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第30話
しおりを挟むその後もハリィメルとロージスの意地の張り合いみたいなつきあいは続き、時折ダイアンやティオーナが混ざったりしつつ日々が過ぎ、夏休暇前のテストが行なわれ結果が張り出された。
ハリィメル・レミントンは危なげなく一位の座を守り、万年二位の公爵令息を身悶えするほど悔しがらせた。
「ぐうう~……あんなに勉強したのに」
結果の張り出された廊下の掲示板の前で、ロージスがダイアンとティオーナに愚痴を吐いているのを人だかりの外から見たハリィメルは、ふっと口元を緩ませた。
(そろそろ、潮時かな)
ここまでくれば、ロージスもハリィメルはなにがあろうと勉強に手を抜くことはないと理解してくれただろう。
たぶん、ロージスは自分が嘘告のターゲットになったとハリィメルが気づいていることを薄々悟っているはずだ。性格の悪いガリ勉に時間を無駄にされたとでも思っているかもしれない。
まあ、なんにせよ嘘告から始まった奇妙な関係はこれでおしまいだ。
図書室での勉強も、元のひとりに戻る。
そう考えると、ちょっとだけ胸の奥が軋むように痛んだ。
(……暗い道を送ってくれるから、少しだけ心強かっただけだ)
他に意味などないと、ハリィメルは胸を押さえて思った。
***
「次こそ負けないからな!」
放課後、図書室にやってきたロージスはハリィメルを見るなりそう宣言した。
てっきりもう来ないかと思っていたハリィメルの前で、背後にダイアンとティオーナも引き連れてふんぞり返っている。
言い終えたロージスはぱちぱち目を瞬くハリィメルを余所に、いつものように勉強道具を広げた。
「……あの、もうテストは終わったので……早く帰った方がいいのではないですか?」
ハリィメルはロージスに続いて腰を下ろすダイアンとティオーナを軽く睨みながら言った。
なんでロージスが図書室に来るのを止めないのだ。早く帰って三人で休暇の予定でも立てていればいいのに。
「遊びに誘ってもロージスが断るんだよ。レミントン嬢と勉強する約束があるからって」
ダイアンが肩をすくめて苦笑いする。
「約束なんて……」
していない。ロージスは勝手に居座っているだけだ。帰りにハリィメルを送るような真似をするのだって、ハリィメルが頼んだわけではなくロージスが勝手にやっていることだ。
いつまでこんなことを続けるんですか。
いっそそう問いつめてやろうかとも思ったが、自分の勉強時間を割いてまでこの連中の相手をする必要はないだろう。
(まあ、休暇中は会わないのだから、来学期が始まればさすがに来なくなるわよね……)
ハリィメルは溜め息を吐いて、休み明けには戻ってくるであろう静かな生活を思い描いた。
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