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第40話 勝負の始まり

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 ルティアに指摘されて自分が苦しんでいると知ったガルヴィードは、自分の苦しみがどこから生まれているのか考えるようになった。
 喜びや興味を感じた時にそれを邪魔するように湧き上がってくる不快な苦しさ。自分を邪魔する何かがあるのだと、気付くのに時間はかからなかった。
 自分の中に何かがある。
 ガルヴィードを苦しめ、周囲から切り離そうと目論む「何か」がある。

 そんな考えに囚われて、ガルヴィードは不気味でたまらなくなった。
 頭がおかしくなったと思われるのが怖くて、誰にも打ち明けられず、ガルヴィードは一人で怯えるしかできなかった。

 そんな時だ。王妃が主だった貴族の令嬢を集めた茶会を開くと聞いたのは。
 今考えるとそれは王太子の婚約者候補を探すための催しであったろうに、ガルヴィードの脳裏を過ぎったのはクローバーを差し出してきた少女の笑顔だけだった。

 かくて開かれた茶会の席で他の令嬢達をほとんど無視してルティアを探し回る王太子に、周囲の者達は唖然とした。これまで、ガルヴィードがそんな風に自分の意志を露わにすることはなかったからだ。

 みつけたルティアを引っ張って茶会から逃げ出し、中庭の前と同じ場所に連れて行って、でも自分でも彼女に何を言えばいいのかわからず、とりあえず「今度は俺が勝つ」と言い張ってまた四つ葉を探した。

 逆らわずにちまちまと四つ葉を探すルティアに、ガルヴィードは何か言わなければという焦燥と、何を言えばいいかわからない苛立ちを感じた。

 やがて、ルティアがぽつりと尋ねてきた。『何かいいことありましたか?』と。
「何もない」と答えると、ルティアはくりっと首を傾げた。そうして、こう言った。

『どうして、殿下はいつも苦しそうなのですか?』

 ガルヴィードは一瞬躊躇ったが、ちょうどみつけた四つ葉に励まされて正直に口に出した。

「俺の中に、俺を苦しめる何かがある。だから、いつも苦しいんだ」

 馬鹿にされるか怯えられるかと思ったのに、ルティアの態度はそのどちらでもなかった。

『じゃあ、いつも楽しいことだけしていればいいですよ』

 ガルヴィードは四つ葉を探す手元から顔を上げてルティアを見た。ルティアは不思議そうにこちらを見ていた。

『いつも苦しいなら、苦しいのも忘れちゃうぐらい楽しいことをすればいいんですよ』

「……どんな」

『そうですね。美味しいものを食べるとか、歌をうたうとか、友達と遊ぶとか、やりたいことをやるんです』

 そんなことで忘れられるようなものではないと、ガルヴィードは腹が立った。だから、クローバーをぶちっと引き抜いて、土の付いたままのそれをルティアに投げつけた。

「脳天気なお前と一緒にするな。どうせ俺は一生このままなんだ」

 すると、ルティアはむっとした顔で言った。

『じゃあ、勝負しましょう!』

 ガルヴィードは眉をひそめた。

「勝負?」

『私の方がたくさん四つ葉をみつけたら、いっしょに美味しいケーキを食べてもらいます!』

 ルティアは胸を張って自信を滲ませた。

『それで苦しいのを忘れられたら、私が正しかったって認めて謝ってくださいね!』

 そう言うと、ルティアは猛然と四つ葉を探し始めた。

 呆気にとられたガルヴィードは、四つ葉を探すのも忘れてその姿をみつめた。

 小さな令嬢の横顔は生き生きとしていて、明るい夜空に似た藍色の瞳はきらきらと輝いていた。


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