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しおりを挟む三人は一歩も引かずに自分の主張を繰り返している。
流石にそろそろ止めないと、校門前でイケメン三人がモブ男子の取り合いをしているなんて地獄絵図を多くの人の目に触れさせるべきではない。
だが、祭理が三人の言い争いを止める前に、通りに響いた悲鳴がその場にいる者達の動きを止めた。
「きゃあああっ」
「うわっ、なんだこいつっ」
「包丁持ってるぞ!」
逃げろと誰かが叫んでいる。逃げ惑う生徒達を搔きわけるようにして、包丁を構えてはしてくる中年の男が見えた。
「殺してやる殺してやる……高校生なんて馬鹿ばっかりの癖に俺を見下しやがって……」
男は目を血走らせ、同じ台詞をずっと繰り返し呟いている。一目で男の異常性が見て取れて、祭理は慌てて三人に逃げるように言おうとした。
だが、その前に男は校門前で固まっていた三人——清一郎に向かって突っ込んできた。
「うらあああっ!」
奇声を発した男が包丁を振りかぶった。次の瞬間、どこからともなく転がってきた石が、男の足の前でぴたっと止まった。
「え、うわっ」
石につまづいた男が前のめりに倒れる。
舌打ちを漏らした男は慌てながらも包丁を構え直し、立ち上がりざまに戒に向かって切り掛かってきた。
その時、太陽を背に下降してきた一羽の鳩が、男の包丁を握る腕に嘴を突き刺した。
「ぐぎゃっ」
思わず包丁を取り落とす。
「クソがっ……!」
嘴を刺されたのとは反対の手で、懐からペットボトルを取り出し、さらにライターを出して火をつけた。ペットボトルからは、ガソリンのような匂いがする。
「死ねぇっ!!」
男は浄明に向けてペットボトルの中の液体を撒き散らそうとした。
だが、その寸前にぴしっ、と何かがひび割れるような音が響き、すぐ側の散水栓から大量の水が噴き出し男に直撃した。
「んなあっ……」
水勢に倒された男は必死に起き上がろうとしたが、ようやく到着した警察官によって取り押さえられ、あっけなく捕まった。
「すごいっ! 誰も被害者が出なかった」
一部始終を目撃していた生徒から歓声が上がった。
「当たり前よ! だって、あの三人がいるもの!」
周囲の視線は三人の男子に集まる。
たった今まで言い争っていた三人。
神社の息子である日野清一郎。教会の息子である月橋戒。寺の息子である星尾浄明。
この学年も違えば宗教も違う三人の共通点は、「神仏に愛されている」ということ。
三人とも、とにかく「運がいい」では済まされないレベルで災難をスルーしてしまうのだ。まるで、見えない何かに守られているかのように。
どんな災厄もこの三人の前では搔き消える。誰もこの三人を害することは出来ない。
幸運……いいや、守護されているのだ。人智を超えた存在に。
奇跡の数々を目撃した人々は、やがて彼らをこう名付けた。
神仏に愛された、「加護られ系男子」と。
「雲津先輩! 大丈夫でしたか?」
「祭理、水はかからなかっただろうな?」
「朝っぱらから通り魔なんて物騒だな」
そして、その加護られ系男子×3に何故か懐かれているごく平凡な少年、雲津祭理。
祭理は綺羅綺羅しいオーラを纏った三人に混ざりたくないのが本音だが、三人の方から祭理をみつけて寄ってくるのだ。
(本当に……なんで懐かれているんだろう……)
祭理は思わず溜め息を吐いて肩を落とした。
(俺は至って平凡な男子高校生なのに……)
※ ↑この十秒後、突如出現した時空の裂け目に吸い込まれます。
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