少年プリズン

まさみ

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百三十九話

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 ひもじい。

 あれからまんじりともせず夜を明かした。またいつタジマが来襲するかわからなくて生きた心地がしなかった、廊下の奥から近付いてくる靴音や嵐のように扉を乱打するノック音やらの幻聴が闇の帳越しに鼓膜を叩いて眠りに落ちたそばから現実に引き上げられた。
 ずっと床に座ってたせいで尻が痛んだがどうしても横になる気はしなかった、無防備に横臥した状態で鉄扉が蹴破られたら即座に対処できずに逃げ遅れてしまう。逃げ遅れたら最後どうなるかわからない。独居房送り?いや、そんな面倒くさいことはせず、俺に一週間も手を焼かされ続けたタジマやその他の看守に取り囲まれてここで殴り殺されるのかもしれない。殴り殺される俺の悲鳴は通気口から全部の房に響くのだろう、俺の断末魔を聞いた鍵屋崎はどんな顔をするだろう。

 ざまあみろ。

 そう思われても仕方ない、俺が看守主導のリンチの末に殺されたとしたら仲間を見殺しにした罰なのだ。さんざん看守の手を焼かせて一週間もろう城を続けてタジマの額をかち割った罰。東京プリズンには死に至るリンチが横行してるから今更死体が増えたところでどうってことはない。処理班の手間が増えるだけ、日常よくある出来事だ。餓死するか殴り殺されるか、どのみち死ぬならささいな違いだ。
 『お前は懲役終わるまで永遠に売春班だ。今決定した』
 俺の懲役は十八年で現在は一年と半年が経過している。残りの懲役は十六年と半年。気の遠くなるほど長い年月で実感が伴わない。俺は今十三歳で、刑務所を出る頃には三十路近くになってる計算だが俺があと十六年と半年生き残れる確証はどこにもない。もし俺が成人して郊外の刑務所に移送されるとしてもそれまで生き延びなけりゃ話にならない。

 俺が成人するまで七年。

 売春班の連中は一週間を境に壊れはじめる。まともな神経なら七日しか続かない仕事に七年間耐え抜くことができるだろうか。答えはすぐにでた、耐え抜けるはずがない。俺がどんなに頑張ろうが性病にかかっちまったらおしまいだ、体から腐り始めてじきに心まで狂気にむしばまれて壊れてく。
 畜生、お袋とおなじ末路だけは辿りたくなかったのに。
 あの日、十一月の寒空の下、舞い散る雪を見上げながらそう誓ったのに。
 俺は男だから自分の身くらい自分で守るって、男に依存しなきゃ生きられないお袋みたいにはなるもんかって固く決意したのに俺はこれから七年もお袋とおなじ仕事をさせられるのか。何があっても絶対に体だけは売るもんかと心に決めたのになんで刑務所に来てこんな目に遭うんだ、なんで刑務所に売春班なんてもんがあるんだよ?だれが好きでもない男に抱かれたいもんか、無理矢理犯されて嬉しいもんか。男が男に犯されて何が嬉しいんだ、何も嬉しくなんかねえ、痛くて苦しくて辛いだけだ、いっそ死んだほうがマシな毎日が延延とくりかえされるだけだ。
 目を閉じて思い出すのはお袋がよがる姿、寝台の上で絡み合う男女の裸体、薄暗い部屋にたちこめる生臭い交わりの臭気。俺は物心ついた頃からずっとお袋の喘ぎ声を聞いて育った、気まぐれで外に出されなかったときも客と入れ違いに外に追い出されたときもやってたことは同じだ、こうやってぴたりと耳をふさいで音を密封して身を竦めて一刻も早く終わってくれますようにと願うだけだ。
 俺を追い出す暇もなく服を剥がれたお袋が寝台に押し倒された時はひんやりと尻に冷たい板張りの床にうずくまって、お袋に腕を掴まれて外廊下に放り出されたときはペンキが剥げてみすぼらしい地金を晒した合板のドアに背中をよりかからせて俺はいっつもこうして耳をふさいでいた、耳に蓋をしてお袋の喘ぎ声を聞かなくてもいいようにして必死に耐えていた。俺はあの時から全然成長してない、図体ばっかでかくなって喧嘩が強くなって女の体を知ったからってそれがなんだ?俺はあの寒々しい廊下に心を置き去りにしてきたまま、決して開くことがないドアの前で、お袋に迎え入れられることがないドアの前で途方に暮れて立ち竦んでるガキのまま一個も成長してない。

 そして今、俺の目の前にはドアがある。あの時とおなじ、開かないドアが。

 だがあの時とは状況が違う、俺がいるのはドアの内側だ。
 扉を封鎖して一週間も中に閉じこもってタジマをやきもきさせてるのは「俺」なのだ。 俺が降参すればすべて片がつくと頭じゃわかっている。ベッドをどかして扉を開けて見張りの看守に泣きつけば、「俺が悪かったから許してください、なんでもするから独居房送りだけは勘弁してください」と膝にしがみついて頼みこめばいいんだ。いや、根性悪のタジマがその程度で許してくれるはずがない。「俺が悪かったから、もう好き放題突っこんで揺すってくれていいから、顎ががたがたになるまでくわえさせていいからお願いだから殺さないで下さい」と廊下に額をこすりつけて土下座すればタジマも一片の慈悲をたれてくれるかもしれない、にやにや笑いながらベルトを緩めてジッパーを引き下げてズボンの前を寛げて「今ここでしゃぶれば許してやるよ」と言うかもしれない。塩辛い涙と鼻水に咽ながら廊下に跪き、あいつの腐れペニスを喉の奥までくわえこめばひょっとしたら、もしかしたら独居房行きは免れるかもしれない。

 『しゃぶる』?どうやって?

 俺は男のモンなんかしゃぶったことないからやり方なんかわからない、どうやれば相手が満足するのかもわからない。舌はどうやって動かせばいいんだ、どのくらい深くくわえこめばいいんだ、吐きそうになったらどうすればいいんだ?
 思い出せ。お袋はどうしてた?
 今まで何十人もの客を股ぐらにくわえこんできたお袋なら男のイカせ方も心得てるはずだ。どんなふうにしごいてどんなふうに口を開ければ、顎の角度から指の絡め方から舌の使い方に至るまで娼婦の基本のすべて……

 『本当に使えないわ、あの子。女の子ならよかったのに、そしたら客とらせることもできたのに……』
 『男だってできないこたないだろ?』
 『特殊な環境と資質がそろわなきゃ無理よ』

 特殊な環境と資質、か。笑えてくる。資質のほうは未知数だが特殊な環境はばっちり整ってる。もしあの時素直にヤられてたら、躍起になって暴れて抵抗したりせずにお袋の身代わりに抱かれてたら男が男に抱かれる現実を諦観したふりで割り切れたのだろうか?簡単に割り切れりゃ苦労はしないと俺だってそう思う、でも駄目だ、どうしても駄目なんだ。耳には通気口に響き渡った悲鳴がこびりついてる、爪が剥がれるほどにシーツを掻き毟って蒼白の肌を鳥肌立たせて激痛から逃れようと身をよじり、身をよじればよじるほどに接合が深くなり肛門に裂傷が生じ、もがけばもがくほどに深みに嵌まって抜け出せなくなってゆく悪循環に陥ったガキの断末魔が耳にこびりついて今だに離れないのだ。
 思考が支離滅裂だ。ヤられたくなくてこうやって閉じこもってるはずが独居房送りを免れたい一心でしゃぶってもいいかもなんて、しゃぶるだけで済むならずっとマシだ、ヤられるよりずっとマシじゃないかと決心が揺らぎだしている。いや、待て、「しゃぶるだけで済む」はずがない。観念してここから出てったら遅かれ早かれヤられるに決まってるんだ、やっぱり駄目だ、ここを出てくわけにはいかない。

 ああもう、わからない。ヤられたいのかよ、ヤられたくないのかよ?

 自分の優柔不断さが情けなくなってくる。ヤられるのがいやでいやで一週間も閉じこもってたのに独居房送りの脅しにびびってのこのこ出てったら本末転倒だ。よし、俺がどうしたいのかもう一度心を冷静に落ち着かせて考えてみよう。俺は男で、男に抱かれるのは絶対にお断りで、好きでもない男になんか絶対に……

 『ロンさ、いつでもいいけどできればなるべく早く、本音言うと今すぐ抱かせてくれない?』

 「だからなんで思い出すんだよ!!」
 やばい、相当きてる。
 はげしくかぶりを振って瞼の裏側にちらつきだしたレイジの笑顔を追い払う。好きでもない男になんか抱かれたくない、いや、てことは好きな男となら問題ないのか?違う違う違う、俺が男なんか好きになるわけねえ。だからその仮定は無意味だ、だまされるなだまされるな。レイジのことなんか大嫌いだ、レイジに抱かれてるとこなんて想像したくない。
 俺がこんなくだらないことばっか考えちまうのは腹が減ってるからだ。昨夜から何も食べてない、水一滴飲んでない。食料は余るほどある、そこらじゅうにごろごろ転がってる。レイジが持ってきてくれた缶詰だ。床一面に足の踏み場もないほど散乱した缶詰を物欲しげに見渡して嘆息する。
 缶きりがないんじゃ開けられねえ。
 俺も馬鹿だけどレイジも馬鹿だ、なんだって缶詰しか持ってこないんだ?レイジに文句を言いたいのは山々だが今この場にいない本人を責めても仕方ないと思考を前向きに切り替える。傍らに転がってた缶詰を試しに手に取り、銀の光沢の底を齧ってみる。
 固い。金属の味がする。
 缶詰に歯を突きたて、顎の角度をせわしく変えて蓋をこじ開けようと奮闘するが遂には顎が疲れて努力も無に帰す。底には歯型がついて多少へこんでいたが俺の顎の力じゃ金属の缶を食い破るのは無理だったようだ。むなしい努力に嫌気がさし、息を切らして缶詰を放り出す。馬鹿なことやったせいでますます腹が減った。喉が渇いた、水が飲みたい。這うように洗面台に行ってのろのろ腕をのばして蛇口を緩めれば、既に全開になっているのに水道水が枯渇して水が一滴もでない現実に直面する。
 「……やってみただけだ」
 水道を止められてることを忘れてたわけじゃない。ひょっとして、もしかしたらと淡い希望を抱いて挑戦してみただけだ。だれも聞いてないのに言い訳がましく呟いて蛇口に置いた右手に目をやれば手の甲に真新しい火傷ができていた。
 昨夜、タジマに煙草を押し付けられた痕だ。
 焦げ臭い匂いを嗅いだ気がして鼻腔をひくつかせる。ひりひりと疼く右手の甲に顔を近付けて匂いを嗅ぐ……どうやら気のせいだったようだ。水で冷やすこともできなかったせいで一夜明けた今はひどく腫れてる。たぶん、一生痕が残るだろう。蛇口を捻ったり眠い目を擦ったりするたびに手の甲の火傷が目に入り、こいつをつけられたときの想像を絶する熱と痛み、とタジマのにやけ面とを連想する羽目になるのかと思うと本当にうんざりする。
 まあ、手の甲のが皮が厚いぶん脇腹よりマシだった。
 洗面台によりかかり、シャツの上から脇腹に触れる。こいつをつけられたときは本当に洒落にならないくらい熱かった……
 隣の部屋で扉が開く音。
 鍵屋崎のところに客が来た。背中が緊張する。この六日間繰り返し行われてきたことなのに未だに慣れない、扉が開く音を聞くたびに体が過剰反応してしまう。硬直した足をぎくしゃく操って通気口から離れる、できるだけ離れる。あとじさるように通気口と距離をとって扉のところまで避難する。
 今日はまだ鍵屋崎の声を聞いてない。
 俺から話しかけるのは正直気後れした。鍵屋崎が衰弱してるのは日に日に弱まってく声からも手に取るようにわかったし、体が辛いのに無理に話しかけるのも酷だと遠慮してたのだ。いや、厳密には声を聞いてないわけではない。ただ、通気口の闇を伝わってもれてきた声は意味を持った言葉というよりは苦鳴とか喘鳴に近くて、後ろ髪を掴まれて水の中に頭を突っ込まれてたやつが顔を引き起こされ、気道を解放された束の間に酸素を欲して喘いでるような苦しげな声なのだ。
 ああ、溺れてるんだな。
 熱に溺れシーツに溺れ快楽に溺れ、酸素不足の頭が快感にしびれはじめた声が通気口の奥で猥雑に交わって殷殷とこだまする。苦痛と快感の境界線が曖昧に溶け出して、男を受け入れるのに慣れた体がベッドで弓なりに撓り、強張り、痙攣し、すべてが終わったあとには白濁した精液にまみれてぐったりと弛緩する。
 自分の想像力を呪ってはげしくかぶりを振れば扉越しに物音が聞こえてくる。 
 「?」
 レイジが来たのだろうか?
 足音にも気付かなかった。腕に力を入れて少しだけベッドをどかし、慎重に押し開いた隙間に片目をくっつける。 

 目の前に紙袋入りの肉粽(ロウズォン)がある。 

 「………」
 首をひっこめ静かに扉を閉じる。再び開ける。肉粽は扉を閉める前と同じくそこにあった、何の変哲もない紙袋にいれられて廊下の真ん中に無造作に置かれていた。目を擦る。瞬き。しつこく目を擦る。開く。何度瞬きしても消えない、ということは空腹が見せた幻覚じゃない。紙袋からは食欲を昂進させる香ばしい匂いがたちのぼってる、東京プリズンにきてからとんとご無沙汰だったこんがりした醤油の匂い。
 俺が11の時路地裏で猫に投げ与えて食い損ねてそのことを夢の中でまで後悔してた好物の肉粽が今、手を伸ばせばすぐに届く目の前の廊下にある。
 待て、待て待て冷静になれ。なんで俺があの時食い損ねた肉粽が時を超えて廊下に出現してるんだ、忽然と。そんな馬鹿げたことあってたまるか、ここにこうやって紙袋入りの肉粽が置き去りにされてるってことは持ち運んできたやつがいるからで、そいつは俺の好物が肉粽だってことをちゃんと知ってる人間で、いつだったか俺が好物の料理を打ち明けた……
 『牛楠飯(ニョウナンファン)炒麺(ツァオミエン)生薊包(センチエンパオ)控肉飯(コンロウファン)貢丸湯(コンワンタン)……ああ、肉粽(ロウズォン)が食いてえ』
 そうだ、もう随分昔のことに思えるが俺がこうやって頑固にろう城して食堂に足を運ばなくなる前、不味い飯に愚痴をこぼしながら今食べたい料理を思いつくまま列挙してったことがある。好物を指折りかぞえて悲嘆に暮れる俺をにやにや笑いながら眺めていたのは……

 レイジ。

 「レイジが持ってきてくれたのか?」
 そうとしか考えられない、俺の好物を知ってるのはあの時あの場にいたレイジ以外に考えられない。
 『何で缶詰ばっかなんだよ、桃缶鯖缶……アボカド缶?ぜってーまずいよコレ』
 昨日缶詰片手に抗議したから奴なりに気を利かせて好物を差し入れてくれたのだ。それで納得がいったが、肝心のレイジの姿が見えないのはどうしてだ?レイジは意地が悪いから意地汚さ全開で俺が紙袋をひったくるのをどっかそのへんに隠れてにやにやしながら眺めてるのかもしれない。いや、ひょっとしたら俺の好物を手に入れたはいいが直接渡すのは照れくさくて帰っちまったのかもしれない。後者なら廊下を見渡してみてもさっぱり気配がないのが頷ける。
 呑気に状況分析してる場合じゃない。
 ぐずぐずしてたらまた野良猫にかすめとられてしまうかもしれない。
 同じ過ちは繰り返したくない、このままじゃ俺は確実に餓死してしまう。さあ早く手を伸ばせ扉を開けろ、ほらあとちょっとで手が届くぞ、紙袋に手が触れるぞ。耳元でだれかがけしかける。このまま放っといたら看守に持ち去られて片付けられちまう、冗談じゃねえ、食い物を粗末にしたら罰が当たる。今この機を逃す手はない、ほら、もうちょっと手が届きそうなんだ。レイジがせっかく持ってきてくれたんだ、冷めちまわないうちに有り難くいただこう。
 紙袋にぎりぎりまで伸ばした指先が触れ、乾いた音が鳴る。
 紙袋からたちのぼり廊下に充満してゆく匂いに誘われて扉を少しずつ押し広げてゆく、隙間の面積が徐徐に広く大きくなって廊下にぶらさがってる蛍光灯の光が射しこんできて緩慢に扉が開いていって、手首から肘が、肘から肩が、遂には上半身が完全に廊下に出る。廊下に片膝乗り出し均衡を崩して膝這いになる、もう俺には紙袋しか見えてない、他の物は目に映っても知覚できない。
 空腹は人をおかしくさせる、理性に基づいた正常な判断をできなくさせる。
 いつもはちゃんと見えてるものが見えなくなって聞こえてるものが聞こえなくなって靴音の接近にも気付かなくて口の中には大量の唾液が湧いて、よく考えればおかしいのに、よく考えなくても絶対おかしいのに。
 
 『おまえが俺の顔見たくなくても俺はおまえの顔が見たいんだよ、いやなら力づくでこじ開けるぜ』
 俺の顔が見たくて腕づくで扉を押し開けたレイジが、俺の顔を見もせずに食料だけ置き去りにしてくわけないのに。

 そして俺は、膝這いに身を乗り出して紙袋を掴み。
 背後ではベッドの重しを取り除かれた扉が錆びた軋り音をあげて傾ぎ、

 「つかまえた」
  
 凄まじい力で後ろ襟を掴まれ後ろに引かれ、胸に抱いた紙袋からこぼれおちた肉粽が宙を舞って、ああもったいねえ、猫なんかにくれてやるもんかと蛍光灯が吊られた天井に手をのばしてむなしくもがきながら後ろ向きに倒れ、
 轟音をたてて扉が閉じた。
 後ろ襟を掴まれ引きずり戻された俺の目の前、固く閉ざされた扉から背後に目を転じる。 
 タジマがいた。
 笑っていた。額に真新しいガーゼを貼ったタジマがそれはもう嬉しそうに、目には暗い狂熱を湛え。
 「躾のなってねえ野良をつかまえる方法知ってるか?『餌』で釣るんだよ」
 懐の紙袋が叩き落され肉粽が床に散らばる、ああ、この光景前にも見たことがある。アパートに帰ってきて早々お袋とお袋の客とハチ合わせてこうやって紙袋を叩き落されて廊下に散らばった肉粽が踏み潰されて、
 俺が見ている前で。
 あの時とおなじだ、なにもかも。タジマの靴裏で肉粽が踏み潰され床に米がへばりついて、俺はこうやって腕を掴まれて強引に立たされて引きずられて物みたいにベッドに投げ出されて。
 抵抗しようとしたら手首を一本にまとめられる形で頭上に拘束され、股間を蹴り上げようとしたら胴に馬乗りになられて動きを封じられ、天井の明かりを背にしてどす黒い影が落ちたタジマの顔が鼻先に迫ってきて。

 「突っこむ穴がちがうだけでヤるこた一緒だ。じっとしてろ、裂けたくねえだろ」
 『なあに突っこむ穴がちがうだけでヤるこた一緒だ、大人しくじっとしてりゃいいんだよ』

 後ろにまわされた手が薄い尻を猥褻にまさぐり、ぐいとズボンを引きずりおろしにかかる。
 はは。
 本当に、何から何まであの時と同じだ。くそったれ。
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