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十口目
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「盛り上がってんねーアタシもまぜてー」
明るく弾ける声に振り向きゃ、四角い指フレームに俺たちを切り取りズームする、インナーカラーの少女がそこにいた。
身に付けてんのはカラフルなドット柄キャミと健康的なおみ足を引き立てるデニムのホットパンツ、足元はコンバースのスニーカー。腰結びにしたスタジャンと斜めに傾ぐベースボールキャップがおしゃれ。オールディーズアメリカ風コーデにも増して表情は溌剌と輝き、ホッピングシャワーのような存在感が周りを生き生き照らす。
「ブサナギちゃん?」
意表を突かれて訊き返せば、庇を引き上げ可憐な素顔を曝し、女の子が渋面を作る。
「今のなし。やり直し」
鼻の頭が接する距離に近付かれ不覚にもドキリ。現役アイドルだけあって顔がいい、元ノンケのゲイもときめく。
たじろぐ俺の視線を至近距離で捉え、圧を込めた笑顔できっぱり宣言。
「サナギって呼んで」
「英ナギ、略してサナギちゃん……?」
「断然かわいいっしょ。ブサナギじゃ不細工なナギって言われてるみたいじゃん」
「ご、ごめん」
深い考えもなく馴染んでる呼び名を使っちまった、デリカシーのなさを恥じる。距離感って大事。
目の前の少女が親指をバッテンした両手を緩慢に開閉、ひらひら蝶々を飛ばす。
「で、誰?」
「烏丸理一っす、茶倉の助手兼AD代理の」
「ドタキャンした人の代わりか、よろしく」
蝶々をまねた両手をはためかせ、傍らで成り行きを見守る操さんに向き直る。
「こっちがマネージャーさん?」
「倉橋操です。今日はうちの茶倉がお世話になります」
「ご丁寧にどーも」
操さんが差し出す名刺を貰い、通路を挟んで座る俺達をまじまじ見比べる。
「助手とマネージャーてどうちがうの?ふたりも付いて来んの珍しいけど」
「込み入った事情があって……」
説明が難しい。
操さんが後を引き取る。
「理一くんは茶倉くんの高校の友達で十年来の付き合い。今は事務所を手伝ってるの」
「具体的に何を」
「動画の企画立てたり必要なもの揃えたり伝票整理したり」
「依頼人に松竹梅ランク分けしたお茶出したり棚の土産物にハタキかけたり期間限定ダッツ買いにパシったり」
雑用係じゃねえか、自分で言ってて哀しくなってきたぞ。指折り数えてへこむ俺を哀れみ、デキる女代表の操さんがフォローを入れる。
「理一くんには霊感があって、茶倉くんの除霊をサポートしてるのよ」
「え~~全然見えない!」
リアクションに困る俺を見詰め、サナギちゃんが感心したふうに頷く。
「すまちーもそっち系の人とか意外。類友の法則だね」
「すま……なんだって?」
「からすまだからすまちー。こっちのがかわいくない?」
この子にとっちゃカワイイかそうじゃねえかが絶対的判断基準のようだ。操さんが説明を付け足す。
「私も正式なマネージャーじゃないんだけど、今日だけ特別に雇われたの」
「普段は何を?」
「起業家。会員制のスパやジム経営してるわ。茶倉くんたちとはちょっとした知り合いで……元依頼人って言えばわかってもらえるかしら」
「えっ社長さんなんだすごっ、バリキャリかっこいい~~」
「ありがと」
芝居がかった瞬きに合わせ感嘆符連発のサナギちゃん。手放しにおだてられた操さんはまんざらでもなさげに茶倉に目配せよこす。
「ずっとお喋りしたくてタイミングうかがってたんだ。アタシTSSの動画の大ファンで、すまちーとちゃっきーにいろいろ聞きたくて」
「「ちゃっきー?」」
綺麗にハモる。
サナギちゃんは何故かドヤ顔。
「ちゃくらさん略してちゃっきー」
「ホラー映画にそんな名前の人形いたよね、おもちゃ売り場で射殺された殺人鬼の霊乗り移った」
「かわいいよね~あの子。ストラップ持ってる」
スマホにさげたスカーフェイスのぬいぐるみを見せびらかし、恋する乙女の瞳で惚気る。
「お気に入りなんだ」
一方俺はチャッキーをあの子と呼ぶ子に初めて出会い、世の中の価値観の多様化に戦慄していた。サナギちゃんがきょとんとする。
「え、だめ?かわいくない?」
「構いません。素敵な愛称を付けていただいて光栄です」
地金の関西弁を標準語に切り替えた茶倉にやや引き、背凭れをずり落ちがてらこしょこしょ耳打ち。
「調子いーの」
「ションベンくさい小娘に興味あらへん、籍入れてから出直してこい」
「人妻専門だもんな」
コンプラに配慮し小声で放たれた問題発言にあきれる。痛い目見た方がいいぞコイツ。
「ねえねえちゃっきーってホントに霊視えんの、すまちーとコンビで除霊行ってんの?インチキだ~詐欺師め~金返せ~ってアンチコメ多いけど」
最後はパワーストーンのまがいもん売り付けられた客の恨み言だ、多分。あこぎな商売は敵を作る。
茶倉が申し分なく長い脚を組み替え、余裕綽々に切り返す。
「それだとこの番組はインチキ霊能者にオファーしたことになりますね。プロデューサーの目は節穴だ」
動画のコメ欄をスクロールしたサナギちゃんが「だよね~」と笑い、爪をデコった指先でずれたキャミ紐を直す。腋チラがセクシー。
「オーラ判定できるってマジ?アタシ何色?待って言わないで当てる、ずばりピンクでしょ正解」
ぐいぐい来るぞこの子。茶倉の返答を待たず捲し立て、目をきらきらさせ食い付いてくる。
「チャクラ王子に生オーラ視てもらうとかやばすぎ~チャクラー友達に一生自慢しちゃお。早く占って」
「サナギさんのオーラの色は」
「賑やかだな~まぜてくれ」
今度はサザンアイスのアイスの方、イタコの孫の力石さんが寄ってきた。茶倉が芸能人ホイホイの磁石なのか、たまたまこのバスにさびしんぼが勢揃いしてやがんのか。
そこまで考えわれながらひねくれてんなあと苦笑する。サナギちゃんにしろサザンアイスにしろいかにもなオーラ持ちのタレントが占めるバス内に、俳優並のルックスと詐欺師張りの胡散臭さを持て余すイロモノがしれっとまざってきやがったら気にもなるさ。
力石さんは濃紺の作務衣を羽織っていた。裸足に下駄スタイルと存在感ある鷲鼻のせいか、ガテン系のヤカラに化けて下山した天狗っぽい雰囲気が漂ってる。
恐山に天狗がいるか知んねえけど。いたとしてもパンチパーマなわきゃねえか。
しかし天狗にたとえるにゃ些か俗っぽすぎるというか、ざっくばらんな言動の端々に長年のツッコミで鍛えた如才なさが垣間見える。
今だ。
ズボン横で手を拭き、初恋の女子に交際を申し込む中学生の勢いで突き出す。
「ファンっす、握手してください!」
「キミは?」
「茶倉の助手兼AD代行の烏丸理一っす」
「ああ、筒井ちゃんのピンチヒッターの」
「三年遅れになっちゃうけどせっかくなんで……M1優勝おめでとうございます、新作コント『マブイグミ』サイコーっした!カメハメ波のモーションで駄犬のマブイ打ち込まれた喜屋武さんがスタジオ中にションベンひっかけるとことかもーおかしくて」
本当にひっかけたわけじゃねえ、フリだけ。お茶の間に無修正の下半身さらしちゃ干される。
「めやぐだ」
青森訛りでお礼を述べ、俺の手を握り返す力石さんに舞い上がる。当分洗わんどこ。
「おーい聞こえてっか喜屋武、ファンがいんぞー」
「ンなでっけえ声で喋ってたらいやでも聞こえるって」
喜屋武さんが無愛想に吠え、力石さんが苦笑いで謝罪する。
「ごめん、寝てなくてイライラしてんだ」
「全然!サザンアイスに会えるなんてめちゃ感激っす、力石さんはキー局冠番組ゲットおめでとうございます、トーク無双っすもんね。M1グランプリとった伝説のコントもキレッキレで感動しちゃいましたもん」
ちょっとだけファンだったってのは嘘で実は結構ガチめのファンだ。有名人を前にするとテンション上がる、ミーハー気質も関係してる。
茶倉と操さんの手前、走行中のバス内移動してサインねだるの自重したんで褒めてくれ。
「昨日の『お笑いサバイバー』見てくれた?」
「もち!じゃっぱ汁ネタは鉄板っすよね、なまはげオチに持ってくのは読めませんでしたけど」
「あれな~越境はどうかなって俺も思ったのよ、ネットだと賛否両論で」
「そうなんすか?」
「青森県民の誇りはどうした、岩手に魂売ったのかって非難轟々」
「友情出演でいいじゃないすか」
おいてけぼりを食らったサナギちゃんが口を尖らす。
「ずるいリッキー、アタシが先に話しかけたのに」
「知り合いなんすか」
「民放バラエティーでご一緒した仲」
サナギちゃんが力石さんの頬っぺにぐりぐり指をねじこむ。名刺交換を終えた操さんが礼儀正しく質問。
「サザンアイスさんは動画もやってらっしゃいますよね、日本全国の心霊スポットに突撃する……危なくありません?」
「トラブルは何度かあったな、電話ボックス閉じ込められたり。知ってる?埼玉の相生峠、女の霊が出るって噂の……あそこね、ガチヤバい。受話器から変な声したの、啜り泣きっぽい……」
力石さんが両手を前にたらす。俺は横目で茶倉を見る。
「心霊体験したの喜屋武だけなんで撮れ高ビミョいけどな~あはは。あちらさんも電話通じて満足したんじゃない、撮影行ってから化けて出なくなったって話だし」
「お二人は力あるイタコとユタの末裔ですから、そこにいるだけでケチな地縛霊なんて消し飛んでしまうでしょうね。拝み屋の孫には全部終わったあとに折り鶴手向ける位しかできません」
茶倉が謙虚に微笑む。一流のペテン師の笑顔。力石さんが慌ててとりなす。
「霊能者の先生が謙遜しなさんな!サナギちゃんに聞いたぞ、タピオカを数珠に錬成する霊力の持ち主だって」
「超能力やろそれは」
「今の関西弁」
「空耳です」
「イタコとユタと拝み屋の孫が揃って最強トリオ結成だ、絶対成功させようぜ」
「善処します」
「アタシたちも忘れないでよね!」
「ごめんごめん」
力石さんが俺と茶倉の肩を叩き、サナギちゃんがやる気満々拳を突き上げる。前方の喜屋武さんは鼻を鳴らし、操さんは寝ぼけた顔して何か考え込んでいた。
深刻っぽい様子に胸が騒ぐものの、声を掛ける前にバスが大きく蛇行した道を曲がり、一番前の席に陣取ったスタッフが叫ぶ。
「着きました。下りてください」
明るく弾ける声に振り向きゃ、四角い指フレームに俺たちを切り取りズームする、インナーカラーの少女がそこにいた。
身に付けてんのはカラフルなドット柄キャミと健康的なおみ足を引き立てるデニムのホットパンツ、足元はコンバースのスニーカー。腰結びにしたスタジャンと斜めに傾ぐベースボールキャップがおしゃれ。オールディーズアメリカ風コーデにも増して表情は溌剌と輝き、ホッピングシャワーのような存在感が周りを生き生き照らす。
「ブサナギちゃん?」
意表を突かれて訊き返せば、庇を引き上げ可憐な素顔を曝し、女の子が渋面を作る。
「今のなし。やり直し」
鼻の頭が接する距離に近付かれ不覚にもドキリ。現役アイドルだけあって顔がいい、元ノンケのゲイもときめく。
たじろぐ俺の視線を至近距離で捉え、圧を込めた笑顔できっぱり宣言。
「サナギって呼んで」
「英ナギ、略してサナギちゃん……?」
「断然かわいいっしょ。ブサナギじゃ不細工なナギって言われてるみたいじゃん」
「ご、ごめん」
深い考えもなく馴染んでる呼び名を使っちまった、デリカシーのなさを恥じる。距離感って大事。
目の前の少女が親指をバッテンした両手を緩慢に開閉、ひらひら蝶々を飛ばす。
「で、誰?」
「烏丸理一っす、茶倉の助手兼AD代理の」
「ドタキャンした人の代わりか、よろしく」
蝶々をまねた両手をはためかせ、傍らで成り行きを見守る操さんに向き直る。
「こっちがマネージャーさん?」
「倉橋操です。今日はうちの茶倉がお世話になります」
「ご丁寧にどーも」
操さんが差し出す名刺を貰い、通路を挟んで座る俺達をまじまじ見比べる。
「助手とマネージャーてどうちがうの?ふたりも付いて来んの珍しいけど」
「込み入った事情があって……」
説明が難しい。
操さんが後を引き取る。
「理一くんは茶倉くんの高校の友達で十年来の付き合い。今は事務所を手伝ってるの」
「具体的に何を」
「動画の企画立てたり必要なもの揃えたり伝票整理したり」
「依頼人に松竹梅ランク分けしたお茶出したり棚の土産物にハタキかけたり期間限定ダッツ買いにパシったり」
雑用係じゃねえか、自分で言ってて哀しくなってきたぞ。指折り数えてへこむ俺を哀れみ、デキる女代表の操さんがフォローを入れる。
「理一くんには霊感があって、茶倉くんの除霊をサポートしてるのよ」
「え~~全然見えない!」
リアクションに困る俺を見詰め、サナギちゃんが感心したふうに頷く。
「すまちーもそっち系の人とか意外。類友の法則だね」
「すま……なんだって?」
「からすまだからすまちー。こっちのがかわいくない?」
この子にとっちゃカワイイかそうじゃねえかが絶対的判断基準のようだ。操さんが説明を付け足す。
「私も正式なマネージャーじゃないんだけど、今日だけ特別に雇われたの」
「普段は何を?」
「起業家。会員制のスパやジム経営してるわ。茶倉くんたちとはちょっとした知り合いで……元依頼人って言えばわかってもらえるかしら」
「えっ社長さんなんだすごっ、バリキャリかっこいい~~」
「ありがと」
芝居がかった瞬きに合わせ感嘆符連発のサナギちゃん。手放しにおだてられた操さんはまんざらでもなさげに茶倉に目配せよこす。
「ずっとお喋りしたくてタイミングうかがってたんだ。アタシTSSの動画の大ファンで、すまちーとちゃっきーにいろいろ聞きたくて」
「「ちゃっきー?」」
綺麗にハモる。
サナギちゃんは何故かドヤ顔。
「ちゃくらさん略してちゃっきー」
「ホラー映画にそんな名前の人形いたよね、おもちゃ売り場で射殺された殺人鬼の霊乗り移った」
「かわいいよね~あの子。ストラップ持ってる」
スマホにさげたスカーフェイスのぬいぐるみを見せびらかし、恋する乙女の瞳で惚気る。
「お気に入りなんだ」
一方俺はチャッキーをあの子と呼ぶ子に初めて出会い、世の中の価値観の多様化に戦慄していた。サナギちゃんがきょとんとする。
「え、だめ?かわいくない?」
「構いません。素敵な愛称を付けていただいて光栄です」
地金の関西弁を標準語に切り替えた茶倉にやや引き、背凭れをずり落ちがてらこしょこしょ耳打ち。
「調子いーの」
「ションベンくさい小娘に興味あらへん、籍入れてから出直してこい」
「人妻専門だもんな」
コンプラに配慮し小声で放たれた問題発言にあきれる。痛い目見た方がいいぞコイツ。
「ねえねえちゃっきーってホントに霊視えんの、すまちーとコンビで除霊行ってんの?インチキだ~詐欺師め~金返せ~ってアンチコメ多いけど」
最後はパワーストーンのまがいもん売り付けられた客の恨み言だ、多分。あこぎな商売は敵を作る。
茶倉が申し分なく長い脚を組み替え、余裕綽々に切り返す。
「それだとこの番組はインチキ霊能者にオファーしたことになりますね。プロデューサーの目は節穴だ」
動画のコメ欄をスクロールしたサナギちゃんが「だよね~」と笑い、爪をデコった指先でずれたキャミ紐を直す。腋チラがセクシー。
「オーラ判定できるってマジ?アタシ何色?待って言わないで当てる、ずばりピンクでしょ正解」
ぐいぐい来るぞこの子。茶倉の返答を待たず捲し立て、目をきらきらさせ食い付いてくる。
「チャクラ王子に生オーラ視てもらうとかやばすぎ~チャクラー友達に一生自慢しちゃお。早く占って」
「サナギさんのオーラの色は」
「賑やかだな~まぜてくれ」
今度はサザンアイスのアイスの方、イタコの孫の力石さんが寄ってきた。茶倉が芸能人ホイホイの磁石なのか、たまたまこのバスにさびしんぼが勢揃いしてやがんのか。
そこまで考えわれながらひねくれてんなあと苦笑する。サナギちゃんにしろサザンアイスにしろいかにもなオーラ持ちのタレントが占めるバス内に、俳優並のルックスと詐欺師張りの胡散臭さを持て余すイロモノがしれっとまざってきやがったら気にもなるさ。
力石さんは濃紺の作務衣を羽織っていた。裸足に下駄スタイルと存在感ある鷲鼻のせいか、ガテン系のヤカラに化けて下山した天狗っぽい雰囲気が漂ってる。
恐山に天狗がいるか知んねえけど。いたとしてもパンチパーマなわきゃねえか。
しかし天狗にたとえるにゃ些か俗っぽすぎるというか、ざっくばらんな言動の端々に長年のツッコミで鍛えた如才なさが垣間見える。
今だ。
ズボン横で手を拭き、初恋の女子に交際を申し込む中学生の勢いで突き出す。
「ファンっす、握手してください!」
「キミは?」
「茶倉の助手兼AD代行の烏丸理一っす」
「ああ、筒井ちゃんのピンチヒッターの」
「三年遅れになっちゃうけどせっかくなんで……M1優勝おめでとうございます、新作コント『マブイグミ』サイコーっした!カメハメ波のモーションで駄犬のマブイ打ち込まれた喜屋武さんがスタジオ中にションベンひっかけるとことかもーおかしくて」
本当にひっかけたわけじゃねえ、フリだけ。お茶の間に無修正の下半身さらしちゃ干される。
「めやぐだ」
青森訛りでお礼を述べ、俺の手を握り返す力石さんに舞い上がる。当分洗わんどこ。
「おーい聞こえてっか喜屋武、ファンがいんぞー」
「ンなでっけえ声で喋ってたらいやでも聞こえるって」
喜屋武さんが無愛想に吠え、力石さんが苦笑いで謝罪する。
「ごめん、寝てなくてイライラしてんだ」
「全然!サザンアイスに会えるなんてめちゃ感激っす、力石さんはキー局冠番組ゲットおめでとうございます、トーク無双っすもんね。M1グランプリとった伝説のコントもキレッキレで感動しちゃいましたもん」
ちょっとだけファンだったってのは嘘で実は結構ガチめのファンだ。有名人を前にするとテンション上がる、ミーハー気質も関係してる。
茶倉と操さんの手前、走行中のバス内移動してサインねだるの自重したんで褒めてくれ。
「昨日の『お笑いサバイバー』見てくれた?」
「もち!じゃっぱ汁ネタは鉄板っすよね、なまはげオチに持ってくのは読めませんでしたけど」
「あれな~越境はどうかなって俺も思ったのよ、ネットだと賛否両論で」
「そうなんすか?」
「青森県民の誇りはどうした、岩手に魂売ったのかって非難轟々」
「友情出演でいいじゃないすか」
おいてけぼりを食らったサナギちゃんが口を尖らす。
「ずるいリッキー、アタシが先に話しかけたのに」
「知り合いなんすか」
「民放バラエティーでご一緒した仲」
サナギちゃんが力石さんの頬っぺにぐりぐり指をねじこむ。名刺交換を終えた操さんが礼儀正しく質問。
「サザンアイスさんは動画もやってらっしゃいますよね、日本全国の心霊スポットに突撃する……危なくありません?」
「トラブルは何度かあったな、電話ボックス閉じ込められたり。知ってる?埼玉の相生峠、女の霊が出るって噂の……あそこね、ガチヤバい。受話器から変な声したの、啜り泣きっぽい……」
力石さんが両手を前にたらす。俺は横目で茶倉を見る。
「心霊体験したの喜屋武だけなんで撮れ高ビミョいけどな~あはは。あちらさんも電話通じて満足したんじゃない、撮影行ってから化けて出なくなったって話だし」
「お二人は力あるイタコとユタの末裔ですから、そこにいるだけでケチな地縛霊なんて消し飛んでしまうでしょうね。拝み屋の孫には全部終わったあとに折り鶴手向ける位しかできません」
茶倉が謙虚に微笑む。一流のペテン師の笑顔。力石さんが慌ててとりなす。
「霊能者の先生が謙遜しなさんな!サナギちゃんに聞いたぞ、タピオカを数珠に錬成する霊力の持ち主だって」
「超能力やろそれは」
「今の関西弁」
「空耳です」
「イタコとユタと拝み屋の孫が揃って最強トリオ結成だ、絶対成功させようぜ」
「善処します」
「アタシたちも忘れないでよね!」
「ごめんごめん」
力石さんが俺と茶倉の肩を叩き、サナギちゃんがやる気満々拳を突き上げる。前方の喜屋武さんは鼻を鳴らし、操さんは寝ぼけた顔して何か考え込んでいた。
深刻っぽい様子に胸が騒ぐものの、声を掛ける前にバスが大きく蛇行した道を曲がり、一番前の席に陣取ったスタッフが叫ぶ。
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