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第21話 異国の少年

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 国が滅びる夢を見た。

 魔王が復活した夢だ。

 蘇った魔王は恐怖と悲劇を撒き散らし、人々は絶望の底に沈んだ。

 いや、絶望しない者がたった一人だけ存在した。

 その者は諦めることなく魔王の前に立ち、訴えた。

 目を覚まして。負けないで。

 その声が、その存在が、魔王にとっては唯一己れを脅かすものだった。

 こいつさえ居なければ、もっと早く復活できた。こいつさえ居なければ。

「見つけた」

 不意に、頭の中で声が響いた。

 漆黒の髪に藍色の瞳の少年が、こちらを見ていた。

「成功したよ。キミの魔法は。お願い、僕と――」

 その先は聞こえなかった。
 目が覚めてしまったからだ。

「……んあ?」

 ガタガタ揺れる馬車の荷台で、器用にも熟睡していたらしい。御者台に座った父親が笑いながら声をかけてきた。

「起きたかユーリ」
「ん……変な夢見た……」
「ははは。初めての行商だっつうのに、肝の太い奴だな!我が息子ながら!そら、もうじきヴィンドソーン王国に入るぞ!」

 父の言葉通り、道の向こうに大きな街の姿が見えた。その中心には壮麗なシュロアーフェン城が威容をもって聳える。

 八歳のユーリ・シュトライザーは夢の内容などさっさと忘れて、初めて訪れる大国への期待で胸を一杯にした。

「すっげー。大きな城だなぁ。どんな人達が住んでるんだろ」

 ユーリの住むレコス王国は小さな国だ。絹の生産が盛んだが、国の大半を占めるレクタル族には魔力がないため、常に他国の侵略に怯えなければならない弱小国だ。周辺国には侮られ、国家というより辺境の蛮族扱いされることも多い。

 三十年ほど前にレコス王国が他国に狙われて攻め込まれそうになった際に、ヴィンドソーン王国が自国の貴族の娘をレコスの王家に嫁がせてくれたことによって事なきを得たことがあった。レコスに攻めいろうとしていた国はレコスよりは大きい国だったが、大国ヴィンドソーンが相手では足元にも及ばない。ヴィンドソーン王家の不興を買うことを恐れて兵を引いたのだ。

 他国の貴族令嬢を王家に迎えることはレコス王家の悲願でもあった。他国の貴族と縁戚を結ぶべく長年努力してきたが、どの国に申し入れてもけんもほろろに断られてきた。蛮族の長に貴族の娘を嫁がせる訳にはいかないと。
 だからこそ、ヴィンドソーンが周辺国の平和を維持する目的とはいえ、レコス王家に貴族の令嬢を嫁がせたことは大きな驚きだった。
 自国の貴族を輿入れさせたということは、ヴィンドソーンがレコス王家を蛮族の長ではなく一国の王家と認めた証であるからだ。

 故に、レコス王国ではヴィンドソーン王国の――特に王家の人気が高い。
 ユーリもまた、まだ見ぬ大国に強い憧れを抱いていた。

「友達、出来るといいなぁ」

 ささやかな希望を口にして、ユーリは荷台の上でにこにこと笑みを浮かべた。


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