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 まさか「生贄に最適」と占われたその日に、生贄にするために召喚されるとは思わなかった。そんな事態が予想できてたまるか。

「俺はこの世界の人間じゃないんで!! この世界の神に捧げるならこの世界の人間が責任持って生贄になってくださいね!! 俺、帰る!!」

「そうはいかん。誰でもいいわけではないのだ。ゼフィリオン様の生贄となれるのは選ばれた魂でなくてはいかん。ゼフィリオン様の守護を得るために他国も血眼になって生贄を探しているが、生贄召喚の古代魔法を復活させた我が国の勝利じゃ!!」

「偏食家かよ! ゼフィリオンって野郎は!! 自分の治める土地でとれた生贄で我慢しなさいよ!! 地産地消!! 異世界から輸入すんな!!」

 祭理は逃げだそうとしたが、兵士達によって押さえつけられ腕を縛られる。

「一刻も早く儀式を行い、ゼフィリオン様に生贄を捧げるのじゃーっ!!」
「せっかちだなオイ!! 普通、神様に捧げる前になんかこう……沐浴とか最後の晩餐とかない!?」

 突っ込みながら暴れる祭理だったが、兵士達に担ぎ上げられて城の外に運ばれてしまう。沐浴どころか着替えることもなく制服姿のまま、王宮前の広場に設けられた祭壇のような物に座らされた。祭壇の前には、この国の民であろう人々がひしめき合っている。

「皆の者!喜べ! 召喚の儀が成功し、我らは生贄を手に入れた!!」

 王様っぽい人が声を張り上げると、聴衆が「わーっ」と歓声を上げる。皆、無事に生贄が現れるか心配して待っていたらしい。暇人どもめ。

 祭壇の前に司祭っぽい人が歩み出てきて空に向かって朗々と呼びかける。

「全知全能の神ゼフィリオンよ! 御身にふさわしき贄を捧げます! 我らに御身の守護を与えたまえ!!」

 すると、青い空が突如もくもくと黒い雲に覆われ、その雲を切り開いて犬に似た三つの頭と六つの尾を持った巨大生物が現れた。

「どう甘く採点しても邪神にしか見えねーじゃねーか!! こんなおどろおどろしい生き物に守られようとすんなっ!! 薄々気づいてたけど、あんたらきっと勇者に倒されるタイプの悪役国家だろ!!」

 ゲームなんかで冒険の途中で中ボスあたりがいる国に違いない。自分達の身の保身のために邪神と契約しているのを勇者に見破られて邪神を倒されて途方に暮れて泣き叫ぶタイプの人々と見た。

 邪神は凶々しい気配を撒き散らして祭壇に降り立ち、祭理に鼻先を近づけてぼたぼたとよだれを垂らした。神聖さのかけらもない。

「やっぱり化け物だよ、ただの! おい、こら、おすわり!!」

 祭理は腕の縄を外そうともがいた。腕が自由になったところで絶体絶命であることに変わりはないが、こんなちょっと強いアイテムを入手しておけば倒せる中ボス程度の邪神に食われるのはどう考えても納得がいかない。占い師曰く、祭理は「極上の生贄系男子」なのだ。
 こんな味もわからなそうな邪神じゃなくて、せめてもっとグルメな神に食われたい。いや、食われたくはないけれど、とにかくこんな邪悪な犬に食われるのは嫌だ。

「ポチ! クロ! 太郎! おすわり!! 待て!! 伏せ!!」

 頭が三つあるので右から順に名前をつけて命令するが、全然言うことをきかない。

「躾がなってない!!」
『やかましい小僧だな……一飲みにしてやろう』

 真ん中の頭——クロが大きく口を開け、祭理に食らいつこうとした。

「ちょっと待て!! 真ん中のお前だけが食うのかよ!? 他の二つには食わせねぇのかよ!? 独り占めすんな! きちんと分け合えよ!!」
『体は一つだ。腹に入れば同じこと……』
「馬鹿野郎! 腹に入りゃいいってもんじゃねぇだろ!! 貴重な生贄なんだから、ちゃんと全員で味わえよ! こういうことが後々「あいつはあの時、独り占めにした……」とかって心のしこりになって中がギクシャクしたりするんだぞ!!」
『……何故、お前にそんな心配をされなければならない?』
「全知全能の神とか言って崇められてたから誰も言ってくれなかったんだな? 躾を怠った連中にも確かに責任はある!! でも、少しずつでいいから人の心を思いやる努力をしていこう!!」
『ええい! そのうるさい口のある頭から食べてくれるわ!!』

 祭理に諭されたクロだったが、聞く耳を持たず大口を開け祭理に向かってきた。

 だがしかし、牙が届く直前、突如、横手から白い閃光が迸って、祭理に向かって大口を開ける頭を吹き飛ばしていた。
 頭が一つ減り、二頭になったゼフィリオンが驚愕の声をあげる。

『な……なんだこの力は!? 私を傷つけることの出来る神などっ、この世界には存在しないはずっ……』
「よいしょ、っと」
 
 その時、祭理の耳に聞き慣れた声が届いた。思わずそちらに目をやると、こちらに手のひらを向けている少年と目が合った。

「あ、雲津先輩! ご無事ですか!?」
「日野くん!?」

 人畜無害そうな爽やかな笑顔で手を振っているのは、間違いなく後輩の日野ひの 清一郎せいいちろうであった。



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