上 下
57 / 62

第57話

しおりを挟む



 自分のこれまでの努力は無駄になったと、ハリィメルは思っていた。
 一位をとり続けたことも、ハリィメルが意固地になってこだわっていただけで、別に誰もハリィメルに一位をとれと望んでいたわけでもない。ハリィメルの順位なんかどうでもよくて、どんな成績だろうが結局は途中で退学させるつもりだったのだ。

 クラスの連中だって、ハリィメルがいなくなれば「あのガリ勉、退学したのか」と思うだけで、他になにも感じないだろう。
 だって、ハリィメルは勉強しかしていなくて、クラスメイトとなんの交流も持たなかった。学校に来なくなったことを惜しんでもらえるような関係じゃない。
 ハリィメルはそう思う。

 だが、ロージスはそれを打ち消すように力強く言った。

「みんな、お前が戻ってくるのを待っている。俺が「ハリィメルを引っ張り出すために協力してくれ」と言えば公爵に直談判するくらいに、みんなはお前を心配しているんだ」
「そんなわけ……」

 ハリィメルにはそう簡単に飲み込めなかった。
 ロージスは嘘を言っているのか? でも、なんのために?

「信じられないなら信じなくてもいいさ。ただ、このままなら俺の思いどおりだ」
「思いどおり?」
「ああ」

 ロージスはにーっこりと笑った。

「クラスのみんなに説得された父上が俺に言ったんだ。次のテストでも俺が一位をとれたら、ハリィメル・レミントンと正式に婚約させてやるって」

『ハリィメル・レミントン嬢が優秀なのはわかった。だが、婚約を申し込むのならお前自身がレミントン嬢より優秀でなくてはいかん!』と言い出した公爵が出した条件だという。

「次のテストで俺が一位をとれば、婚約成立だ。お前がこのまま引きこもっていれば、婚約は確実だな」

 ハリィメルは声をなくした。

「それが嫌なら、次のテストで俺を負かすしかないな」

 ロージスはハリィメルと目を合わせて微笑んだ。

「……なんで、あなたがそこまで」

 ハリィメルの問いに、ロージスはなにか言おうと口を開いた。
 だが、なにも言葉が出てこず、二、三度ぱくぱくと動かした後で決まり悪そうに目をそらす。
 それでもなにか伝えようとする意思はあるのか、口は開いたままで両の手を空中にさまよわせて、大きな体をもじもじとくねらせる。

 ここのところろくに食べてもおらず、すっかり体力の落ちているハリィメルは実は立っているのもやっとなのだが、ロージスのよくわからない態度に腹が立って気力を振り絞って怒鳴った。

「言いたいことがあるなら言ってください!」
「――っ、お前が好きだからだよっ! わかれよ、バーカ!!」

 真っ赤な顔で怒鳴り返されて、ハリィメルは目を点にした。


しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

処理中です...