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しおりを挟む「ところで日野くん。帰る方法って……」
清一郎ならば空間を切り裂いて時空の裂け目を作り出すことが出来るということは、元の世界に帰ることも可能なのかと尋ねようとした。
だが、その前にポチと太郎が吠えた。
『この下等生物どもめ! 地に叩きつけてから食らってやるわ!』
その言葉と同時に、六本の尾がひゅん、と唸った。
祭理と清一郎を狙った六本の尾は、二人の体を叩き飛ばすはずだった。だが、
ヒュンヒュンッ
風を切る音とともに、飛来した六つの光の矢のようなものが暴れる尾を全て半ばから断ち切った。
『ぐあああっ!! なんだとぉっ……!!』
己が身に何が起きたのか理解できず、短くなった尾を見るポチと太郎。
祭理は光の矢が飛んできた方向に首を巡らせた。
「あ」
そこに立っていたのは、祭理がよく知る人物だった。
「祭理ぃ! テメェ、何いきなり消えてやがるんだ!」
「戒!」
祭理の幼馴染、月橋 戒が不機嫌そうにこちらを睨みつけていた。
「どうやってここに!?」
「あ? そんなもん、お前がいきなり消えたから、お前のオーラを追ってきたに決まってんだろ」
どうやら戒は清一郎と似たような方法で祭理の元まで到達したらしい。詳しく聞いてもたぶん理解できない気がしたので、祭理は詳しくは尋ねなかった。
「あれー? 月橋さんも来ちゃったんですかぁ? でも、雲津先輩は俺が連れて帰るので、月橋さんはお一人でお帰りください」
「ああ? 後輩の分際で誰に口きいてやがる。そもそも、祭理は俺の幼馴染だぞ。一緒に帰るのは俺に決まってんだろ」
清一郎が爽やかな笑顔で、戒が人相の悪い不機嫌顔で、睨み合う。
普段からよくある光景に、祭理は嫌な予感がした。
(こういう時、いつも絶対に乱入してくるよな……)
祭理がそう考えた直後、頭を一つと尾を全て失ったポチと太郎が、怒りの咆哮と共にこちらに向かって突っ込んできた。
「危ないっ!!」
祭理を食う前に障害になると悟ったのか、ポチと太郎は睨み合って嫌味の応酬を繰り広げている戒と清一郎の方に向かっていき、彼らに食らいつこうとした。
だが、
「おお~、すげぇなぁ。異世界なんて初めて来たわ」
そんな呑気な言葉と共に放たれた業火が、ポチと太郎の全身を飲み込んだ。
逆光を背にその場に現れたのは、かなりチャラい感じの大柄な男。
「星尾さんまで……」
同じ学校に通う先輩、星尾 浄明の登場に、祭理は肩を落とした。
どうやって、とはもう聞くまい。どうせ霊魂だかオーラだか生体エネルギーだかを追ってきたと言うに決まっている。
「なあなあ祭理! 俺と一緒にこのまま異世界ランデブーしねぇ?」
「何言ってるんですか! 雲津先輩は俺と一緒に帰ってさっさと異世界の不浄の気を祓うんです!」
「祭理は俺と一緒に帰るって言ってんだろ! 家が隣同士なんだから! 昔から一緒だった俺達の邪魔すんな!」
ぎゃあぎゃあと言い争いを始めた三人の横で、業火に焼かれたポチと太郎が苦悶の呻きをあげた。
『おのれ……人間どもめ……だが、その生贄を食えば、私は最強になれる……っ!!』
ポチと太郎が、最期の力を振り絞って祭理に襲いかかった。
清一郎が、どこからか取り出した幣を振る。
「祓いたまえ、清めたまえ!」
戒が、首に下げたロザリオをかざして祈る。
「父と子と聖霊の御名において……アーメン」
浄明が、札を放って真言を唱える。
「ナゥマクサンマンダボダナンバク!」
三者から放たれた眩い光がポチと太郎に直撃し、その肉体は瞬く間に灰となって消え失せた。
「穢れよ去れ!」
「安らかに眠れ!」
「成仏しな!」
容赦ない三人に、祭理はちょっとだけ背中がぶるっとした。
「ば、馬鹿な……ゼフィリオン様がっ」
全知全能の神が消滅したのを目にした人々が、戸惑い、恐れ、泣き喚き始めた。
「き、貴様ら、なんてことをしてくれたのだ!?」
「この世界はもうおしまいだ!!」
「生贄を守るために神を殺すだなんて……この世界は貴様らのせいで滅ぶのだぞ!!」
人々の非難を向けられた三人は、興味なさそうな顔で言った。
「はあ?」
「何言ってんだ?」
「こんな世界なんかより」
「「「 祭理・雲津先輩 の方が大事に決まってんだろ 」」」
力強く言い切った三人に囲まれて、祭理は力なく立ち尽くしていた。
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