死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

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第65話 カオスな現場

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 とにかく、カナリアとマーゴットを休ませなければ。

「カナリアさん、しっかり……」
「むう……ハゲ散らかしお父様……わたしはあ、殿下の婚約者になんかなりまへん!」
「え?」

 カナリアが椅子にもたれかかりながらぼやいた。

「ステラ様とマルチナ様に負けるな、なんて、馬っ鹿じゃないの~わたしはあ、王族の妃も貴族の夫人も嫌! なの! 面倒くさい……いつも言ってるでしょお? 結婚するならあ! 三男以下! 家継ぐ長男は嫌! 長男になにかあったら回ってくるから次男も嫌!」

 ……なるほど。前回と違って私が殿下の婚約者になっていないから、侯爵令嬢であるカナリアも候補に入っているのね。そして、ハゲ散らかし侯爵は娘を殿下の婚約者にしたがっているのか。
 けれど、カナリアは王族に嫁ぐどころか、貴族の家を継ぐのも面倒くさいから嫌がっている……ということだろうか。

「わらしは、男が嫌!」

 マーゴットが拳を握ってテーブルをドンッと叩いた。

「男なんて、くさい、汚い、気持ち悪い、の3Kよ!! 三重苦よ!!」

 これまた極端なことを言い出した。

 え? マーゴットって男嫌いだったの?

 酔っているからどこまでが本音かわからないが、そういえば前回もカナリアとマーゴットには婚約者がいなかった。

「そうよ……自立、自立よ……結婚しなくても自立すればいいんだわあ」
「そうですよ! 男なんていらないでしゅ!」

 カナリアとマーゴットが手を握りあって「きゃっきゃっ」とはしゃぎ出した。

「駄目だわ、これは。完全に酔っぱらっちゃってる……フアナさん、イベリスさん、悪いけど手伝って……」
「ええ。もちろんですわ。おふたりともお酒に弱いんですのね。こんなお菓子に使われているお酒ぐらいで酔ってしまわれるだなんて。わたくしはまったく平気ですから酔ってなんかいませんけれど明日は大漁かしら?」
「なんて!?」

 フアナはまったく赤くなっていないし、口調もはっきりしている。
 けれど、にっこりと微笑んで支離滅裂なことを言う。酔ってるよ。顔にまったく出ないで酔うタイプだよ!

「ふはあ~……暑いなあ~」
「ストーップ! イベリスさん!」

 イベリスは暑くなるタイプらしい。椅子にもたれかかって気怠げに服を脱ごうとし始めたので慌てて止めた。

「暑いんですの~」
「暑いといえば今日のメインディッシュは鯖かしら?」
「ステラ様! わたし、自立します!」
「わたしもです! カステラ様!」
「誰がカステラ様よ!!」

 脱ぎたがるイベリス。
 淀みなくおかしなことを言うフアナ。
 侯爵家を捨てる決意をするカナリア。
 私をカステラ呼ばわりするマーゴット。
 元凶のくせにきょとんとしているだけのエリーナ。

「ア、アニー! アニー! 助けて!!」
「お嬢様!?」

 脱ごうとするイベリスを押さえつけて、私は必死に助けを呼んだのだった。



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