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しおりを挟む「ほら、早く!」
「やっぱりやめようよ」
先に立って歩くシエラに、サリーが心細そうに言う。
シエラとサリーは十歳。ふわふわの銀髪に青い瞳がおそろいの双子の姉妹だった。そっくり同じ顔で、両親でさえ見分けがつかない。
シエラはサリーの手を引いて、森の奥に住む魔女を一目見ようと好奇心に目をきらきらさせていた。
「でも、お父様が近づいては駄目だって……」
「黙っていれば平気よ。それに、こっそり様子を窺って、怖かったらすぐに逃げればいいわ」
シエラはそう言って森の中を進んでいった。
それから五年後ーー
「ぼさっと突っ立っていないでよ! 邪魔よ!」
「あっ……」
甲高い声が響いて、振り向いた生徒達の目に入ってきたのは銀髪の少女達ーー 一人は床に手をつき、一人はそれを見下ろしているーーだった。
「またやっているわ。サリー様よ」
「シエラ様、おかわいそう」
眉をひそめた生徒達がひそひそと囁きあう。
ホールデン伯爵家の双子令嬢の仲の悪さは学園では有名だった。妹のサリーがことあるごとに姉のシエラに辛く当たるのだ。
「本当にどんくさいわね! 殿下の婚約者なら少しはシャンとしたらどうなの?」
「……」
妹に何を言われても、シエラは黙ったままだ。
「なんとか言ったらどうなの?」
「シエラ!」
いつものごとく、シエラの婚約者であるカイル王太子がシエラに駆け寄り、睨みつける妹からシエラを庇った。
「サリー! いい加減にしろ! シエラを虐げることは許さないと何度も言っているだろう!」
「あーら殿下、私はシエラのためを思って言ってますのよ? これぐらいで何も言えなくなるようじゃ王太子妃だなんてつとまりませんもの」
サリーは王太子の怒りにも動じることなく、不敵に微笑んで髪をかき上げた。
「もう……もう、やめましょう。こんなこと」
俯いて黙り込んでいたシエラが、震える声で言った。
サリーはその様子を見て、ふんっと鼻を鳴らした。
「やめないわよ。アンタは私の言いなりになっていればいいのよ」
「サリー!」
あまりの言い分にカイルが声を上げたが、サリーはそれを無視して背を向けた。周囲の非難がましい視線もものともせず、胸を張って歩み去るその姿は、「王太子の婚約者に選ばれた姉に嫉妬して虐める悪い妹」そのものだった。
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