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***


「よーし、帰ろうぜ」

 身も世もなく嘆く民草をきれいに無視して浄明が言う。

「雲津先輩、行きましょう」
「あ、うん……」
「待て、祭理は俺と帰るんだよ!」

 祭理の手を引こうとした清一郎を、戒が止める。

「俺と一緒に時空の裂け目を通った方が早いです!」
「祭理は俺と一緒に神の箱舟に乗って帰るんだよ!」
「待って戒。神の箱舟、って何?」

 祭理は思わず尋ねた。気軽に乗れる乗り物ではないような気がする。

「えー、俺もう雲、呼んじゃったんだけど」

 浄明はお釈迦様が乗っていそうなゴージャスな雲に足を掛けている。

「雲津先輩は奥ゆかしいんです! そんな仰々しい乗り物、遠慮するに決まってます!」
「時空の裂け目なんて危ないだろうが! 妙なところで祭理を落っことしたらどうしてくれんだ!」
「こんな連中は放っておいて、俺と雲に乗ろうぜ祭理ー!」

「え? 何、これって、選ばなきゃ駄目なの?」

 異世界からの帰り方に三つも選択肢があるだなんて贅沢だなぁ。と、祭理は現実逃避気味に考えた。



***



「で、結局、神仏の乗り物は畏れ多いので、時空の裂け目を通って帰ってきたんですけどね!」
「それは……大変でしたね」

 今朝起きた出来事を洗いざらいぶちまけると、朝と同じ場所に店を出していた占い師は目を丸くした。

「しかし、帰りがこの時間ということは、授業に出たんですか? 異世界で生贄にされかかった直後に」

 今はごく普通の中高生の下校時刻である。祭理は制服姿だし学校のある方から歩いてきた。つまり、彼は今まで学校にいたのだ。生贄にされかかったのに、普通に授業を受けていたのだ。

「だって、こっちの世界では時間が経過していなかったんだよ! 吸い込まれた直後に戻っちゃったから、そのまま登校したよ!」
「なかなかの強メンタルをお持ちですね」

 占い師は少年を見上げた。どこにでもいそうな平凡な男子高校生にしか見えない。しかし、なかなかに侮れない存在かもしれない。

「それで、ちょっと訊きたいんだけど……」

 祭理は言いにくいのを我慢して尋ねた。

「神仏に愛された加護られ系男子達にやたらと好かれている原因って、もしかして俺が「生贄系男子」だからなのかな?」

 そうなのだ。祭理にとっては謎でしかなかった、加護られ系男子からの溺愛が、もしかして魂が生贄系だから、という理由で説明できるかもしれない。
 つまり、彼らが祭理を好きなのではなく、彼らを加護している神仏が生贄の魂に惹かれているだけなのでは? と思ったのだ。

 しかし、占い師はあっさりと首を振った。

「この世界のメインの宗教では捧げられ済みと言ったでしょう。既に生贄として捧げられた魂に神仏が執着するとは思えません。
 なので、ただ単に、その男子達があなたのことを好きなだけです」

「マジかー……」

 祭理はがっくりと肩を落とした。

「じゃあ、たまたま神仏に加護られている男達がたまたま俺に好意を持っただけ? そんな「たまたま」ある?」

「モテモテでいいじゃないですか」
「いい訳ないだろ! 俺は、なんらかの神仏に加護られていない普通の彼女が欲しいの!」

 祭理は「ふん」と鼻を鳴らして胸を張った。

「もういい。異世界のことなんか忘れて普通に生きる! じゃあね!」

 踵を返して、占い師に背を向ける。

 10歩ほど進んだところで、祭理の姿がふっと搔き消えるのを占い師は目にした。






「ぐっふふふ……勇者ライアランめ、覚悟しておけ。闇の鏡を使って呼び出したこの生贄を喰らえば、我が暗黒竜一族が負けることはあり得ぬ!!」

 漆黒のドラゴンが目をギラギラさせて宣う。

「いや、本日二回目なんですけど!?」

 急峻な山の峰に落とされ、黒い肉体のドラゴンに囲まれた祭理は思わず叫んだ。
 一日に二回の異世界転移は勘弁してもらいたい。

「だから、なんでわざわざ他の世界から生贄を連れてくるわけ!? 俺は何度でも主張するぞ! 地・産・地・消!!」

 力一杯祭理が叫んだ、その時、

「雲津先輩!」
「祭理!」
「無事か!」

「ぎゃああああ!! 出たあああっ!!」

 生贄系男子 雲津祭理。

 神仏に愛され異世界の神や魔物さえぼこぼこに打ちのめす「加護られ系男子」達による溺愛の日々は、まだ始まったばかりだった。







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感想 1

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みんなの感想(1件)

ねこまんま
2022.05.31 ねこまんま

生贄系男子でブフォっててきて
生贄地産地消ってパワーワードで爆笑
たまらんセンスです。
天才だ。

解除

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