44 / 79
第44話 無駄じゃない抵抗
しおりを挟む「お前、ロシュアに何かしたか?」
「あん?」
フリックに尋ねられて、ガルヴィードは首を傾げた。
「ルティアの兄貴か?別に何も」
「嘘吐け。お前のことをゴミを見るような目で見てるじゃねぇか」
「元々だろ」
ロシュア・ビークベルは穏やかな性格と地味ではあるが柔らかく好ましい容姿を持った好青年で、人当たりも良い人気者なのだが、ガルヴィードのことは常に暗く据わった目で見る。「妹の敵は俺の敵」ということだろうとガルヴィードは気にしていなかったが、フリックは今日のロシュアはひと味違うと感じていた。
「今までは「薄汚れた紙屑」を見るような目だったけど、今日は「どろどろに腐敗して虫の涌いた生ゴミ」を見るような目なんだよ」
「どっちにしろ臣下が王太子を見る目じゃねぇな」
フリックの首を傾げながらの言葉に、エルンストが苦笑いを浮かべた。
「それより、そろそろルティア嬢が来る頃だな。俺達は退散しようか。ガルヴィード、後でね」
「おう」
エルンストとフリックと入れ違いのようにしてルティアがやってきた。
「とりゃあ!」
入ってくるなり掛け声と共に飛び込んできたルティアを受け止めて、ガルヴィードは溜め息を吐いた。「何か」が嫌がって逃げ出すまでルティアがくっつくという作戦を説明したところ、ルートヴィッヒから「どこまでいちゃつけば気が済むんだ」とさんざん説教されたのだ。昨日はガルヴィードもいい作戦だと思ったのだが、側近からさんざん叱られ詰られ罵られたせいで、今日は若干心が折れかけていた。
「いきなり飛び込んでくるな」
「いきなりで驚いた「何か」が逃げ出すかもしれないじゃない!」
ルティアは「二人で「何か」が嫌がることをしよう!」と息まいた。
「嫌がることっつったってなぁ……お前のことは嫌がっているけど」
「じゃあ、私に今までにされて一番嫌だったことは?」
ガルヴィードは「ふむ」と考え込んだ。
「嫌……というか、一番衝撃を受けたのはそりゃズボンを下ろされたことだけどよ」
初対面の衝撃は忘れられない。その後に続いた言葉も含めてだが。
「じゃあズボン下ろすね!」
「なんでだよ」
なんの躊躇いもなくとんでもないことを宣言されて、ガルヴィードは思わず頭が真っ白になった。
「だって、嫌なんでしょ」
「嫌というか……おいやめろ手を放せ」
有言実行しようとするルティアの手を掴んで阻止する。一国の王太子たるもの、そう簡単にズボンを脱がされる訳にはいかない。
「邪魔しないでよ!」
ルティアは不平を漏らして暴れるが、ガルヴィードはそれを抑えて説得する。
「落ち着け!」
「どうして邪魔するのよ!大人しくしてて!」
「大人しく伯爵令嬢にズボンを脱がされるような王太子でいいのか!?国民が泣くぞ!」
軽く突き飛ばして距離を取ると、ルティアは悔しげに顔を歪めた。
「くっ……無駄な抵抗はよせ!」
「無駄じゃない!国民のために全力で抵抗するぞ俺は!」
あの国の王太子は伯爵令嬢にズボンを脱がされたなどと笑い者にされて国民に恥をかかせる訳にはいかない。王太子としての努めだ。じりじりと迫る伯爵令嬢から矜持を守り通すため、ガルヴィードは構えを取った。
一触即発の空気が流れる。
好敵手である二人の胸には決して負けられないという想いが漲っていた。
ルティアは覚悟を決めた。
「勝負よ……!脱がした方が勝ち!行くわよ!」
「おい、ちょっと待て、脱がした方って俺は何を脱が……」
「うりゃあああっ!」
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる