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第12話 異変
しおりを挟む今日も今日とて、王太子の私室に放り込まれる。
ルティアは既に抵抗しても無駄だと悟っていたし、最初はルティアと一緒に憤って騒いでいたガルヴィードも最近では放り込まれたルティアを見て「お、来たな」という顔をするだけだ。
放り込まれた後は侍女がお茶を持ってやってくる。一度この隙に逃げようとしたところ、戸口で見えない壁に阻まれた。どうやら、この部屋全体に魔法使いが結界を張っているらしい。ルティアとガルヴィードだけ出られない結界を。そこまでするか。
仕方がないので、結界が消えるまでの間、二人でチェスだのカードだのゲームをして過ごしている。
一度、暇だからと筋トレして過ごしたら、結界が消えて部屋から出てきた二人の荒い息と赤い顔、流れる汗を目にした侍女が「誰ぞ!赤飯を!赤飯を炊いてちょうだい!!」と叫びだして大変な目にあったので、なるべく体力を使わないように大人しく過ごしている。というか、赤飯って何だ?
今日もまた、二人で罵りあったり怒鳴りあったりしながら茶を飲んで、その後はゲームで勝負して時間を潰すつもりだった。
が。
「……っ」
不意に、ガルヴィードが紅茶のカップを置いておもむろに立ち上がった。
目を瞬くルティアの前から足早に移動すると、戸口に立ってどんどんと扉を叩く。なんとか扉を開こうとノブをがちゃがちゃ回しているが、外から鍵がかけられていて開かないのは既に良く知っているはずだ。
「ガルヴィード?」
「っ……、……」
名を呼ぶと、ガルヴィードがびくりと肩を跳ねさせた。
「どうかしたの?」
「……近寄るな」
歩み寄って肩を叩こうとして、冷たい目で睨みつけられて拒絶されたルティアは思わず硬直した。
「え……?」
近寄るな、と言った。ガルヴィードが。
それはルティアにとって、信じられない言葉だった。
だってルティアは、自分の姿を見つけるやいなやなにもかも放り出してすっ飛んできて喧嘩を売ってくるガルヴィードしか知らない。
「王太子ほいほい」という不名誉なあだ名を付けられるくらい、ガルヴィードがルティアに寄ってくるのは周知の事実なのだ。
いつかのパーティーで背中に「王太子まっしぐら」と書いた紙を貼られた悪戯はまだ許していない。犯人は実の兄だ。
それぐらいルティアに寄ってくる習性を持つガルヴィードが、「近づくな」と言った。
「ガルヴィード!死ぬの!?」
「なんでだよっ!?」
「だって、……ああ!天変地異の前触れ!?」
「もうなんでもいいから、とにかく近寄るな!!」
そう言って、ガルヴィードはルティアから顔を背けてしまう。その態度に、ルティアは自分でもびっくりするぐらい傷ついた。
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