英雄王アルフリードの誕生、前。~「なるべく早めに産んでくれ」~

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
69 / 79

第69話 言い争い

しおりを挟む



「クヴァンツ、貴様はずいぶんこの子どもと仲がいいようだが、俺達を裏切って情報を流してるんじゃないだろうな?」
「はあ!?」

 思いも寄らぬ発言に、カークは眉根を寄せた。

「どういうことだよ!?」

 思わず席を立って睨みつける。魔法協会内では身分の上下は関係ない。さっきは穏便に済ませたくて気を遣ってやっただけだ。

 マーベル家の三男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。

「蛮族が強大な魔力などもっているはずがないだろう。このガキは、魔王から力を与えられてこの国を探りにきた手先に違いないぜ」
「はあ!?何を馬鹿なことを……」
「皆そう言ってるぜ。騙されてるのは魔力に目が眩んだ幹部どもとお前みたいな単純な奴だけだ。蛮族に騙されるなんて、我が国の貴族の恥だ」

 あまりに根拠のない侮辱に、カークはカッと頭に血が上った。

「レクタルは蛮族ではない!我が国の王妃陛下の姉君がレコス王家に嫁いでいることを忘れたか!」

 カークはかつて自分もレクタルをカス民族などと呼んでいたことを完全に棚に上げて激昂する。そういう開き直った小悪党っぽさが嫌いではないので、ユーリは口を挟まなかった。

「あれは大陸の平和を守るために我が国の貴族が犠牲になってやったんだ!せっかく我が国の貴い血を分けてやったのに、三十年経った今でも蛮族のまま進歩がない!」
「マーベル子爵家では絹の服を着たことがないのか?ヴィンドソーンの貴族ならばレコスの絹を身につけたことがないとは言わさんぞ!」

 男爵家と子爵家の子息同士の喧嘩に、食堂がざわめく。ユーリもカークを見上げておろおろした。
 自分のことで喧嘩しているのはわかるが、出会ったばかりのカークがこんなに怒ってくれるとは思わなかった。

 カークは叫んでいるうちに、目の前のマーベル家の三男よりも大魔法使い達最高幹部に対して腹が立ってきた。

「こいつはレクタル族だ!それなのに、俺達の都合でここに連れてきて魔法使いになれと強制してるんだぞ!こいつが子どもなのをいいことに、ろくな説明もしないで!」

 戦う未来が待っていることを教えもしないで、戦いに使う力だけを扱えるようにさせようとするやり方は、あまりに汚いのではないか。
 ユーリにはヴィンドソーンのために戦う義務などないのに。
 ヴィンドソーンの国民の中にも他国に逃げる者が増えている現状で、何故レコスの人間であるユーリがヴィンドソーンの都合で動かされたり嘲られたりしなければならないのだ。
 理不尽だろう。

「カーク、もういいよ。行こう」

 彼の言っている内容の全部は理解出来なかったが、とにかくカークが自分のために腹を立ててくれているとユーリは悟った。しかし、どうやら目の前の相手はカークの家より爵位が上のようだし、これ以上は彼の立場が悪くなるかもしれない。

「おい待て!話はまだ終わってないぞ」

 立ち上がって食堂を出ようとしたユーリの肩をマーベル家の三男が掴む。カークがその手を打ち払った。

「っ……男爵家ごときが!」

 睨まれて、カークはふん、と鼻で笑った。

「おいおい、なんの騒ぎだよ」

 呆れた響きの声と共に、背の高い男が食堂に現れた。ユーリは彼に見覚えがあった。

「よう、ユーリ。俺はタッセル・エメフだ。ちょっと付き合ってくれるか」

 タッセルがユーリを手招きする。

「ああ、お前も一緒に来い」

 タッセルはカークも呼びつけて、食堂にいる他の見習い達に視線をやる。

「あまり騒ぐな。せっかくの平和を自分達で縮めるんじゃない」

 タッセルの言葉の意味は、ユーリ以外の者には重く響いた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...