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桜色
しおりを挟む部室の鍵を職員室に返却して廊下に出た時には、窓の外は大分薄暗くなっていた。
早く帰ろうと廊下を歩き、とある教室の前を通り過ぎた高石は、ふと足を止めて振り返った。教室の中で何かが動いているのを見た気がしたのだ。
もう誰もいないだろう教室の中を、戸口からそっと覗いてみる。
戸口の近くの一つの机の上で、白い桜の花びらのようなものがくるくると舞っていた。
十枚くらいの花びらのようなものが、薄暗い教室の中で小さなつむじ風にでも巻き込まれたみたいに、くるくるくるくると宙を舞っている。
高石は呆気にとられてその光景を見守った。
桜が咲く季節にはまだ早い。いったいどこから花びらが教室に入ってきたのだろう。
花びらは一つの机の上でくるくる舞っている。高石のクラスではないので、その席に座っているのが誰なのかは知らない。
桜が舞うのなら、そんなに不吉という訳ではないのかな。と思った。
その時だった。
カッカッカッカッ、と、小さく硬い音がして、高石の目の前で花びらが全て机に突き刺さった。
十枚の花びらが、一つの机の表面に突き刺さってピンと立っている。
花びらが硬い机に突き刺さるだなんて、あり得ない。
けれども、確かに小さく薄っぺらい白っぽい何かが机にまっすぐ突き刺さっているのだ。
高石は呆然としてそれを凝視した。
それから、ハッと我に返って踵を返し、その場から逃げ出した。
気づいたのだ。あれは花びらなどではない。
白い桜の花びらのように見えたそれは、間違いなく人間の爪だった。
高石は階段を駆け下り、正面玄関へと走った。
下駄箱から靴を取り出して、そこでようやくほっとして息を吐いた。
だが、その途端、
カッ
と小さな音がして、高石の目の前の下駄箱の縁に一枚の爪が突き刺さった。
高石は顔を青くして後ずさり、靴に足を突っ込んで一目散に玄関から走り出た。
追ってこられたらどうしようと思ったが、その後は爪がどこかに刺さっていることはなかった。
下駄箱でのあれは、目撃した高石への警告だったのだろうか。
翌日の学校でも特に騒ぎは起きていなかった。机に刺さっていた爪がどうなったのか、高石は知らない。
ただ、誰かに喋ったらまた爪が飛んできそうな気がして、高石は桜が舞い散る季節が来る前にさっさと忘れてしまいたいと願った。
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