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しおりを挟むサリーは人気のない校舎の突き当たりまでやってくると、誰もいない空き教室へ入り窓を開けた。
「ふう……」
新鮮な空気に触れて、思わず息を吐く。
うまくいっている。大丈夫だ。あとほんの少しの我慢よ。自分にそう言い聞かせる。
「もうすぐなんだから……」
「何がだ?」
ぽつりと呟いた独り言に反応があって、サリーはばっと振り向いた。
誰もいないと思っていた教室の片隅に、一人の男子生徒が座っていた。
「誰?」
「俺は三年のオーガスト・フロイスンだ。お前、サリー・ホールデンだろ。悪役令嬢って噂の」
オーガストはニヤニヤと笑ってサリーを見た。
サリーはきっと眉をつり上げてオーガストを睨みつけた。
「何か用なの?」
「別に。泣きそうな顔をしていたから気になっただけだ」
サリーは目を見開いた。意地悪そうに歪んでいた顔が、つかの間、幼い印象になる。
だが、すぐにまた目元をつり上げる。
「変なこと言わないで。見間違いよ」
「いいや、今にも泣き出しそうだったぜ」
「見間違いだって言ってるでしょう!」
サリーは踵を返して足早に教室から出て行こうとした。
だが、その前にオーガストの腕に行く手を阻まれてしまった。
「待てよ。噂に聞く悪役令嬢とは思えないな。何か理由があるんじゃないのか」
至近距離で顔を覗き込まれて、サリーはぐっと一瞬怯んだ。足が震えそうになったが、動揺と緊張を押し隠してオーガストを睨んだ。
「理由なんてないわ。そもそも、貴方には関係のないことよ」
サリーはオーガストの腕の下をくぐって教室から走り出た。オーガストはそれ以上は追ってこなかった。
サリーはほっと息を吐き、動悸する胸をそっと押さえた。
***
魔女が住むという森で、シエラとサリーは一人の老婆と出会った。
「あなたが魔女なの?」
怯えるサリーを背に庇い、シエラが尋ねた。
「そう呼ぶ者もいるね。あたしはただ、皆のために幸運のまじないをかけているだけなのにね」
老婆はにやりと歯を見せて笑った。
「お嬢ちゃん達、何か願いはないかい?」
シエラとサリーは顔を見合わせた。
「私は王子様と結婚したいわ」
シエラはそう答えた。王子様とは近くあるお茶会で顔を合わせることが出来るはずだった。まだ見ぬ王子様への憧れに、シエラもサリーも同じぐらい胸を高鳴らせていた。
「わ、私も」
シエラに続いてサリーも言った。
老婆が笑みを深くした。
「じゃあ、王子様と結婚できるようにまじないをかけてあげよう」
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