ボーダー×ボーダー

まさみ

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二十五話

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「秋山くん、大丈夫か!?」
「………あ……………」
頬を伝うぬるりとした感触に膝ががたつく。
一瞬の放心から醒めれば恐慌が襲う。
力強く腕を掴まれ、前傾した姿勢で辛うじて重心を保つ。
開け放たれたドアのむこう、放送室中央に異形の装置が佇む。
一足先に平常心を回復した敷島が懐中電灯の光を走らせ危険がないか点検、慎重に踏み込む。
「隠れてる気配はない。無人のようだ」
操作盤に接近、レバーにかかったテープレコーダーをとめる。
レバーから取り上げたレコーダーを背広の内にしまい、壁に沿って光を一巡させてから、中央の装置に焦点を当てる。
「麻生くんが仕掛けたのか」
懐中電灯を傾け、矢を射出した装置を調べながら呟く。
「なるほど、わかった。ノブに括ったワイヤーが接敵を感知して、矢を打ち出す仕組みだったのか。知らずドアを開けた侵入者は重傷を負う。よくできている」
技術屋の手腕を評価する口調に純粋な畏怖と感嘆が忍び込む。
敷島が懐中電灯で照らす方を辿れば、虚空に渡された銀線が光を反射して鈍くきらめく。
内側のノブにワイヤーが張られていた。
「美術室の一件にも背筋が寒くなったが、今度こそ思い知ったよ。彼は知能犯だ。人の心理の隙を突く、実に狡猾な罠を仕掛けてくる」
知能犯。
眼鏡の似合う知的な面差しが浮かぶ。
漸く膝の震えがおさまってきた。壁を伝い歩き、敷島に近付き、生唾を呑む。
「あの時、もうここにいなかったんだ……俺らが必死こいて廊下走ってる時、あいつはもう放送室を離れてたってことですよね。ボーガンとテープレコーダーを仕掛けて」
「悔しいが、そうなるね。行き違いだ」
「どうりで変だと思ったんだ。放送の声、ノイズが酷くてやけに聞き取り辛かったし。録音テープを流してたんだ」
してやられた。俺たちがここに向かってるあいだに麻生は次の目的地へ移動していた。
「さっきの放送は一体……」
校内放送で流された録音テープの声はたしかに梶のものだった。不自然なのは内容だ。
思い付くまま捉えた断片を列挙する。
「脅迫………共犯………破滅………物騒だな。放送のかんじからすると誰かもう一人と話してたみてーだけど、不自然なノイズが入って消されてたし」
あのテープも麻生が用意したんだろうか。
会話の雰囲気から察するに、盗聴で録音した可能性が高い。
「テープを仕掛けたのが麻生くんなら、話し相手も彼と見るのが妥当だ」
「自分と梶の会話を盗聴して放送にかけた?」
『脅迫?……構わない………お前……俺……共犯………破滅……ザマケイ……』
砂嵐にざらつく声を思い出し、肌が粟立つ。
不穏当な会話の断片を継ぎ接ぎし、全貌の炙りだしに挑む。
麻生はあの放送を俺に聞かせようとした。俺に聞かせて放送室におびきよせた。
麻生は会話を盗聴できる立場にあった。
麻生が当事者として梶と話し合いを持ったとすれば録音は可能だ。
敷島が思慮深げに顎をなで、首を捻る。
「わからないのはあの会話だ。あれが仮に梶先生と麻生君の会話を盗聴したものだとして……彼らは何を話してたんだ?脅迫だの共犯だのどうも穏便な内容じゃなかったが……梶先生が一方的に脅してるように聞こえた」
「人殺しって言ってました」
顎から手をおろし、弾かれたようにこっちを見る。
深く息を吸い、肺を膨らませ、吹っ切るように断言する。
「お前は逃げられない、なんとかを殺したのはお前だ、抜け駆けさせるか。俺とお前は共犯だ。たしかにそう言ってました」
凄みをきかせた威圧的な太い声。脅迫。
「テープ貸してください」
敷島の手からテープレコーダーをひったくり、操作盤に片手をつき身を乗り出し、耳に近付け巻き戻しボタンを押す。
冒頭まで巻き戻したテープをもう一度再生、一言も聞き逃すまいと集中力を総動員し、聴覚を研ぎ澄ます。

『脅迫?……構わない………お前……俺……共犯………破滅……ザマケイ……』不自然な断絶『……お前は逃げられない……を、殺したのはお前だ……罪の意識に縛られてる……抜け駆けしようったってそうはいくか……』断線『逃げられない……を、殺したのはお前だ……』砂嵐『ザマケイ』砂嵐『呪われてるんだ』砂嵐『俺?』空白『これからもお前がいれば』空白『うまい汁吸わせてやる』砂嵐『お利口さんにしてろ』……

一時停止で確信に至る。
「やっぱ『脅迫』『共犯』って言ってます。殺した、罪の意識、抜け駆け……逃げられない……呪い……リピート……」
テープを巻き戻す。
再生。巻き戻す。再生。延々続ける。
集中のし過ぎで眉間が熱を帯びる。
大体聞き取れたがひとつだけ意味不明な単語が紛れこんでいた。
「ザマケイってなんだ?くそ、ノイズが酷くてこれ以上わからねー」
「麻生くんはテープをかけて何を知らせようとしたんだ?心当たりあるかい」
隣に来た敷島が不安顔で問う。
テープレコーダーをとめ、首をうなだれ操作盤と向き合う。
放射能で汚染されたような沈黙が漂う。
麻生と梶には隠れた接点がある。
俺の推理があたってるなら、麻生には梶を憎む明確な動機がある。
品行方正な優等生と感情的な指導で敬遠される若い教師の秘密の関係。
共犯、脅迫。マンションに外泊した日に目撃した裸の痣、傷。
わからないのは「人殺し」「罪の意識」だ。
梶は相手を脅迫していた。
話し相手が麻生なら、「人殺し」と詰られたのもまた麻生ということになる。
どういう意味だ?
麻生は人を殺した弱みを握られ脅されていたのか?
殺人の罪を周囲にばらされたくないなら従えと関係を強要されていた?
「そうか、それで……」
神奈川の女子高生レイプ事件。被害者は麻生と同じ境遇だった。
「暗号文じゃなくて告発文だったのか?」
麻生は過去、俺と出会う前に殺人を犯していた。
まさか。そんなことありえねえ。
当時の麻生は中学生か小学生か、そんな年齢で誰を殺したんだ、第一子供でも人を殺したら施設送りになるんじゃないか?普通に高校に通えるのか?
疑問は尽きねど一方で奇妙に納得してもいた。
『この世には死んでもいい人間が多すぎる』
虚無を孕んだ厭世的な声と殺伐と冷えた横顔を思い出す。
麻生なら、あいつならやりかねない。
初めて会った時から異質だった、集団から浮いていた、孤立していた。
窓枠を乗り越える気軽さで常識と倫理の境界線をこえるあいつなら、眼鏡のむこうに醒めた光を浮かべ人を殺しかねない。
容赦なく金属バッドを振るいボルゾイの足と腕を砕いた時のように、ただただつまらなそうに。梃子の原理でも試すみたいに。
「……まさか、麻生がんなことするはず……」
言い切れるのか?
自分に狂気と凶器を向けた相手にむかって言い切れるのかよ?
お人よしもいいかげんにしろ。
麻生は俺を殺そうとした。
美術室の一件と今の一件、合わせて考えたら疑問の余地もない。
敷島の存在はイレギュラーだ、麻生だって予想しえなかった。
麻生が狙ってるのはこの俺、秋山透だ。
俺が持ち上げる事を予想し絵の裏側に剃刀の刃を接着し、俺がドアを開ける事を念頭におきボーガンを仕掛けた。
あきらかに危害を加えるつもりだった。
「秋山くん。秋山くん?」
敷島の声に意識を向ける。
「本当に大丈夫かい?ひどい顔色だ」
どこかに遊びに出かけていた正気が漸く戻ってくる。
「…………っ………」
頬を伝う血を手の甲で拭う。親指に唾をつけ、擦る。
「ここには用がねえ、次の場所へ……」
「続けるのか?」
「冗談。逃げ帰れるか」
非難めいた調子で自重を促す敷島に啖呵を切り、レコーダーを投げ返す。
「あいつが待ってる。とめなきゃ」
ったく、世話ばっかかけやがって。
自分でも馬鹿だと思う、底抜け底なしの馬鹿だと思う。
大晦日の夜の校舎をさんざっぱら走り回されて、心臓は悲鳴を上げて、体力は限界で、とうとう命の危険に晒された。
正直、怖い。怖くないはずがない。
俺はどこにでもいる平凡な高校生で、特別な技能は何も持っちゃない。
だからって、ここで逃げ帰っちまったらきっと一生後悔する。

麻生が呼んでる。
麻生が待ってる。
走り出す理由なんて、それで十分だ。

「こんなかすり傷唾つけときゃ治る。ボーガンにキスされたくらいでいちいちびびって逃げ出してたら推理小説なんか読めませんよ」
必ず見つけてやっからな、麻生。
決意あらたに身を起こした俺の耳に間の抜けたメロディが届く。
咄嗟に廊下に駆け戻り、場違いなメロディを奏でる携帯を拾う。
「もしもし!?」
麻生か?

『女でしょ』
「は?」

予想と期待に反し、携帯からもれてきたのは恨めしげな声。
『女でしょ。女に違いない。妹が煮込んだそばを放置してとびだしてそれっきりだなんて、女しかありえない』
「まり……?」
『さっきの電話彼女でしょ。大晦日の夜に血相かえてとびだして……不潔……やらしい……いつのまにナイショで彼女なんか作ったの……』
深読みしすぎな妹の幻滅の声。
飛び出したっきりいつまでたっても帰ってこない俺に業を煮やし妄想力豊かな憶測を述べ立てる。
『コンビニってのも嘘でホントは彼女と会ってるんでしょ、そうなんでしょ?隠したってむだだから、お見通しだから』
「おい真理、」
『わかってるんだから。さっき様子おかしかったし。彼女と一緒にいるんでしょ』
「だからちげーって、ほんとにコンビニで立ち読み……」
『今週号のジャンプ142ページ、何?』
「は?」
『答えて』
……我が妹ながら侮りがたし。
不意打ちの質問にたじろぐも、必死に頭をひねり、どうせバレやしないだろうと適当に嘘を吐く。
「ハンター×ハンター」
『休載』
瞬殺。
ズボンに突っ込んだ部誌を慌ただしくめくり、音の演出つきで恥と嘘を上塗りする。
「ごめん、間違えた。えーとそうそう、こち亀だよこち亀!あははははは相変わらずおもしれーなー両さんは、まーた下駄とばしてら」
『今週号142ページはリボーン。私の雲雀さんが流血してたから衝動買いしたの』
……………はめられた。
「どうでもいいけどお前さ、二次元キャラに私のとか所有格つけるの痛いぞ?」
『やっぱり女と会ってるんだ。大晦日の晩に妹と妹のゆでたそばほったらかして彼女といちゃいちゃしてるんだ。今どこ?駅前のラブホ?河原で青姦?』
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『普通だよ。てかさ、大晦日に妹ほっぽって彼女とデートかマジありえない。最悪。こっちはわざわざ兄貴なんかのために腕まくりしてそばゆでて待ってるのに、肝心の兄貴は大晦日までさかって彼女ともふもふ……』
「もふもふってなんだよもふもふって!自慢じゃねーけどしたことねーよ!」
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『そんなこと聞いてないの。男の人に呼び出されて出てったの?血相かえて?とるものとりあえず?コートも羽織らず?誰それ、友達?』
「麻生だよ、ダチの。前に話したろ?同じクラスの、ミス研の……ちょっとトラブってさ。呼び出されたんだよ」
『眼鏡の優等生?』
「眼鏡の優等生」
『イケてる?』
「は?」
『顔。どんな感じ。イケてる?イケてない?リボーンでたとえると……あ、待って、範囲広げる。ジャンプでたとえると誰?』
「それ広がったのか?」
『いいから』
声から高揚が伝染する。
予期せぬ関心の高さを訝しみながら、事実に沿った答えをひねりだす。
「顔は……そこそこイケてる。イイ男。鬱陶しい黒髪で、涼しげな切れ長の目で、シャープな眼鏡が似合って……無表情であんま感情表に出さねーからちょっとばかし鼻につくけど」
実際、麻生は容姿に恵まれてる。顎は神経質に尖り、唇は形よく薄く、鼻梁は高く秀で、同性の俺でもたまに見とれちまうくらい横顔が整ってる。
『なにそれ。完璧じゃん。理想じゃん。クールビューティーじゃん』
「男にその表現はどうかと思うぞ。あ、ちなみにジャンプだと一番近いのはH×Hのノブさん」
『へたれなの?』
「へたれてない頃のノブさん」
『最高じゃん』
……気のせいじゃなければ、兄としちゃ気のせいであってほしいが、声が興奮に比例して危険な感じに上擦っている。
『そっか……男……男ね……しかも同級生……大晦日の夜、友達だと信じてた同級生に呼び出されて……』
「何?」
『友達だと信じてたのは兄貴だけ。相手はちがう』
予知能力者か?
なにもかも見通すような発言に狼狽し、携帯に向かい、感情的に声を荒げる。
「お前、お前になにがわかんだよ、俺と麻生のことなんも知らねーくせに憶測で物言うんじゃねーよ!アイツと俺はこれからもずっと友達なんだ、妹のくせに口出すな!」
『相手は兄貴を友達として見てない、わかんないの兄貴、そんな単純な事が!?』
「うるせえ!」
『大晦日に呼び出された意味よく考えてみなよ、大晦日だよ大晦日、一年の終わり新しい年の始まり記念すべき日、そんな大事な日に呼び出したって事は告』

告発しか考えられない。

意気込み捲くし立てる妹の、なぜか的を射た糾弾を聞くに耐えかね、携帯を叩き切る。

通話の遮断を示す信号音が漏れる携帯を見詰める俺のもとへ、破けた背広の肩を押さえ、敷島が寄ってくる。
「秋山くん……どうしたんだね、絶望的な顔をして」
「先生……俺の妹、予知能力者かもしんない」
情けない半笑いで手の中の携帯を見詰めるうちに、もう何ヶ月前の夏の夜の情景が浮かぶ。
「……麻生、なんであの日、わざわざ書き置きなんてしたんだろ」
初めて矛盾に思い至り、眉根が寄る。
今だからわかる。よく考えれば、麻生がわざわざ直筆で書き置きを残す必要なんてこれっぽっちもなかった。わざわざそんな面倒くさいことをしなくてよかったのだ。
ガラステーブルと向き合い、本の白紙を破り取り、拾ったボールペンで書き付ける麻生を思い出す。
そして、気付く。

パンドラの箱の底には希望があった。
なら、暗い暗いカメラオブスキュラの底にも希望がねむってるかもしれない。

たった今閃いた可能性の是非を、本人に確かめたい。
俺の推理が正しいなら、書き置きにはちゃんと意味がある。
敷島の不審な眼差しを感じつつ携帯をじれて操作して応答を待つ。
目を瞑り、繋がるようにと一心に祈る。
祈りは通じた。床に落とした時に壊れたかと危惧したが、さいわい生きていた。
手の中の携帯が反応し、電波に乗じた密やかな気配を感じ取る。
悪趣味なゲームに巻き込まれ命の危機に瀕した怯えを克服、口を開く暇を与えずしっかり芯の据わった声で断言。
「麻生、俺、わかった。お前、イイヤツだ」
『……………………は?』
ああ、本人が目の前にいないのが残念だ。きっと傑作な顔してるだろうに。
まさかボーガンを仕掛け迎え撃った相手から、開口一番そんな言葉を貰うとは思ってなかったんだろう戸惑いが伝わってくる。
一呼吸おき、続ける。
「今気付いたんだ。マンションに泊まった日、だれかに呼び出されてふらっと出ていこうとしたろ。書き置きだけ残してさ。でもよく考えたら、わざわざそんな面倒くさいことしなくてよかったんだ。適当な紙がねーからメモ帳代わりに本破って、ボールペンさがして……」
『………………』
続きを促すような沈黙。
白い息を吐き、携帯を持ち直し、会心の笑みを浮かべる。
「携帯がある。そうだろ」
あの日の麻生の行動は不自然だった。
今時の高校生は携帯をもってる。俺も聡史も麻生も例外じゃない。わざわざ直筆で書き置きなんか残さなくても、「ちょっとでかけてくる」とメールを入れておけばよかったのだ。その方がずっと手軽で簡単、後腐れがない。麻生には俺と聡史のメルアドを教えてある。麻生の性格ならそっけなくメールだけ入れて出ていくか、最悪何も言わず出て行っちまってもおかしくない。
「なんでそうしなかったのか考えたんだ。で、わかった。俺の推理、聞くか」
『…………………』
「俺は着メロを設定してる。メールが入れば携帯が鳴る。あの時お前、俺がぐーすかよだれたれて熟睡してると思ったんだろ」
『…………………』
「俺を起こしたくなかった。だから書き置きにした。お前ってさ、変なところで律儀だよな。メールも書き置きも残さず出て行けばうざい目に遭わずにすんだのに……メモが見当たらないから大事な本破いて、心配させないように、わざわざ」
『…………………』
「そんなお前がイイヤツじゃないはずない」
そうだ。
麻生は俺たちを起こしたくなかった。だからあえてアナログで回りくどい方法をとった。
携帯にメールを入れるか黙って出て行けばすむのに、俺たちに心配かけまいと、義理でもなんでも形ある何かを残そうとしてくれた。
そんな麻生が、俺を殺そうとするはずない。
どうしてこんな単純なこと見落としてたんだろう。
剃刀とボーガン如きでびびってちびって逃げ出して、俺たちが積み重ねてきた思い出をゼロにするところだった。
「実は優しいだろ、お前。優しさを見せるのが苦手なだけなんだ」
『………ヒント、わかったのか?』
漸く声が返る。
「なめるなよミス研部長を」
携帯を持ち背後の壁に凭れ、口の端を不敵に吊り上げる。
もう少しで忘れちまうところだった。気付かずに通り過ぎちまうところだった。今ここで気付けてよかった、思い出せてよかった。
俺が麻生を友達だと思っているように、麻生の方でも、少しは俺の事を気にかけてくれている。
俺の睡眠を気にかけメールをとりやめ、大事な本の1ページを破りとって書き置きをしたためるくらいには。
暗い箱を開けてみれば底には希望がねむってる。
カメラオブスキュラを解体したら、そこにはきっとー……
白い息を吐きながら矩形の天井を見上げ、ヒントを貰ってからこっち、組み立てた推理を滔滔と披露する。
「カメラオブスキュラはラテン語で暗い部屋の意味、写真術発明にあたり重要な役割を果たした装置。学校で映像が見れる部屋は限られてくる。スクリーンがある教室はひとつだけ、黒いカーテンで囲っちまえば即席の映画館のできあがり」
黒いカーテンで囲われた暗室、暗い箱、映写機とスクリーンがある場所といえばあそこしかない。
「視聴覚室だ」
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