ボロボロの狐を拾ったら母性強めだった

アントロ

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拾ってください

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ザァァァァ・・・
「・・・・・」
「・・・・・」
大雨の日だった。
「どうしたの、お前」
「・・・拾ってください」
「唐突だな」
泥まみれの狐が、道端で座り込んでいた。狐といっても普通の狐ではない。人間にとても近い見た目をしているのだ。狐耳と尻尾が生えている以外は、ただの狐色の長い髪を持つ青年だ。年は20くらいだろうか。整った顔をしている。目も綺麗な蒼色で、泥を洗い流せばきっと美しい。



ガチャリ。
「お邪魔します」
「おう」
・・・連れてきてしまった。だって、上目遣いでこちらを覗き込んでくる彼は、どうしても見捨てられない力を持っていた。
「まず、風呂行くか」
「はい」
サァァァァァ
「あったかい・・・」
「そりゃあな。あんな大雨の中居たんだ。冷えただろ」
「はい」
少し他人行儀な雰囲気なものの、少しずつ心を開いている気がした。
「お前、前はどこにいたんだ?」
「家政婦として雇われていました。でも、捨てられて・・・」
「なぜ?」
「新しい家政婦が来たんですよ。派手な見た目の、美しい人が」
少し悲しそうに彼はそういう。
「愛人か。大変だったな」
「いえ。あそこには嫌気が指してました。丁度よかったんです」
少し、笑ったような気がした。段々泥が流されていく。綺麗な髪が、もっと綺麗になっていく。
「名前はあるか?」
「アオイ、です」
「アオイか。分かった。よろしくな」
「ええ」
アオイが、こちらを見てはにかんでくれた。
「あぁ、待て待て。拭いてやるよ」
「いいんですか?自分でできますよ?」
「いいから。ほら」
わしわしと頭を拭いてやると、アオイの尻尾が少し揺れた。こうしてずっとアオイの裸を見ていると、少し緊張する。実は自分はゲイなのだ。
あらかた水気を拭き取って、自分の服を着させた。ほとんど自分と同じサイズなので、服もぴったりだった。
「ありがとうございます」
「うん」
先ほどより喋り方が柔らかくなった。だいぶ落ち着いたのだろう。
「今日はもう疲れたろ。もう寝ようか」
時計の針は、夜の9時半を指していた。
「はい」


横にあるリモコンで電気を消す。横には、少し眠そうな顔をしているアオイ。綺麗になった肌と髪は、とても美しい。アオイを捨てた人間は、目がなかったのだろうか。
「それじゃあ、お休み」
「おやすみなさい」
そのまま2人で眠りについた。
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