「怪我をしていますね。黴菌が入ったら一大事、早く手当てをしなければ」
 奇妙な棒読み口調が不安を掻き立てる。腕の傷口から破片を摘出、手のひらで輝くそれを握りつぶす。破片が粉々に砕ける音がする。ホセの指の間から微塵に砕けた欠片が零れ落ち、俺の膝に降り注ぐ。
 奇行を演じる隠者に本能的な恐怖を感じてあとじされば、俺の顔の横に手を付いたホセが低い声をだす。
 「ロンくん、我輩は今夜少々機嫌を損ねているのです。個人的に哀しい事件が起こりまして、傷心故に東棟を歩いていたのです」
 「娑婆のワイフから離婚届けが来たか?」
 悪い冗談だと反省する暇もなく激烈な反応が返ってきた。
 顔の横のコンクリ壁にびしりと亀裂が走り、粉塵が舞う。
 指に力を込めただけで手の形に壁がへこんだ。粘土みたいに柔軟に。
 「いけませんよロンくん。いかに寛容な我輩でもワイフ絡みの冗談を笑って許せるほど人間できてはおりませんのであしからず」
 「哀しい事件ってなんだよ。お前が見舞いに来たヤツと関係あんのか」
 「好奇心旺盛なのは結構ですがただでさえ不機嫌な我輩を苛立たせるのは無謀というもの……今宵我輩を不愉快にさせた責任をとる覚悟がおありですか」
 ホセが全身に殺気を纏う。凄まじい威圧感。
 黒縁メガネをとり、七三分けをかき乱し、前髪を額に垂らしたホセが不敵にほくそえむ。
 「不安要素は多々ありますがこの際ロンくんでも構わない。野望の片棒を担いでもらいましょうか」  
 謎めいた台詞を最後に意識が途切れる。
 ホセの鉄拳が腹にめりこんだのだ。  
 床に崩れ落ちた俺の頭を撫で、本性を現した隠者が独りごちる。
 「手駒は多いに越したことがない」
と。
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