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六話

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ハンスの息子ペーターと女房のマルガレーテが相次いで死に、ダミアンは村中の人間に魔女呼ばわりされた。


この手が取り上げたせいで、可哀想なペーターは呪われたのか?
実の息子に邪念を抱いた報いなのか?


「開けてよ師匠、中で何やってんだよ!」

今日もまたミルセアが地下室の扉を叩く。ダミアンは弟子の呼びかけを無視し、羊皮紙に文字を書き付ける。


僕は間違ってない。
僕は間違ってない。
僕は間違ってない。


きみを愛したこと。愛されたこと。求めたこと。求められたこと。初恋の人に似た美しい少年と出会い育てたこと、君の師を務めたこと。


間違ってるはずがない、絶対に。


震える字を羊皮紙に書き付け、くしゃりと握り潰し、机に突っ伏して嗚咽する。

「ごめんミルセア」

僕は君の父親かもしれない。
なのに、君を愛した。
想像の中で息子に抱かれ、近親相姦の大罪を犯した。


この期に及んで父と明かす勇気がないのは、偏に僕の弱さ故だ。


ダミアンは夜な夜な病が蔓延する村を出歩き、村人たちが飼っている鶏を盗み、地下室へ持ち帰った。
「ごめんよ」
斧で首を切り落とし、生き血を絞って魔方陣を描く。
ダミアンはカラスや黒猫を使い魔に仕立て、情報収集に放っていた。師匠から伝授されたごく初歩的な魔術だ。
その使い魔たちが、隣町に滞在している異端審問官一行の動向を告げたのである。
もはや一刻の猶予もない。
先代の写本をもとに正確無比な魔方陣を描き上げ、おごそかに呪文を唱える。

刹那、寒気を感じた。

地下室に濛々と煙が立ち込め、魔方陣の中心に影が立ち塞がり、老若男女区別が付かない声を発する。

「君が召喚者?」
「そうだ」
「名前は」
「ダミアン・カレンベルク」
「願いを言え」

召喚は成功した、のだろうか?
深呼吸で覚悟を決め、足腰の震えを押さえ込み、煙幕に包まれた悪魔を睨み据える。

「僕の弟子を、ミルセアを魔女狩りから逃がしてくれ」
「貴方個人に纏わる願いじゃないんですか」
「僕は魔女の弟子として裁かれるけど、ミルセアには人として生きてほしい」
「もったいぶった言い回しですねえ。お弟子さんを助けてほしいと?」
「そうだ」
「貴方のお弟子さんは明日異端審問官に捕まって獄中死する運命ですよ」
「それを変えてくれって頼んでる」
「代償は」

目を瞑る。
開く。

「僕の魂。寿命全部」

地下室に立ち込めた煙がゆっくり晴れ、魔方陣の中心に佇立する人物の素顔が暴かれる。
「な……」

ダミアンは絶句した。

「ご存知ですか?悪魔はねェ、召喚者がこの世でもっとも愛する人間の似姿をとって現れるんですよ」

そこにいたのはミルセアだった。
天鵞絨めいて艶やかな黒髪を靡かせ、長い睫毛に縁取られた黒い瞳を瞬き、悠々と両手を広げ。

「察するに貴方は、この姿を世界で一番美しいと思ってらっしゃるみたいですね」
「……まだ答えを聞いてないぞ。契約は?」
「成立。と言いたい所ですが、少々代償が足りません」

ミルセアに化けた悪魔が秒針の如く人さし指を振り、猫のような足取りで歩いてくる。

「ねえダミアンさん。本気で地獄に堕ちる覚悟があるなら、僕と契って本物の魔女になっちゃいましょうよ」

ダミアンの頬に手をさしのべ、至近距離で囁き、おもむろに口付ける。
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