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第62話 閉められた扉
しおりを挟むガルヴィードが部屋から出てきたと聞いて、ルティアは喜び勇んで城へやってきた。
側近達に迎えられて、ルティアは弾む足取りでガルヴィードの元へ向かった。
「ガルヴィードは元気なの?」
「ああ。元気だ……ただ、」
「元気ならいいの!なんで部屋にこもってたのか気になるけど……言いたくないなら聞かない!」
「ルティア嬢……ガルヴィードは」
何故か側近達の顔色は優れなかった。足取りも重く、ルティアをガルヴィードの元に連れて行くのが気が進まないような様子であったが、ガルヴィードのことで頭がいっぱいのルティアはそれに気付かなかった。
ガルヴィードが部屋から出てきたことは喜ばしい。だが、側近達は言いしれぬ不安を感じていた。
部屋にこもっていた理由も言わず、ただルティアを呼べと要求するその姿が、まるで今までのガルヴィードとは変わってしまった気がして。
今のガルヴィードはルティアに会わせない限り他のことは何も喋らないだろう。だが、しかし、あのガルヴィードにルティアを会わせていいのだろうか。
暗い目つきでルティアを所望するあの男に、この少女を差し出していいのだろうか。
——馬鹿な。
ルートヴィッヒはともすれば湧き上がってきそうになる疑念を振り払った。
——ガルヴィードだぞ。ルティア嬢を傷つけるはずがない。
そう思うのに、胸に渦巻く不安は消えてくれなかった。フリックとエルンストもなにやら言いたげな顔つきをしている。二人とも、ルートヴィッヒと似たようなことを考えているのだろう。
一方で、ルティアはガルヴィードのことしか頭になかった。今日からまた、いつもの時間が戻ってくるのだと信じて疑わなかった。
重苦しい足取りの三人と、弾むような足取りのルティアは、やがて王太子の部屋の前に辿り着いた。扉は開いていて、幽鬼のように陰を背負ったガルヴィードが扉に凭れて立っていた。
「ガルヴィード?……っえ?」
たたたっと駆け寄ったルティアは、いきなり手首を掴まれてぐいっと強い力で引き寄せられた。痛みに顔をしかめた時にはもう、ガルヴィードの胸に顔を押しつけられていた。
「おい……」
「お前らは向こうに行ってろ」
ガルヴィードが三人に命じた。頭の上から聞こえるその冷たい声に、ルティアは目を丸くした。
(ガルヴィードがこんなに氷みたいな声で命令するなんて……)
ガルヴィードらしくない。そう思ったが、肩を強く掴まれて体を押しつけられているせいで、声が出せない。
「なぁ、ガルヴィード。ちょっと話を……」
「出ていけ」
苛立ちを滲ませた声で一喝して、ガルヴィードはルティアを抱き締めたまま乱暴に扉を閉めて鍵をかけた。
閉め出された三人は、扉をみつめて立ち尽くした。
王太子の命令に従うべきだ。ガルヴィードならば、ルティアが傍にいれば心配することはない。
そう思うのに、三人は動けなかった。
今、ここから立ち去ったら、取り返しのつかないことになる。
そんな予感が、彼らの足を縫い止めていた。
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