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第36話 別の誰か
しおりを挟む目の前で、ガルヴィードが苦しんでいる。
体をくの字に折り曲げて、荒い息を吐いて頭を抱えて、呻き悶えている。
「ルティア!」
誰かが、ルティアの肩を引いてガルヴィードから遠ざけた。
「理由はわかりませんが、ルティア嬢が傍にいると、王太子殿下の容態が悪くなるようです」
誰かの声がした。
「しばらくは、ルティア嬢には王太子殿下に会わないでいただきましょう」
「嫌っ!!」
叫んで飛び起きたルティアは、ぜぇぜぇと息を吐いて辺りを見渡した。
自分の部屋の内装を確認して、夢だったのだと確信して肩の力を抜いた。
しかし、すぐに不安になる。
以前にも、ガルヴィードが近い将来に病気になっているような夢を見た。あの時は、ガルヴィードも同じ夢を見ていた。
あの後、ガルヴィードは一応医者に体を診てもらい、どこにも悪いところはない健康体だと太鼓判を押してもらっていた。なので、ルティアも安心していたのだが、再びガルヴィードが病気になっている夢を見てしまった。今はなんともなくともやはり近い将来に病気になるのではないか。
「ガルヴィードッ……」
ルティアは募る不安に胸を押さえて呟いた。
***
いかん、このままでは。
王太子ガルヴィードは深刻な眼差しで窓の外の青空をみつめた。
このところ、側近達の自分を見る目がとても冷たい。具体的には「このエロ王子め」という目で見られている。違う。俺はエロいことなんてしていない。
「くそっ……俺はルティアをベッドに押し倒して触ったり足に挟んでスカートの中に手を突っ込んだりしただけなのに……っ!!」
「それだけやらかして責任とらないとか言ったら全国民から見捨てられるぞ」
ルートヴィッヒが凍てつくような声で突っ込みを入れてくる。
頭を抱えて唸っていたガルヴィードはぴたりと動きを止めた。
「……なあ、おい」
「ん?」
「俺の中に、別の誰かがいるって言ったら、信じるか?」
ルートヴィッヒは眉をしかめて読んでいた本から顔を上げた。
「つまり、破廉恥行為をしたのは自分ではなくもう一人の自分です、と言いたいわけか。最低だな。人間の屑だ。そんな言い訳で責任から逃れようとするとは、唾棄すべき行いだ。このクズ!痴漢野郎!不能になっちまえ!!」
「ちっげーよ!!つーか、俺が不能になったら英雄が生まれねーぞ!それでもいいのか!?」
「くっ……卑怯な!!」
英雄を人質にとる卑劣なやり方に、ルートヴィッヒは唇を噛んだ。
「そうじゃなくて……」
ガルヴィードは寸の間口ごもってから、思い切ったように言った。
「ルティアのことだ。ルティアに対する俺の……言動の矛盾だ」
窓辺に立っていたガルヴィードは、ルートヴィッヒの前のソファに腰を下ろして目を伏せた。
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