上 下
2 / 7

しおりを挟む



 まさか「生贄に最適」と占われたその日に、生贄にするために召喚されるとは思わなかった。そんな事態が予想できてたまるか。

「俺はこの世界の人間じゃないんで!! この世界の神に捧げるならこの世界の人間が責任持って生贄になってくださいね!! 俺、帰る!!」

「そうはいかん。誰でもいいわけではないのだ。ゼフィリオン様の生贄となれるのは選ばれた魂でなくてはいかん。ゼフィリオン様の守護を得るために他国も血眼になって生贄を探しているが、生贄召喚の古代魔法を復活させた我が国の勝利じゃ!!」

「偏食家かよ! ゼフィリオンって野郎は!! 自分の治める土地でとれた生贄で我慢しなさいよ!! 地産地消!! 異世界から輸入すんな!!」

 祭理は逃げだそうとしたが、兵士達によって押さえつけられ腕を縛られる。

「一刻も早く儀式を行い、ゼフィリオン様に生贄を捧げるのじゃーっ!!」
「せっかちだなオイ!! 普通、神様に捧げる前になんかこう……沐浴とか最後の晩餐とかない!?」

 突っ込みながら暴れる祭理だったが、兵士達に担ぎ上げられて城の外に運ばれてしまう。沐浴どころか着替えることもなく制服姿のまま、王宮前の広場に設けられた祭壇のような物に座らされた。祭壇の前には、この国の民であろう人々がひしめき合っている。

「皆の者!喜べ! 召喚の儀が成功し、我らは生贄を手に入れた!!」

 王様っぽい人が声を張り上げると、聴衆が「わーっ」と歓声を上げる。皆、無事に生贄が現れるか心配して待っていたらしい。暇人どもめ。

 祭壇の前に司祭っぽい人が歩み出てきて空に向かって朗々と呼びかける。

「全知全能の神ゼフィリオンよ! 御身にふさわしき贄を捧げます! 我らに御身の守護を与えたまえ!!」

 すると、青い空が突如もくもくと黒い雲に覆われ、その雲を切り開いて犬に似た三つの頭と六つの尾を持った巨大生物が現れた。

「どう甘く採点しても邪神にしか見えねーじゃねーか!! こんなおどろおどろしい生き物に守られようとすんなっ!! 薄々気づいてたけど、あんたらきっと勇者に倒されるタイプの悪役国家だろ!!」

 ゲームなんかで冒険の途中で中ボスあたりがいる国に違いない。自分達の身の保身のために邪神と契約しているのを勇者に見破られて邪神を倒されて途方に暮れて泣き叫ぶタイプの人々と見た。

 邪神は凶々しい気配を撒き散らして祭壇に降り立ち、祭理に鼻先を近づけてぼたぼたとよだれを垂らした。神聖さのかけらもない。

「やっぱり化け物だよ、ただの! おい、こら、おすわり!!」

 祭理は腕の縄を外そうともがいた。腕が自由になったところで絶体絶命であることに変わりはないが、こんなちょっと強いアイテムを入手しておけば倒せる中ボス程度の邪神に食われるのはどう考えても納得がいかない。占い師曰く、祭理は「極上の生贄系男子」なのだ。
 こんな味もわからなそうな邪神じゃなくて、せめてもっとグルメな神に食われたい。いや、食われたくはないけれど、とにかくこんな邪悪な犬に食われるのは嫌だ。

「ポチ! クロ! 太郎! おすわり!! 待て!! 伏せ!!」

 頭が三つあるので右から順に名前をつけて命令するが、全然言うことをきかない。

「躾がなってない!!」
『やかましい小僧だな……一飲みにしてやろう』

 真ん中の頭——クロが大きく口を開け、祭理に食らいつこうとした。

「ちょっと待て!! 真ん中のお前だけが食うのかよ!? 他の二つには食わせねぇのかよ!? 独り占めすんな! きちんと分け合えよ!!」
『体は一つだ。腹に入れば同じこと……』
「馬鹿野郎! 腹に入りゃいいってもんじゃねぇだろ!! 貴重な生贄なんだから、ちゃんと全員で味わえよ! こういうことが後々「あいつはあの時、独り占めにした……」とかって心のしこりになって中がギクシャクしたりするんだぞ!!」
『……何故、お前にそんな心配をされなければならない?』
「全知全能の神とか言って崇められてたから誰も言ってくれなかったんだな? 躾を怠った連中にも確かに責任はある!! でも、少しずつでいいから人の心を思いやる努力をしていこう!!」
『ええい! そのうるさい口のある頭から食べてくれるわ!!』

 祭理に諭されたクロだったが、聞く耳を持たず大口を開け祭理に向かってきた。

 だがしかし、牙が届く直前、突如、横手から白い閃光が迸って、祭理に向かって大口を開ける頭を吹き飛ばしていた。
 頭が一つ減り、二頭になったゼフィリオンが驚愕の声をあげる。

『な……なんだこの力は!? 私を傷つけることの出来る神などっ、この世界には存在しないはずっ……』
「よいしょ、っと」
 
 その時、祭理の耳に聞き慣れた声が届いた。思わずそちらに目をやると、こちらに手のひらを向けている少年と目が合った。

「あ、雲津先輩! ご無事ですか!?」
「日野くん!?」

 人畜無害そうな爽やかな笑顔で手を振っているのは、間違いなく後輩の日野ひの 清一郎せいいちろうであった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。 勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。 しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!? たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...