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九十話
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毛布にくるまり、静寂に耳をそばだてる。
靴音の威圧的な響きが次第に大きくなり扉の前で最高点に達し、また遠ざかる。息をひそめ、看守の靴音が完全に消滅するのを待つ。靴音の余韻が完全に暗闇に呑まれてから毛布を持ち上げ、スニーカーに素足を潜り込ませる。毛布に手をかけたまま隣のベッドを見る。サムライはよく寝ている、僕が起きだしたのにも気付かない。もしくは気付いていて無視しているのか。
どちらでもいい。
サムライが寝たふりをしてようがかまわない、どうせ昨夜から一言も言葉を交わしてないのだ。どころか、僕とはもう目も合わせようとしない。僕は踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまった、サムライが最も踏み込まれたくない領域を土足で踏み荒らしてしまったのだ。
多分、これから何があってもサムライは僕を助けてくれない。
自業自得だ。これが僕が望んだ結果だ。サムライに助けられるのはいやだった、自分がひとりじゃなにもできない無力な人間だと思い知らされるようで、恵の兄たる資格を剥奪されるようで。今度強姦されかけたら放ってほしいというのは誓って真実、嘘偽りざる本音だ。もうサムライの力などあてにしない、僕は僕の力で、この天才的な頭脳の閃きで必ずや窮地を切り抜けてやる。
それなのに、少し胸が痛いのは何故だろう。
自己嫌悪?感傷?……くだらない。そんな感情僕には存在しない、今の僕に必要ない。そんなものにかかずりあっている余裕はないのだ、これっぽっちも。スニーカーを履き、房の真ん中に立つ。周囲を注意深く見渡してから鉄扉に歩み寄り、錠を上げる。
カチャン。
軽い手応え、金属音。
軋り音をたてないよう、肩で押すようにして鉄扉を開く。廊下は無人。天井の蛍光灯だけが白々と輝いている。陰鬱なコンクリートの廊下を歩き、路地へと逸れる。エレベーターは使わない。エレベーターには監視カメラが設置されている、消灯時間を過ぎても出歩いてる姿を撮られたらまずい。殆ど存在を忘れ去られている死角の階段を使い、地下に降りる。
当たり前の話だが、僕の房がある階より地下のほうが気温が低かった。コンクリートで出来た巨大な棺桶の中にいるような肌寒さ。廊下を何度か曲がりゆるやかな勾配のスロープを出れば、突如目の前に巨大な空間がひらける。
東京プリズンの地下にある広面積の駐車場。
大勢の囚人を各仕事場へと運ぶバスで朝夕混雑しているコンコースも今は人けがなく、閑散と静まり返っている。囚人を目的地に運ぶ役目を終えたバスは車庫にしまわれているはずだ。したがって、深夜のコンコースには視界を塞ぐ遮蔽物など何もない。コンクリートの平面に幾何学的な白線を引いた空虚な空間が寒々と存在しているだけだ。
地面に目を落とす。
50メートル間隔で点在するマンホールのうち、一つだけ蓋がずれている。仄暗い暗渠を覗かせた円盤に歩み寄り、地面に片ひざついて中を覗きこむ。なにも見えない、中に人がいるのかもわからない。
リョウは先に来ているのだろうか。
そこまで考え、リョウの言葉を真に受けてのこのこここに来てしまった自分の愚かさに苦笑する。サムライと僕の関係はもう修復不能だ。僕はサムライに軽蔑された、触れてはいけないものに触れてしまった。
『なえ』は過去にサムライが愛した女性だった。
その事実は疑うべくもない。なえの名を語るときサムライは男の顔をしていた。焦燥に揉まれ苦しむ男の顔、本気で人を恋したことがある人間の顔。
だが、『なえ』は既にこの世にない。首を吊って死んでしまったのだ。
サムライはそれ以上のことは語らなかったが、彼の言葉の断片をつなぎあわせて推理するになえの自殺の原因にサムライは深く関係しているらしい。そして、今でも自分を責めている。責め続けている。
興味本位で『なえ』の名に触れた僕をサムライは絶対に許さないだろう。
僕が彼の立場だったら絶対に許せない。許せるわけがない。
それなのに、僕はまだ諦めきれない。まだ心の底ではサムライのことを知りたがっている、知りたいと叫んでいる。動悸の全貌を知りたい、サムライの素顔が、なえのことが知りたい。何故だ?わからない。サムライはただのモルモットだ、ただの観察対象、東京プリズンでの単調な毎日を紛らわせるための観察対象に過ぎないのに、何故、たかがモルモットの言動にこんなに振り回されてるんだ?
サムライと対等になりたいから僕は手紙を見るのをやめた。
それだっておかしいのだ、何故ぼくはサムライと対等になりたいと思ったりしたのだ?サムライはモルモットだろう、モルモットと観察者、どちらが優位な立場かは歴然としてるはずだ。
それなのに僕は、サムライに引け目を感じてる?
サムライの方が上だと、そう思っているのか?
……ぐだぐだ考えていても始まらない。ここまで来てしまったんだ、いまさら引き返せない。リョウはサムライの本名を知っていた、僕が知らないサムライの名前の読み方まで知っていた。帯刀 貢。貢いだ刀を帯びる。なるほど、これ以上なくサムライにふさわしい名前だ。名は体を現すという日本古来の言霊信仰を信じたくもなる。
マンホールの蓋を持ち上げ、腕に力をこめる。もとから外れていた円盤はずるずるとコンクリートを擦って移動し、ひっくりかえって鈍い音を立てた。
僕の目の前に口をあけているのは黒い穴。垂直の空洞。
「………」
緊張が高まる。そっとズボンのポケットを押さえ、覚悟を決める。手探りで壁をさぐり、作業用梯子の柄を握る。梯子の最上段に片足をかけ、慎重に降りる。明かりが届くようマンホールの蓋は開けたままだ。こんな非常識な時間に駐車場に出てくる看守もいないだろう。気を抜いた瞬間に足が滑って転落しそうになるのを梯子の柄をしっかり掴んで堪え、用心深く梯子を降りる。
ようやく下水道に到達した。
スニーカーの靴底が硬い地面を踏んで安堵したのも束の間、周囲に漂う異臭におもわず鼻を塞ぐ。下水道という特殊な環境のせいか、換気が行き届いてない地下水路には黴臭い異臭を孕んだ湿気と冷気が充満していた。しかし思ったより匂いが酷くないのはこの下水道が汚物などの生活排水を運ぶものではなく雨水を運ぶ雨水管だからだろう。
東京プリズンの地下には都心から引かれた下水道が心臓周辺の血管のように緻密に巡らされている。複雑な路線図を描いて縦横に交錯した下水道は迷宮の如く支流と本流が入り組んでおり、ひとたび探索気分で奥へと踏みこめばブルーワークの囚人でも遭難してしまう危険性があるそうだ。
僕は方向音痴ではないが、あまり奥へと踏み込みたくはないものだ。
上を見上げる。遥か頭上、天井に開いた穴から降り注ぐのは一条の光。駐車場の壁に設置された保安点検用のランプの赤光が細々と漏れ行ってくるのだ。下水道に立ち、あたりを見回す。壁に設置されているのは同じく保安点検用のランプだが、こちらは白。が、最低30メートルの間隔を空けて連なっているためにお世辞にも視界が効くとはいえない。
リョウはどこだろう。
先に来ているはずだが姿が見当たらない。ひとを驚かすのが好きな彼のことだ、突然背後から飛び出して僕を驚かす魂胆だろうか?生憎だがそうはいかない、この僕にかぎってそんな醜態をさらすわけがない。もしくは奥に潜んでいるのだろうか、突然目の前に飛び出して僕を驚かす算段だろうか。
前後左右を注意深く見回しながら、下水道の奥へと足を進める。一歩足を進めるごとに針で突いたような頭上の穴から漏れ入る明かりは遠ざかり、視界が暗くなってゆく。
10メートル、30メートル、50メートル……変化はない。
天井から落ちた水滴がコンクリートを叩く音だけがむなしく響く。地面はじっとりと湿っている、歩道のすぐそばを轟々と音をたてて流れているのは横幅8メートルはあろうかという下水路だ。水量はさほど多くないが、それでも僕の腰あたりまではあるだろう。
殆ど反射的に、今日、イエローワークの強制労働中に見た雲の動きを思い出す。
今日の雲の流れはやけに早かった、気のせいか湿度も通常より高く、じっと立っているだけでも服の中が蒸した。シャベルの手を休めて遥か砂漠の彼方を見上げれば厚い雲の層が被さっていた。
都心には豪雨が来そうだ。
日中は死ぬほど暑く、夜はひどく冷えこむ東京プリズンには雨が降ることがない。ごく稀に都心から流れてきた雨雲がスコールを降らせることがあるが、それ以外は梅雨でも滅多に雨が降らない。だから都心の天候には知らず知らずのうちに関心が薄れていったがー
足音。
「リョウか?」
下水道に殷殷と反響する靴音。誰何の声に返事はない。悪ふざけにも程がある、自分から呼び出しておいて……腹立たしくなり、もう一度、声を荒げてリョウを呼ぼうとしたとき。
衝撃。
後頭部に焼けるような激痛。
何者かに背後から襲撃されたと知覚するよりはやく体が傾ぎ、前のめりに倒れる。否、正確には三人がかりで押し倒されたのだ。何が起きたのか咄嗟にわからなかったのは激痛で頭が朦朧としてたからだ、正常な判断力が回復するにはさらに三秒を要した。
背中が重い。
首を捻り、不自由な姿勢で振り返る。背中に誰かが馬乗りになり、僕の手を後ろ手に掴んでいる。さらにその後ろ、僕の足を掴んで身動きを封じている少年がひとりー……いや、ふたり。
ようやく暗闇に目が慣れてきた。
瞬き。背中に跨った人物に目を凝らす。どこかで見たことのある顔だ。一体どこで――――
「本当に来た」
はしゃいだ声に顔を上げる。下水道の奥、不気味に湿った暗闇から歩みだしてきたのは人懐こい顔をした赤毛の少年……リョウだ。
「ね?僕が言ったとおりでしょ」
にこにこしながらリョウが声をかけた方角を仰げば、汚い金髪の少年が立っていた。
知っている。今、はっきりと記憶がよみがえった。一昨日駐車場でサムライに挑んで、あえなく惨敗した少年ではないか。僕の両足を押さえ込んでいる仲間にも見覚えがある、気絶した少年をひきずって逃げるように退散した少年たちだ。
「よう親殺し。いいカッコだな」
僕の前に屈みこんだ少年がヤニ臭い歯を剥いてせせら笑う。
「……何の真似だ?」
「まだわからないの?きみってやっぱ学習能力ないねえ、監視塔のときとおなじだよ」
頭上から声がする。リョウが僕を見下ろして笑ってる。
「おとりだよ。きみ、サムライをおびきだすおとりにされたんだ」
そんなことだろうと思った。
別に驚かなかった。リョウの短絡的思考や底の浅い企みなどある程度予期していた、それでも僕が下水道に足を運んだのは確信があったからだ。
サムライが助けにこないという確信。
「ブラックワークの件か?」
「ご名答。さすがに頭は悪くないね」
リョウが顎をしゃくり、周囲の少年たちを見回す。
「ブラックワークペア戦開始の噂はいくら流行に疎いきみでも知ってるよね。彼らはサムライをご所望なんだ、正しくは彼らのリーダーがだけど。そこの金髪の彼ね。きみは知らないみたいだけど、水面下でのサムライ争奪戦は日に日にはげしくなってる。そりゃそうだ、サムライを勝ち取った者がブラックワークを制すってのがおおかたの予想だからね。サムライさえ味方につけりゃレイジとだって互角に戦える、いや、ひょっとしたら下克上できるかもしれない。なんたってサムライはレイジと拮抗する実力者、実際剣の勝負だったらサムライに勝てる奴はいない」
リョウがにっこりと微笑む。
「レイジでもね」
「僕をおとりにしてサムライを参戦させようという魂胆か」
「またまたご名答」
「低脳だな」
おもわず本音が出た。
「低脳」と断定された少年たちの顔が怒りにサッと紅潮するのを睨み、続ける。
「なにか勘違いしてるようだが、サムライが僕を助けにくるわけがない。僕らはそもそも友人でもなんでもないんだ、彼が僕を助けに来る理由がさっぱり見当たらない。そうする利益もない」
「来るよ。絶対来る」
僕の主張を打ち消すようにリョウが断言。自分の言うことに間違いはないと確信している顔。
「サムライは絶対来る、アイツはそういう奴だから。たとえ痴話喧嘩中だって関係ないね、相棒のピンチには何をおいても駆けつけるのが今の時代に生き残るホンモノの武士だ」
「来ないと言ってるだろう」
「来る」
「来ない」
「来る」
「来ない」
「頑固だね」
「お互い様だ」
「来ないなら来させるまでだよ」
僕の傍らに屈みこんだリョウが顎に手をかけ、強引に上向ける。顎を振って手を払おうとしたが無駄だった。五指に力をこめて顎を掴まれ、逃れることができない。
「手紙のこと覚えてる?」
頬に頬を密着させるように僕の耳朶にささやくリョウ。
「きみが破り捨てたママからの手紙。僕がたのしみにしてた手紙」
「…………ああ」
「後悔してる?」
「………………」
「謝って?」
「嫌だ」
「謝ってよ」
「謝るのはそちらだろう」
顎を掴む握力が増す。下顎の激痛に顔をしかめたくなるのを堪え務めて冷静に指摘する。怪訝な顔のリョウに畳み掛けるように言う。
「僕は自分が悪いと思ってないことまでみだりに謝罪するような人間じゃない。恵を侮辱したことを謝罪するなら君に謝ってやってもいい、君の事は正直大嫌いだが君の母親にはすまないことをしたと多少は思わないでもないからな」
リョウの顔色が変わった。
人懐こい愛想笑いが薄れ、スッと表情がなくなる。
「そっか」
再びリョウの唇に湧き上がったのは淫らな笑み。
唇の端をこの上なく楽しげに吊り上げたリョウが片手に僕の顎を掴み、片手でポケットから何か、光る物を取り出す。リョウの手に目を凝らす。
針金だ。リョウが鍵を開けるのに用いるあの針金、先端が鋭く尖った凶器。
「なにを」
舌が喉にはりついて声がもれるのを塞いでいる。苦労して唾を飲み下し、喉から舌を引きはがす。
「なにをする気なんだ?」
その針金で。鋭い金属で。
「歯医者さんごっこ」
にんまりと笑ったリョウが前触れなく僕の口の中に指をいれ、口腔の粘膜を揉み始める。強烈な吐き気、喉を圧迫する異物感。それまで顎を掴んでいた三本の指が口腔にもぐりこみばらばらに動き始める。前歯の裏側を撫で、舌の先端を掴み、かと思えば喉奥まで手を突っ込んで舌の根元を押さえる。奥歯の窪みを押していた指がスッと離れ、上顎の形状をたしかめるように動く。
吐きそうだ。
気持が悪い。
舌を押さえられているためうまく唾が飲み込めず、大量の唾液が喉に逆流してはげしく咳き込む。窒息。リョウはなにを考えてるんだ、気持ち悪い、苦しい、はやくはやく抜いてくれ――――――
僕の願いが通じたのだろうか、口腔の粘膜をさぐるのに飽きたらしい指が唾液の糸を引き、名残惜しげに引き抜かれる。
「ちゃんと口開いてないと危ないよ」
耳元でささやかれた台詞にぎょっとする。
針金を右手に持ったリョウがちらりと背後の少年たちに目配せし拘束を固める。肉厚の手で後頭部を押さえ込まれ両足をがっちりと固定される。
徐徐に、徐徐に目の前に近づいてくる針金。鋭い先端が輝きを増す。
「おっと、間違えた。さすがにこっちはまずいね、一生汁物が飲めなくなる」
リョウの手の中で針金が一回転、錐揉み状に捻れた先端ではなく、荒削りな後尻が向けられる。が、こちらも十分に鋭い。
「…………!っあぐ、」
ガチャリ、金属を噛む感触。
アルミホイルを噛んだときに起きるのとよく似た現象が口内で発生し、静電気に似た激痛が歯の根を突き刺す。僕の口の中に針金を突っ込んだリョウが目に笑みを浮かべながらカチャカチャと粘膜をひっかく。口の中を手荒くかき回され歯茎が傷つく。出血。舌の上に錆びた鉄の味が広がる。
痛い。
痛い、なんて言葉では説明できない語彙を凌駕する痛み痛理性が蒸発する痛、やめろ、血の味、まずい、痛い、まず痛い―
「口の中綺麗だね」
リョウの顔がかすんでいる。
最初、メガネが水蒸気で曇っているのかと思ったが実際は違った。涙。生理的な涙が目にたまり、視界が朦朧とかすんで見えたのだ。
「そのへんにしとけよ」
針金が乱暴に引き抜かれる。
口の中を満たす血の味、嘔吐感にむせながら顔を上げる。ぼやけた目に映ったのはリョウを覗きこむ金髪の少年。
「口が使い物にならなくなったら楽しみが減るじゃねえか」
少年は笑っていた。リョウも笑っている。この場の全員が笑っている。
僕以外の全員が。
「そうだね」
咳き込んだ拍子に液体が一筋口の端を伝う感覚。僕の口の端から垂れた血を親指ですくい、リョウがほほえむ。まだ終わりじゃない、これはほんの始まりに過ぎない。そう宣告するような笑顔。
「快感に喘ぐ顔と苦痛に歪む顔って似てない?」
耳元でリョウがささやく。
「ぼく両方の違いがよくわかんないんだよね。きみはどう?不感症って痛み苦しみも感じないのかな。そんなことないよね、口に針金突っ込まれてたときすごい苦しそうだったもの。……てことはセックスの快感は駄目でも肉体的な苦痛はちゃんと感じるんだ」
僕の顎から手をはなしたリョウがスッと立ち上がり、金髪の少年に目配せ。下水道の隅に跳んでいった金髪の少年が何かを蹴りながら戻ってくる。
「メガネくんの場合、自分が気持ちよくなるのは無理でも相手を気持ちよくさせることはできるでしょう。だから選ばせてあげる」
「なにを………」
する気なんだ?続く言葉は喉にひっかかって出てこなかった。
三人がかりで押さえ込まれた眼前、コンクリートの床へと蹴りとばされてきたのは僕がこの世で最も嫌悪する生物―
ゴキブリ。
茶褐色の腹を見せて不気味に脚を蠢かせるゴキブリと蒼白の僕とを見比べ、リョウが提案する。
ポケットに手を突っ込み、あっけらかんと。
「ゴキブリを食べるか、ここにいる全員に奉仕するか」
究極の二者択一だ。
靴音の威圧的な響きが次第に大きくなり扉の前で最高点に達し、また遠ざかる。息をひそめ、看守の靴音が完全に消滅するのを待つ。靴音の余韻が完全に暗闇に呑まれてから毛布を持ち上げ、スニーカーに素足を潜り込ませる。毛布に手をかけたまま隣のベッドを見る。サムライはよく寝ている、僕が起きだしたのにも気付かない。もしくは気付いていて無視しているのか。
どちらでもいい。
サムライが寝たふりをしてようがかまわない、どうせ昨夜から一言も言葉を交わしてないのだ。どころか、僕とはもう目も合わせようとしない。僕は踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまった、サムライが最も踏み込まれたくない領域を土足で踏み荒らしてしまったのだ。
多分、これから何があってもサムライは僕を助けてくれない。
自業自得だ。これが僕が望んだ結果だ。サムライに助けられるのはいやだった、自分がひとりじゃなにもできない無力な人間だと思い知らされるようで、恵の兄たる資格を剥奪されるようで。今度強姦されかけたら放ってほしいというのは誓って真実、嘘偽りざる本音だ。もうサムライの力などあてにしない、僕は僕の力で、この天才的な頭脳の閃きで必ずや窮地を切り抜けてやる。
それなのに、少し胸が痛いのは何故だろう。
自己嫌悪?感傷?……くだらない。そんな感情僕には存在しない、今の僕に必要ない。そんなものにかかずりあっている余裕はないのだ、これっぽっちも。スニーカーを履き、房の真ん中に立つ。周囲を注意深く見渡してから鉄扉に歩み寄り、錠を上げる。
カチャン。
軽い手応え、金属音。
軋り音をたてないよう、肩で押すようにして鉄扉を開く。廊下は無人。天井の蛍光灯だけが白々と輝いている。陰鬱なコンクリートの廊下を歩き、路地へと逸れる。エレベーターは使わない。エレベーターには監視カメラが設置されている、消灯時間を過ぎても出歩いてる姿を撮られたらまずい。殆ど存在を忘れ去られている死角の階段を使い、地下に降りる。
当たり前の話だが、僕の房がある階より地下のほうが気温が低かった。コンクリートで出来た巨大な棺桶の中にいるような肌寒さ。廊下を何度か曲がりゆるやかな勾配のスロープを出れば、突如目の前に巨大な空間がひらける。
東京プリズンの地下にある広面積の駐車場。
大勢の囚人を各仕事場へと運ぶバスで朝夕混雑しているコンコースも今は人けがなく、閑散と静まり返っている。囚人を目的地に運ぶ役目を終えたバスは車庫にしまわれているはずだ。したがって、深夜のコンコースには視界を塞ぐ遮蔽物など何もない。コンクリートの平面に幾何学的な白線を引いた空虚な空間が寒々と存在しているだけだ。
地面に目を落とす。
50メートル間隔で点在するマンホールのうち、一つだけ蓋がずれている。仄暗い暗渠を覗かせた円盤に歩み寄り、地面に片ひざついて中を覗きこむ。なにも見えない、中に人がいるのかもわからない。
リョウは先に来ているのだろうか。
そこまで考え、リョウの言葉を真に受けてのこのこここに来てしまった自分の愚かさに苦笑する。サムライと僕の関係はもう修復不能だ。僕はサムライに軽蔑された、触れてはいけないものに触れてしまった。
『なえ』は過去にサムライが愛した女性だった。
その事実は疑うべくもない。なえの名を語るときサムライは男の顔をしていた。焦燥に揉まれ苦しむ男の顔、本気で人を恋したことがある人間の顔。
だが、『なえ』は既にこの世にない。首を吊って死んでしまったのだ。
サムライはそれ以上のことは語らなかったが、彼の言葉の断片をつなぎあわせて推理するになえの自殺の原因にサムライは深く関係しているらしい。そして、今でも自分を責めている。責め続けている。
興味本位で『なえ』の名に触れた僕をサムライは絶対に許さないだろう。
僕が彼の立場だったら絶対に許せない。許せるわけがない。
それなのに、僕はまだ諦めきれない。まだ心の底ではサムライのことを知りたがっている、知りたいと叫んでいる。動悸の全貌を知りたい、サムライの素顔が、なえのことが知りたい。何故だ?わからない。サムライはただのモルモットだ、ただの観察対象、東京プリズンでの単調な毎日を紛らわせるための観察対象に過ぎないのに、何故、たかがモルモットの言動にこんなに振り回されてるんだ?
サムライと対等になりたいから僕は手紙を見るのをやめた。
それだっておかしいのだ、何故ぼくはサムライと対等になりたいと思ったりしたのだ?サムライはモルモットだろう、モルモットと観察者、どちらが優位な立場かは歴然としてるはずだ。
それなのに僕は、サムライに引け目を感じてる?
サムライの方が上だと、そう思っているのか?
……ぐだぐだ考えていても始まらない。ここまで来てしまったんだ、いまさら引き返せない。リョウはサムライの本名を知っていた、僕が知らないサムライの名前の読み方まで知っていた。帯刀 貢。貢いだ刀を帯びる。なるほど、これ以上なくサムライにふさわしい名前だ。名は体を現すという日本古来の言霊信仰を信じたくもなる。
マンホールの蓋を持ち上げ、腕に力をこめる。もとから外れていた円盤はずるずるとコンクリートを擦って移動し、ひっくりかえって鈍い音を立てた。
僕の目の前に口をあけているのは黒い穴。垂直の空洞。
「………」
緊張が高まる。そっとズボンのポケットを押さえ、覚悟を決める。手探りで壁をさぐり、作業用梯子の柄を握る。梯子の最上段に片足をかけ、慎重に降りる。明かりが届くようマンホールの蓋は開けたままだ。こんな非常識な時間に駐車場に出てくる看守もいないだろう。気を抜いた瞬間に足が滑って転落しそうになるのを梯子の柄をしっかり掴んで堪え、用心深く梯子を降りる。
ようやく下水道に到達した。
スニーカーの靴底が硬い地面を踏んで安堵したのも束の間、周囲に漂う異臭におもわず鼻を塞ぐ。下水道という特殊な環境のせいか、換気が行き届いてない地下水路には黴臭い異臭を孕んだ湿気と冷気が充満していた。しかし思ったより匂いが酷くないのはこの下水道が汚物などの生活排水を運ぶものではなく雨水を運ぶ雨水管だからだろう。
東京プリズンの地下には都心から引かれた下水道が心臓周辺の血管のように緻密に巡らされている。複雑な路線図を描いて縦横に交錯した下水道は迷宮の如く支流と本流が入り組んでおり、ひとたび探索気分で奥へと踏みこめばブルーワークの囚人でも遭難してしまう危険性があるそうだ。
僕は方向音痴ではないが、あまり奥へと踏み込みたくはないものだ。
上を見上げる。遥か頭上、天井に開いた穴から降り注ぐのは一条の光。駐車場の壁に設置された保安点検用のランプの赤光が細々と漏れ行ってくるのだ。下水道に立ち、あたりを見回す。壁に設置されているのは同じく保安点検用のランプだが、こちらは白。が、最低30メートルの間隔を空けて連なっているためにお世辞にも視界が効くとはいえない。
リョウはどこだろう。
先に来ているはずだが姿が見当たらない。ひとを驚かすのが好きな彼のことだ、突然背後から飛び出して僕を驚かす魂胆だろうか?生憎だがそうはいかない、この僕にかぎってそんな醜態をさらすわけがない。もしくは奥に潜んでいるのだろうか、突然目の前に飛び出して僕を驚かす算段だろうか。
前後左右を注意深く見回しながら、下水道の奥へと足を進める。一歩足を進めるごとに針で突いたような頭上の穴から漏れ入る明かりは遠ざかり、視界が暗くなってゆく。
10メートル、30メートル、50メートル……変化はない。
天井から落ちた水滴がコンクリートを叩く音だけがむなしく響く。地面はじっとりと湿っている、歩道のすぐそばを轟々と音をたてて流れているのは横幅8メートルはあろうかという下水路だ。水量はさほど多くないが、それでも僕の腰あたりまではあるだろう。
殆ど反射的に、今日、イエローワークの強制労働中に見た雲の動きを思い出す。
今日の雲の流れはやけに早かった、気のせいか湿度も通常より高く、じっと立っているだけでも服の中が蒸した。シャベルの手を休めて遥か砂漠の彼方を見上げれば厚い雲の層が被さっていた。
都心には豪雨が来そうだ。
日中は死ぬほど暑く、夜はひどく冷えこむ東京プリズンには雨が降ることがない。ごく稀に都心から流れてきた雨雲がスコールを降らせることがあるが、それ以外は梅雨でも滅多に雨が降らない。だから都心の天候には知らず知らずのうちに関心が薄れていったがー
足音。
「リョウか?」
下水道に殷殷と反響する靴音。誰何の声に返事はない。悪ふざけにも程がある、自分から呼び出しておいて……腹立たしくなり、もう一度、声を荒げてリョウを呼ぼうとしたとき。
衝撃。
後頭部に焼けるような激痛。
何者かに背後から襲撃されたと知覚するよりはやく体が傾ぎ、前のめりに倒れる。否、正確には三人がかりで押し倒されたのだ。何が起きたのか咄嗟にわからなかったのは激痛で頭が朦朧としてたからだ、正常な判断力が回復するにはさらに三秒を要した。
背中が重い。
首を捻り、不自由な姿勢で振り返る。背中に誰かが馬乗りになり、僕の手を後ろ手に掴んでいる。さらにその後ろ、僕の足を掴んで身動きを封じている少年がひとりー……いや、ふたり。
ようやく暗闇に目が慣れてきた。
瞬き。背中に跨った人物に目を凝らす。どこかで見たことのある顔だ。一体どこで――――
「本当に来た」
はしゃいだ声に顔を上げる。下水道の奥、不気味に湿った暗闇から歩みだしてきたのは人懐こい顔をした赤毛の少年……リョウだ。
「ね?僕が言ったとおりでしょ」
にこにこしながらリョウが声をかけた方角を仰げば、汚い金髪の少年が立っていた。
知っている。今、はっきりと記憶がよみがえった。一昨日駐車場でサムライに挑んで、あえなく惨敗した少年ではないか。僕の両足を押さえ込んでいる仲間にも見覚えがある、気絶した少年をひきずって逃げるように退散した少年たちだ。
「よう親殺し。いいカッコだな」
僕の前に屈みこんだ少年がヤニ臭い歯を剥いてせせら笑う。
「……何の真似だ?」
「まだわからないの?きみってやっぱ学習能力ないねえ、監視塔のときとおなじだよ」
頭上から声がする。リョウが僕を見下ろして笑ってる。
「おとりだよ。きみ、サムライをおびきだすおとりにされたんだ」
そんなことだろうと思った。
別に驚かなかった。リョウの短絡的思考や底の浅い企みなどある程度予期していた、それでも僕が下水道に足を運んだのは確信があったからだ。
サムライが助けにこないという確信。
「ブラックワークの件か?」
「ご名答。さすがに頭は悪くないね」
リョウが顎をしゃくり、周囲の少年たちを見回す。
「ブラックワークペア戦開始の噂はいくら流行に疎いきみでも知ってるよね。彼らはサムライをご所望なんだ、正しくは彼らのリーダーがだけど。そこの金髪の彼ね。きみは知らないみたいだけど、水面下でのサムライ争奪戦は日に日にはげしくなってる。そりゃそうだ、サムライを勝ち取った者がブラックワークを制すってのがおおかたの予想だからね。サムライさえ味方につけりゃレイジとだって互角に戦える、いや、ひょっとしたら下克上できるかもしれない。なんたってサムライはレイジと拮抗する実力者、実際剣の勝負だったらサムライに勝てる奴はいない」
リョウがにっこりと微笑む。
「レイジでもね」
「僕をおとりにしてサムライを参戦させようという魂胆か」
「またまたご名答」
「低脳だな」
おもわず本音が出た。
「低脳」と断定された少年たちの顔が怒りにサッと紅潮するのを睨み、続ける。
「なにか勘違いしてるようだが、サムライが僕を助けにくるわけがない。僕らはそもそも友人でもなんでもないんだ、彼が僕を助けに来る理由がさっぱり見当たらない。そうする利益もない」
「来るよ。絶対来る」
僕の主張を打ち消すようにリョウが断言。自分の言うことに間違いはないと確信している顔。
「サムライは絶対来る、アイツはそういう奴だから。たとえ痴話喧嘩中だって関係ないね、相棒のピンチには何をおいても駆けつけるのが今の時代に生き残るホンモノの武士だ」
「来ないと言ってるだろう」
「来る」
「来ない」
「来る」
「来ない」
「頑固だね」
「お互い様だ」
「来ないなら来させるまでだよ」
僕の傍らに屈みこんだリョウが顎に手をかけ、強引に上向ける。顎を振って手を払おうとしたが無駄だった。五指に力をこめて顎を掴まれ、逃れることができない。
「手紙のこと覚えてる?」
頬に頬を密着させるように僕の耳朶にささやくリョウ。
「きみが破り捨てたママからの手紙。僕がたのしみにしてた手紙」
「…………ああ」
「後悔してる?」
「………………」
「謝って?」
「嫌だ」
「謝ってよ」
「謝るのはそちらだろう」
顎を掴む握力が増す。下顎の激痛に顔をしかめたくなるのを堪え務めて冷静に指摘する。怪訝な顔のリョウに畳み掛けるように言う。
「僕は自分が悪いと思ってないことまでみだりに謝罪するような人間じゃない。恵を侮辱したことを謝罪するなら君に謝ってやってもいい、君の事は正直大嫌いだが君の母親にはすまないことをしたと多少は思わないでもないからな」
リョウの顔色が変わった。
人懐こい愛想笑いが薄れ、スッと表情がなくなる。
「そっか」
再びリョウの唇に湧き上がったのは淫らな笑み。
唇の端をこの上なく楽しげに吊り上げたリョウが片手に僕の顎を掴み、片手でポケットから何か、光る物を取り出す。リョウの手に目を凝らす。
針金だ。リョウが鍵を開けるのに用いるあの針金、先端が鋭く尖った凶器。
「なにを」
舌が喉にはりついて声がもれるのを塞いでいる。苦労して唾を飲み下し、喉から舌を引きはがす。
「なにをする気なんだ?」
その針金で。鋭い金属で。
「歯医者さんごっこ」
にんまりと笑ったリョウが前触れなく僕の口の中に指をいれ、口腔の粘膜を揉み始める。強烈な吐き気、喉を圧迫する異物感。それまで顎を掴んでいた三本の指が口腔にもぐりこみばらばらに動き始める。前歯の裏側を撫で、舌の先端を掴み、かと思えば喉奥まで手を突っ込んで舌の根元を押さえる。奥歯の窪みを押していた指がスッと離れ、上顎の形状をたしかめるように動く。
吐きそうだ。
気持が悪い。
舌を押さえられているためうまく唾が飲み込めず、大量の唾液が喉に逆流してはげしく咳き込む。窒息。リョウはなにを考えてるんだ、気持ち悪い、苦しい、はやくはやく抜いてくれ――――――
僕の願いが通じたのだろうか、口腔の粘膜をさぐるのに飽きたらしい指が唾液の糸を引き、名残惜しげに引き抜かれる。
「ちゃんと口開いてないと危ないよ」
耳元でささやかれた台詞にぎょっとする。
針金を右手に持ったリョウがちらりと背後の少年たちに目配せし拘束を固める。肉厚の手で後頭部を押さえ込まれ両足をがっちりと固定される。
徐徐に、徐徐に目の前に近づいてくる針金。鋭い先端が輝きを増す。
「おっと、間違えた。さすがにこっちはまずいね、一生汁物が飲めなくなる」
リョウの手の中で針金が一回転、錐揉み状に捻れた先端ではなく、荒削りな後尻が向けられる。が、こちらも十分に鋭い。
「…………!っあぐ、」
ガチャリ、金属を噛む感触。
アルミホイルを噛んだときに起きるのとよく似た現象が口内で発生し、静電気に似た激痛が歯の根を突き刺す。僕の口の中に針金を突っ込んだリョウが目に笑みを浮かべながらカチャカチャと粘膜をひっかく。口の中を手荒くかき回され歯茎が傷つく。出血。舌の上に錆びた鉄の味が広がる。
痛い。
痛い、なんて言葉では説明できない語彙を凌駕する痛み痛理性が蒸発する痛、やめろ、血の味、まずい、痛い、まず痛い―
「口の中綺麗だね」
リョウの顔がかすんでいる。
最初、メガネが水蒸気で曇っているのかと思ったが実際は違った。涙。生理的な涙が目にたまり、視界が朦朧とかすんで見えたのだ。
「そのへんにしとけよ」
針金が乱暴に引き抜かれる。
口の中を満たす血の味、嘔吐感にむせながら顔を上げる。ぼやけた目に映ったのはリョウを覗きこむ金髪の少年。
「口が使い物にならなくなったら楽しみが減るじゃねえか」
少年は笑っていた。リョウも笑っている。この場の全員が笑っている。
僕以外の全員が。
「そうだね」
咳き込んだ拍子に液体が一筋口の端を伝う感覚。僕の口の端から垂れた血を親指ですくい、リョウがほほえむ。まだ終わりじゃない、これはほんの始まりに過ぎない。そう宣告するような笑顔。
「快感に喘ぐ顔と苦痛に歪む顔って似てない?」
耳元でリョウがささやく。
「ぼく両方の違いがよくわかんないんだよね。きみはどう?不感症って痛み苦しみも感じないのかな。そんなことないよね、口に針金突っ込まれてたときすごい苦しそうだったもの。……てことはセックスの快感は駄目でも肉体的な苦痛はちゃんと感じるんだ」
僕の顎から手をはなしたリョウがスッと立ち上がり、金髪の少年に目配せ。下水道の隅に跳んでいった金髪の少年が何かを蹴りながら戻ってくる。
「メガネくんの場合、自分が気持ちよくなるのは無理でも相手を気持ちよくさせることはできるでしょう。だから選ばせてあげる」
「なにを………」
する気なんだ?続く言葉は喉にひっかかって出てこなかった。
三人がかりで押さえ込まれた眼前、コンクリートの床へと蹴りとばされてきたのは僕がこの世で最も嫌悪する生物―
ゴキブリ。
茶褐色の腹を見せて不気味に脚を蠢かせるゴキブリと蒼白の僕とを見比べ、リョウが提案する。
ポケットに手を突っ込み、あっけらかんと。
「ゴキブリを食べるか、ここにいる全員に奉仕するか」
究極の二者択一だ。
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