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しおりを挟むサリーはシエラに指輪を渡してくれと伏して頼んだ。
だが、カイルは動けなかった。だって、そうしたら今度はサリーが倒れてしまうのではと思ったからだ。
倒れたシエラは満足そうに笑って言った。
「これでいいのよ、サリー。魔女に会いにいくって言い出したのは私だもの。あんたは巻き込まれただけ。何も気にしなくていいのよ」
シエラは目を閉じて眠りにつこうとした。
だが、その前に彼女を抱き起こした者がいた。
目を開けたシエラは、彼の顔を見て微笑んだ。
「お前がシエラだったんだな」
オーガストは苦笑を浮かべた。
「……最後まで鬱陶しい奴ね。何か用なの?」
シエラが憎まれ口を叩くと、オーガストは彼女の手に触れて言った。
「昨日、約束しただろう」
するり、と、薬指に何か冷たい感触がした。
「緑の輪っかじゃなくて悪いけど」
その途端、遠のきかけていた意識がはっきりして、シエラはぱっちりと目を開けた。
体に力が戻り、シエラは不思議に思いながら身を起こした。
「どうして……」
呟いたシエラは、薬指にはめられた銀色の指輪をみつけてオーガストを見た。
「王子様に指輪をもらえれば、呪いは解けるんだろう?」
イタズラっぽく笑い、オーガストはシエラの手をそっと握った。
「サリーにはカイルが。シエラには俺が」
オーガストがカイルに目を向けると、目を丸くしていたカイルは何かを納得したように頷いた。
「サリー、シエラ。彼は身分を隠して我が国に留学していた隣国の第二王子だ」
シエラは驚いてオーガストをみつめた。
「サリー。確かに、私が最初に好きになったのはシエラだ。だけど、これまでずっと傍にいて、深く愛するようになったのは君だけだよ。君に、私と結婚してほしい」
カイルは改めてサリーへ指輪を捧げ、サリーは声もなく泣き出した。
***
魔女の呪いにかけられた双子姉妹と王子の話は隣国にまで知れ渡り、人々は魔女の呪いを解いた若者達を祝福した。
それから二年が経ち、サリーはカイルの花嫁となった。
「とうとう行ってしまうのね。寂しくなるわ」
隣国へ旅立つシエラを見送るため、王宮からわざわざやってきたサリーは悲しげに眉を下げた。
「お隣同士だもの。またすぐに会えるわよ」
シエラはにっこりと微笑んで妹を抱きしめた。
「幸せになるのよ、サリー」
「ええ。シエラもね」
体を離すと、サリーがくすくす笑い出した。
「なあに?」
「ふふふ。シエラは知ってるかしら? 最近、この国の若い女の子の間で、意中の男の子に「緑の輪っかをちょうだい」って告白するのが流行っているのよ」
男の子は草を千切って緑の輪っかを作り、彼女の指にはめてあげるのだ。
そんな告白が流行っていると聞かされて、シエラは真っ赤になった。
「新しい伝統になるかもしれないわね」
「もう! からかわないでよ!」
シエラが怒ったところで、ちょうど迎えの馬車が到着した。そうして、馬車から降りてきた男性がシエラを抱きしめた。
「我が国は森の恵みが豊かなんだ。好きなだけ緑の輪っかを作ってやるぞ」
「どうしていつもいきなり現れるのよ!」
「花嫁を迎えに来て何が悪い」
オーガストは悪びれずに言った。
「それから、我が国でも緑のわっかをあげると言って告白するのが二年前から流行っているぞ。物語にもなったし劇にもなったからな」
「なっ……」
「何を照れる? 緑の輪っかが欲しいとねだったのはお前の方だぞ」
魔女の呪いを打ち破った緑の輪っかの魔法。
そんな素敵な物語が皆に愛され長く語り継がれていくことになるのだが、隣国の王子様の妃となった双子の姉は、緑の輪っかの話をされるといつだって真っ赤になって恥ずかしがっていたということだ。
終
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童話の様な可愛くて素敵なお話をありがとうございます。
素敵なお話でした!
面白かったです。入れ替わっているとは思いませんでしたが、ハッピーエンドになって、良かったです。