87 / 89
第87話 イベリスの衝撃発言
しおりを挟む「うおおおおっ!」
かけ声と共に馬鹿みたいにまっすぐ突進してきた少年をひらりとかわし、背後に回った少女が少年の背中に全体重をかけて地面に倒す。
背中に乗った少女はすかさず腕を少年の首に回した。
そのまま締め上げれば、少年が苦悶の表情を浮かべる。
首に絡められた細い腕、背中に押しつけられるやわらかい胸、腰のあたりに座られているためえもいわれぬ感触が――
「アダム選手ダウン! はい! ワン・ツー・スリー! アウトー! 勝者イベリス・レモニー!!」
私がカウントをとって勝者を宣言すると、倒れたアダムの上に座っていたイベリスが立ち上がって片腕を上げた。
「さすがだわ!」
「イベリス様、すごいです!」
見物していたフアナとエリーナが惜しみない拍手を贈る。
イベリスがあまりにも無防備にアダムに寝技をかけて密着するものだから、私の提案でスリーカウント制を導入させてもらった。
いや、三秒以内なら密着してもいいというわけではないんだけれども。
でもまあ、スリーカウントで離れれば、アダムも感触を堪能する余裕はないだろう。
「ぐ……くそ……俺はまだ戦えるぞ! 所詮女の力はこの程度か! 俺を倒すためにはもっと力を込めてぎゅーっと」
アダムの野郎、最近イベリスに密着されるのに味を占めてない? むっつりすけべが。
「アダム! 大丈夫か? 鼻血が出ているぞ!」
「倒れた時に打ちつけたのか」
殿下とバーナードがアダムに駆け寄って助け起こした。
その鼻血、ほんとに床に打ちつけて出たものでしょうね?
やっぱり、そろそろ技をかけるのはやめさせた方がいいかもしれない。アダムの様子を見るに、もはや女に負ける屈辱より助平心の方が勝っているような気がしてならないのよ。
「イ、イベリスさん。その……いくら婚約者といえど」
「胸を押しつけたりお尻を乗せたりはよくないと思いますの……」
授業が終わった後の教室で勝負が始まったため、見物する羽目になったカナリアとマーゴットがおずおずとイベリスにもの申す。そう。私もそれが言いたかったの。
「でも、私がアダム様を押さえ込むには、全身の力を使わねばなりませんの」
「ですから! 何故押さえ込まねばなりませんの?」
「イベリス様、はっきり申しましてアダム様はその……押さえ込まれることにいかがわしい喜びを感じていらっしゃるのではないかと」
きょとん、とするイベリスを必死に説得しようとするカナリアと、アダムの方を薄汚いものを見るような目で睨むマーゴット。
そうなのよ。二年生になって、アダムは背が伸び始めて体つきもがっしりしてきている。イベリスに簡単に押さえ込まれることはなさそうなのに、毎回あっさりやられているものだから、イベリスに密着されたいがためにわざと負けてるんじゃないかと疑ってしまう。
「ご心配いただきありがとうございます。でも、大丈夫です」
イベリスはカナリアとマーゴットを安心させるようににっこりと笑った。
「私がこうやってアダム様に勝てるのは、今だけですから」
イベリスの声音には少し寂しげな調子が混ざっていたが、それに気づいたのはこの場の女子だけだった。
鼻血をぬぐって立ち上がったアダムは偉そうに胸を張って言う。
「その通りだ! 俺は日々肉体を鍛えて着実に強くなっている! お前などすぐに俺にかなわなくなるとも! ざまあみろ!」
「ええ。だから、私がアダム様に負けたら、婚約を解消していいですよ」
負けたくせに勝ち誇るアダムに、イベリスがさらっと重大なことを告げた。
「えっ……?」
アダムが間抜けな顔で固まった。
イベリスはそれ以上アダムにかまわずにフアナとエリーナと談笑を始める。
「ステラ。こっちにエリーナ来てない?」
「あ、コリン様。ごめんなさい、一緒に勉強する約束でしたね」
エリーナを迎えにきたコリンが顔を出し、ふたりが仲良く教室を出ていくのを見送った後も、アダムは固まったままだった。
55
お気に入りに追加
1,035
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる