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第23話 魔力
しおりを挟む「ふぅ……」
魔法協会の廊下を歩きながら、ビクトルは肩を落とした。
あの夢の中で、ビクトルは早々に命を落としていた。当たり前だ。下級魔法しか使えないのだから。
しかし、上級魔法の使い手も、大魔法使いでさえも、魔王には歯が立たずに破れてしまった。
周辺諸国から恐れ崇められるヴィンドソーン王国魔法協会が、魔王との戦いにおいては何の役にも立たなかったのだ。
今、魔法協会の者達は必死に修行をしている。あの夢の通りに情けない死に方などしたくない。来るべき日に向けて、少しでも強くなれるように。
――そうだ。私も、出来ることをしなければ。
ビクトルは顔を上げて足早に歩き出した。もう一度、街を巡ってみよう。まだ魔力測定を受けていない幼い子供の中に、魔力値の高い者がいないか捜すのだ。
魔王が復活するのは三年後。しかし、魔王との戦いは二十年以上続く。今は幼くとも、数年後、十数年後に十分な戦力になる者を見つけだすのだ。そして、これから生まれてくる英雄を支える魔法使いへと成長してくれればいい。
「よし!」
気合いを入れたビクトルは、そのまま街へ出た。まずは人の集まる場所を見て回ろうと、市場へと足を向ける。
最近は武器や防具が飛ぶように売れているという。あまり武器防具を大量に手に入れるとやはり戦争準備と誤解されかねないので、これもまた難しい問題だ。国民が勝手に買っているだけとはいえ、他国から見ればヴィンドソーン国内の武器の量が増えているのは事実なのだから。
「ねぇ、おじさん。怖い魔法から身を守る道具ってある?」
不安そうな顔の娘が、他国から来た行商とおぼしき男にそう尋ねていた。
「なんだい?今日は似たようなことを随分聞かれるな」
行商の男は首をひねってぼやいた。
「武器は売っていないのかーとも聞かれたし……なんだい?悪い魔法使いでも現れたのかい?」
男は冗談口調で言ったが、この国の人間にとっては冗談ではない。誰も笑わないので、男は口を噤んだ。
そこへ――
「父ちゃん、こっちの荷物も下ろそうか?」
馬車の荷台から、幼い少年がひょこっと顔を覗かせた。
その瞬間、ビクトルは目を見開きその場に立ち尽くした。
声もなく、少年を見つめる。
「……き、キミっ!」
「へ?」
我に返ったビクトルは、遮二無二少年に駆け寄ってその肩を掴んだ。
「キミはっ、名前はっ、国は、どこっ……」
「おいアンタ!人の息子に何すんだ!」
行商の男に怒鳴られたが、ビクトルは少年から手を離すつもりは無かった。
少年の体から噴き出す魔力が、焔のように勢いよく立ち昇っていたからだ。
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