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第39話
しおりを挟む「素晴らしいですね。コリッド公爵令息」
顔を上げたハリィメルが満面の笑顔なのを見て、ロージスが軽く眉をひそめた。
「本当にすごいですよ。脱帽です」
「はあ?」
ハリィメルの乾いた称讃の声に眉間にしわを刻むロージス。
ハリィメルは笑顔を張りつけたまま言葉を続けた。
「素晴らしい、迫真の演技ですね」
「なに?」
「もう十分に演技は上達されたでしょう。そうは思われませんか? 脚本のダイアン様に演技指導のティオーナ様」
ハリィメルが戸口に目を向けると、こちらを見ていたふたりが目を見開いた。
「おい、なにを言って――」
「嘘の告白を喜んで受け入れて、秘密の交際に一喜一憂してなにも手につかなくなるという喜劇のヒロインに、こんな地味でおもしろくもない私を選んでいただきありがとうございます! 光栄です!」
力を込めて言い放つと、ロージスが驚愕の表情で硬直した。
ハリィメルは青くなったロージスの顔を見てふん、と鼻を鳴らした。
知っていたとも。最初から。嘘なんだって。
「ですが、私はどうにも演技力がなく、秘密の恋人に夢中になって成績を落とすという役を上手に演じることができませんでした。満足いく喜劇にならず、たいへん申し訳ございません」
「な……」
ハリィメルは胸に手を当てると深く頭を下げた。謝罪されたロージスが絶句する。
先ほどまでざわついていた教室も、しんと静まりかえっている。誰もが息を詰めてハリィメルを見守っていた。
「やはり私には、ヒロインを演じるなど荷が重かったようです」
嘘をついていた。彼も、自分も。嘘の告白をして、だまされたふりをした。
ずいぶんと遅くなってしまったけれど、今度こそ終わりにしよう。こんな不毛な関係は。
一瞬、ハリィメルの脳裏に、放課後の図書室の光景がよぎって消えた。
(問題ない。以前までと同じ、ひとりで勉強する日々に戻るだけ)
息を吸って、握りしめた拳に力を込めて、最後の言葉を告げる。
「さようなら」
ハリィメルはその場に立ち尽くすロージスを残して、呆気にとられるクラスメイト達に目を向けることもなく、教室を後にした。
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