突っ走った後に道はできる!「改稿版」

大鳥 俊

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3.聞き捨てなりません!

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「お待たせしました、ビアンカ嬢」

 あたしは席に戻ったフェイスリート様を笑顔で迎える。
 とりあえず基本方針は決まったが、流石さすがその方法までは考えつかず、今はただ、笑っているだけだったりするのだけど。

 そもそもあたし自身、直前までフェイリスート様用に包容力をアピールする事は考えていたけれど、逆にいえばそれ以外は何にも考えていなかったし、ましてやそれが今回のお断り大作戦に代用できるわけでもなかった。

 ……となれば、取るべき行動は一つ。

「フェイスリート様、ご趣味は?」

 あたしはフェイスリート様あいての情報を集める事にした。

「趣味……ですか、乗馬を少々」
「そうですか! では好きな食べ物は?」
「ゴーヤです」
「渋いですね! あと、お好きな音楽は?」
「クラシックです」
「さすが!」

「…………」

 ふむふむ。
 乗馬とゴーヤとクラシック好きね。
 乗馬はともかく、ゴーヤは苦いし、クラシックは子守唄だし。やっぱり大人だわ!

 そんな事を考えながら頷いていると、フェイスリート様が「ビアンカ嬢はどうですか?」と、声をかけてくれた。

「え? 私ですか?」

 まさか質問されるとは思わなかったので、思わず目を瞬いてしまった。
 礼儀として彼は会話を振ってくれただけなのに、その気使いが嬉しくて微笑む。

「ええっと、私は身体を動かす事が大好きです! 食べ物はリンゴが好きですわ! 味は元より、カットする時にうさぎさんとか作って楽しめるところが二度おいしくって!」
「……そうですか」
「ええ! あと音楽は子供が楽しめるものならなんでも! 一緒に歌ったり、踊ったりできるのは楽しいですし!」

「…………」

 しまった。
 つい調子に乗って余計な情報まで盛り込んでしまい、慌てて口をつぐむ。

 そのせいで、辺りはシンと静まり返ったが、フェイスリート様は気にせず少し難しい顔をしていた。

 ……うん。髭と眼鏡が渋さを引き立たせるな。
 しっかしこの人、一体いくつなんだろう?

 あたしが呑気にそんな事を考えている間も、フェイスリート様は難しい顔をしていた。
 多分、『こんな騒がしい女、困るな。どうやって断ろう?』とでも考えているのだろう。
 
 ……あら? そうすると、自ずとお断りコースまっしぐらなのでは?
 情報収集するまでもなく、お断りされる。ちょっと悲しい気もするけど。
 
 ただ、実際は。

「……子供、お好きなんですか?」

 予想に反して、フェイスリート様はさっきの会話について考えていたようだった。
 ……って、そんなに中身のある会話はしていないのに、と思いつつも「ええ」と答える。すると彼は「私は……」と、言いかけたのに、そのまま口をつぐんでしまった。

 妙なところで言葉を切られると気になってしょうがない。
 しかし、先をうながす事も出来ず、もやもやしながらフェイスリート様を見つめると、彼は眉間にしわを寄せ、何か嫌悪しているものを見る様な眼でカップをにらんでいた。

 え、カップに何かいるの??

 そう思って、あたしが少し姿勢を正し、カップをのぞこうとしたら。

「私は子供が大嫌いです」

 と、吐き捨てるように言い放った。

 耳を疑った。
 子供が、大嫌い?
 あんなに生命にあふれていて、無邪気に笑い、そしてあたしを癒す子供達が?

 たしかにイタズラをしたり、言い付けを守らなかったりなど手を焼く事もある。
 だけど、あたしは子供達を嫌いになった事なんてない。
 それを冷たく、捨て置いたモノを見るように、一言。『大嫌い』


「……何故、ですの……」

 あたしは目の前の男をぶん殴らない様に机の下で拳を握りしめた。

「大嫌いだから、大嫌いと言ったまで」
「だから! 何故ですの!?」

 つい我慢ならず、バンッと机を叩き立ち上がる。
 もう作法とかそういったことなんて全部無視して、目の前の男を睨んだ。

「……君には、関係ないだろ」
「関係なくありません!!」
「何故?」
「私達今、お見合いしているのですよ!?」
「……………」
「それなのに、子供が大嫌いなんて聞き捨てなりません!!」
「聞き捨てならないなら、どうするつもりだ」

 まるで脅すような声色に拳を握りしめる。
 本当はこのままぶん殴って、子供達のいい所を思う存分聞かせてやりたい。
 でも、殴って脅して話をしても何の意味も無い事ぐらいは、あたしにだって分かる。

 だからこそあたしは、なるべく平静を装って問いかけた。

「……フェイスリート様は今日、私の為に時間を作ってくださっているのですよね?」

 先程の剣幕から一転した態度を気にする事なく、フェイスリート様は「ああ」と言い切った。
 あたしはその返事にニヤリと笑う。

「では本日はフェイスリート様に、私の行きつけをご案内いたしますわ」

 突然の提案にフェイスリート様は目を丸くした。
 その表情を見てもあたしは笑みを崩さない。それがかえって何かたくらんでいる事実を裏付けする事になるが、それも問題ない。
 だって当然の事ながらあたしは、この男をこのまま帰してやる気などさらさらないのだから。



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