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第33話
しおりを挟む「それで、恋人のふりを続けているんですか?」
「恋人のふりというか……一緒に勉強していただけですけれど」
ジョナサンと会うのはこれで三回目だ。
彼はいまだに好きな子に告白できていないそうで、勇気が出ないと嘆いたり落ち込んだりする彼の話を聞いているうちに、うっかりハリィメルも自分の現在の状況を打ち明けてしまった。
「それって、もう向こうは嘘じゃなくて本当の恋人のつもりかもよ」
「いや、それはあり得ないです。私みたいな地味で可愛げのない女を恋人にしようなんて思わないですよ」
ジョナサンの見当違いな発言に、ハリィメルは肩をすくめて紅茶を口に含んだ。
なにせ、向こうは可愛い子や美人な子にモテモテなのだ。嘘告を提案された時に「あんな地味女に」と言っていたのも聞いている。
ハリィメルがそう言うと、ジョナサンはちょっと困ったように眉を下げた。
「ハリィメルさんは、こうして僕の情けない話も聞いてくれる優しいひとだから、彼にもハリィメルさんのいいところは伝わっているはずだよ」
「そんなこと……」
ハリィメルは小さく首を横に振って、一瞬浮かんだ光景を打ち消した。
図書室で向かい合い、テーブルに勉強道具を広げて、時々わからないところを教え合う自分達の姿など思い描いたところでなんになる。所詮は嘘告で始まった関係なのだ。
ハリィメルが望むのは、この関係ができるだけ静かに終わってくれることだけだ。
「まあ、休暇中にお友達と楽しく遊んだら、新学期には私のことなんてきれいさっぱり忘れていますよ。きっと」
ハリィメルはそう思っている。
しかし、口では否定しつつも、心のどこかでほんの少しだけ、このまま友達のような関係になれたら。テスト結果で張り合いながら一緒に勉強していられたら。という思いが湧き起こるのを抑えることができなかった。
そんなの無理だと打ち消しながら、「でも、もしも」と思ってしまう。
もしも、休みが明けて新学期になってもまだ、ロージスが放課後の図書室にやってきたら。
(その時は……もう少しだけ、友達みたいに振る舞っても、許されるだろうか?)
ふと浮かんだ考えに、ハリィメルは頬を染めて小さく微笑んだ。
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