14 / 62
第14話
しおりを挟むハリィメルに好意を抱いてもらうにはどうしたらいいのか。
一晩考えてみてもなにも思い浮かばなかった。なにせ、生まれてこのかた、女の子から好意を寄せられるのが当然だったからだ。これまでは、ロージスがなにもしなくとも女子の方から好意を抱いて寄ってきた。
顔と頭がよくて、公爵家という地位もある。たいていの女子はロージスと目が合うだけで胸をときめかせるはずだった。
(それなのに……)
教室を見回して、クラスメイトの女子達を眺める。入学してからこれまでに、クラスの女子の何人から告白されたり手紙をもらったか覚えていない。
おそらく、クラスの女子の中でロージスに少しも興味を持っていなかったのはハリィメルひとりだろう。
休み時間もずっと教科書に向かっていて、他の女子達が楽しそうにしていても顔を上げない。
(あのまま友達も作らずに、卒業まで過ごすつもりなのか)
もやもやした想いを抱えたロージスは、教室を出て廊下を無目的に歩いた。
すると、向かいから近づいてくる女子ふたりがちらちらと自分を見ているのに気づいた。
よくあることなので、いつものように何事もなく通り過ぎようとして、ふと顔を上げてすれ違いざまにふっと微笑んでみせた。
途端に、女子ふたりが頬を真っ赤に染め、立ち止まって硬直する。
「どうした? 俺になにか用か」
「ふぇっ……ひぇ……えっと」
「な、なんでもないです!」
尋ねかければ、女子ふたりは「きゃあ~」と黄色い悲鳴をあげて逃げていった。
笑いかければ頬を染める。
話しかければ舞い上がる。
これが普通の反応だ。
なのに、ハリィメルときたら笑いかけても話しかけても無反応だ。むしろ「迷惑だ」とでも言いたげな態度でロージスをあしらう。同じ教室にいても目すら合わない。
(これでは駄目だ。もっと好感度を上げるにはどうすればいいんだ)
うんうん考え込みながら階段の前を通りかかった時、昇ろうとしていた女生徒が足を滑らせたのか「きゃっ」と短い悲鳴と共に倒れ込んできた。ロージスはとっさに倒れかかった女生徒を支えて助け起こした。
「立てるか?」
「は……はいっ!」
女生徒は真っ赤になってあわあわと慌てだした。
お礼を言われてその場から立ち去ると、背後から「触れちゃった!」「カッコいい!」とはしゃぐ声が聞こえてきた。
そうそう。これが当たり前だ。偶然触れられただけで意識してしまうような――
(意識する、か……)
たとえば、さっきのがハリィメルだったらどうだったろう。階段から落ちたところを助けられれば、さしものハリィメルもいつもの突っ慳貪な態度はとれないだろう。慌てて礼を言うはずだ。顔を真っ赤にして。
(真っ赤に……)
あの澄ました顔が染まるのを想像して、ロージスはにんまりした。もしそうなったらおもしろい。溜飲が下がる。いままでのそっけない態度も許せそうだ。
(触れたら、意識するか。赤くなるか)
そうだ。何気なく、軽く肩を叩いたり手に触れたりして反応を見てみようか。
軽い接触を繰り返せば、ハリィメルもロージスを意識せずにはいられないはずだ。
(よし。あの堅物を誘惑してやろう)
秀麗な顔にあくどい笑みを浮かべて、ロージスはそう決意した。
1,771
お気に入りに追加
2,995
あなたにおすすめの小説
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
◯完結まで毎週金曜日更新します
※他サイト様でも連載中です。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
本当にありがとうございます!
悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい
花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。
仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる