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第20話 王家のやり口

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「……やっぱりか」

「ふぇ?」

 ようやく顔を離して――しかし、腰に回した腕はそのままで――ガルヴィードが顔を上げた。ガルヴィードはソファに座ったままなので、立っているルティアは必然的に見上げられることになる。いつもは上にあるガルヴィードの顔が自分をじっと見上げてくるのに、ルティアは落ち着かない気分になった。

「お前、このドレスの意味がわかってるのか?」
「はい?」

 ルティアがきょとり、と目を瞬いた。
 ガルヴィードは溜め息を吐いて、ルティアの腰を抱いたままの体勢で説明を始めた。

「俺の母上はクレードル侯爵家の出身だ。母上の姉はレコス王国の第二王子に嫁いでいる。この布はレコス王国の特産の絹だ。そしてこれと同じデザインのドレスを着た俺の母上の肖像画が城の廊下に飾ってある。父上と婚約を交わす際に贈られた肖像画だ。つまり」
「つまり……」
「それと、このドレスに付けられている匂い……母上が愛用してる香水だ」

 なるほど。国王との婚約の証として贈られた肖像画で王妃が着ているドレスを身に纏い、王妃ご愛用の香水と同じ匂いを振りまく少女が意気揚々と王太子の部屋に入っていくのをこの城の皆様は御覧になったわけか。

 つまり、

 私はこのドレスを着て、この匂いを身につけて、王太子の部屋に入ることを許される立場なんですよ。

と、自己主張してるようなものだ。

「ひ……卑怯!王家のやり口、卑怯!」

 あまりのことに、ルティアは不敬も忘れて叫んだ。

 さすがは王家。さすがは大人。はっきりと確実なことは何もないのに、見る人が見ればそうとしか思えないという絶妙なラインで攻めてきやがる。

「ぬ、脱ぐ脱ぐ!今すぐ脱ぐ!」

 判明した事実に混乱したルティアは咄嗟にドレスを脱ごうとした。

「おい待て!やめろ!」

 いきなりスカートをたくし上げようとしたルティアにぎょっとしたガルヴィードは必死に彼女を止めた。当たり前だ。

「いやー!脱ぐー!」
「帰ってから脱げ!な?」
「やだやだ!脱がせてーっ!!」
「だから脱ぐな!いや、帰ったら脱いでもいいから、ここでは脱ぐな!!」

「脱ぐ、脱がせて」とじたばた暴れるルティアを必死に押さえつけて、なんとか宥めようとするものの、ルティアは興奮して手が付けられない。

「ああもう!!」

 とにかく落ち着かせなければ!と、ガルヴィードは暴れるルティアをソファに押し倒してがっちりと抑えつけた。

「落ち着け!」
「ふぇぇぇ、だってぇ……」

 ルティアは暴れるのをやめたものの、ぐじぐじと泣き出した。ガルヴィードははーっと息を吐いて、ルティアの頭を撫ぜて慰めてやる。

「まぁ、そんな深刻に考えるな。ただのドレスだ。部屋着にでもすりゃあいい」
「うぅぅ~……」
「泣くなって」

 ルティアを慰めるのに夢中のガルヴィードは気づいていなかったが、侍女は最初から最後まで戸口に立ちっぱなしだし、相変わらず扉も閉まっていなかった。
 故に、ソファに押し倒されて泣きじゃくる少女を抱きしめて耳元で何事か囁いて宥めている王太子の姿は、入れ替わり立ち替わり通り過ぎる城の人間に目撃されていたのである。

 王太子の真の忠臣ルートヴィッヒが通りかかり部屋の中の様子を見て思い切り眉をしかめてそっと扉を閉めてくれるまで、「あらあら」「おやおや」と目を細めて通り過ぎていく人々の流れは続いたのであった。


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