上 下
28 / 62

第28話

しおりを挟む



 放課後にロージスとふたりで勉強するのにすっかり慣れてしまったハリィメルだったが、その日は途中で乱入者があった。

「よう、おふたりさん」
「お邪魔しまーす」

 ダイアンとティオーナが笑顔で声をかけてきた。

「なんだよ、お前ら」
「いやー、最近ロージスのつきあいが悪いなーと思ったら」
「ふたりきりで勉強していたなんてねー」

 ダイアンとティオーナはロージスとハリィメルの隣に腰掛けながら白々しい台詞を吐いた。
 なにか企んでいるのかと警戒したハリィメルだったが、ロージスの様子を見る限り彼もふたりがやってきた理由を知らないようだ。怪訝な顔でダイアンとティオーナを見て眉をひそめている。

「いやあ。ロージスだけが学年一位の才女を独り占めしているのはずるいと思ってな」
「そうそう。テストも近いし、一緒に勉強したいなーっと」

 ダイアンとティオーナが軽い調子で言う。ハリィメルは内心で「冗談じゃない」と憤ったが、先に拒否反応を示したのはロージスの方だった。

「ふざけんな。お前らふたりで勝手にやればいいだろ。俺達の邪魔すんな」

 元はといえば自分こそがハリィメルの勉強の邪魔をしようとしていたことを忘れたようなロージスの台詞に、ダイアンが呆れたように肩をすくめる。

「でも、ここは図書室だから俺達が空いている席に座って勉強するのは自由だよな」
「そうよそうよ」

 ダイアンとティオーナのふたりに口で勝てないのか、ロージスがぐっと押し黙る。
 ハリィメルは溜め息を吐いた。自分には関係ないと思おうと、なるべく三人を視界に入れないようにして勉強に集中しようとしたが、ダイアンとティオーナがいるとロージスも落ち着かないようで「邪魔だ」「帰れ」と文句を垂れている。

(三人まとめて帰ってほしい……)

 そう思いながらふと目線を上げると、もの言いたげな顔の図書委員と目が合った。
 これ以上うるさくすると、職務に忠実な図書委員にハリィメルまで追い出されかねない。巻き添えになってたまるものか。

「ここは図書室です! 騒ぐなら退室してください!」

 ハリィメルが一喝すると、なんのかんのと言い合っていた三人がぴたっと口を閉ざした。

(男爵家の娘に叱られるなんて屈辱でしょうに。怒って帰ればいいんだわ)

 ハリィメルはふん! と鼻を鳴らして教科書をめくった。ロージスはともかく、ダイアンとティオーナはこれで出ていくかと思いきや、ふたりともおとなしく勉強道具を広げ始めた。
 ハリィメルはいらいらしながらもそれ以上はなにも言えないので黙っていた。
 しばし、カリカリとペンを走らせる音と、紙がめくられる音だけが響く。

 ダイアンとティオーナはそれから一時間ほどでお先に失礼と挨拶をして帰っていったが、ロージスはいつもと同じようにハリィメルを送ってくれた。
 次の日も、ダイアンとティオーナはやってきて、ロージスに睨まれながらもどこ吹く風で隣の席に座った。

「レミントンさんのノートとっても綺麗にまとめられているわね!」
「はあ……」
「レミントン嬢、この問題がわからなくてね。教えてもらえないだろうか」
「はあ……」

 誓約書を交わした相手はロージスだけなので、ハリィメルにはダイアンとティオーナを無視することはできない。
 ふたりとも、二、三言話しかけてくるものの、しつこくするわけでも騒ぐわけでもないので退室を迫ることもできない。ふたりがハリィメルに話しかけるたびにぎゃあぎゃあ言っていたロージスだけが危うく図書委員につまみ出されるところだった。

「いやあ。レミントン嬢のおかげで次のテストは乗り切れそうだよ」
「ええ。お礼もしたいし、テストが終わって休暇に入ったら四人で遊びに行きましょうよ」

 一週間ほど経ってから、ダイアンとティオーナがそう言い出した。
 それでハリィメルにも彼らの目論見がわかった。ガリ勉を籠絡するのに手こずっているロージスへの手助けのつもりなのだろう。ダイアンとティオーナであればハリィメルから無視されない。『勉強を教わったお礼に遊びに誘う』という大義名分も手に入る。

 ハリィメルは苦虫を噛みつぶした顔になった。


しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~

和泉鷹央
恋愛
 忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。  彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。  本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。    この頃からだ。  姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。  あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。  それまではとても物わかりのよい子だったのに。  半年後――。  オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。  サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。  オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……  最後はハッピーエンドです。  別の投稿サイトでも掲載しています。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◯完結まで毎週金曜日更新します ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

処理中です...