少年プリズン

まさみ

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二百十三話

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 太陽が燦燦と照りつける空の下、今日も今日とてボールを追う。
 レイジ提案のくだらない遊戯に付き合わされはや五日が経過した。次のペア戦まで残り二日というのに何をやってるんだ僕は、と焦りと苛立ちが募る。一方レイジは大人が子供を相手にするようにバスケット初心者の僕を翻弄し、次の試合にそなえてグラウンドを走ろうとか腹筋千回しようとか殊勝な心構えは全然さっぱりないらしい。
 「動きがよくなってきたじゃん」
 「誉められても嬉しくない。微生物に絶賛された気分だ」
 「いや、喜べよ誉めてやってんだから。トロイトロイと思ってたけど五日徹底的にしごいた甲斐あって上達したよ、お前。反射神経よくなってきてんじゃん」
 一対一で僕と対峙したレイジが皮肉げに笑う。完璧に見下して何様のつもりだ貴様、王様がそんなに偉いのか、十五年間バスケットボールにろくに触れたことない僕が汗びっしょりで走りまわる姿がそんなに無様で滑稽かと襟首掴んで問いただしたい衝動に駆られるが馬鹿を相手に怒ってもしょうがないと自制する。 
 コンクリートの中庭にバスケットボールの跳ねる音が響く。
 レイジの手の中で小気味よく弾むバスケットボールに目を凝らし、慎重に足を開き腰を屈めその瞬間に備える。この五日間、くだらないお遊戯に参加させられレイジに翻弄されるうちに次第に呼吸が飲み込めてきた。レイジの動きは異常に素早く、猫科の肉食獣のように敏捷かつ獰猛。右へ左へとフェイントをかけられ息が切れるまで奔走し、不毛に体力を消耗した自覚が生まれるくらいには僕も成長した。 
 あと少しでレイジのボールを奪える。
 予感は確信に近い。初日はレイジの動きに全く付いていけずにボールにさえ触れなかったが、五日間の猛特訓の末、レイジに接近しボールに触れることができるようになった。ほんの一瞬といえど目ざましい進歩だ。
 どうやら僕は意外と負けず嫌いな性格らしい。レイジの指摘を事実と認めるのは不愉快だが、現実にこうしてボールに執着してる。意地でもレイジのボールを奪取してやろうと、汗みずくになり息を荒げ、レイジに隙が生まれる瞬間を虎視眈々と狙っているのだから。
 「いい顔になってきたじゃん」
 ボールを弄びながらレイジがにんまり笑う。無敵の王様の余裕の表情。運動神経抜群でスポーツ万能らしいレイジは体の一部のように自由自在にボールを操る。鞭が撓るようにしなやかで機敏な体捌きと動体視力の限界に近いドリブルには随分と手こずらされた。 
 「きみは相変わらず不愉快な顔だな。たまにはその軽薄な笑顔を慎んだらどうだ、僕だけ大量の汗をかいて呼吸を荒げて必死なさまを露呈して不公平かつ不愉快だ」
 「この顔しかできねーんだよ」
 「可愛げがない」
 もしこの場に第三者がいたら僕が一方的に必死になってるように映るのが明白で不愉快極まりない。少しくらい焦ればレイジも可愛げがあるのに、王様はいつでもどんな時でも飄々とした笑顔を崩さず不敵に構えている。まったく腹立たしい男だ。
 五日間で上達したとはいえ、僕の技量がレイジの足元にも届かない現状では無茶な注文ではあるが。
 「僕とボール遊びしてる暇があるならロンを特訓してやったらどうだ。次のペア戦まであまり時間がないだろう」
 「ロンには特別に鬼コーチを紹介してやった。俺が出る幕ねえよ」
 「わざわざ紹介の労をとったのか、親切だな。しかし随分と回りくどいじゃないか、東京プリズン最強の称号を保持してるくせにコーチは別の人間に頼むのか?理解に苦しむ矛盾した言動だ」
 ありのままの疑問を述べれば、口元の笑みはそのままにレイジの目に複雑な色が過ぎる。
 「いいや、これでいいんだよ。俺はコーチに不向きだから」
 「人を見下して憚らない不遜な男に謙遜などという高等技術ができたのか、意外だな」
 「自称天才の辞書に『謙遜』なんて載ってたのかよ。驚き」
 「僕の辞書は語彙豊富だ、記載されてない言葉などありはしない」
 レイジの揶揄に憤然と返す。無造作にボールを突きながらレイジがさらりと言う。
 「だって、俺がコーチになったら手加減できねーから。手加減忘れてロン殺しちまうかもしれないし、」
 冗談みたいな軽さで物騒な言葉を口走ったレイジに一瞬の隙が生まれた。今だ!レイジの注意がボールから外れた瞬間に助走して地面を跳躍、一気に距離を狭めボールにとびかかる。レイジが気付いた時には遅かった、至近距離に迫った僕にハッとしたレイジが慌てて後退して距離をとろうとしたが、距離が1メートル以上開く前に間合いに踏みこんでボールめがけて手を伸ばす。指の先端がボールの表面に触れ、両の手の平がボールを挟み、しっかりと包み込む。
 やった、取った!
 五日間の猛攻の末やっと、やっとレイジのボールを奪取した歓喜に快哉を叫ぼうとしたのも束の間、一直線に加速してレイジに突っ込んだせいで重心がぐらつき体が前傾。危ない、と思った時には遅く、前傾した上体は制御が利かずにレイジもろとも転倒。下がコンクリートの割には衝撃が弱かったのも道理で、痛みにうめきながら上体を起こした僕の下ではレイジが大の字になっていた。勢い余った僕に押し倒され、背中から転倒したものらしい。 
 レイジが下敷きになったせいで転倒の衝撃が緩和されたのか。
 「い、っててててててて……あーもう何すんだよっ、背中から倒れたからいいようなもの顔からイッてたら一大事だぜ!俺の顔にキズついたら世界中の女が号泣する大損害だ、慰謝料請求するからな」
 「不愉快だから一秒でも早く離れてくれないか。君と接触するとぞっとする」
 「それが白昼堂々、外でひと押し倒して言う台詞かよ」
 「これは事故だ、誤解を招く言い方をするんじゃない。それ以前に僕にも好みがあるし大前提として同性愛者じゃない」
 「俺は体の相性があえばどっちでもいい派だけどお前みたくお高くとまったヤツはタイプじゃないね」
 「見解の一致だな。迅速に離れよう」
 「おおとも、間違いが起こるまえにな」
 言葉とは裏腹に、レイジは無意識に僕の背中に片腕を回していた。何が哀しくて白昼の屋外で男に抱擁されなければならない?背中に回された腕を邪険に払いのけ、レイジの上から素早く退く。膝から重しが除かれたレイジが地面に手をついて上体を起こし、転倒の際、僕の手から落ちたボールを振り返る。
 「Congratulations!やればできる子は好きだぜ」 
 僕へと向き直ったレイジが極上の笑顔で祝福。僕はといえば地面に尻餅をついたまま、手のひらに残るボールの感触を反芻する放心状態からまだ回復してなかった。ほんの一瞬といえど、三秒に満たない時間といえど、レイジの手から実力でボールを奪い取ったのはれっきとした事実。僕が体験した現実。五日前はボールに触れることもできなかったのに、とうとう今日はこの手にしっかりとボールを抱くことができたのだ。
 「バスケットボールのルールを勉強した甲斐があった」
 レイジには聞こえぬよう小声で呟く。一日と欠かさず通う図書室で、いつもは素通りするスポーツ関連書籍の棚で立ち止まり、ルールブックに熱心に目を通したのは秘密だ。外ではバスケットボールなどしたことがなく、東京プリズンに来て生まれて初めてボールに触れたのだから、振りかえれば奇妙な話ではある。
 複雑な感慨に耽る僕の隣、上体を起こしたレイジが突然理解に苦しむ行動をとる。素早く上着を脱ぎ上半身裸になり、その場に大の字に寝転んだのだ。無造作に上着を脱ぎ捨て、日に熱されたコンクリートに仰臥したレイジにぎょっと目を剥けば、上半身裸のレイジがうろんげにこちらを仰ぐ。
 「キーストアも脱がない?汗まみれで気持ち悪くない、それ」
 レイジに顎をしゃくられ上着の胸元を見下ろせば、言われた通り汗でぐっしょり濡れて色が変わっていた。しかし人前で服を脱ぐのは抵抗がある。僕は同性の前だろうが異性の前だろうが平然と裸身を晒せるレイジほど開放的な性格をしてない。
 「僕はこれでいい」
 「ヌードはサムライにしか見せないってか」
 「?どういう意味だ、サムライが裸を見たがったことなど今だかつてないぞ」
 意味不明なことを言う男だ。首を傾げた僕にあきれたふうにかぶりを振り、無防備に四肢を投げてレイジが寝転がる。ボールを奪取するのに全力を尽くし、疲労困憊した僕もレイジを真似て地面に背中を付ける。普段の僕なら地面に寝転がるなどとい行儀の悪い真似は絶対にしないが、場合が場合だ。体力が回復するまでラクな姿勢で休息しても罰はあたらないだろう。そういえば、屋外に寝転がる行為自体が生まれて初めての体験だ。東京プリズンに来てから僕は生まれて初めてのことばかりしている。
 レイジと少し離れた位置に仰臥、呼吸に合わせて胸郭が上下。
 空が高い。
 視界一杯に広がる乾燥した青、乾いた空の色。砂漠よりもなお広く無限に続く空の下、レイジと並んで寝転がった僕は、その場でじっと動かず、無心に空の青さを見つめ呼吸が鎮まるのを待つ。
 空を見つめていると自分が溶けて消えてしまいそうで不安になる。
 レイジに話しかけたのは、だからほんの気まぐれだ。体が粒子に分解され空に吸いこまれそうな不安を解消するための、ただの暇潰し。
 「バスケットボールが上手いな。外で習ったのか」
 「どうでもいいけど長いからバスケって略したら?」
 「何でもかんでも物事を略すのは労を厭う惰弱さの表明だ」
 「……うざいなあお前、そっちのがラクかなってちょっと言ってみただけじゃん。なんでもかんでもお説教しなきゃ気が済まないのかよ。んな性格だからサムライしかトモダチできねーんだよ」
 「質問に答えてない」
 「しつもん?ああ、外で習ったのかってアレか。そう、外で習ったんだよ」 
 「子供の頃からボールに馴染んでいれば上手いはずだな」
 「はは、そりゃ勘違いだ」
 「?」
 さもおかしげにレイジが笑う。地面に背中を預けて笑い声の方に目をやれば、裸の胸に十字架をたらしたレイジが最高の冗談を聞いたとでもいうふうに愉快げに喉を鳴らしていた。過不足なく引き締まった四肢、服を着ているときは華奢に見えたが脱げば綺麗に筋肉が付いているのがわかる。人に見せるために鍛え上げた誇張された筋肉ではない。贅を殺ぎ落とし骨格を研鑚し実戦で引き締めた、強靭かつしなやかなバネを感じさせる精悍な体躯。 
 褐色の肌に薄らと汗をかき、裸の胸に落ちた十字架を手探り、レイジが語る。
 「初めてボールに触れたのは12か3のとき。ガキの頃はボールに触れたこともなかった。どころか、普通のガキみたいな遊びなんて何ひとつ知らなかった。来る日も来る日も人殺しの訓練ばっかで飽き飽き」
 「人殺しの訓練?」
 聞き捨てならない物騒な台詞に眉をひそめれば、十字架を握り締めたレイジが「そ」と相槌を打つ。
 「コーラの空き瓶並べて倒すのだって遊びに見せかけた訓練だよ、的に弾あてる初歩訓練。ガキの頃からそんなのばっかり。暗い部屋に閉じ込められて耳鍛えたり空き瓶撃ち落したり……銃の分解と組み立ても嫌ってほどやらされたな。今でも手先が、指が覚えてる。だからかな、こうやってしょっちゅう何かさわってないと落ち着かない」
 レイジの話に引き込まれ、胸元を這う指を注視。心の奥底の不安をごまかすように落ち着きなく十字架をまさぐる指。レイジは何を話してるんだ?これがレイジの子供時代の記憶?僕はレイジの過去について何も知らない。僕がレイジについて知ってることはフィリピン人とアメリカ人のハーフでフィリピン出身ということくらいだ。それ以外は東京プリズン送致が決定した経緯も何も知らない。
 いつだったか、医務室前の廊下で安田が話した内容を反芻する。
 東京プリズンの極秘機密。東京プリズンは政府に盾突く重罪を犯して祖国に追放された、国際指名手配級犯罪者の流刑地として機能している。
 レイジもまた、何らかの理由で祖国を追われた重犯罪者のひとりなのだろうか。
 レイジの回想は続く。
 懐かしげに目を細め、口元には微笑を添え、過酷で悲惨なばかりの子供時代を語る。
 「いちばん辛かったのは痛みに慣れる訓練」
 「痛みに慣れる訓練?」
 不吉な予感に胸が騒ぐ。レイジは何故笑っているのだろう、笑いながら話せるのだろうという単純な疑問が脳の奥で膨張する。そばで聞いてる僕でさえ耳を塞ぎたい衝動にかられるのに、レイジは本当にさりげなく、淡々と話す。自分の身の上に起きたこととは思えないあっけらかんとした口ぶりで、乾いた笑いさえ交えて話す。
 「くわしくは話さねーよ、胸糞悪い。想像に任せる。……平たく言っちゃえば、官憲とか軍とか万一トチって敵にとっ捕まって拷問されても情報漏らすなよって体に叩き込む訓練。ガキの頃から訓練訓練訓練……いい加減飽き飽きしてた俺にバスケを教えてくれたのが親父代わりのマイケルだ。米軍ドロップアウトしてこっち側にやってきた物好きなオッサンで、自分と同じ名前ってだけでマイケル・ジョーダンを偏愛してた。ドリブルもカッティングもスリーポイントシュートも全部マイケルから教わった」
 レイジの手首が反りかえり、虚空にボールを投げる真似をする。ボールを投擲する動作につられ、十字架の鎖が鎖骨を流れる。胸元に輝く十字架を眺め、声をひそめる。
 「親父代わり、ということは本当の父親は……」
 無粋で不謹慎な質問だ、という自覚はあった。レイジの家族構成について無知な僕は、しかし、好奇心を隠せず控えめに疑問を呈する。レイジはちょっと小首を傾げてみせる。
 「さあな。候補が五人いるから」 
 「五人!?」
 「マリアには父親が誰だかわかってるみてーだけど……あ、マリアって俺のお袋。聖母マリア様みたいなすっげー美人」
 ふと、レイジは母親似なのではないかと思った。僕の視線の先でレイジが一房前髪をつまみ、自嘲的ともとれる笑みを口の端に上らせる。
 陽射しに透ければ金に見える髪は、干した藁にも似た明るい茶髪。東南アジア系黄色人種の特徴、黒髪黒瞳が過半数を占めるフィリピン人には珍しい配色。フィリピンで生まれ育ったならさぞ目立ったろう。
 「俺の髪と目は父親ゆずりなんだって。珍しいだろこの色、茶色にも金色にも見えるどっちつかずの髪の毛。白人の血が混ざってるとこういう色になるんだって。キーストアは頭いいから知ってるよな」
 「……言葉は悪いが、劣性遺伝の法則と似たようなものだな」
 「劣性遺伝、か。傑作だ」
 うまいことを言ったつもりはないが、レイジはくすぐったそうに笑った。肩を揺らし喉仏を震わせ、胸の十字架を日に反射させ、おかしくもないのに笑い転げた。笑いすぎて目に涙さえ浮かべたレイジが、笑みを噛み殺した表情で僕を振り返り、明るく朗らかな声で言う。
 「気付いてる?俺もロンとおんなじなんだよ、お互い憎しみあってる国の血が混ざってるの。何が言いたいかってーと劣性遺伝の雑種でもあいつとおなじなら悪くねーかなって……ほら、お揃いってやつ?」
 「本当にロンが好きなんだな」
 深刻な身の上話から一変、のろけに転じたレイジにあきれて上体を起こす。皮肉をこめて応酬すれば、否定するでもごまかすでもなく、その通りだといわんばかりに得意げな顔で笑う。
 僕がよく見慣れた裏のある笑顔ではなく、いちばん身近の大切なものを誇る笑顔。
 「あいつ、初めて会ったときに大事なこと教えてくれたんだ。当たり前のことを当たり前のように言ってくれたんだ。すっげー大事。俺、ロン好きだよ。あいついいヤツだもん。お節介でお人よしで心配性で負けず嫌いで意地っ張りで、でも根っこじゃ本当にいいヤツなんだ。東西南北のトップ以外じゃあいつだけだ、俺に付き合ってバカやってくれる相手」
 「……そうだな。君のお遊戯に無理矢理付き合わされた僕はその中に入らないな」
 僕の不満を無視し、レイジが立ち上がる。そばに転がったボールに大股に歩み寄り、拾い上げてから体ごと向き直る。ボールを両手に構えたレイジの視線を追えば、遥か30メートル前方にネットがぶら下がっていた。
 馬鹿な、この距離からシュートを決める気か。
 「見てろよキーストア。このボールが一発で入ったら100人抜き達成、俺はロンを抱ける。もし外れたら100人抜き無理無理、俺はロンを抱けない」
 「抱く抱けないはふたりの問題だから関知しないが、100人抜き成るか成らないかには僕とサムライの将来が関わってくる。安易に賭けの対象にしないでくれないか」
 僕の賢明な忠告を聞き入れる気などまったくないレイジは、ボールを抱えた手を慎重に上下させ、ネットとの距離を測る。無茶だ、この長距離から入るわけがない。あきれ顔の僕の視線の先でレイジの胸郭が上下し、人生最大の山場に臨むようにゆっくりと大きく深呼吸。決して敗北が許されない真剣勝負に挑むような気迫のこめようで、ペア戦以上に緊張した面持ちでまっすぐにネットを見つめる。
 そして、僕が固唾を飲んで見守る中。
 レイジが高々と跳躍し、手首が撓り、青空に長大な放物線を描いたボールがネットに落下した。
 『It‘s a miracle!』
 快哉を叫んだレイジが感激のあまり僕にとびついてくる。 
 「見たかキーストアすごいだろ一発だ、すげえすげえ、この距離から一発でシュート決まるなんてついてるぜ、愛してるぜ神様愛してるぜロン!」
 「貴様離れろ、同性に抱擁されて喜ぶ趣味はないぞ!汗臭い肌を密着させるんじゃない、こんなところを第三者に目撃されたら誤解されるだろう!抱きつくならロンにしろ、僕は無関係の他人だ!」
 上半身裸のレイジに抱きつかれて身動きできず、僕は無力にもがくしかない。房に帰ったら即手を洗おう、服を脱いで服も洗おう。レイジを引き剥がそうと青空の下暴れながら、僕は今この場にサムライがいないことに心の底から感謝した。 
 『約束してくれ、直。今後は決して他の男に抱かれないと』
 昨日の今日で約束を破ったら、サムライは激怒する。
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