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第78話 一年生の終わり
しおりを挟む「お父様。一年間だけ子爵家の嫡男を誘拐監禁したら、重い罪に問われるかしら?」
「……それは洒落にならない罪になるだろうが、動機はなんだね?」
ジョージを守るためには、彼を安全な場所で保護するべきではないかと考えた私だったが、子爵家の嫡男を特に理由もなく我が家で一年間預かりたいというわけにはいかない。本当の事情を説明できない以上、母親のサリーナ様も大事な跡取り息子を預けてはくれないだろう。なにしろ、ベルン子爵家を継げるのはジョージひとりなのだ。
かといって、サリーナ様の了解を取らずに誘拐しては、私が犯罪者になってしまう。駄目よ。ヒューを犯罪者の婚約者候補になんてさせられないわ。
「誘拐監禁以外でいい方法はないかしら……」
「ステラ? そんなにジョージに会いたいのか?」
ぶつぶつ呟いていると、いつの間にか後ろに立っていたヒューが不思議そうに尋ねてきた。
振り返ればヒューがいるなんてこの世の奇跡だわ。もちろん、ヒューは前にいようが横にいようが常に尊い存在だけれども。
「ううん。なんでもないの」
私は誤魔化すようににっこり笑った。ヒューに心配をかけるわけにはいかないわ。
「ならいいけどよ。明日から二年生になるから緊張でもしているのかと思って。この休み中、ずっとなにか考え込んでたみてえだし」
ああ! ヒューに心配をかけるわけにはいかないのに、私の様子に気づいて心配してくれるヒューが尊いぃぃっ!! 喜んでしまう罪深い私がいるわ!!
「大丈夫よ。心配かけてごめんなさい。明日からの学園生活が楽しみだわ」
そうよ。私にはヒューがついている。
ヒューがそばにいるこの世界は、前回の世界のような地獄にはならない。いいえ、させない。
気合いを入れ直した私は、翌日、学園に行くなりジュリエットをみつけて声をかけた。
「ジュリエット! 無事でよかったわ」
「ステラ! ひさしぶり」
ジュリエットはいつもと変わらず元気そうで、私はほっと胸をなで下ろした。感染症にかからずに済んでなによりだ。
「ジョージも元気だったよ。ステラがやけに気にしてるって教えたら不思議がってた」
「そう……それで、辺境の様子は」
「私が王都に出発する頃には新しい患者はほぼいなかったよ。毎年、十二月の半ばから病人が増え始めて、一月がピークで二月にはほとんど収束するんだけど、今年は二月に入っても病人が減らなくて。薬の在庫がほとんど空になっちゃったよ」
ジュリエットはそう言って肩をすくめた。
「薬はもうないの?」
「うん。でも、夏になったら薬の原料であるコカナの葉の収穫が始まるから、使った分いつもより多めに収穫すればいいだけだよ」
毎年のことだ、と言うジュリエットからは深刻さは微塵も感じられない。
その葉っぱの薬は王都ではほとんど使われていないが、辺境では昔から冬の病にはその薬が一番効くと言われているそうだ。
冬の病はジョージの死因とは関係ないのかしら?
それとも、なんらかの理由で薬が足りなくなった?
考えてもわからないわ。後でフアナ達にも意見を聞いてみよう。
***
四月~七月 一学期
八月 夏期休暇
九月~十二月 二学期
一月 冬期休暇
二月 三学期
三月 進級前休暇
貴族の子の学校なので家の都合優先
出席日数などはなく、進級前テストで合格さえすればなにも言われません
将来働くために好成績をとりたい子や社交のために交友関係を広げたい子はまじめに通います
家を継ぐ嫡子で別にいまさら交友を広げる必要のない名門の子や、家庭教師を何人も雇える余裕のある家の子は学園に行く必要があまりないので入学しないことも多いです
王族は貴族と交流し支持を集めるために特別な事情のない限り必ず入学します
ステラの代は王子がいるので入学者が多いです
一応は入学試験と呼ばれるテストがありますが、よっぽどのことがなければ不合格にはなりません
また、伯爵家以上は受験は任意です
ステラ達は辺境に行っていたので受けていません
勉強嫌いのアダムも受けていないと思います
殿下は魔術の研究が忙しくて受けていません
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