少年プリズン

まさみ

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五十一話

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 「で、どうなったんスか」
 「どうなったもこうなったも」
 まん丸の目を好奇心に満たし、右手に握り締めたフォークの存在も忘れて身を乗り出したビバリーをじらすようにため息をつく。
 「僕が今話したとおりさ。北の皇帝VS東の王様のシークレット決勝戦は東の王様の圧勝、北の皇帝とその一味はレイジたちが去った三時間後に看守に発見されて房に強制送還。主犯格のサーシャ以下何人かは独居房送り」
 「うへえ、独居房っすか!悲惨っすね」
 大袈裟に目を剥いたビバリーをよそに箸を操り、アルミ皿によそられたマッシュポテトをつつく。味気ないマッシュポテトを口に運びながらぶつくさとぼやく。
 「まったく、巻き込まれなくてよかったよ。サーシャたちが起き出す前に退散しといて正解だった」
 「ずいぶん余裕っすね、リョウさん。今回の件で立場が悪くなかったんじゃないんすか」
 今晩の夕食はマッシュポテトとコンソメスープとサラダという毎度変わり映えしない粗食。ほとんど味のついてないぱさぱさしたマッシュポテトを飲みこみながら、やっぱりこれも殆ど味のないコンソメスープを口に含む。サラダのレタスは黄色く褪せていてウサギでさえ吐き出しそうに傷んでいる。乾燥したレタスを口につめこみながら疑惑の目を向けてきたビバリーにフォークを振って続ける。
 「確かにサーシャが負けたせいで僕の立場は悪くなった、北のスパイだってことがレイジたちにバレちゃったしね。東棟で生きにくくなるよ」
 「その割には上機嫌っすね」
 テーブルの向かい席でやる気なさそうにレタスをつついていたビバリーがうろんげに目を細める。
 「なにを隠してるんすか?」
 「隠してるなんて人聞き悪い」
 フォークを口にくわえてにっこり笑う。
 「ただ、予想以上に儲けがあって懐があったかくなっただけさ」
 不可解そうに眉をひそめたビバリーに意味深な笑みを向けて体をよじり、椅子に座った姿勢でごそごそとポケットを探る。とりだしたのは紙幣が三枚とバラバラの小銭、その他煙草やキャラメルやガムなどのこまかい戦利品。サーシャの手下が身につけていた腕時計もこの中に含まれる。
 テーブルの上に置かれた紙幣と小銭その他もろもろを覗きこんだビバリーがごくりと生唾をのみこみ、なにか言いたげな上目遣いでぼくを見る。ビバリーの考えていることを見抜き、彼の勘のよさに敬意を表してタネを明かす。
 「サーシャの手下がのびてる間にちょーっとポケットから拝借したんだ。報復が怖いからサーシャのポケットには手をださなかったけどね」
 「抜け目ないっすね」
 あきれたように天井を仰ぐビバリー。
 せっかく僕が裏で動いてお膳立てしてやったにも関わらず、北の皇帝VS東の王の対決はしまらない結果に終わった。いかにナイフの名手たるサーシャでもなんでもありのおきて破り、存在自体が反則気味なレイジの強さにはかなわなかったのだ。サーシャが負ければ僕に矛先が向くのは容易に予測できる。当然、僕に払われるはずの報酬は無効になる。くたびれ損の骨折り儲けなんてとんでもない、骨を折ったぶんの報酬はどんな汚い手を使ってでももぎとるのが僕の流儀だ。
 だから僕は一計を案じた。
 レイジがサーシャを倒した後なにやら深刻に話しこんでる彼らのもとを離れ、死屍累々と屋上に散らばった北の少年たちのポケットを漁った。片っ端から金目のものを頂戴したあとはそっこー退散したからレイジたちにはバレてないはずだ。
 収穫はあった。独居房送りにされたサーシャとその子分が戻ってくるまでにはまだ一週間もある。その頃までには幾分か僕のほとぼりも冷めているだろう。サーシャたちが帰ってくるまでに腕時計などの小物は他の囚人及びコネのある看守に売りつけ裏市場に流して証拠隠滅、僕の手元にはアガリだけが入ってくるという寸法だ。商売の極意ってヤツね。
 「僕が寝てる間にそんなたのしいことが起きてたなんて、まったく迂闊でした」
 「なに言ってんのビバリー、巻き込まれるのいやがってたじゃん」
 不満げに口を尖らし、八つ当たりのようにフォークの先端でレタスに穴を開けてゆくビバリーに苦笑して椅子の背もたれに寄りかかる。 
 「そりゃーそうですけど、房出るときになにか一声かけてくれてもいいようなもんじゃないスか!長いこと同じ房で寝起きしてんのにトモダチ甲斐ねえっスよ、リョウさん」
 見かけによらず根に持つタイプらしく、あれから三週間も経つのにビバリーはまだいじけてる。やれやれ、面倒くさいなあ。分厚い唇をとがらせてふてくされたビバリーを猫なで声でなだめようと身を乗り出した僕の耳に、階下からすっとんきょうな声がとびこんでくる。
 「オーマイガッ」
 いやに聞き覚えのある声に二階席の手摺から身を乗り出し、狭い間隔でテーブルが並んだ一階を見渡す。いた。ちょうど手摺の真下に位置するテーブルに座っているのは見覚えのある顔。明るい藁束のような茶髪を襟足で括った男が頭を抱えこんで唸っている。
 レイジだ。
 「マジで納得できねえ、なんで俺がこんな目に!?俺わるくねーじゃん、全部キーストアのせいじゃん!」
 いつもへらへら笑ってるレイジには珍しく世を儚んでいるご様子だ。一体なにがどうしたのだろうとビバリーと顔を見合わせ下を覗き込む。レイジの隣にはロンが、向かい席にはサムライが座っていた。鍵屋崎の姿はない。
 「みっともねーからやめろよ、食堂中に聞こえてるぞ」
 さすがに恥ずかしくなったのか、隣席のロンが声をひそめて注意する。が、レイジに懲りた様子はない。綺麗にたいらげた皿ごとトレイを隅におしやり、テーブルの上に上体を突っ伏して呪詛を吐いている。
 「くそっ、キーストアのせいだ……アイツが聖書燃やしたからイエスのバチがあたったんだ、マリアが怒ったんだ、そうに決まってる」
 「マリアに『様』つけろよ、お前の女じゃねえんだから」
 無視をきめこんでマッシュポテトをつつきだしたロンに、その襟首を掴まんばかりの勢いでレイジが言い募る。
 「だってよーあんまりじゃねえか……本燃やしたの俺じゃねえんだぜ、灰にしたのはキーストアだぜ!?それがなんで俺がブラックリスト入り!?むこう一ヶ月図書室立ち入り禁止の憂き目みなきゃなんねーんだよ!」
 釈然としない面持ちで不平不満を上げ連ね、せわしげに両手を振ってここにはいないだれかに抗議するレイジに好奇のまなざしが注がれる。ご乱心の王様を腫れ物にさわるかのように遠巻きにする囚人たちを見回し、いやいやロンが口を開く。
 「一ヶ月ぐらい我慢しろよ、永久に禁止されなくてよかったじゃねーか。てゆーか何でそんなに本にこだわるんだよ、本なんてどこがいいんだかわかりゃしねえ」
 「俺みたいに長くここにいるといやでも活字の有り難さが身に染みんだよ、ほかの娯楽はあらかたやり尽くしたし」
 リンチやレイプは娯楽の内に入るのだろうか?レイジに聞いてみたい気分だ。
 「キーストアもキーストアだ、なにも燃やさなくても……聖書に対する冒涜だぜ」
 「鍵屋崎も聖書でガキぶっとばしてた奴にだけは言われたくないだろうな」 
 未練たらたらに愚痴るレイジにつれなく釘をさし、不作法に音をたててコンソメスープを啜るロンの向かい席、しゃんと背筋をのばして座っているのはサムライだ。箸の扱いはお手の物でも洋食の作法はどうだろうと手元に注目してみれば、とくに淀むことなく器用にフォークを操っていた。刀に限らず刃物の扱いは得意ってわけか。
 「しかたねーだろ。アレがいちばん加減しやすいんだ」
 のろのろと頭を起こしたレイジが言い訳がましく付け加える。
 「本ならおもいきり殴ってもまず死ぬことはない。急所が集中する体の中心線に狙い定めて打ちこめば本だって十分凶器になる、ちょっとしたコツさえありゃな。たとえば」
 上体を起こしたレイジがすでに食べ終えたフォークを手に取り、ロンの額にぴたりとあてがう。そのまま息を飲んだロンの鼻梁から上唇を縦断し、喉仏の上あたりで一直線に下降した先端を止める。
 「ここだ。喉仏の上にちょっと出っ張ったところがあるだろ、ここが人体の急所のひとつ。敵の動きを止めたいならここを殴るだけでオッケー、まず一発で窒息する」
 「人にフォーク向けんなって母親から教わらなかったのか」
 不機嫌そうにレイジの手を払いのけてフォークをどかしたロンだが、根がわかりやすいため内心の動揺は隠せない。自分にフォークを向けた相手がレイジでさえなければよくある悪ふざけの延長線上ともとれたろうが、今隣に座ってるのは本気と冗談の境界線がはっきりしない東棟の王様なのだ。ロンが肝を冷やしたのも頷ける。
 「覚えといて損ねえぜ。今度凱にケツ剥かれたときに試してみろ」
 「俺には本借りる習慣も肌身はなさずフォーク持ち歩く習慣もねえ。拳ひとつでじゅーぶんだ」
 「いきがんなよ」
 あざやかに手首を翻してフォークを旋回させたレイジが意味ありげに笑い、これにロンが反発する。
 「相手が二・三人なら俺だって互角にやれる。腐ってもお前みたいな化け物と一緒にされたくねーけどな」
 「ダチを化け物よばわりはひどくねーか?ちょっと傷ついたぜ、俺」
 「化け物だろ、北のガキどもを殆どひとりで倒したくせして」
 なれなれしく肩に手をまわそうとしてきたレイジを憤然とつっぱね、そっぽを向くロン。毎度見慣れた痴話喧嘩の光景だ。ロンにつれなくされて一瞬本当に哀しげな顔をしたレイジだが、瞬きひとつ後には元の笑顔が戻る。
 「そりゃそーと件のキーストアは?最近見かけねーけど元気してる?」
 それまで無表情にコンソメスープを啜っていたサムライの手が虚空で止まり、また動きだす。  
 「……さあな」
 「さあなって」
 言葉少なく応じたサムライに怪訝な顔を見合わせるレイジとロン。目配せして互いの表情を探り、代表してレイジが口を開く。
 「お前の同房だろ。わかんないの?」
 アルミの椀を手に持ち、殆ど音をたてずに一滴残らずスープを啜り終えたサムライが改めて正面を向く。
 次にサムライの口からでたのは、驚くべき答え。
 「わからない。一週間口をきいてないからな」
 あんぐりと口を開けたレイジの隣で、ロンが大きく目を見張る。手摺に顎を乗せて三人のやりとりを見物していた僕も大いに驚く。一週間ということは、サーシャとレイジが死闘を演じたあの夜からサムライと鍵屋崎は口をきいてないことになるのだろうか?
 能面のように起伏に乏しいサムライの顔をしげしげと眺め、脱力したように椅子の背凭れにもたれたレイジが嘆じる。
 「……倦怠期にはちょーっと早すぎねーか?」  
 「マジで、あれから一言も口きいてねえの?」
 半信半疑な口調と眼差しで念を押したロンをちらりと一瞥し、一滴残らず飲み干したアルミ椀を静かにトレイに置く。
 「ああ」
 「噂をすれば」
 陰気にだまりこんだサムライをよそにおもむろに席を立ち、「キーストア!」と叫んだレイジの視線の先には鍵屋崎がいた。
 トレイを抱えてさまよっている自分に声をかけ、こちらに手招こうとしたレイジの好意を一蹴するかのように踵を返して去ってゆく鍵屋崎の背中をロンがぽかんと見送る。食堂中に響き渡る大声で鍵屋崎を呼んだレイジは満場の注目を浴びていることに気付き、さすがにバツが悪そうに席に戻る。
 足早にレイジたちのもとを離れた鍵屋崎は隅の空席に腰掛けるや、周囲の喧騒にも無関心にフォークと食器を手に取り、淡々と夕食を食べ始める。周囲の喧騒も聞こえないかのような自閉的な沈黙を守り、俯きがちにマッシュポテトを口に運び始めた鍵屋崎の様子からは一切の覇気が感じられない。
 まるでー……
 「リュウホウみたいだ」
 「だれっスか、リュウホウって」
 僕の呟きを聞きとがめ、ビバリーが変な顔をする。
 「んー。鍵屋崎のトモダチだった子、かな」
 過去形で言ったのにはちゃんとわけがある。リュウホウは死んだのだ。
 一週間前のあの夜、東棟の裏手ですれちがったリュウホウの様子を思い出す。落ちぶれたなで肩と猫背気味の背中、亡者のような足取り。今の鍵屋崎はあの夜のリュウホウに似ている。一週間前までは全然別人だったのに、今じゃリュウホウの霊が乗り移ってしまったみたい……想像したら怖くなった。
 食堂の片隅でひとりきり、だれとも馴れ合わず、一言も会話をせずに孤独に食事を終えた鍵屋崎がさっと立ち上がる。なにげなくトレイの上を見る。遠めにも酷い顔色をしてたから食欲もないだろうと思ったら、そんなことはない。マッシュポテトが三分の一ほど残ってたけど、あとは綺麗にたいらげていた。
 でも、その割には……
 「キーストア、痩せた?」
 手摺の下をのぞきこむ。僕とおなじく、なにげなく鍵屋崎を目で追っていたレイジが小手をかざして呟く。
 「あれは痩せたんじゃなくてやつれたって言うんだよ」
 レイジの隣、おなじく鍵屋崎を目で追っていたロンが心配そうに訂正する。ただ一人サムライだけが後ろを振り返るような愚は犯さず、淡々と食事をとっていた。六つテーブルを隔てた通路を歩き、カウンターにトレイを返却して食堂をでようとした鍵屋崎。その背中が手摺越しの視界から消える前に素早く席を立ち、ビバリーに別れを告げる。
 「お先」
 ビバリーをひとりテーブルに残し、階段を駆け下りる。等間隔にテーブルが並んだ階下をよこぎり、カウンターにトレイを返却。人ごみに埋もれかけた鍵屋崎をさがして食堂を見渡す。いた。今まさに食堂をでて、廊下へと足を踏み出しかけた鍵屋崎の背後に小走りに接近。
 一瞬声をかけようか迷うが、レイジたちが見ている危険性を考慮して思いとどまる。たよりない足取りで廊下に出た鍵屋崎は、自分の房に向かおうとふらふら歩き出す。そのままつかずはなれずの距離で鍵屋崎を尾行する。
 「よう親殺し、ひどい顔色だな」
 「わりぃもんでも食ったのかよ」
 「俺が腹殴って吐かせてやるよ」
 「食後の運動はどうだ?俺の上で腰振れよ、いい汗かかせてやるからさ」
 「かかせるんじゃなく、いいもんかけてやるの間違いじゃねーか?」
 「言えてらあ!」
 廊下にたむろっていた囚人たちに下卑た野次を投げられても動じず、顔もあげずにその前をよこぎる。囚人たちの爆笑を背中に聞きながら廊下を歩いていた鍵屋崎がふいに角を曲がる。囚人服の背中を見失わないよう、足を速めて角を曲がる。それから三回角を曲がる。角を曲がるごとに雑談に興じる囚人の姿が減り、遂にはひとりもいなくなった。
 わざと囚人が入りこまないような路地を選んで進んでいるのだと、僕も途中から気付いていた。
 低い天井と平行にのびた長い長い廊下に点っているのは、蛍の葬列のような蛍光灯。
 頭上に押し迫った天井の下、肩を落として歩いていた鍵屋崎がぴたりと止まる。僕ら以外はまったく人けのない廊下の半ば、物思いに耽るかのようにうなだれた鍵屋崎の口から押し殺した声が漏れる。
 「何の用だ」
 「バレてたのか」
 拍子抜けする。
 「僕以外の足音が響いてるのに気付かないと思ったのか」 
 静か過ぎたのが災いしたらしい。冷静に指摘され、お手上げだといわんばかりに両手を開く。
 「目が悪いぶん耳はいいんだね」
 「僕の耳は頭の次に性能がいい」
 たいした自信だ。内心苦笑しながらポケットに手をもぐらせ、鍵屋崎に接近する。
 「それならさっきレイジが呼んだのにも気付いてたでしょ。どうして無視したの」
 鍵屋崎は答えない。
 正面の虚空を見据えたまま、強張った背中を僕に向けている。
 「煩わしかったからだ」
 鍵屋崎の背中から三歩の距離で立ち止まる。
 「食事くらいひとりで静かにとりたい。他人と関わりたくない。放っておいてほしい」
 その声がどこか切羽詰ってるように聞こえたのは気のせいだろうか。
 嘆願に近い響きで吐き捨てた鍵屋崎の拳が、体の脇で固く握られていることに気付く。試しに一歩踏み出し、意識して靴音を響かせる。
 鍵屋崎の肩がびくりと過敏に反応した。
 確信した。鍵屋崎は僕に近づかれるのを怖がってる。
 僕の気配を背中に感じつつ、それでも頑固に正面を向いたまま、鍵屋崎が虚ろに呟く。
 「人がものを咀嚼する際、頬の内壁から唾液を分泌してこれを消化する。口腔とは消化器官の初めの部分で、舌には味を感じる味蕾という組織がある。本来舌とは咀嚼したものを食道に送りやすくするのが役目で、食事中の会話はこの本来の働きを妨げることになる。早急な消化を望む僕は、物を咀嚼する以外の目的に舌を使いたくないからレイジたちとの同席を避けただけだ」
 なにかに追い立てられるような異常な早口でそう言い切り、苦々しげに絞り出す。
 「それだけだ」
 「こっち向きなよ」
 すぐ後ろから声をかける。鍵屋崎は無言だ。僕の声が聞こえてないはずないのに、凝然とその場に立ち竦んで微動だにしない。鍵屋崎の耳の後ろに口を近づけ、やさしくささやく。
 「人の目を見て話せってママに教わらなかったの」
 「教わらなかったな」
 そのまま僕を振り切り、強引に歩を進めようとした鍵屋崎の腕を掴んで引き止め―
 「さわるな!!」
 おもいきり肩を突き飛ばされた。
 よろけるようにあとじさった僕の目の前には、壁に背中を付けて荒い息をしている鍵屋崎がいた。 
 ひどい顔色だ。
 今にも貧血を起こさんばかりの青白い顔色に脂汗を浮かべ、壁に片手をついてふたたび歩き出す。一歩、二歩、三歩、四歩……五歩進むのがやっとらしい。残り僅かな気力を振り絞り、プライドだけを支えに六歩目を踏み出そうとした鍵屋崎に笑いながら追い討ちをかける。
 「抗鬱剤あげようか」
 その瞬間の目は一生忘れられない。
 ぞっとするような目。
 たぶん両親を殺したときもコイツはこんな目をしていたのだろう、まじりけなしの憎しみの目。本当ならびびってこの場から逃げ出すのが正しかったんだろうけど、その目を見た瞬間僕の脳裏に浮かんだのは全く別次元の呑気な感想。
 コイツ、こんな人間らしい顔もできるんじゃないか。
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