55 / 55
最終話 男爵令嬢スカーレット・バークスの大変に厄介で迷惑な最愛の義妹
しおりを挟むすっかり大きくなった飢えた獣達が庭を走り回っている。最近では第三騎士団が出動する際に同行し、罪人の捕縛に協力しているらしい。
ロレイン公も相変わらず毎日通っては餌を与えているらしく、厳しく躾たい第三騎士団団長から「甘やかさないでいただきたい」と苦言が届いている。
「侍女達の目が厳しくてエリザベートと二人きりになれん……もうすぐ卒業だぞ?すぐに結婚だ。それなのに何故、逢瀬を邪魔されるんだ?なんかゴミを見るような目で見られるのも気になる……」
「侍女にセクハラでもしたんじゃねーの?」
「馬鹿言うな!エリザベート以外に手を出すか!」
「侍女達はエリザベート嬢のことが心配なのでしょう」
「だから、なんで心配されるんだ!?私は婚約者で、もうじき結婚するんだぞ!?」
アレンの愚痴を聞きながら、エリオットとガイ、クラウスは飢えた獣達と戯れるロレイン公を眺めていた。
別に好き好んでもふもふと戯れるオッサンを眺めているわけではない。
結婚式のドレスや会場の装飾を選ぶためにエリザベートは王妃に呼ばれていて、それにスカーレットも付き合わされているのだ。その間、男は邪魔だと慈悲もなく追い出されて所在ない男達が庭に集まっているだけだ。
「そういえば、ミリア嬢とジム・テオジールの婚約が成立したんだってな」
「おお、やったな!」
クラウスとガイが言う。エリオットは頷いた。
「スカーレット嬢は公爵家に嫁ぐのだから、男爵家はミリア嬢の婿が継ぐことになる。収まるところに収まったという感じだな」
まったくだ。
ミリアがジムに告白するまでに、スカーレットが活き活きと暗躍してそれにエリオットも付き合わされたのだが、照れて逃亡しようとするミリアをタックルで止めて関節技で縫い止めてその体勢のまま告白させたスカーレットの手腕には惚れ惚れしたものだ。見事の一言に尽きる。偶然それを見かけた第三騎士団団長に婚約者がスカウトされかけたのもいい思い出だ。
エリオットはふっと目をすがめた。
いつの間にか、もふもふ達と戯れるオッサンが二人に増えている。国王だ。おそらく彼も王妃に追い出されたのだろう。
そんな平和な風景を眺めていると、不意にその平穏を引き裂く声が響いた。
「何をしているのよ、この痴れ者がああぁぁっっ!!」
全員がそちらへ目をやると、ミリアにタックルをかますスカーレットの姿が目に入った。彼女達の傍にはエリザベートが座り込んでぷるぷる震えている。
「エリザベート!何をされた!?」
すかさず、アレンが飛んでいく。
「で、殿下……わたくし、わたくしは、汚れてしまいました!この上はもはや修道院に……」
「行かせないぞ!!ミリア嬢に何をされたんだ!?」
エリザベートを抱き締め、アレンはスカーレットに締め上げられているミリアを睨みつける。
「ふっ……私はただ、エリザベート様に王太子殿下との愛を深めるお手伝いを、と」
「王太子殿下の婚約者であられる公爵令嬢に卑猥な絵本を見せた言い訳がそれなの?」
「お姉さま、ギブギブギブ!お姉さまにも見せてあげますから!」
「黙りなさい。だいたい……」
その時、一陣の風が吹いて、ミリアが手にしていた紙の束が風に舞い上げられて辺りに散らばった。
「なんだ?……こ、これはっ!」
「あら?……きゃあっ!」
「んまー!」
「なんてこと!」
あちこちから悲鳴が上がる。
「誰がこのようなものを城に……まったく、けしからん!」
「破廉恥よ!王妃様の目に触れないように隠さねば……」
「あらあら、私の秘蔵の品なのに、皆様がそそくさと懐へ……」
「お馬鹿!すぐに拾い集めなさい!」
スカーレットがミリアをせっつくが、ミリアは不敵な笑みを浮かべて言った。
「ふっ……お姉さま。「飛び散った羽を集めることは出来ない」という言葉を聞いたことがありませんか?」
「偉そうにするんじゃありません!ああもう、まったく――皆様!」
スカーレットが大きな声で叫んだ。
「義妹がやらかして申し訳ありません!」
完
39
お気に入りに追加
508
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(16件)
あなたにおすすめの小説
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
その愛は毒だから~或る令嬢の日記~
天海月
恋愛
どうせ手に入らないのなら、もういっそ要らないと思った。
なぜ、今頃になって優しくしてくるのですか?
一話読み切りの、毎回異なる令嬢(元令嬢)が主人公になっている独白形式のオムニバス。
不定期更新です。
王太子殿下が、「国中の未婚女性を集めて舞踏会を開きたい」などと寝言をおっしゃるものですから。
石河 翠
恋愛
主人公のアレクは、ある日乳兄弟である王太子に頼みごとをされる。なんと、国中の未婚女性を集めて舞踏会を開きたいというのだ。
婚約者がいない王太子による、身分の垣根を越えた婚活パーティー。あまりにも無駄の多い夜会であること、何より「可愛い女の子のドレス姿が見たい」という下心満載の王太子にドン引きしつつも、王太子の本音に気がつき密かに心を痛める。
とはいえ王太子の望みを叶えるべく奔走することに。しかし舞踏会当日、令嬢の相手をしていたアレクは、怒れる王太子に突然からまれて……。
転生後の人生を気ままに楽しむヒロインと、ヒロインにちっとも好意が伝わらないポンコツ王子の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、チョコラテさまの作品(写真のID:4099122)をお借りしております。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです
何度も笑わしてもらいました。
言葉のチョイスが笑いのツボにヒットして大満足です。
楽しいお話をありがとうございます
今もふと思い出して読ませてもらっては笑ったりほっこりしたりです。今更ながら後日談的なものなど読めたら嬉しいなと思っています。
少しの涙と、沢山の笑いをありがとうございます。
今日は作者様の作品を一気読みしています。中でもこちらの作品は凄く面白かったです。