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第34話
しおりを挟む一ヶ月の夏休暇を、ロージスはめいっぱい有意義に使うつもりだった。
ダイアンとティオーナと遊ぶ予定を入れつつ、ここ最近の勉強のしすぎで疲れていたためしっかりと疲労回復する時間も確保した。もちろん、『打倒ハリィメル』のためにサボりすぎることもなく適度な勉強も怠らない。
しかし、一週間もすると遊んでいても休んでいても頭の中にハリィメルが浮かぶようになってしまった。勉強していて難しい問題に突き当たれば「ハリィメルなら解けるかな」と考えてしまう。
ハリィメルがここにいればいいのに。どうせずっと勉強しているんだろう。それなら自分の目の前にいればいいのに。どこで勉強したって一緒だろう。それなら。
しまいには「何故ここにハリィメルがいないんだろう?」と理不尽な想いが湧いてくる始末。
これはきっとハリィメル欠乏症だろう。休み前はずっと一緒に勉強していたから、ハリィメルがいないと落ち着かないようになってしまったんだ。
「……いや、おかしいだろう!」
ロージスは頭を抱えて自分の脳内に突っ込みを入れた。
そもそも最初の目的は「ハリィメルが勉強に手がつかなくなるようにロージスに夢中にさせる」だったのに、これではまるで立場が逆ではないか。
ロージスひとりが落ち着かない気分にさせられているのでは割に合わない。ハリィメルにも同じ気持ちを味わわせたい。
「というわけで、ハリィメルをデートに誘おうと思うんだが」
街のカフェに呼び出したダイアンとティオーナに洗いざらいぶちまけると、ふたりは生温かい笑みを浮かべてロージスを見た。
「誘ってもきてくれないでしょ。勉強が忙しいって」
「俺もそう思う」
ふたりのそっけない言葉に、ロージスは拳を握りしめた。
「だから相談しているんだよ。絶対に断られたくない。どうやって誘えば断られないと思う?」
街の図書館で一緒に勉強しないかと誘えばきてくれるんじゃないかとか、わからない問題があるから教えてくれないかと頼んでみたらどうだろうとか、いろいろ考えはした。嫌々会いにきてほしいのではない。ハリィメル自身が「会ってもいいか」と思える程度には魅力的な誘いをしたいのだ。
「そうは言ってもなあ」
「……ねえ、ロージス。そんなに彼女に嫌がられたくないの?」
ティオーナがちょっと声を低めて尋ねてきたので、ロージスは首を傾げた。
「そりゃ、当たり前だろ」
「ふぅん」
「なんだよ?」
「ううん。まあそういうこともあるかなって思っただけ」
ロージスにはティオーナがなにを言いたいのかわからなかったが、詳しく聞く前に彼女の興味はカフェの新作スイーツに移ってしまい聞きそびれてしまった。
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