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第68話 言いがかり
しおりを挟む「あ、カークだ!一緒に食べよう!」
食堂に入ったところでユーリに見つかり、駆け寄ってこられる。
「あっちいけ」
「冷たいなぁ!そうだ、飴をあげよう」
「いらねぇよ!」
六つも年下のくせに飄々として意に返さないユーリの態度に、カークは苦虫を噛み潰した顔になる。どうも舐められている気がしてならない。
結局、向かい合わせで食事をとる羽目になり、カークはあの日ユーリに絡んだことを心底から後悔した。
「あ、そうだカーク。ちょっと聞いていい?」
「なんだよ?」
「魔王、っているの?」
カークは食事の手を止めて目の前のユーリを凝視した。
「なんかさぁ、皆が魔王がどーとか話してるの聞こえたんだけど、僕が聞いても教えてくれないんだよね。魔王が出てくる物語とか芝居でも流行ってるの?」
カークはごくりと喉を鳴らした。
目の前の子どもは、まだこの国の未来を知らないのだ。
——そうか。異国人だから、あの夢を見ていないのか。でも、大魔法使い様も六部卿もまだ説明していないのか。こいつ、最大戦力なのに。
カークは魔法協会の最高幹部達を思い浮かべて眉をしかめた。最大戦力として利用するために強引に引き取って育てているのに、将来戦う相手のことを教えないってどうなんだ、と、些か腹が立った。
しかしかといって、見習いに過ぎない自分が勝手に教える訳にもいかない。
カークは黙り込んでもそもそ食事をとった。
ユーリはカークの様子に首を傾げたが、何かを感じ取ったのかそれ以上聞いてくることもなかった。
「……今日はもう、魔石創ったのか?」
「うん!カークにもこっそり一個あげようか?」
「いらねぇよ!」
「じゃあ、飴をあげよう」
「なんで俺にことあるごとに飴を寄越そうとするんだ!いらねぇよ!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいる二人は、近寄ってくる連中に気づいていなかった。
「おい、お前」
テーブルの横に立った人物に声をかけられ、ユーリは顔を上げた。
立っていたのは、先ほどまで一緒に魔法を習っていたマーベル子爵家の三男だ。彼の後ろには他にもあの授業にいた者達が並んでいる。それを見てカークは顔を歪めた。嫌な予感が当たった。
「蛮族の分際で、大魔法使い様から教えを受けるなんて烏滸がましいんだよ!」
マーベル家の三男が言うと、後ろの連中もそうだそうだと追従する。
「そうは言われても、僕は……」
「蛮族ごときが俺に口を聞くな!ヴィンドソーンの貴族と対等に口をきけると思っているのか?」
ユーリがちらっとカークに視線を寄越してきたので、軽く頭を振ってやった。
「あの、お言葉ですが、この子どもは尋常じゃない魔力を持っているため、大魔法使い様が直々に……」
「蛮族がそんな強大な魔力なんて持っているはずないだろう!」
一応身分が上の子爵家のため敬語を使ってやったが、なんというかアホすぎて嫌になる。カークはげんなりした。
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