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二百九十五話
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「あ?」
ヨンイルが目を丸くし、会場中が息をのむ。
脳天から間の抜けた声を発して硬直するヨンイル、風切る弧を描いて宙を薙いだ足が僕のこめかみ手前で静止する。自分が目撃した光景が信じられぬかのように驚愕に目を見開き、顎も外れんばかりに大口を開けたヨンイルの足は正確無比に僕の右側頭部を急襲した。脳を揺らして昏倒させてからじっくりいたぶるつもりだったのか、いや、ヨンイルのさばさばした性格から考えてそんな真似はしない。
ヨンイルはサーシャのように性格破綻した陰湿なサディストではない、僕が脳震盪を起こしてリングに膝を屈した時点で戦意喪失したと見て、多少手荒な真似をしてでも降参表明させるつもりだったのだろう。
だがヨンイルの思惑は外れた。
トップの勝利を信じて疑わない西の応援団の眼前で、迅速に勝負を決しようという道化の目論みは裏切られ、地下停留場を埋めた満場の観衆だれも想像しえない不測の事態が起きた。
鋭い呼気を吐いて攻勢に転じたヨンイルが、僕のこめかみめがけて足を繰り出した刹那、僕の手は上着の裾をはねあげズボンの後ろへと回され腰に挟んだ本を抜き取っていた。
僕の窮地を救ったのはとっさの機転、イエローワークで毎日のようにいやがらせを受けて鍛えられた反射神経。僕の足をひっかけようと地面をシャベルがかすめるたびに間髪入れず飛び退き難を逃れてきた、毎日毎日悪意に晒されて進歩ないいやがらせを受け続けるうちに僕は足払いをかけられても平然と対処できるようになった。
運動音痴を克服するのはむずかしいが、反射神経は訓練を積めば磨ける。皮肉な話だが、こめかみを叩く風圧に本能的な危機を察した僕がとっさに発揮した反射神経は、単調ないやがらせの反復で磨かれたものだった。
反射神経は、環境によって磨かれる。
それがイエローワークの過酷な強制労働を経て僕が得た教訓だ。
絶体絶命の危機に直面した僕がとった行動はおそらく誰もが予想だにしないものだった。ヨンイルの蹴りの軌道を正確に予測、コンクリ床を離れた足が大きな弧を描いてこめかみへを狙いくるのを読んで、腰の後ろに挟んでいた本を抜き取り、顔の横に翳す。
水平の衝撃。
ヨンイルの蹴りをまともに食らったら脳震盪を起こすのは確実、意識を喪失したら最後これ以上を続行できない。それは駄目だ絶対に、僕はここで負けるわけにはいかない。仲間たちのために相棒のために、僕ら四人の未来のためにも敗退するわけにはいかない。
この試合には僕ら四人の明日が賭かっている、たとえ西の道化の異名をとるヨンイルが相手でも逃げるわけにはいかない。
怯惰など捨てろ、現実を見ろ、前だけを見ろ。
何があってもヨンイルに倒されるわけにはいかない、道化風情に負かされるわけにはいかない。
僕自身のプライドのためにも、この試合には勝たなければ。
ヨンイルに必ずや勝利して、サムライに誇れる相棒になると僕は自分の心に誓った。彼に誇れる僕になると誓ったのだ。一方的に庇護される対象ではなく対等な友人として、安心して背中を預けられる相棒として実力を証明する機会を僕は狂おしく待ち焦がれていた。
ようやくその機会が訪れたのだ。逃す手はない。
右側頭部に翳した本に強烈な回し蹴りが炸裂。厚みのある単行本を挟んでいても凄まじい衝撃が伝わってきた。だが、脳震盪は起こさなかった。単行本を盾に蹴りの衝撃を殺した僕は、迅速に次の行動に移る。
避ける時間がないなら防げばいい、それだけのことだ。考えてみればあたりまえのこと。常識。緩衝材の単行本が蹴りの衝撃を吸収してくれたおかげで脳に直接ダメージはない。ヨンイルは僕が翳した単行本に目を吸い寄せられ、茫然自失と立ち竦んでいる。
ぱくぱくと無様に口を開閉し、震える人さし指で僕の手の中の本を指さす。
「ななななななななな直ちゃんそそそそそれはもしやまさか、俺が命の次に大事にしとった手塚治虫のアレとちゃうんかい!?」
「正解。奥付けによると1981年9月5日発行の『七色いんこ』第一巻だ」
ショックのあまり気が動転したヨンイルが半泣きになる。西の応援団がトップの異変を察してざわめきだすのを尻目に単行本を頭上に掲げる。反射的に単行本を取り返そうとふらつく足取りで僕の間合いに踏みこみ頭上へ腕をのばすヨンイル。
釣れた。
今だ。
「俺の手塚、」
うわ言のように呟くヨンイルからは最前までの殺気が霧散していた。本当ならこんな下品な手は使いたくなかったがしたがない、現状では他に選択肢がない。単行本につられたヨンイルが亡者めいた足取りで僕に接近、さらに前進して僕にぶつかる。いや、亡者というよりは空を掻き毟り糧を乞う餓鬼の行進だ。ヨンイルと接触した僕は、慎重に足を動かし、ヨンイルの股間に膝を割りこませ……
絶叫。
「痛っあああっうううううううううぐう、い、きん、金的蹴り……!?」
股間を両手で庇い、首を仰け反らせまたうなだれて、全身で地獄の苦しみを表現し悶絶するヨンイル。コンクリ床に転倒し、芋虫のようにのたうちまわるヨンイルの醜態に、金網に群がった囚人が顔面蒼白となる。
股間に膝蹴りを食らった痛みを想像してしまったのだろう。
苦悶のうめきを漏らし、股間を押さえてコンクリ床を転げまわるヨンイルに怯えた囚人が、一斉に股間を庇いあとじさる。
間抜けな格好で後退した囚人たちの中にレイジを捜せば、彼も片手で金網を掴み、もう一方の手で股間を隠した格好で笑っていた。微妙にひきつった笑顔で僕へと向けた眼差しには薄ら寒い畏怖がこめられていた。
「お、俺以上に容赦ないんじゃないかキーストア……?見てるこっちが縮みあがったぜ、どこがとは言わねーけど」
「心外だな。ヨンイルを黙らせるため、この場で最も確実で有効な手段を採択しただけだ。男性の急所に容赦なく蹴りを入れればどれほどタフな人間でもあまりの激痛に失神しかねない。医学的にも信頼性がおける症例だ」
僕に裏切られた怒りはどこかに吹き飛んでしまったのだろう。よいことだ。僕はよいことをした。
単行本をおろし、体の脇にさげ、地面で悶絶するヨンイルへと歩み寄る。本来、敬愛する手塚治虫の本をこんなふうに使いたくはなかった。本を武器にするなど文化人として最低の行いだ。苦渋に満ちて俯き、視界の右半分に亀裂が入ったと再認識。
ヨンイルの蹴りの衝撃で、眼鏡のレンズが片方割れたらしい。
盾代わりの単行本でも完全に防ぎきることができないとは凄まじい威力だなとあきれる。しかし、眼鏡の修理を考えると気が重くなる。以前眼鏡を壊したときはリョウに修理を頼んだが、正直トラブルメーカーの彼とはもう関わり合いになりたくない。
ここはやはり、壊した張本人たるヨンイルに弁償を請求すべきか。
形勢逆転した僕は、余裕の表情で地面に這いつくばったヨンイルを見下ろす。
どうにか口がきけるまでに回復したヨンイルが、額におびただしい脂汗を滲ませ、苦痛の色を宿した双眸で僕を仰ぐ。
「な、直ちゃんひとつ聞かせてや……そりゃペア戦はルール無用の無差別格闘技でリングには何持ち込んでもOKやけど、図書室のヌシ的に漫画は反則や。第一、なんでズボンの後ろに漫画なんか挟んでリングに上ったんや?わけわからんわホンマ。レイジの影響か」
「それは人格攻撃と受け取るべきか?レイジに感化されたなど甚だしい誤解を受けるのは僕としても不本意だ」
神経質に眼鏡のブリッジを押し上げ、淡々と解説する。
「人類の叡智の結晶たる本を武器に戦うなど、どこかのレイジのように野蛮な振るまいを僕は心底軽蔑している。僕が今日本を持参した理由はただひとつ、君に返却するためだ。忘れたのかヨンイル、この本はもともと君が持ち込んだものだ。入院中で退屈しているロンのためにと君が山ほど持ち込んだ漫画の一冊。医務室の床に散らばっていたそれをなにげなく開いてみたら、返却期限が今日になっていた」
推理を開陳する名探偵のように、傲慢に腕を組んで続ける。
「今日は決勝戦だ、君とはどうせ地下停留場で顔をあわせることになっている。ならばその前に、返却期限のすぎた本を図書室のヌシに突き返そうとわざわざ持参したまでだ。勿論、いやがらせの一環としてな」
「……ええ性格してはる」
「だいたい僕は本を粗末に扱う人間が気に入らない。ヨンイル君ときたら図書室のヌシを自負するくせにまるでなってない、医務室の床に大量の漫画本を放置して埃にまみれさせるなど書物に対する冒涜行為だぞあれは!」
思い出すだに怒りが湧きあがる。
ロンのベッドの周辺、床一面に散乱した大量の漫画本。ヨンイルが置いていった山ほどの漫画本。僕も図書室で借りた本をロンに貸した前科があるが、間違っても本を床におくなど汚いことはしなかった。
床に放置された漫画本の一冊をたまたま取り上げ、返却期限をチェックしたのは、図書室のヌシを自称するわりに本に敬意を払わないヨンイルに反感を抱いたから。
もともと僕は完璧主義者でいい加減なことが大嫌いな性分だ。
図書室のヌシだからといって本を粗末に扱っていい言い訳にはならない。
「ズボンの後ろに挟んでいたのは単純に両手が使えなかったから。僕はここに来るまで衰弱して自力で歩けないレイジに肩を貸していた、もう一方の手には木刀を持っていた。両手がふさがっていたから、本はしかたなくズボンの後ろに挟んでおいた。上着に隠してな」
そこでため息をつき、かぶりを振る。
「本当はさっき、通路で遭遇したときに返却したかったのだが……一触即発のレイジとホセとに目を奪われて機会を逸してしまった。付け加えるなら、僕は試合直前までレイジと言い争っていた。天才にあるまじき失態だと遺憾に思うが、この時もやはりレイジとの口論に夢中で本のことを失念していた」
ちらりとレイジに目をやる。金網にはりついたレイジが不服そうに口を尖らす。
「つまり直ちゃんは、ズボンに本挟んだこと忘れたままリングに上ったと?」
「忘れていたわけではない。不毛な口論に時間をとられて、ズボンから抜き取る暇がなかっただけだ」
すべては偶然が積み重なった結果だ。断っておくが、僕の動きが鈍かったのは運動音痴なせいだけではない。腰の後ろに本を挟んでいて動きにくかったのだ。ヨンイルの蹴りをかわしきれなかったのは断じて運動音痴が原因ではない。
さて、ここからが本題だ。
「こちらからも質問させてもらおうヨンイル……いや、西の道化」
口調を厳粛に改め、表情を消してヨンイルを見下ろす。冷たく光るレンズ越しに一瞥を投げれば、長い煩悶の末に股間の痛みがおさまったらしいヨンイルが、コンクリ床に手をついて体を起こす。
眉間に皺を寄せ、不審と不信がこもった眼差しで僕を仰ぐヨンイル。
その視線をまともに受け、中腰に屈みこむ。無造作に腕をのばし、上着の胸を掴み、無理矢理顔を起こす。暴力の行使に慣れない僕は、本来こんな乱暴な真似はしたくなかったのだが、ヨンイルを牽制する意味もこめ、指に力をこめる。
相手に対等な立場と認めてもらわねば、話し合いは成立しない。
ヨンイルの物問いたげな視線を浴びながら、声を低め、審問する。
「何故本領を発揮しない?」
ヨンイルが眉をひそめる。
さすが低能だ、言葉の意味がすぐさまわからないとは。理解不能といった顔のヨンイルの胸ぐらを掴み、強制的に立たせる。周囲に会話が漏れるのを避け、ヨンイルの耳朶に顔を近付ける。
「天才を侮るなよ低能の分際で。君が本領を発揮してないことは試合開始直後からお見通しだ、僕は今の今までずっと疑問に思っていた。僕は『手加減などいらない』と先刻断言したが、それなら君の行動に矛盾が発生する。ヨンイル、君はさっき僕の肩に手をつき中空で逆立ちをした。そして素晴らしい柔軟性を発揮し、僕の背後に降り、完全に死角をとった」
「すごいやろ、身のこなしには自信が」
「黙れ道化、最後まで話を聞け。先刻君は僕の背後をとった、僕はあの時体勢を崩していて後ろはがら空きだった。敵に無防備に背中を晒すという致命的な失態を犯したんだ」
さっき、自分の身の上に起きたことを思い出す。
僕の肩に手をおいてあざやかに逆立ちしたヨンイル、サーカスの軽業師めいた芸当で宙で一回転して背後に降り立つ。僕が振り返るまで、攻撃する時間はいくらでもあった。しかしヨンイルは、僕が木刀を拾い上げ振り向くまで攻撃をしかけてこようとしなかった。
いや、もっと奇妙なことがある。
ヨンイルの耳朶に唇を近づけ、低く押し殺した声で囁く。
「ヨンイル、君は当然知っているはずだ。僕は先日背中に怪我をした、図書室で残虐兄弟につかまって彫刻刀で背中を傷付けられた。よもや忘れたとは言わせない、僕の背中を舐めたのはほかならぬ君自身だ。知っていながら、どうして急所を攻撃しなかった?傷が癒えてない肩甲骨を殴るか蹴るかすれば僕を倒すことはたやすい、しかし君はそれをしなかった!」
「せやからそれは」
「手加減したな、手を抜いたな?何故決勝戦で手加減できた、相手が僕だから友情を感じたなどという戯言は聞きたくないし認めない!ヨンイル、君はまだ本領を発揮してない。実力を隠している。なるほどたしかに君は強い、それは認めよう、自分の身をもって味わったのだから認めてやろうじゃないか!
だが、この戦い方は違う。ヨンイル、君は何故ここに来た?何故11歳の若さで東京プリズンに送られてきた?さっき君自身が証言したじゃないか、喧嘩のやり方は東京プリズンで覚えたと。君は外で傷害事件を起こして東京プリズンに送致されたわけじゃない、もっと大それたことをしでかして最年少11歳の若さでこの極東の監獄に入れられた」
そうだ、ヨンイルは僕相手に全然本領を発揮していなかった。僕を傷付けたくないという気遣い故か一方的な友情かはわからないが、ヨンイル本来の戦いぶりはこんなものではない。
ヨンイルは、過去に二千人を殺した史上最悪の爆弾魔だ。
爆弾作りの天才として東京プリズンに収監されたヨンイルが、何故爆弾を使わない?僕はこの目で見た、レイジとサムライが売春班に乗り込んできたときに地階の廊下を混乱に陥れた煙玉はヨンイルが制作したものだ。どうやって材料をかき集めてるかは知らないが、ヨンイルは東京プリズンに収監されて以降も爆弾を作り続けている。
ろくな材料がないため殺傷力は極端に低いだろうが、今でもヨンイルが反省の色なく爆弾を作り続けているのは事実。
五十嵐の娘を殺しておきながら、今でも。
上着の胸ぐらを掴む手が震える。ヨンイルの耳朶が吐息で湿る。僕の吐息。
「ヨンイル、決勝戦の舞台で君が爆弾を使わないはずがない。爆弾は君の最大の取り柄、ならばその取り柄を最大限生かした戦い方をしてこそトップの面目が立つんじゃないか?」
悔しいが、殴る蹴るの喧嘩では僕に勝ち目はない。実際ヨンイルにはまったく歯が立たなかった。
ならば戦い方を変えるまでだ。
僕の武器は舌鋒、相手を挑発して意のままに操る饒舌さだ。僕に胸ぐらを掴まれたヨンイルは、いつになく真面目な顔で矢継ぎ早の説得に聞き入っていた。
ヨンイルの目が、爛々と輝きだしたのを見逃さない。
そうだ、いいぞ、その調子だ。それでこそ道化、西のトップだ。ヨンイルの反応に味をしめしながら、片手で胸ぐらを掴み、もう一方の手で肩を掴み、畳みかける。
「君は過去二千人を殺した爆弾魔、凶悪なテロリストだ。爆弾作りの天才だ。自分が作った爆弾の威力を見せびらかしたくないはずがない、違うか?本当はこんな戦い方は望んでないくせに。相手が僕だからと実力を出し惜しみすることはない、本当は爆弾を使いたくてうずうずしてるんじゃないか?」
僕の言葉に反応し、ヨンイルの指がぴくりと動く。
「祖父譲りの爆弾の威力を試したくて、見せびらかしたくて、我慢できないんじゃないか」
視界の端、金網を両手で掴んだレイジが生唾を嚥下する。地獄耳の彼には会話が聞こえているのだろうか。どちらでもかまわない、これは僕とヨンイルの戦いだ。天才と道化の対決だ、王様の出番はない。
ヨンイルの目をしっかり見据え、断言する。
「さあ、遠慮せずに本領を発揮してみろ。
道化の本気で、僕を楽しませてくれ」
「……かなわんなあ。最初からわかっとったんか」
ヨンイルが笑み崩れる。降参したとでもいうふうな諦観の滲んだ笑顔。
スッとヨンイルの手首が上がり、袖が落ちる。袖の下から現れた手首には、毒々しい暗緑の鱗が移植されていた。
ヨンイルの手が怪しく宙を泳ぎ、僕の首にかかる。
「東京プリズンで漫画っちゅう生き甲斐見つけても爆弾とは縁切れんまま、か」
自嘲的に呟き、苦笑いするヨンイル。だが、双眸には沸沸と闘志が滾りはじめている。
この場に五十嵐がいて会話を聞いてたらどう思うだろう?そんな考えが脳裏をかすめ、慌てて首を振る。
ヨンイルの五指が、僕の首を撫でる。
龍が気炎を吐くように、指の火照りが伝わってくる。
「直ちゃん、ゲームせえへん?」
「ゲーム?」
いやな予感がした。とてつもなくいやな予感。
鸚鵡返しに問うた僕の首に手をやったまま、淡々と呟く。
「このまま直ちゃんをこてんぱんに痛めつけるだけじゃ観客も退屈やろ。最初の段階で勝敗わかりきった勝負ほどつまらんもんはない。だから考えたんや。俺とゲームしようや直ちゃん、地下停留場の観客巻きこんだ派手なゲーム。体力勝負やなくて頭脳勝負なら直ちゃんも実力だせるやろ?このゲームに勝利したら、今度から道化を倒した男名乗ってええわ」
「どんなゲームだ」
「宝さがし」
ヨンイルが尖った犬歯を剥き出し、獰猛に笑う。
そして、道化は提案した。
身の内に宿した龍の狂気に侵されたかの如く、恍惚と熱に浮かされた口調で。
「もしこのリングのどっかに時限爆弾仕掛けたっちゅーたらどないする?」
ヨンイルが目を丸くし、会場中が息をのむ。
脳天から間の抜けた声を発して硬直するヨンイル、風切る弧を描いて宙を薙いだ足が僕のこめかみ手前で静止する。自分が目撃した光景が信じられぬかのように驚愕に目を見開き、顎も外れんばかりに大口を開けたヨンイルの足は正確無比に僕の右側頭部を急襲した。脳を揺らして昏倒させてからじっくりいたぶるつもりだったのか、いや、ヨンイルのさばさばした性格から考えてそんな真似はしない。
ヨンイルはサーシャのように性格破綻した陰湿なサディストではない、僕が脳震盪を起こしてリングに膝を屈した時点で戦意喪失したと見て、多少手荒な真似をしてでも降参表明させるつもりだったのだろう。
だがヨンイルの思惑は外れた。
トップの勝利を信じて疑わない西の応援団の眼前で、迅速に勝負を決しようという道化の目論みは裏切られ、地下停留場を埋めた満場の観衆だれも想像しえない不測の事態が起きた。
鋭い呼気を吐いて攻勢に転じたヨンイルが、僕のこめかみめがけて足を繰り出した刹那、僕の手は上着の裾をはねあげズボンの後ろへと回され腰に挟んだ本を抜き取っていた。
僕の窮地を救ったのはとっさの機転、イエローワークで毎日のようにいやがらせを受けて鍛えられた反射神経。僕の足をひっかけようと地面をシャベルがかすめるたびに間髪入れず飛び退き難を逃れてきた、毎日毎日悪意に晒されて進歩ないいやがらせを受け続けるうちに僕は足払いをかけられても平然と対処できるようになった。
運動音痴を克服するのはむずかしいが、反射神経は訓練を積めば磨ける。皮肉な話だが、こめかみを叩く風圧に本能的な危機を察した僕がとっさに発揮した反射神経は、単調ないやがらせの反復で磨かれたものだった。
反射神経は、環境によって磨かれる。
それがイエローワークの過酷な強制労働を経て僕が得た教訓だ。
絶体絶命の危機に直面した僕がとった行動はおそらく誰もが予想だにしないものだった。ヨンイルの蹴りの軌道を正確に予測、コンクリ床を離れた足が大きな弧を描いてこめかみへを狙いくるのを読んで、腰の後ろに挟んでいた本を抜き取り、顔の横に翳す。
水平の衝撃。
ヨンイルの蹴りをまともに食らったら脳震盪を起こすのは確実、意識を喪失したら最後これ以上を続行できない。それは駄目だ絶対に、僕はここで負けるわけにはいかない。仲間たちのために相棒のために、僕ら四人の未来のためにも敗退するわけにはいかない。
この試合には僕ら四人の明日が賭かっている、たとえ西の道化の異名をとるヨンイルが相手でも逃げるわけにはいかない。
怯惰など捨てろ、現実を見ろ、前だけを見ろ。
何があってもヨンイルに倒されるわけにはいかない、道化風情に負かされるわけにはいかない。
僕自身のプライドのためにも、この試合には勝たなければ。
ヨンイルに必ずや勝利して、サムライに誇れる相棒になると僕は自分の心に誓った。彼に誇れる僕になると誓ったのだ。一方的に庇護される対象ではなく対等な友人として、安心して背中を預けられる相棒として実力を証明する機会を僕は狂おしく待ち焦がれていた。
ようやくその機会が訪れたのだ。逃す手はない。
右側頭部に翳した本に強烈な回し蹴りが炸裂。厚みのある単行本を挟んでいても凄まじい衝撃が伝わってきた。だが、脳震盪は起こさなかった。単行本を盾に蹴りの衝撃を殺した僕は、迅速に次の行動に移る。
避ける時間がないなら防げばいい、それだけのことだ。考えてみればあたりまえのこと。常識。緩衝材の単行本が蹴りの衝撃を吸収してくれたおかげで脳に直接ダメージはない。ヨンイルは僕が翳した単行本に目を吸い寄せられ、茫然自失と立ち竦んでいる。
ぱくぱくと無様に口を開閉し、震える人さし指で僕の手の中の本を指さす。
「ななななななななな直ちゃんそそそそそれはもしやまさか、俺が命の次に大事にしとった手塚治虫のアレとちゃうんかい!?」
「正解。奥付けによると1981年9月5日発行の『七色いんこ』第一巻だ」
ショックのあまり気が動転したヨンイルが半泣きになる。西の応援団がトップの異変を察してざわめきだすのを尻目に単行本を頭上に掲げる。反射的に単行本を取り返そうとふらつく足取りで僕の間合いに踏みこみ頭上へ腕をのばすヨンイル。
釣れた。
今だ。
「俺の手塚、」
うわ言のように呟くヨンイルからは最前までの殺気が霧散していた。本当ならこんな下品な手は使いたくなかったがしたがない、現状では他に選択肢がない。単行本につられたヨンイルが亡者めいた足取りで僕に接近、さらに前進して僕にぶつかる。いや、亡者というよりは空を掻き毟り糧を乞う餓鬼の行進だ。ヨンイルと接触した僕は、慎重に足を動かし、ヨンイルの股間に膝を割りこませ……
絶叫。
「痛っあああっうううううううううぐう、い、きん、金的蹴り……!?」
股間を両手で庇い、首を仰け反らせまたうなだれて、全身で地獄の苦しみを表現し悶絶するヨンイル。コンクリ床に転倒し、芋虫のようにのたうちまわるヨンイルの醜態に、金網に群がった囚人が顔面蒼白となる。
股間に膝蹴りを食らった痛みを想像してしまったのだろう。
苦悶のうめきを漏らし、股間を押さえてコンクリ床を転げまわるヨンイルに怯えた囚人が、一斉に股間を庇いあとじさる。
間抜けな格好で後退した囚人たちの中にレイジを捜せば、彼も片手で金網を掴み、もう一方の手で股間を隠した格好で笑っていた。微妙にひきつった笑顔で僕へと向けた眼差しには薄ら寒い畏怖がこめられていた。
「お、俺以上に容赦ないんじゃないかキーストア……?見てるこっちが縮みあがったぜ、どこがとは言わねーけど」
「心外だな。ヨンイルを黙らせるため、この場で最も確実で有効な手段を採択しただけだ。男性の急所に容赦なく蹴りを入れればどれほどタフな人間でもあまりの激痛に失神しかねない。医学的にも信頼性がおける症例だ」
僕に裏切られた怒りはどこかに吹き飛んでしまったのだろう。よいことだ。僕はよいことをした。
単行本をおろし、体の脇にさげ、地面で悶絶するヨンイルへと歩み寄る。本来、敬愛する手塚治虫の本をこんなふうに使いたくはなかった。本を武器にするなど文化人として最低の行いだ。苦渋に満ちて俯き、視界の右半分に亀裂が入ったと再認識。
ヨンイルの蹴りの衝撃で、眼鏡のレンズが片方割れたらしい。
盾代わりの単行本でも完全に防ぎきることができないとは凄まじい威力だなとあきれる。しかし、眼鏡の修理を考えると気が重くなる。以前眼鏡を壊したときはリョウに修理を頼んだが、正直トラブルメーカーの彼とはもう関わり合いになりたくない。
ここはやはり、壊した張本人たるヨンイルに弁償を請求すべきか。
形勢逆転した僕は、余裕の表情で地面に這いつくばったヨンイルを見下ろす。
どうにか口がきけるまでに回復したヨンイルが、額におびただしい脂汗を滲ませ、苦痛の色を宿した双眸で僕を仰ぐ。
「な、直ちゃんひとつ聞かせてや……そりゃペア戦はルール無用の無差別格闘技でリングには何持ち込んでもOKやけど、図書室のヌシ的に漫画は反則や。第一、なんでズボンの後ろに漫画なんか挟んでリングに上ったんや?わけわからんわホンマ。レイジの影響か」
「それは人格攻撃と受け取るべきか?レイジに感化されたなど甚だしい誤解を受けるのは僕としても不本意だ」
神経質に眼鏡のブリッジを押し上げ、淡々と解説する。
「人類の叡智の結晶たる本を武器に戦うなど、どこかのレイジのように野蛮な振るまいを僕は心底軽蔑している。僕が今日本を持参した理由はただひとつ、君に返却するためだ。忘れたのかヨンイル、この本はもともと君が持ち込んだものだ。入院中で退屈しているロンのためにと君が山ほど持ち込んだ漫画の一冊。医務室の床に散らばっていたそれをなにげなく開いてみたら、返却期限が今日になっていた」
推理を開陳する名探偵のように、傲慢に腕を組んで続ける。
「今日は決勝戦だ、君とはどうせ地下停留場で顔をあわせることになっている。ならばその前に、返却期限のすぎた本を図書室のヌシに突き返そうとわざわざ持参したまでだ。勿論、いやがらせの一環としてな」
「……ええ性格してはる」
「だいたい僕は本を粗末に扱う人間が気に入らない。ヨンイル君ときたら図書室のヌシを自負するくせにまるでなってない、医務室の床に大量の漫画本を放置して埃にまみれさせるなど書物に対する冒涜行為だぞあれは!」
思い出すだに怒りが湧きあがる。
ロンのベッドの周辺、床一面に散乱した大量の漫画本。ヨンイルが置いていった山ほどの漫画本。僕も図書室で借りた本をロンに貸した前科があるが、間違っても本を床におくなど汚いことはしなかった。
床に放置された漫画本の一冊をたまたま取り上げ、返却期限をチェックしたのは、図書室のヌシを自称するわりに本に敬意を払わないヨンイルに反感を抱いたから。
もともと僕は完璧主義者でいい加減なことが大嫌いな性分だ。
図書室のヌシだからといって本を粗末に扱っていい言い訳にはならない。
「ズボンの後ろに挟んでいたのは単純に両手が使えなかったから。僕はここに来るまで衰弱して自力で歩けないレイジに肩を貸していた、もう一方の手には木刀を持っていた。両手がふさがっていたから、本はしかたなくズボンの後ろに挟んでおいた。上着に隠してな」
そこでため息をつき、かぶりを振る。
「本当はさっき、通路で遭遇したときに返却したかったのだが……一触即発のレイジとホセとに目を奪われて機会を逸してしまった。付け加えるなら、僕は試合直前までレイジと言い争っていた。天才にあるまじき失態だと遺憾に思うが、この時もやはりレイジとの口論に夢中で本のことを失念していた」
ちらりとレイジに目をやる。金網にはりついたレイジが不服そうに口を尖らす。
「つまり直ちゃんは、ズボンに本挟んだこと忘れたままリングに上ったと?」
「忘れていたわけではない。不毛な口論に時間をとられて、ズボンから抜き取る暇がなかっただけだ」
すべては偶然が積み重なった結果だ。断っておくが、僕の動きが鈍かったのは運動音痴なせいだけではない。腰の後ろに本を挟んでいて動きにくかったのだ。ヨンイルの蹴りをかわしきれなかったのは断じて運動音痴が原因ではない。
さて、ここからが本題だ。
「こちらからも質問させてもらおうヨンイル……いや、西の道化」
口調を厳粛に改め、表情を消してヨンイルを見下ろす。冷たく光るレンズ越しに一瞥を投げれば、長い煩悶の末に股間の痛みがおさまったらしいヨンイルが、コンクリ床に手をついて体を起こす。
眉間に皺を寄せ、不審と不信がこもった眼差しで僕を仰ぐヨンイル。
その視線をまともに受け、中腰に屈みこむ。無造作に腕をのばし、上着の胸を掴み、無理矢理顔を起こす。暴力の行使に慣れない僕は、本来こんな乱暴な真似はしたくなかったのだが、ヨンイルを牽制する意味もこめ、指に力をこめる。
相手に対等な立場と認めてもらわねば、話し合いは成立しない。
ヨンイルの物問いたげな視線を浴びながら、声を低め、審問する。
「何故本領を発揮しない?」
ヨンイルが眉をひそめる。
さすが低能だ、言葉の意味がすぐさまわからないとは。理解不能といった顔のヨンイルの胸ぐらを掴み、強制的に立たせる。周囲に会話が漏れるのを避け、ヨンイルの耳朶に顔を近付ける。
「天才を侮るなよ低能の分際で。君が本領を発揮してないことは試合開始直後からお見通しだ、僕は今の今までずっと疑問に思っていた。僕は『手加減などいらない』と先刻断言したが、それなら君の行動に矛盾が発生する。ヨンイル、君はさっき僕の肩に手をつき中空で逆立ちをした。そして素晴らしい柔軟性を発揮し、僕の背後に降り、完全に死角をとった」
「すごいやろ、身のこなしには自信が」
「黙れ道化、最後まで話を聞け。先刻君は僕の背後をとった、僕はあの時体勢を崩していて後ろはがら空きだった。敵に無防備に背中を晒すという致命的な失態を犯したんだ」
さっき、自分の身の上に起きたことを思い出す。
僕の肩に手をおいてあざやかに逆立ちしたヨンイル、サーカスの軽業師めいた芸当で宙で一回転して背後に降り立つ。僕が振り返るまで、攻撃する時間はいくらでもあった。しかしヨンイルは、僕が木刀を拾い上げ振り向くまで攻撃をしかけてこようとしなかった。
いや、もっと奇妙なことがある。
ヨンイルの耳朶に唇を近づけ、低く押し殺した声で囁く。
「ヨンイル、君は当然知っているはずだ。僕は先日背中に怪我をした、図書室で残虐兄弟につかまって彫刻刀で背中を傷付けられた。よもや忘れたとは言わせない、僕の背中を舐めたのはほかならぬ君自身だ。知っていながら、どうして急所を攻撃しなかった?傷が癒えてない肩甲骨を殴るか蹴るかすれば僕を倒すことはたやすい、しかし君はそれをしなかった!」
「せやからそれは」
「手加減したな、手を抜いたな?何故決勝戦で手加減できた、相手が僕だから友情を感じたなどという戯言は聞きたくないし認めない!ヨンイル、君はまだ本領を発揮してない。実力を隠している。なるほどたしかに君は強い、それは認めよう、自分の身をもって味わったのだから認めてやろうじゃないか!
だが、この戦い方は違う。ヨンイル、君は何故ここに来た?何故11歳の若さで東京プリズンに送られてきた?さっき君自身が証言したじゃないか、喧嘩のやり方は東京プリズンで覚えたと。君は外で傷害事件を起こして東京プリズンに送致されたわけじゃない、もっと大それたことをしでかして最年少11歳の若さでこの極東の監獄に入れられた」
そうだ、ヨンイルは僕相手に全然本領を発揮していなかった。僕を傷付けたくないという気遣い故か一方的な友情かはわからないが、ヨンイル本来の戦いぶりはこんなものではない。
ヨンイルは、過去に二千人を殺した史上最悪の爆弾魔だ。
爆弾作りの天才として東京プリズンに収監されたヨンイルが、何故爆弾を使わない?僕はこの目で見た、レイジとサムライが売春班に乗り込んできたときに地階の廊下を混乱に陥れた煙玉はヨンイルが制作したものだ。どうやって材料をかき集めてるかは知らないが、ヨンイルは東京プリズンに収監されて以降も爆弾を作り続けている。
ろくな材料がないため殺傷力は極端に低いだろうが、今でもヨンイルが反省の色なく爆弾を作り続けているのは事実。
五十嵐の娘を殺しておきながら、今でも。
上着の胸ぐらを掴む手が震える。ヨンイルの耳朶が吐息で湿る。僕の吐息。
「ヨンイル、決勝戦の舞台で君が爆弾を使わないはずがない。爆弾は君の最大の取り柄、ならばその取り柄を最大限生かした戦い方をしてこそトップの面目が立つんじゃないか?」
悔しいが、殴る蹴るの喧嘩では僕に勝ち目はない。実際ヨンイルにはまったく歯が立たなかった。
ならば戦い方を変えるまでだ。
僕の武器は舌鋒、相手を挑発して意のままに操る饒舌さだ。僕に胸ぐらを掴まれたヨンイルは、いつになく真面目な顔で矢継ぎ早の説得に聞き入っていた。
ヨンイルの目が、爛々と輝きだしたのを見逃さない。
そうだ、いいぞ、その調子だ。それでこそ道化、西のトップだ。ヨンイルの反応に味をしめしながら、片手で胸ぐらを掴み、もう一方の手で肩を掴み、畳みかける。
「君は過去二千人を殺した爆弾魔、凶悪なテロリストだ。爆弾作りの天才だ。自分が作った爆弾の威力を見せびらかしたくないはずがない、違うか?本当はこんな戦い方は望んでないくせに。相手が僕だからと実力を出し惜しみすることはない、本当は爆弾を使いたくてうずうずしてるんじゃないか?」
僕の言葉に反応し、ヨンイルの指がぴくりと動く。
「祖父譲りの爆弾の威力を試したくて、見せびらかしたくて、我慢できないんじゃないか」
視界の端、金網を両手で掴んだレイジが生唾を嚥下する。地獄耳の彼には会話が聞こえているのだろうか。どちらでもかまわない、これは僕とヨンイルの戦いだ。天才と道化の対決だ、王様の出番はない。
ヨンイルの目をしっかり見据え、断言する。
「さあ、遠慮せずに本領を発揮してみろ。
道化の本気で、僕を楽しませてくれ」
「……かなわんなあ。最初からわかっとったんか」
ヨンイルが笑み崩れる。降参したとでもいうふうな諦観の滲んだ笑顔。
スッとヨンイルの手首が上がり、袖が落ちる。袖の下から現れた手首には、毒々しい暗緑の鱗が移植されていた。
ヨンイルの手が怪しく宙を泳ぎ、僕の首にかかる。
「東京プリズンで漫画っちゅう生き甲斐見つけても爆弾とは縁切れんまま、か」
自嘲的に呟き、苦笑いするヨンイル。だが、双眸には沸沸と闘志が滾りはじめている。
この場に五十嵐がいて会話を聞いてたらどう思うだろう?そんな考えが脳裏をかすめ、慌てて首を振る。
ヨンイルの五指が、僕の首を撫でる。
龍が気炎を吐くように、指の火照りが伝わってくる。
「直ちゃん、ゲームせえへん?」
「ゲーム?」
いやな予感がした。とてつもなくいやな予感。
鸚鵡返しに問うた僕の首に手をやったまま、淡々と呟く。
「このまま直ちゃんをこてんぱんに痛めつけるだけじゃ観客も退屈やろ。最初の段階で勝敗わかりきった勝負ほどつまらんもんはない。だから考えたんや。俺とゲームしようや直ちゃん、地下停留場の観客巻きこんだ派手なゲーム。体力勝負やなくて頭脳勝負なら直ちゃんも実力だせるやろ?このゲームに勝利したら、今度から道化を倒した男名乗ってええわ」
「どんなゲームだ」
「宝さがし」
ヨンイルが尖った犬歯を剥き出し、獰猛に笑う。
そして、道化は提案した。
身の内に宿した龍の狂気に侵されたかの如く、恍惚と熱に浮かされた口調で。
「もしこのリングのどっかに時限爆弾仕掛けたっちゅーたらどないする?」
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