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第1話 絶望と希望の三夜

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「いやあああああーっ!!絶対にいやあああああーっ!!産みたくないいいぃぃーっ!!」
「こっちだってごめんだ!!産ませてたまるかあああーーっっ!!」

 嫁入り前の伯爵令嬢と、嫁取り前の王太子の魂の絶叫が、今はまだ平和な王国に響き渡った。


 ***


 王国歴380年のその日、ヴィンドソーン王国のすべての国民が同じ夢を見た。
 今から三年後、王国歴383年に、突如、魔王が目覚めヴィンドソーン王国を蹂躙するという夢だった。
 夢の中で、国王はすぐさま騎士団を派遣し、教会も武芸に秀でた神官に封魔を命じ、魔法協会は大魔法使いの元才ある魔法使いを召集し、人々は力を合わせ魔王と戦った。
 だが、魔王の力は強大で、騎士団は壊滅し、教会は潰され、魔法使いは魔力尽きて地に倒れ、人々は希望を失った。

 それは残酷な夢だった。人々は、自分が、親が、兄弟が、友達が、恋人が、魔物に殺される光景を夢で見せられた。

 目覚めた時、人々はまず夢でよかったとほっと胸を撫で下ろした。
 だが、その安堵は長く続かなかった。自分以外の者も同じ夢を見ていることがわかり、人々の間に動揺が広がった。
 その動揺は国中に広がった。
 結果、国民が全員、同じ夢を見ていたことが判明したのだった。

 人々は恐慌状態に陥った。王家も、貴族も、教会も、魔法協会も、原因を調べ話し合った。
 その日は答えが出ないまま、再び夜が来た。
 不安を抱えたまま眠った人々は、再び夢を見た。昨夜みた夢の続きであった。
 魔王との戦いはなんと二十年に渡って続いた。
 人間は大きく数を減らし、まともに戦える者はどんどん減っていき、人々の間には絶望が色濃く漂っていた。
 夢を見る人々は苦しんだ。とてもただの夢とは思えぬ光景に、これは未来に起こることなのだと、信じたくなくても信じざるを得なかった。
 目覚めた人々は絶望した。この平和な世はあと三年で地獄へ変わるのだ。
 皆嘆き悲しんで地に泣き伏した。
 教会が国民に向けて言葉を発した。
 神が未来を教えてくれたのだ。悲劇を防ぐために今から備えるべし、と。
 それに力を得て、剣を取って騎士団の門を叩いた者も多かった。
 だが、ほとんどの者は残酷すぎる未来にともすれば生きる希望を失いそうになっていた。
 そしてまた夜が来て、人々は眠りたくないと嘆きながら目を閉じた。

 そうして、三日目の夢に、希望が現れた。

 夢の中で、初めて魔王が襲ってきてから19年、今より21年目の世界に、英雄が降り立ったのだ。


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