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第3話
しおりを挟むちょっとばかりロージスが想像していた流れとは違ったが、交際は無事にスタートした、と思う。たぶん。
後はダイアンとティオーナが言うように、適当に口説いたり思わせぶりな態度を取って勉強への集中力を奪ってやればいいだけだ。
謎の誓約書にサインさせられて戸惑っていたロージスだったが、気を取り直すと当初の目的を果たすために行動を開始した。
放課後、ハリィメルはいつも図書室で勉強をしている。図書室に行く前に声をかけお茶にでも誘ってしまえば、気分が浮ついて勉強どころではなくなるだろう。
「レミントン。ちょっといいか」
放課後、がやがやしながら教室を出ていくクラスメイト達の喧噪に紛れて、ハリィメルが席を立ったタイミングで声をかけた。
すると、ハリィメルはにこっと笑って無言のままロージスの前を通り過ぎようとした。
「おい、ちょと待て」
思わず肩をつかんで捕まえると、ハリィメルは小声でぼそっとこう言った。
「コリッド公爵令息、教室にはまだ人がいます。人前では会話できません」
確かに、教室にはまだ残っている生徒もいる。
人がいなくなってから話そうということか、と思い捕まえていた手を離した。
すると、ハリィメルはぺこっとお辞儀をするとそのまま教室を出ていってしまった。
「……は?」
ロージスは一瞬ぽかんとした後で慌てて追いかけた。
「おい、レミントン!」
「コリッド公爵令息、廊下には他の生徒がいます。話しかけないでください」
追いかけて声をかけても、ハリィメルは立ち止まることなく振り向きもせずに歩みを進める。
結局、そのまま図書室に到着してしまって、ハリィメルはさっさと席についてテーブルに勉強道具を広げようとした。
ロージスはこめかみをひくつかせながらその前に立った。
「ここでなら話せるだろう、レミントン」
放課後の図書室は人が少なく静かだ。
ハリィメルが足早に図書室を目指していたのは、人の多い教室よりも静かな図書室でゆっくりロージスと話したいということだったのかもしれない。そう考えると、ロージスの苛立ちも少しは安まる。
「レミントン」
「……」
「おい、レミントン!」
「コリッド公爵令息、人前では話せません」
ところが、話しかけてもハリィメルは先程と同じ態度で同じ台詞を繰り返す。
「はあ? 人前じゃないだろ。俺達の周りに誰もいないぞ」
「あっちの本棚の陰と、反対側のテーブルと、入り口付近に人がいます。あと、カウンターには図書委員もいます」
何食わぬ顔でさらっと言い放つハリィメルに、ロージスはかっとなって怒鳴った。
「いい加減にしろっ!」
静かな図書室に響いた怒声に、本棚の陰や反対側のテーブルや入り口付近にいた生徒が何事かとこちらに視線を向ける。カウンターの図書委員は「図書室では静かに」とでも言いたげな目でロージスを睨みつけてきた。
「~っ……!」
さすがにいたたまれなくなったロージスは、ハリィメルを置いて図書室から逃げ出した。
***
「……ふう」
ロージスが去った後で、ハリィメルは小さく溜め息を吐いた。
「この調子でやり過ごせば、そのうち飽きるわよね」
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