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第50話 転生

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 確かにその通りだ、とロシュアは思った。三年後に蘇ると言われたから、てっきり封印が解けたとかで魔王が蘇ったりするのかと思っていたが、もしかしたら三年後に魔王と呼ばれる人間が、今は普通に生きているのかもしれない。

「それはお前の想像だろう?」
「もちろんだ。もしかしたら、地獄の底から本当に魔王が出てくる可能性だって当然ある。ただ、俺は「魔王」と呼ばれる存在は今は普通の顔して生きているんじゃないかと思っている」

 タッセルはにやにやと人の悪そうな笑みを絶やさないが、彼の言うことは一理あるとロシュアは思った。フリックも思案の表情を浮かべる。

「んで、自分の中にもう一人の自分がいる、だったか?悪魔憑きなんてもんはないが、性格がころころ変わるって例なら聞いたことがあるぜ。大人しい性格だったのに、突然人が変わったように暴れ出したり、おしとやかな女の子がいきなり男言葉で喋り出したりってな」

 そういう場合、周囲はやはり「悪魔憑き」を疑って魔法使いを呼ぶか教会に連れて行くのだという。

「うちでも教会でも気休め程度のお祓いはするがな。そういう例は大抵の場合周囲の環境に原因がある。長年の虐待で憔悴したせいで、精神の糸が突然切れて暴れ出したり、過度な期待と教育で押し潰されそうになっていた令嬢が、苦しい境遇から抜け出したくて自分の中に自由に生きる男の人格を創りだしてしまったり、だな。自覚があって演じている場合と自覚のない場合があるが、どちらにしろ、最終的に必要なのは医者の治療と、信頼できる人間に話を聞いてもらうことだ」
「つまり、心の病気だといいたいのか?」

 フリックが血相を変えて眉根を寄せた。

「その可能性が高いな」
「馬鹿な……っ」

 フリックが苛立たしげに前髪を掻き上げるのを見て、ロシュアは誰かフリックの身近な人物がそのような状態なのだろうかと心配した。
 タッセルもそう感じたのか、笑みを引っ込めて言った。

「まあ、なんか気になるなら、うちか教会に連れて行ってみたらどうだ?」
「……」

 フリックは無言で目を伏せた。
 納得のいっていないその様子を見て、タッセルは肩を竦めた。

「他の可能性としては、「転生」だな」
「転生?」

 聞き慣れない言葉に、フリックとロシュアは眉をひそめた。

「ある人間の死に際に、その人間の魂を未来もしくは過去に生きる人間の中に飛ばしてしまう魔法だ。その場合、魂が体の中に二つあるという状態になるな」
「二つ……」

 フリックが呻いた。

「その魔法は、どういう魔法なんだ?飛ばしてしまうって……勝手に他人の魂に体の中に入られるっていうことか?」
「まあ、落ち着け。「転生魔法」というものは、伝説の中にしか存在しない。そんな魔法、使える人間はいねぇよ」

 立ち上がって身を乗り出すフリックを宥めて、タッセルが説明する。

「大陸に伝わる伝説は聞いたことがあるだろう。白い魔法使いと黒い魔法使いの話だ。彼らが転生魔法を使えたっていう話が伝えられてるだけだよ。悪に墜ちた黒い魔法使いが白い魔法使いに倒された際に、転生魔法でどこかの時代に逃げたっていう説があるってだけだ」

 それを聞いて、フリックははーっと息を吐いて木箱に座り込んだ。

「単なるくだらねぇお伽話だよ。ただ……」

 タッセルが不意に表情を消して言った。

「もしも、三年後に蘇る魔王というのが、転生してきたその黒魔法使いだったら、どうする?」



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