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第30話 ルティアの葛藤
しおりを挟む後に残されたルティアは、むーっと唸った。
(焼き餅なんか妬いていない!)
自分が怒っているのは、わざわざ城に連れてきたというのに、予定があるからと待たされていることだ。扱いが気に入らないのだ。
(そうよ。焼き餅じゃない!別に、ガルヴィードが誰と一緒にいても私には関係ないし、気になんかならないし!)
ルティアは舞踏会で見かけたことのある宝石姫ヘリメナの姿を思い浮かべた。ルティアより二、三年上で、すらりと背が高い銀髪の美女だ。宝石国の宝石姫と呼ばれるにふさわしく、常に美しい宝石を全身に身につけている。ガルヴィードとぎゃいぎゃい喧嘩していると首を突っ込んできて、ルティアを「品がない」だの「不敬」だのと批判してくるので好きじゃない相手だ。
ヘリメナがガルヴィードを好きなのは一目瞭然だが、ガルヴィードはいつも面倒くさそうに相手をしている。
でも、相手は一国の王女だ。もしも、サフォアの国王から婚姻の申し込みがあったら、ヴィンドソーンの国王も乗り気になるのではないだろうか、とルティアは思う。だって、サフォアは宝石ざくざくのお金持ち国家だ。宝石姫ヘリメナとただの伯爵令嬢ルティアでは比べものにならない。
(……でも、英雄を産むのは私)
ヘリメナの面影を振り払うために心の中で呟くと、ぽっと胸が温かくなった。
その温かさの中に、夢で見たアルフリードの顔が浮かぶ。
(あの子は、私とガルヴィードの子供……ということは、私が産まないと、あの子はこの世に産まれない……?)
ルティアははたと気づいた。そうだ。自分が産まなければ、あの子供はこの世に誕生することが出来ないのだ。
これまで、「絶対に産みたくない」と拒絶してきたが、自分のその感情が一人の英雄をこの世から消してしまう――いや、産まれるはずだったものから産まれる権利を奪ってしまうことになるのだ。
それに気づいて、ルティアは頭を抱えた。
(あ、あの子を消してしまうなんて、出来ない……う、産むしかない……)
だって、ルティアは見てしまった。夢の中で、あの子がどれだけ人々に希望を与えたかを。英雄として折れることなく立ち続けた姿を。
(ううう……でも、い、いつ、どうやって産めばいいの?いや、産む前に結婚しないと駄目なのでは?結婚するの?ガルヴィードと?私が?)
ルティアはガルヴィードのベッドに飛び乗ってじたばたと暴れた。
(無理無理無理!想像できないし!)
暴れるうちに、ベッドに染み着いたガルヴィードの匂いに気づいてルティアはぴたりと動きを止めた。さらに、ついこの間このベッドの上でガルヴィードに腕やら腹やら触られたことを思い出して、すっかり居たたまれなくなってしまった。
じっとしていられない気分で、ルティアはばっと起き上がって部屋から飛び出した。とりあえず庭に出て深呼吸して落ち着こう。そう決意して、ルティアは廊下を駆けていった。
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